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113 凱旋式の準備

 一団が王都へ辿り着く前に、王城へと手紙を送ったわ。

 エルトとの婚約は幾つかの神殿で認めて貰ったから、婚約自体を『なかった事』扱いしようとしても無駄。


 まぁ、そういう事をしてくる人が誰もいない可能性だってあるけどね。

 でもマリウス侯爵は面白くは思わないでしょう。

 何の関心もないなら、それはそれでいいんだけど。


 リンディスから聞くにそうはならないんじゃないかって。

 あとミリシャが横槍を入れてきそうな感じが凄いのよね!


「じゃあ、私達は陛下の返事待ちね!」


 私は王都は追放された身なので、王都にはすぐに入らず許可を待つ。

 許可がエルト達の凱旋式まで来ないようなら、このままエルト達が帰って来るのを待って伯爵領へ移動する予定。


「入れないのは私だけだからね。私以外は王都に入っていいのよ」


 私が居るのは王都から少し距離を空けてある街の宿屋。

 エルト達、騎士団も一旦はこの街に滞在しているわ。


「私はお嬢の傍に居ますが……他にも残っては欲しいですね」

「……当然、私もお嬢様の傍に残ります。王都に興味もないですし」

「無理にとは言わないわよ?」

「アルフィナから来た者はそもそもお嬢様に付いてきたので」

「それと王都へ入るかどうかは別だと思うわ」

「今は屋敷で使う物を買う必要もありませんし。お嬢様を置いてまで王都へ入りたいとは思いませんね」


 フィリン達は私の傍に居るのを決めたみたい。


「マルク達はどうするの?」

「……王都で遊ぶ金があるワケじゃねぇし。俺らみたいな男が宿の下で飲んでるだけでも護衛の効果あるんだろ?」

「そうですね」


 むー。配下にロクにお給料を払えないダメ領主のままだわ……。

 アルフィナを出る時に蓄えていた財産を分配しようと考えたんだけど、却下されたのよね!


「それよりもよぉ」

「何?」

「あのドラゴン、目立ち過ぎだろ!」

「ああ」


 大きな馬小屋……というか馬車を停める場所がある宿に泊まらないといけなかった理由よね!


「でも仕方ないじゃないの。クインはクインなんだから」

「ドラゴン狙いの賊に狙われるだろ、アレじゃあよ!」

「……ふふ。お嬢の護衛ではなく、ドラゴンの護衛……。とりあえず、マルクさん達は交代でクインの護衛に付いていて下さいね。強面の人間が並んでいるだけで効果がありますから」

「分かってるけどよぉ」


 とりあえず『クリスティナ軍』は全員、王都へ行かずに私と一緒に居るって事ね!


 今居る場所は1階が酒場で、2階が宿のシンプルでありつつも広い宿屋よ!


「お嬢様、我々も護衛についていますからね!」

「……なんで貴方達は、まだ私の傍に居るのかしら?」


 アルフィナに派遣されたエルトの騎士3人よ。

 たしかに長いこと一緒に過ごしてはきたけど。


「我々はお嬢様の下についた騎士ですから。指揮権はお嬢様にありますよ」

「それはアルフィナがああいう状況だったからでしょう? エルト達と合流したんだから……」

「お嬢様。我々3人もアルフィナで戦ってきました。凱旋式に招かれるのが隊長達だけなら……そちらで仕事をしてきた騎士だけが、その栄誉を受け取ればいいのです。我々3人は、ここに残った皆さんと同じ立場ですよ」

「むー……」


 でもねぇ。


「我々だって仕事はこなしたと言うなら、それはお嬢様も同じです。お嬢様が評価されないならば我々もまた評価されていない。甘んじてそれを受け止めましょう。ですが王家がお嬢様を蔑ろにした、という屈辱は我らも覚えておきますとも」

「はぁ……まぁ、いいけどね!」


 実際、ルーナ様と一緒に戦ってなかったからアッチに合流して凱旋式に参加するには忍びないっていうのは分かるもの。


「お嬢、お嬢!」

「何? リンディスの真似?」

「違うでしょう」


 部屋に駆け込んで来たのは元野盗組の男だわ。


「ドラゴンを寄越せと言ってきやがる連中が居て!」

「はぁ? 殺してきなさい!」

「いやいやいや。待ってください。物騒な命令を下さないで」

「それが、どうも……貴族の連中で! 俺らが相手していいのか分かんねぇんスよ!」

「貴族?」


 また面倒な事になってるわね!


「すぐ行くわ! 侍女達を守っておくように」

「分かりました」


 私は部屋を出て、宿の外のクインの元へ向かったわ!


「まぁ、本当になんか居るわね!」

「また面倒くさいですね……」

「そうね。でも、目的は本当にクインみたい」

「そうですね」

「じゃあ、後は任せるわね! 自分達を優先して守りなさいよ、リン!」

「え」


 私は近付くなり、貴族も他も無視してクインに飛びついたわ!


「クイン! 空を飛ぶわよ!」

『キュルゥアアアア!』

「なっ!?」


 バサバサと音を立てて翼をはためかせて飛ぶクイン。


「私のクインとちょっと散歩に行ってくるわねー!」

「な、おい、待て!」


 貴族って言ってたけど、本人がわざわざ出向いてきたのかしら?

 王都からは離れてるんだけどね!


「とりあえずエルトのところへ行くわよー!」

『キュルゥアア!』


 凱旋式の準備があるから、まだエルトもこの街に居るのよ!

 騎士団の数とクインの兼ね合いで違う場所に居るのよね!


「あっちよ!」

『キュア!』


 予め知っていた場所の近くまで来て、空を旋回する。

 こうして空から下を眺めるのも慣れてきたわねー。


「うーん。追ってくるかしら?」

『キュア?』


 ああして絡んでくる場合、だいたい私が目的か、或いは本当にクインが目的かよね。


 騎士団でも連れてこなければ、カイルやナナシに騎士3人が居るから守りは平気だと思うわ!


「あ、追ってきたわ!」

『キュルァ!』


 旋回を止めてバサバサと翼を動かし、その場の空中で留まるクイン。


「クイン! 襲撃よ! 直接攻撃せずに近くまで飛んで、すぐに上空へ避難! 魔術使いや弓矢持ちが居るなら注意してね!」

『キュア!』


 ドラゴンに乗る私を倒すつもりだったらどうするかしら?

 隙を狙って弓矢を射るかしらね!


 だとしたら攻撃の瞬間こそ狙撃の狙い目だわ!


「やぁあああああ!」


 全体を見つつも、急降下に備える。


「なっ!?」

『キュルァッ!』


 私を追ってきたらしい貴族関係の男達スレスレまで飛び込んでから、すぐに飛翔する!


「うわぁ!?」


 クインの襲撃に怯え、悲鳴を上げる貴族風の身なりの男!


「あははははは!」


 びっくりしているわね!


 それから何度か、からかうように空から奇襲してやったわ!


「ぐっ、この!」

「剣を抜いていいなんて言ってないわよ!」

「!?」


 男が従えた護衛の剣に薔薇を咲かせてて蔓で抜けないようにする。

 この程度の操作はもう慣れたものよね!


「……クリスティナ!」

「あ、エルトー!」


 騒ぎに気付いたエルト達が出てきたわ。お遊びも潮時ね!


「何の騒ぎを起こしてるのよ、クリスティナ」


 エルトと一緒にラーライラも出てくる。

 ルーナ様は出てきてないわね!


「この人達がドラゴンを寄越せって言ってきたみたいだから怖くて逃げてきたわ!」

「……誰が何を怖いって?」

「私が! この人達を怖いって!」

「どの口が言うのよ……」

「フフン!」


 私は胸を張ったわ!


「お前達が私の婚約者を怯えさせ、あまつさえ彼女の物を奪おうとしたと?」

「な、お、お前は誰だ!」


 あら。知らないのねー。

 ていうか、ドラゴンを従えてる時点でエルトか私の事を知らないのかしら?

 そこまで噂は伝わってないかしらね。


「降りるわよー!」

「うわっ!」


 急降下アターック!


「あははは!」

『キュアアッ!』

「くっ……!」


 護衛の騎士達は剣を抜けず、武力を封じられた状態。

 攻撃的に振る舞ったドラゴンを相手に尻もちをついた貴族風の男。


「とうっ!」


 シュタッと私は地面に飛び降りて男の前に立つ。


「怖くてどうしようもないから逃げてきたの、エルト!」

「……そうか?」

「貴方のどこが怯えているのよ……」

「まぁ、ラーライラったら! 私も令嬢の1人なんだからね!」

「……貴方がこんな事でお兄様を頼るとは思えないのだけど?」

「どうせ、あの場で追い返しても諦めずに何度か来て、最終的にはエルトにまで面倒な事が飛び火する……って思ったから、最初から面倒を掛けに来たわ!」

「少しは自分でどうにかしようとしなさいよ!」

「フフン!」

「褒めてないわ!」


 褒めてもいいんじゃないかしら!

 この手の男のパターンはセシリア達にたっぷり教育されてきたのよね!


「私が解決しようとしたら、この男達をその場でドラゴンに食い殺させてやったけど?」

「っ!?」


 ここで『悪女スマイル』よ!

 もう完全にモノにしたわ!


「剣も抜けない間抜けな護衛に、この程度の事で腰を抜かす虫けらが……事もあろうに『ワタクシ』の所有物に手を出そうとしたのだもの。……命が要らないからこそよねぇ?」

「ひっ……!?」


 悪女の睨みと殺気を放つわ!


「私がそうしなかったのは、彼に止められてたからよ? でも彼が赦してくれるなら……」


 ここで薔薇槍で男の頬を切りつけるわ!


「ぎゃっ!?」

「ここで殺していいのかしら?」


 ふふふふふ。今の私は完全に悪! 悪女だわ!

 悪女って楽しいわね!


「クリスティナ。そこまでにしておけ」

「ん!」


 エルトが私の手を取る。優しい手の取り方だわ。


「それで? 何か彼女に用事があったようだが」

「い、いや……」

「私の配下にドラゴンを寄越せとのたまったそうじゃない? やっぱり殺してやろうかしら!」

「ひっ!?」

「クリスティナ」

「はーい!」


 悪女スタイルを切り替えて、大げさにエルトの言う事を従順に聞く私! ふふふ。

 大女優だわ! 悪女教育の賜物ね!


「どの口とどの顔で……」


 でもラーライラだけ不満そうだわ!


「……見ての通りだ。彼女は俺の言う事しか聞いてくれなくてな。俺が居ない時に横柄な態度を取れば……すまないが、その時は命を諦めてくれ」

「な、何を言ってるのだ! こ、この私を誰だと思っている」

「誰よ! さっさと名乗らないと殺すわよ!」

「ぐっ!」


 ていうか薔薇の天与を惜しみなく使ってるのだから私の事ぐらい知ってそうな気もするけどね!


「私はカリス・リンドン子爵だぞ!」

「あっそう! 興味ないわね!」

「なっ!?」


 とりあえず家名は分かったから、もう用なしね!


「……ふっ。それで?」


 エルトは手を伸ばして私を制してきたわ。


「本当に何なんだ。リンドン子爵殿。いや、リンドン子爵であればまだ健在と思ったが、カリス殿は爵位をもう継がれたのか?」

「ぐっ……! お前は!」

「ベルグシュタット伯爵家の長男だ。身分差はあるようだが……まぁ、この場ではそう意味もないな」

「はく……」


 あら。伯爵の名前には驚くのね?


「それで。ドラゴンを所望していたというのは本当か? それとも他に用向きがあったのか」

「そ、そうだ……うっ」


 腕を組んで見下した目をする私と、地べたに座った男に手を差し伸べるエルト。


 ふふふ。完璧ね。

 エルトは紳士で、私は評判の悪い悪女だわ。


「ふふふ」

「何を満足そうな顔してるのよ、貴方は……」

「計画通りよ!」

「何が!?」

「フフン!」


 私はエルト以外の誰の言う事も聞かない暴れん坊になるのよ!

 与しやすいなんて思われたら迷惑だからね!


 人の目を気にしないって楽だわ!


「貴方ねぇ。自分から隙を見せてどうするの?」

「隙なんてなくてもどうせ言いがかりを付けてこられるんだから、相手の出方を単純にさせた方が良いわ!」


 私が目に見えて非難し易かったら、当然相手もそこを突いてくるからね!

 これもまた社交界の囮作戦よ!


「こ、この私がドラゴンを貰い受けてやろうと来てやったのだ! ありがたく、」

「──フン!」

「ぶげっ!?」


 とりあえず護衛の男をぶん殴っておいたわ!


「ひぃ!?」

「ふざけた発言が出来る立場だと思ってるの、貴方?」


 私は悪女の睨みで更に男を脅したわ。


「命を懸けて見せる貴族の矜持としての言葉がそれかしら? 今のあんたは身分でも、武力でも自分の身を守る術を持たないのよ? 私はいつでもあんたを殺していいと思ってるのに……いつまでふざけた言葉を吐くの?」

「ひっ、あ……」

「ああ。まだ反省してないなら……決めたわ。今すぐリンドン子爵家にドラゴンで火を放ちに行きましょう。家門が根絶やしにされれば、もう貴方は偉そうに振る舞えないわよね?」


 私は、殺気を放ちながら男を見下す。


「私のような女じゃなければドラゴンは従わないわ。まさか大人しいドラゴンだと思って手に入れようとしたのかしら? だとしたらお笑い種ね。せめて、その身に……血の臭いを漂わせてからでないと。そうでなければ貴方なんて、すぐに食い殺されるのよ?」


 ここでクインに鳴いて貰うわ。


『キュァアアアア!』

「ひっ!」

「今すぐに! 立ち去りなさい!」


 カッ! と睨みつけながら怒鳴ったわ! フフン!


「ひっ……あああ!」


 逃げていったわね! 撃退成功よ!


「貴方、1人で解決できたでしょ、クリスティナ」

「そうしたら長引くじゃないの」

「……長引いたかしら……今のやり方するなら、どちらにせよ早かったでしょ」

「ついでにエルトに会おうと思ったの! 忙しい時なら遠慮したわよ!」

「そうか。クリスティナ。よく来てくれたな」

「ふふふ!」


 彼が私の手を取って抱き寄せるわ。


「ちょうどお前に話があったのだ」

「私に話?」

「ああ。……王家から返事が来たぞ」

「本当!?」


 ていうか私の所に返信しないのね!


「お前の王都入りを認めてくださるそうだ」

「まぁ!」

「王都に入るな、というご命令は撤回された。もう自由に王都に帰ってきていい」

「良かったわ!」


 これで第一関門突破という所ね!


「凱旋式の準備を進めよう、クリスティナ」

「ええ! そうするわ!」


 私達は人目を気にせずに触れ合ったわ!



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