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111 王都へ至る道

「皆、準備はいいかしら」

「滞りなく。お嬢様」


 結局、全員でアルフィナを離れる事にした私達は、今ある幌馬車3台に荷物を詰めて人員を分ける。


「皆で移動するのも大変なのねぇ。騎士団はその上、武器も沢山乗せるんでしょう?」

「はは。そうですね。遠征となると、もっと人手や馬が必要となります。徒歩の人員を交ぜては進軍速度も鈍りますし」


 王妃教育には流石に兵法指南はなかったわね。

 外交に向けた教育はあったけど……。


「ベルグシュタット第3騎士団は、王都にも邸宅があるのよね?」

「ええ。王都に勤める騎士達は、そこで暮らしています」


 ベルグシュタット伯爵家。

 エルトは嫡男で兄妹は妹のラーライラのみ。

 エルト達の両親の伯爵は現役。

 伯爵領にも騎士団を有している武家。


 第3という名の通り、王都にはベルグシュタットの他にも2つの騎士団があって、近衛の役割を担っていたりするわ。

 王都の守備専門が第一騎士団。


 第2と第3は王都を離れての遠征も請け負う。

 彼らは国に正式に属している騎士団という位置付けね。


 ルーナ様が駆り出されたみたいに『大地の傷』の大量発生に伴う魔物災害とは別に、普段からも魔物は現れる。

 そういった事の自衛の為にも各領地では最低限の騎士団の保有は認められていて。

 ただ魔物狩りは、地方へ行く程、ハンターギルドなどの民間組織が請け負う形になっているわ。


 いちいち騎士団を派遣して討伐するのは非効率的って事ね。

 装備を整え、組織だって訓練された騎士団は強いけれど、迅速かつ細かく、案件が多い対応には向かない。


 あっちのカエルの魔物を倒して。

 あっちの角つき狼を倒して。

 で振り回されていては騎士団が疲弊してしまうからね。


 もちろん大量発生や、強力な魔物の出現となれば騎士団が動く事になるんでしょうけど。


 そしてベルグシュタット伯爵領は、王都から見て北西側の内地。

 意外とアルフィナからは遠くないのよ。

 王都よりも近いぐらいなのよね。


「ルーナ様や災害派遣に貢献した騎士団だって今回、陛下から褒賞を貰う筈よね?」

「んー。それは私共の口からは何とも」

「そう? まぁ、そうよね。あと期待し過ぎていたら裏切られた時、つらいものね」

「はは。そうですね」


 しばらく移動していると私達に追いついてクインが飛んできたわ。


『キュルアァア!』


 白銀の鱗を持つ綺麗なドラゴン、クインは私の言葉を理解してくれる。

 だから大人しく従ってくれるのよね。

 今回は、アルフィナを離れる事だし、自由に飛び回ってから来ていいわよと告げておいた。


 大地の傷を感知できるクイン。

 それに私の咲かせる薔薇は特別みたいで、クインはいつでも私の場所を分かってくれるわ。

 まぁ、離れ過ぎたら無理かもしれないけれど。


「クイン! こっちよー!」


 私は、黄金の薔薇を咲かせて光で誘導するわ。


『キュルゥアッ!』


 クインは私以上に唯一無二の存在だからね。

 ……王国の他の地には、普通に棲んでたりするのかしら、ドラゴン。

 私は大地の傷から現れたと勝手に思ってるんだけど。


「これからどうなるのかしらねー」


 私、人伝てにしか王都の動きを知らないから実際の私の評価がどうなのか分からないのよね。

 エルトやルーナ様が随分と私の評価について手を回してくれていたみたい。


 2人にも騎士団にも感謝しないといけないわね!


 エルト達の率いている騎士団と互いに合流地点を目指して移動し続ける。

 ちなみに連絡係は私よ! クインに乗って空を飛ぶ時は私が行かないといけないからね!


 移動を始めて半日。そろそろ……。


「クリスティナ!」

「クリスティナ様!」


 エルト達が待っている場所に来たわ!



◇◆◇



「エルト。これからどうするの?」

「任務が終わったのに寄り道をしていたからな。王都に帰還し、報告をする必要がある。元々は最後にアルフィナへ向かう予定だったから、時間的には問題はない」


 ルーナ様を守護し、各地を巡って浄化をしてきた彼らは王国の東側から旅を始め、一度は王都に戻り、最後に西側のこちらの浄化をして旅を終えた。


 アルフィナには元から私が派遣されていたのと、予言と現状報告で報せた兼ね合いで後回しだったのよね。


 それは私に対する不義理でありつつも信頼とも取れる。

 私なら平気だろう、上手くやれるだろうってね。


 でもエルトの支援がなければ、より厳しい生活になっていた筈。

 だから、この点では王家に対する感謝はないわね!


 良いように思って欲しかったなら何かしら送ってくるべきだったわよ!


「スケジュール通りって事ね」

「ああ。凱旋式も予定されている。俺達は王都へ向けて移動しながら色々と準備を整えていく事になるな」

「そうね!」


 帰りに寄れる神殿に立ち寄っては私達の婚約を認めて貰い、クリスティナがルーナ様達と一緒に王都へ向かっていると伝えて貰う。

 私が王都に入るのは正式に陛下の許可が下りてからになるけれど。

 まぁ、正直ここで殊更に陛下が私を拒むというのなら、それはそれでいいわ。


 アルフィナについて打診したかったけど、そこまで私を認めないなら、もうどうでもいいもの。

 流石にその判断は下さないと思うけど、一応は考えておくわね。


「結局、私達は女神の巫女って事で落ち着いてるの?」

「そうだな。俺達もしばらくは王都に帰ってはいないが、薔薇、光、蝶の天与を持つ女性が3人揃ったのだ。その噂はすぐに広まった」

「うんうん」

「ルーディナ公爵令嬢が王都の大神殿によく通うようになったのは聞いたか?」

「いいえ。そこまで細かくは聞いていないわ」

「そうか。だがいずれ会うだろうから知っておくといい」

「うん」

「彼女の天与は『光翼蝶』と呼ばれていて、光の蝶を生み出す事ができるらしい」

「うん。他には?」

「いや、それだけだそうだ」

「うん?」


 それだけって?


「青白い光の蝶を生み出し、自在に操る事が出来る。ただそれだけの天与だそうだ」

「……ふぅん?」


 私は夢の世界でその光翼蝶を見た。

 自在に操って? だとしたらあの時見た蝶は、わざわざ私の前に送ってきた事になる。


 夢の私、悪役令嬢クリスティナを誘導するように。

 あの私はそんな天与の存在を知らなかったから疑問に思わなかったけど……。


「たぶん、それだけじゃないと思うわ」

「うん?」


 私はエルトと並んで馬に乗って進みながら話している。

 ここからの話はルーナ様にも言っておいた方が良いわね。


「光翼蝶の天与は、たぶんそれだけじゃないの。私の夢に出てきた時はね」


 相変わらず夢の世界の情報は不確実だった。

 ミリアリアなんて全然、性格が違うみたいだったし。


 現実の世界では邪神という目に見える確かな脅威が存在する。

 やっぱりアマネや私が知っている情報は間違ったものが多いのよね。

 それでも『警告』としては十分に機能しているわ。


「少なくとも私の『毒薔薇』と同じで大地の傷を開いたり出来ると思うの」

「……何?」

「夢の中では蝶が舞っていたところで大地の傷が開いていたからね。私の薔薇でも同じ事が出来ていたけれど……。どう考えても私の認識以上の被害が王国に出ていたわ。つまり、私以外でも大地の傷を開く事が出来て……かつ、それらの責任をすべて私に押し付ける形に出来た……って事ね」


 夢の世界の情報だけで言えば、私を陥れたのは、そのルーディナ様という事になるわね。


 ただし、ミリアリア同様、夢の世界で敵対していたとしても現実がそうとは限らない。

 警戒するのは当然だけれど、根っから信用できない相手かは未知数って事よ。


 特に三女神の天与持ちなら……邪教としては、私達3人の巫女を敵対させるのが目的かもしれないし。


 アマネの予言もそうだけど。

『これこそが正しい物語で、彼女は悪役なんだ』という決めつけを私達にさせたいって事よね。


 それが邪教の目的で……イリスの天与は、それを私に見せている。

 現実と夢の違いを真剣に自分の頭で考えて現実と向き合う必要があるのよね。


「ふむ……」

「夢の世界は夢の世界よ。ただ、そうやって大地の傷を利用した策略がこの先あるかもしれないわね。ルーディナ様が敵にせよ、味方にせよ、邪教が敵という事実は変わらないから」

「軽く言っているが、それは民の安全に関わる事案だと思うのだが……」

「でもこれと言って対策はないじゃない?」

「クリスティナの薔薇は浄化の効果があるだろう? ラトビア嬢と違って、長く咲く薔薇が浄化の力を宿している。それを先んじて各地に咲かせていれば……」

「たぶん、それをやると私の薔薇で安心! ってしたところから、わざと薔薇を盗んで人々を襲わせるんじゃないかしら。その後で、原因はクリスティナの薔薇のせいだ! って騒ぐのよ」


 流石にそれぐらいは私でも分かるわよ!


「だが、予見をしていながら民に不穏を与える事になるぞ。クリスティナにはそれを防ぐ力がある。……その事実をお前は気に病んだりはしないか?」

「そうねー……」


 私が各地に薔薇を咲かせていれば、大地の傷は警戒できるかもしれない。

 或いはルーナ様は一度の浄化ですべての傷を塞いできたというのだから、彼女の光の天与ならそんな心配はないかも。


 でも邪教という存在はたしかなワケだから……。


 私が下手に手を出すと、それこそ無差別にどこの地域でも彼らの標的にされてしまうかも?

 だから、この場合は無闇に薔薇を送らない方がいいのよね。


「各領地に薔薇を送ると、私の責任にする状況が整った上で無差別に襲撃されてしまう危険性があるから……薔薇を送る場所は限定的にすべきでしょうね。この前の襲撃みたいに囮になる場所を作っておくのが良いかも? これから起きる事が災害じゃなく、人の思惑の乗った災いなら、その方が多くの土地が守られるわ」


 要は『私が彼らの敵』という事を前提に進めればいいのよ。

 修道院に関連した出来事からして、それだけは間違いないでしょうし。


「ルーナ様やルーディナ様だって危険かもしれないけど。とりあえず私狙いなら、そういう対応で良いと思う」

「そうか」


 3人の中で最も戦うのに適した天与を持つのが私。

 邪教との戦いになれば私が女神の剣として戦う事になるわ。


 私が修道院へ向かうって流しただけで襲撃者が群がってきたワケだし。

 狙われているのは間違いないわよね。


 まぁ、マリルクィーナ修道院の場合は邪神の祭壇そのものがあったから厳重な警戒だったのかもしれないけど。


「まぁ、それよりも」

「うん?」

「今は私達の関係を広めていくのが大切よね!」


 私はそうやって彼に微笑んだわ。


 エルトは一瞬、キョトンとした顔をしてから、ふっと優しい目付きになって微笑み返してくれたわ。


「そうだな」

「そうよ!」


 フフン! 私は胸を張ったわ!


「……よくもお兄様と楽しく話しているわね」

「あ、ラーライラ」


 今日は馬に乗っているのね、ラーライラ。

 白い馬だわ。エルトが乗っているのは黒い馬ね。

 ルーナ様は乗馬はされないのかしら?


「私、ラーライラの話も聞きたいわ!」

「……何がよ」

「だってラーライラは国一番の女騎士でしょう? 私もね。ずっと小さい頃から剣を習いたかったの。あのマリウス侯爵だけど、一度は私が剣を持つ事を認めたのよ? でも天与の件ですぐに取り上げられちゃったのよ。だから正式な女騎士の貴方の事はとっても興味があるの!」

「…………そんな話は今まで聞いた事ないけれど?」

「うん?」

「貴方がレヴァン殿下の婚約者だった時にそんな話は流れて来なかったわよ?」

「言ってないからね! 王妃候補として私なりに大人しくしてたもの! でも今はそういうの気にしなくてよくなったから! 私は自分に正直に生きるわ! だからラーライラにも興味があるの!」


 私は正直に言って笑ったわ!


「私はあんたに興味なんかないわよ!」

「えー……」


 怒られたわよ!

 話し掛けてきたのはラーライラの方じゃないの!



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