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110 アルフィナ会議

 クインを使って何度か行ったり来たり。

 騎士団にも余計な手間を取らせてしまったし。


 とはいえ、私のやる事は変わらないわよね。

 アルフィナに戻った私は領主の屋敷にいるわ。


「本当に魔物の気配が無くなったわねぇ」

「そのようですね、お嬢様」


 アルフィナにはようやく本当の平穏が訪れたみたいね。


「会議、会議よー!」


 物資から何から足りない屋敷で働いてくれている皆を集める。

 今回はマルク達も屋敷に呼ぶとしましょう!


 30人にも満たないアルフィナの住人は集まるのも簡単ね!


「改めて伝えるわね。以前からアルフィナに支援をしていただいていたベルグシュタット卿と婚約する事に決まりました」


 フフン、と私は満足気に胸を張ったわ。


「……その言い方だと政略結婚みたいに聞こえてしまいますよ、お嬢」

「ん?」


 リンディスが、少し声を大きめにしてそう言ってきたわ。

 私は首を傾げた。


「どういう意味?」

「お嬢を幼い頃から知っている私の目から見た感想です。お嬢の気持ちはしっかりとベルグシュタット卿にありました。そして卿からの気持ちもたしかでしょう」

「それは当然ね! フフン!」


 私はもう一度胸を張ったわ!


「はい。ですので変な誤解をなさらないように。そして他の皆さんには一つのチャンスもありませんので。これは身分の差とか無関係です。お嬢はそういう身分差を気にする方でもありませんし、お相手の方もそうです。生活がこうである事も関係ありません」

「うん?」


 チャンスって何がかしら。

 リンディスの視線はマルク達、元野盗組に向いているわね。


「何? マルク。貴方達も。言いたい事があるなら言ってみなさい」

「い、いや……その」


 何かしら。不満があるなら黙ってるような男でもないと思うけど。


「……私が代弁しましょうか?」

「リンが? 何か知ってるの?」

「いえ。知りませんが……お嬢の婚約が、お嬢の意思ではないものだと思い込んだのではないでしょうか」

「え? なんで? 私からエルトに申し込んだのに?」

「ううん。これはセシリアさんを含め、侍女の皆さんとも話し合った事ですが……もう一度皆さんで話し合った方が良いですかね」

「何を」

「お嬢に対する悪意対策を」

「えー……?」


 けっこう話し合ってきたつもりなんだけど!


「今の場合ですね。お嬢」

「うん」

「お嬢が望まない政略結婚をするつもりなんじゃないか。領地の為に。或いは相手の貴族に無理矢理に言い寄られて。そんな望まない結婚をするぐらいなら俺がさらってやる……みたいな意識が彼らの中にありましたね」

「はぁ?」


 私は怒りを込めてマルク達を見下ろしたわ。


「あんた達、まだ反省してなかったの?」

「うっ……ち、違う、そうじゃなくて……」

「純粋、かどうかはともかく理由はお嬢への好意じゃないですかね。身勝手な思い込みと、都合のいい解釈を前提とした『そうである事が彼らにとってだけは望ましい』という話ですね」

「事実と全く違うけれど?」

「そこです!」


 ビシッとリンディスが指を立てたわ。


「何よ」

「お嬢を貶める為ならば、そういった事実とは違う事を思い込ませようとして、人を動かしてくる人がいるでしょう」

「んー……」

「この場合は、彼らに今みたいな事を思い込ませる事で襲わせたりですね」

「また襲う気? 今度は去勢するわよ!」

「お、襲わねぇよ!」


 私は悪女の睨みでマルク達を睨んでやったわ。


「今回はまだ身内の彼らだから説明しておきます。釘を刺しておく、というべきでしょうか。お嬢の婚約はお嬢の意思です。そこを間違えないようにしていただきたい。皆さん、よろしいですね?」

「お、おう……」


 先が思いやられるわねー。


「でも丁度いいわ。マルク。あんた達がこれからどうするかを決めないと」

「これから……?」

「そう。私があんた達をアルフィナに連行したのは、あんた達を放置した場合、別の被害者が出ていたかもしれないからよ」

「う……」


 少しは改心したのかしらねぇ。


「今はどうかしら?」

「どう……?」

「貴方達も知っている通り、私は正式なアルフィナの領主じゃないわ。王命といえど、騎士の護衛は付けられず、従者すら付けられず、王都を追放され、アルフィナにやってきた。今、ついて来てくれる子達は王命とは無関係に集まってくれた子達しかいない。視察隊はこの前来てくれたけれど……それまであるべき支援はなかったわ」


 エルトがアピールの為に止めていたワケでもない。

 彼が私を支援してくれているから『まぁいいか』と後回しに判断された可能性はあるけれど。

 それは、結局のところ私に対する不義理だわ。


「私はアルフィナでやってきた事を陛下に突きつけないといけない。功績としてアピールする必要がある。その褒賞としてアルフィナ領が欲しいと言うつもりなんだけど……それが叶えられるかは分からないの。今、事実としてあるのは私がエルト・ベルグシュタットの婚約者になったという事だけ。そして、どうあれ私は王都に帰る必要があるということ」


 私は目を閉じて息を整えて話を続けるわ。


「貴方達に提案するのは3つ。1つは私と一緒に全員でアルフィナを離れ、王都へ向かう。2つ目はアルフィナに残り、私が帰ってくる事を信じて待つ事。3つ目は……アルフィナからも私からも解放されて、自分達の生活に戻る事よ」


 私は3本指を立てて説明したわ。


「一緒に王都に向かうなら話は早いわね。貴方達は『クリスティナ軍』として動くのよ!」

「軍……?」

「フフン!」

「軍って」


 軍という思想はあるのよ。主に他国との争いに使う言葉になるかしら?

 まぁ、内乱が多い場合は騎士団というよりは、軍という扱いになるのよね。


「でも皆で行く場合は、せっかく耕してきた畑は放棄しなくちゃいけない。……悲しいけれど元々、生き抜く為に畑を耕していたワケだし。私の要求が叶えられなかったなら放棄しなくちゃいけない場所だったわ」

「……ああ」


 この反応を見る限り、マルク達も畑仕事がそこまで嫌だったワケじゃなさそうなのよね。

 やりがいを感じてくれていた気がするのよ。


「私を信じて待つ場合も同様のリスクはあるわ。別の者が領主になるかもしれなくて、それで貴方達は追いやられるかもしれない。貴方達にとってリスクが大きい選択だけれど、畑の管理を続けて貰えるから、また一から耕し直しって事にはならないでしょう」


 この地に居る間に正式に私に権限が与えられたら良かったのだけど。

 結局、エルトに手紙を届けて貰った後も、視察隊が来た時も、そういう話はなかったのよね。


「私について来るなら……少なくともベルグシュタットの伯爵領でお世話になるぐらいは許されるでしょうね。最初がどうあれ、数か月は困窮するアルフィナで私の手足になった者達だもの」


 まぁ、受け入れてくれるでしょう。

 事情もなく新たな罪を犯さない限りは私が見捨てるつもりがないのだから。


「3つ目は私の管理下から外れたいならそうしたらいいってこと。今すぐに無責任に放り出すつもりはないわ。しばらく私達に同行して、手頃な職業を斡旋できる場所を見つけられたら、そこに紹介するって形。伯爵家の推薦って事になるだろうから、行く先で問題を起こしたなら伯爵家の耳に入るわ。これからは悪さをしないで済むように真面目に生きていきなさい」


 犯罪者の再犯を防ぐにはまともな生活が必要になるからね!


「…………残ってもいいのか?」

「ええ、もちろん。でもアルフィナが私のモノになる保障はないわ」

「冬も迫っています。領主の屋敷に何とか蓄えてきたものがありますが……正式な領主もおらず、まともな流通もないこの地で冬を越すのは、厳しいものとなるでしょう」

「……畑のものは収穫してしまって、もう冬場は畑を放置してしまえば良いだろう。春になってから、また耕し直せばいいさ」


 ふぅん? そんなに簡単な話かしら?

 でもアルフィナも冬場は雪が降るらしいし……。


「あんたはどうして欲しいんだ、俺達に」

「私?」

「ああ。……例え、正式な領主じゃなかったとしても俺達の頭があんただってのには変わんねぇだろ」

「……それは私の下についたままで良いという事かしら? 3つ目の選択をしてもいいのよ?」

「それは……人それぞれだろ」

「まぁ、それはそうね」


 マルクが彼ら全員の意思を語るものじゃないし。


「どちらでも。選択をするだけの責任は持つわ。貴方達がしたいようになさい。これからも悪事はダメだというだけよ」

「……俺達なんか居なくてもいいってか?」

「うん?」


 いなくてもいい、ねぇ。どういう感情で訴えてるのかしら?


「よく分からないわね。さっきのリンの話のような誤解をしているなら、まず私が貴方達を男性として見る事はないわ。そして経緯がああだったのだから、私にとっての貴方達は戦利品。奴隷のような存在。フィリン達のように私を慕って来てくれたのではない事を理解しているのよ。それでも今後の貴方達の人生の選択についての責任は持つと提案しているのだけれど。……貴方達の選択に私の意思や、貴方達へ向けた感情が必要かしら?」

「う……」


 これはどういうつもりかしらね。

 私に向ける目が……どちらかと言えばフィリンやヨナ達に近いわ。


 私は冷たく彼らを見下ろしたまま付け加えてみた。


「……もしも私に忠誠を誓いたいと言うのなら、誓う事を赦すわ。元々の出逢いを考えれば、たった数か月で貴方達を完全に信用する事はない。……それでも数年を掛けて私に仕えたいと態度で示すのなら、私は貴方達を私のモノだと認めましょう」

「……!」


 マルクの、ううん。元野盗達の顔が輝き、私を見上げた。

 あら。これで正解?

 つまり彼らはいつの間にか私を慕っていたという事かしら?


 うーん……。フィリン達なら話は理解できるんだけど。


「俺はそうしたい!」

「お、俺も!」

「俺達もだ!」

「ふぅん?」


 なんでかしらねー。

 せっかく自由にしてあげると言っているのだし。

 反省しているなら、それはそれでいいと思うけれど。


「……まぁ、皆の前だと正直に話せない事もあるでしょうから。改めて話を聞く機会を設けるわね。誰の選択を責める事もないし、責めさせもしないから、それだけは心得ておきなさい」


 マルク達の今後については個別に聞いて改めて決めましょう。


「フィリン達は? 私について来る? 個別の要望があるなら、もちろん言って構わないのよ」

「私はお嬢様について行きます!」

「私もです!」

「そう。嬉しいけれど、よく考えてね」


 これも皆が居る場所では飲み込まれて自分の意見が言えなくなる可能性があるからね!


「それじゃあ……そうね。一度、皆でアルフィナを離れる方向で進める? 冬越しを前提にして畑ごと放棄してしまって。……領主の屋敷は、また人が離れて荒れるかもしれないけれど」


 私1人で王都に戻って、皆には領主の屋敷の管理を任せるというのも良いのだけれど。

 どうしたって正式な領主の権利が私にない事が問題なのよね。


 それなら皆で一緒に行動した方が良いでしょう。

 最悪の状態から今日まで共に持ち応えてやってきた子達だもの。

 一緒に居れば何とかして見せるわ。


「カイル。薬草薔薇の生育も放棄する事になるけれど……」

「……問題ないよ。クリスティナ。別の地で栽培できるかも試したかった所だから」

「ありがとう」


 ちゃんとした領主の権利が最初からあったらねー。

 魔物素材と作物で生計を立ててきたけど。

 薬草薔薇は、アルフィナの特産にするつもりだったし。


「では皆。今日からアルフィナを出て、王都へ共に向かう為に行動していくわ。二度と戻ってこれない可能性を考えて、残していくもの、持っていくべきものを見極めてね」


 準備時間は、大地の傷の再発がないかの見極める時間にもしておきましょう。


 全員の準備が整ったら……エルトが率いる騎士団と合流して活動するわ。

 アルフィナから離れる日も近いわね!


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[一言] 最初がアレでしたけど、 破格な美人で明らかに善性、自ら最前線で行動してるお嬢様。 下につきたくなりますよね。
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