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108 邪神との戦い

『ァアアアアアアア!』


 ミリアリアの声を使って叫び声を上げる異形の邪神。


「喋れるんなら、その声を……アンタが出す理由を話してみなさいッ!」


 エルトが切り払った腕とは反対側の腕を薔薇でさらに強く拘束する。

 その隙を見て、私も突進し、まず邪魔になる巨大な腕を潰す。


「──フンッ!」

『ァアアアッ!』


 ドゴッ! という音と共に光の拳で邪神の手を払いのける。


「……固いわねっ!」


 粉砕するに至らず、それに肉塊の腕には骨すらないような形に歪んだわ。


『ァアアアアア!』


 エルトが魔剣で切り落とした左腕からはボタボタと泥みたいな黒い液体が零れている。

 だけど、切られた筈の左腕が再生し始めたわ!


「これは……」


 薔薇槍が刺さらない。ぶん殴っても中の骨がないみたいで折れたりしない。

 その上で再生までしてしまう肉の塊。


「まぁ、なんてものを祭壇に押し込めてたの? 彼らは何を考えてるのかしら!」


 前の邪神の時もそうだったけれど、彼らちゃんとコントロールする気はあるのかしら?

 ないわよね? 崇拝したからって大人しくするとも思えないし。


「天与持ちは、そう何代にも連続して生まれてはこない。血筋から発現するのも確実ではないし。彼らは何代に亘って、この邪な神に捧げて、三女神を敵視してきたのだろうな……」


 前の天与持ちだって今は居ないものね。

 王家の目に留まらずに生まれているかもしれないけど。


『ァアアアア!』


 大きく振りかぶられた拳を私達は避けて飛ぶ。

 修道院の中庭が見るも無残な事になってきたわね!


「何があったら、こんなのを崇めて私をバケモノ呼ばわりするのよ!」


 薔薇の拘束が千切れていく傍から新たに生やして邪神の思うように動けないようにするわ!


 でも、拘束が逆にエルトの攻撃を邪魔しているかも。

 彼の攻撃は剣だからね!

 再生するせいで突くだけじゃどうにもダメージが残らないみたい。


「もしかして決め手に欠けているかしら!」

「……そうだな。クリスティナ」

「なに?」

「俺がしばらくアレの攻撃を凌ぎ、囮になろう。お前は隙を突いて……アレの上から攻撃できるか?」

「上から?」

「そうだ。俺が踏み台になってやる。ラトビア嬢との共闘の時もそうだったが……アレはおそらく、お前たちの浄化の力こそが重要なものだ」


 再生していく魔物だものね。

 ルーナ様も私も、この時代に一緒に現れたのは、この邪神を滅ぼす為?


「クリスティナ。薔薇の拘束を解いて、後ろに下がれ」

「分かったわ!」


 前衛を彼に任せて、薔薇の拘束を新たに生やすのをやめる。


「──浄化の薔薇槍!」


 その代わりに他に被害が及ばないよう、他の道を塞ぐように薔薇槍の壁を邪神の周りに咲かせたわ。

 浄化の力を嫌がるのなら、これでアイツは後ろにも横にもいけず、こっちにまっすぐ突進してくるしかない。


『ァアアアア!』


 表面が黄金の薔薇によって溶かされていくけれど、邪神の再生力に負けている。

 ……ルーナ様を連れてくれば良かったわね!


 彼女の光の天与なら全体ごと浄化で払えたかもしれないわ!


「はっ!」


 ただ大振りの攻撃では如何にパワーがあったとしてもエルトに当たる事はなかった。

 そりゃあそうよね。

 エルトは私の全方位の薔薇槍すら搔い潜って接近してこれる騎士だもの。


 それに加えて。


「シッ!」

『──ギィィャァアアアアアアア!』


 今度は邪神の右手が切り落とされたわ!


「むー!」


 私の拳はひん曲がるだけで終わってしまうっていうのに、彼の剣は腕を一刀両断よ。

 邪神って毎回、打撃が効かない相手なのかしら?

 とっても迷惑ね!


 とりあえずアレよね。私に出来る事をする。


 予言の天与は戦闘には無関係だから……そう。


「薔薇よ!」


 私は右手を前に掲げて、そして薔薇を巻き付けた。

 拳の先には黄金の薔薇が咲き誇る。


 今、目の前で戦ってくれている彼の背中を、振り向き様に見えるその姿を見つめる。


 そうしてアルフィナで過ごしてきた皆の顔やフィオナの顔を思い浮かべる。


 私は一層に距離を置いたわ。そして邪神との間に丈夫な棘なし薔薇の蔓を咲かせて……私の身体を掴ませた。


「はぁああああ!」


 邪神に向かって駆けだして、その上で薔薇の蔓によって上へと投げ飛ばさせる。


「もう一つ!」


 更に足場になるような『バネ』になる薔薇の塊を中間に咲かせて、邪神の真上から飛んできてやったわ!


「──フン!」


 黄金の浄化薔薇をいくつも巻き付けた光る拳を邪神の頭に叩き込んであげたわよ!


『ギッ……!』


 上からの打撃だったせいか、私の攻撃の勢いを殺す事が出来ず、その上で浄化の効果と、目玉が潰された事で……邪神の頭が弾け飛んだ。


「エルト! ついでに首を切り落として!」

「ああ!」


 頭が弾け飛んだ勢いと私自身の勢いが殺せずに私は、そのまま邪神の背後へと吹っ飛んでいく。


「クッション!」


 薔薇槍にして鋭くしていた薔薇をしならせ、クッションの代わりにする。


「きゃっ!」


 ひっくり返った形で薔薇に受け止められながら、私はエルトと邪神の姿を目で追ったわ。


 潰れた首を彼が切り落とす瞬間だった。


「やったかしら!?」


 薔薇のクッションを霧散させながら私は地面に着地してみせる。


「エルト……」


 私は彼に駆け寄ろうとして。


「クリスティナ!」


 目にも止まらない速さで彼が私に向かって走ってきて、そのまま私の身体を抱き寄せて飛びのいたわ。


「きゃっ……」


 邪神の頭は遥か上へと投げ飛ばされた後。


 ドゴォオオオオオッ!!


「きゃああ!?」


 何かしら! あれ、頭が爆発しちゃったわよ!?


「これはまた……上に投げておいて良かったな」


 エルトの身体に庇われながら私は中庭の地面に横たわってその光景を見ていた。


「頭は爆発するものだったの?」

「何か嫌な予感がしたから投げておいた」

「よく分かったわね!」


 危うく怪我をするところだったわ!


「ちょっと待って、身体の方も……!?」


 切り落とされて爆発した頭から、残された身体の方へと目を向けた。

 幸い、身体の方は爆発せずに……溶け出すようにその場に崩れて零れていく。


 真っ黒な泥がその場にぶち撒けられたみたいね!

 でも問題はそこじゃないわ!


「何……?」


 流れ出る黒い泥からは……何人もの女性が出てきたわ!?


「何だ?」

「エルトは見ちゃダメ!」

「むっ!?」


 私は咄嗟に彼の目を両手で塞いだ。


 だって、そこには……全裸の女の子が沢山、横たわっていたんだもの。


 まさか、邪神の中から出てきた? だとしたら。


「……! ミリアリア!」


 横たわる裸の女の中に……夢の世界で見た女の子の姿を見つけた!


「何?」

「エルトは目を閉じてて!」

「わ、分かった」


 彼に目を閉じさせたまま、私は起き上がって、泥の中へと駆け込んだわ。


「ミリアリア! 起きなさい!」


 そして泥まみれの彼女の身体にすがりつく。

 脈は、呼吸は…………あるわ! この子ったら生きてる!


「しぶとくて良かったわ!」


 だから邪神から声がしたのかしら!?


「近くで腰抜かしている貴方達! 彼女達、まだ生きてるわ! 一緒に助けなさい!」


 私は棘なし薔薇を咲かせて巻き付け、彼女達の肌を隠してあげる。


「エルトも! もういいわよ! よくないけど!」

「……どっちだ?」

「一緒に彼女達を助けてちょうだい!」

「……分かった」


 私はミリアリアを抱え上げて、修道院の中へと連れていく事にしたわ!


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