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107 邪神、再び

「クリスティナ!」

「きゃっ」


 空間の裂け目、大地の傷から見える闇と巨大な瞳。

 そこから放たれる殺気を感じた瞬間には、私の身体はエルトに抱え上げられて後退していたわ。


「エルト、これじゃ戦えないわよ!」

「流石に場所が悪い!」


 禍々しい闇の奔流が、地下の祭壇を飲み込んでいく。

 ……このまま行ったら祭壇のある空間ごと潰されてしまうわね!


 上の懲罰室にも地下空間にも残念だけど生きている人はいなかった。


「これ、私がここに来たせいかしら!」

「お前が来なくても犠牲者は出ていた。ここでどうにかしてしまうのが一番だろう」

「そう……浄化薔薇よ!」


 エルトに抱えられて地下空間を出ていく途中に光を放つ浄化薔薇を地下空間に満たす。

 それだけじゃなく、出来る限り崩落を防ぐように至るところに丈夫な薔薇を咲かせる。


『────』


 この世のものとは思えない声が聞こえる。邪神の声?

 叫んでいるのは……浄化の薔薇を嫌がっているかかしら?


「……っ!」


 闇の奔流が、懲罰室へと続く階段を駆け上がった私達の後ろに溢れだした。


「ここも地下なのに!」


 懲罰室の壁が砕かれたわ!

 端にある部屋だったから貫通してないけど、大きく穴が空いてしまったわよ!


「……追ってくるらしいな!」

「まぁ! 何かしら、アレ!」


 闇というか、黒い煙が肉の塊になっているみたいな感じ!

 一個の生命体よ、アレは!


「浄化薔薇!」


 とりあえず直接攻撃は置いておいて、周りを固めるわ!

 地下から出ていかないと潰されちゃうからね!


「エルト、私、走れるわよ!」

「そのままヤツへの牽制を続けてくれ。俺がお前を運ぶ」


 まぁ、それがベストかしら?

 移動は彼に任せるわ!


『──ァアアアア──』

「声……!?」


 女の人の声だわ! それも……あれ? 聞き覚えがある……?


「……まさか、ミリアリアの声!?」

『────』


 大きな瞳が私に向けられる。

 夢の世界でしか交わした事のない声。

 リムレッド院長は存在を否定した女性。


 だけど、邪神から聞こえた声にその面影が残っている。


 ……たしかに彼女が居たのね。現実に。


 だけど、地下牢に残された死臭……。


「エルト」

「なんだ」


 私は彼に担ぎ上げられ、逃げながら……追いすがる邪神の姿を睨んだ。


「私、あいつを赦せないわ!」


 友情なんてない。

 夢の中という中身のない場所で、しかも嫌がらせを受けた。


 けど人知れず殺される程じゃあないでしょう。

 ましてや、これでは彼女が良い人だったかどうかも分からない。


 私だけしか彼女を覚えてないかもしれないのに、夢の世界のようなイヤな相手だって私は彼女を決めつけたまま。


 ヘルゼン領で退治した邪教と同じ組織かはまだ分からない。

 でも、ヨナやフィリン達だって、殺されてたかもしれないのよ。


「消してやるわ! あんたの事を!」

『──ァアアアアアアアア……!』


 悲鳴のようなミリアリアの声を響かせながら、黒い異形の肉塊が懲罰室に続く廊下を壊しながら私達を追ってくる。


 浄化薔薇が触れている所は溶けているけど、今回の邪神の質量に押し負けているみたいだわ!


「はっ……!」


 かろうじて私達は地上へと出てくる。

 次いで溢れだしてくる邪神の姿……!


 ドゴォオオオンッ! と音を立てて壁が崩される。


「きゃあああああ!?」

「な、何!?」

「ば、バケモノ……!」


 肉の塊、それでいて液体、煙。煙が出ているのは浄化薔薇が当たったからかしら?

 腕がある。人間のような腕にも見えるけど、凄く太いわ。


 足がある。足にも見えるけど、それは腕と似たような形状をしていて、腕とは別の4本で身体を支えている。


 顔がある。大きな目玉が一つだけの顔。

 裂けたような口からはボタボタと黒い涎が垂れている。


「──浄化の薔薇槍!」

『ァアアアアアアアア!』


 悲鳴を上げている邪神の姿。

 黄金に光り輝く槍が表面を削るけど……仕留めきれない『厚み』があった。


「きゃあああっ!」

「これは……今まで見てきた魔獣共とは全く違うな」

「そうなの?」

「ああ……。纏う瘴気は似ているが……今までの連中は『獣』の延長線上にあるモノだった」


 獣。でも目の前に居るコイツは異形だわ。


「浄化薔薇の……檻!」


 薔薇で拘束を試みるけれど、抑え込めない?

 恐竜よりもパワーがありそうだわ!


 私は周りに目を向ける。騒ぎを聞きつけたシスター達が混乱し、腰を抜かして逃げるに逃げれないような状況。


「エルト! すぐに仕留めるわよ!」

「ああ!」


 私の身体を下したエルトはすぐに黒い刀身の剣を抜き放っていた。


「こっちよ、バケモノ! あんたの狙いは私でしょう!?」


 私は胸を張って挑発したわ!

 周りの子達が狙われるよりは私が注意を引き付けた方が良いでしょう!


『ギイィイイイァアアアアア……!』


 薔薇の拘束を暴れながら引き千切り、流血の代わりに黒い液体を溢れさせながら私に向かって突進してくる邪神。


「──シッ!」


 私が迎え撃つより先にエルトが目にも止まらない速さで邪神に駆けていく。


『ァアアアアアアアッ!?』

「まぁ! 凄いわね!?」


 浄化の薔薇槍が表面だけで弾かれたっていうのにエルトの剣は邪神の腕ごと切り落としたわよ!?


「魔獣狩りの為の特別な剣でな。魔剣の切れ味はどうだ、邪悪な神よ」

「魔剣!」


 あの黒い剣が!? 凄いわ!

 何それ! エルトったら、そういうのを教えてくれれば良かったのに!

 魔法銀の剣とはまた違うのかしら? ワクワクするわね! 魔剣よ、魔剣!


「クリスティナ!」

「んっ!」

「──ボーっとしていたら俺が一人で倒してしまうぞ?」


 エルトは挑発するように私を見て笑ったわ。


「……ふふっ」


 邪神を前にしているっていうのに、まるでダンスのお誘いのよう。

 ああ、分かった。


 彼はこういう関係が良いのね?

 家を守る女じゃなく、背中を預け合い、或いは競い合うような。


「フフン! 望むところよ! どっちが先にこいつを倒すか、勝負だわ、エルト!」


 私と彼は不敵に笑い合いながら異形のバケモノと対峙したわ!



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