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105 修道院長とのやり取り

「はぁ……。それで悪魔の末裔と?」

「そうなの! 私、悪魔よ! フフン!」

「自分で名乗ってどうするんですか……」


 もういっそ悪魔の方が楽じゃないかしら!


「とにかく明確にクリスティナを敵視しているらしい事は分かった。そう言うように言われただけかもしれないが……」

「本当にそう思ってそうだったけどね! あとルーナ様は平気かしら?」


 天与を授かった人間を敵対視しているのなら彼女も危険だわ。


「ラトビア嬢の護衛はしっかりと付けている。修道院自体への関わりは調査次第だが……何かはあると見ていいだろうな」


 夢の世界で見た修道院の地下にある邪教の祭壇。

 あそこに入った時、一際、あの不快な声が聞こえたわ。


「お嬢の夢は警告なのか罠なのか判断し辛いのですよね……」

「どっちもだと私は思っているわ」

「そうなのか?」

「うん。どっちも。たぶん、邪教は私の天与に何かの干渉をしてきてるの。どうやってかは知らないわ」

「ふむ……」

「……お嬢が天与を授かった事は随分と前からの周知の事実ですからね。王都に居る間に何かされていたのか……」

「直接的には何もされてないと思うけど……」

「間接的にでも介入する術があるのか」

「呪術的な何かという事でしょうかね」


 呪術! 魔術とは違うのかしら?


「呪術と魔術の違いが分からないわね!」

「私も詳しく知っているワケではありませんが……、強いて言うなら代償を前提にして強力な効果を出す行為……でしょうか」

「代償?」

「私の国では『人を呪わば穴二つ』などという言葉があります。自分が逆に呪われるような危険を背負ってする危険な魔術……と思っていただければ良いかと」


 どうしてそこまでして私を呪うのかしらね!



 私とエルトを乗せた馬車は、居なくなった御者の代わりをリンディスが務めて修道院へ向かったわ。

 やがて大きな壁に囲われた修道院が見えてくる。


「……夢の世界で見たままの修道院だわ」


 私の意識が『彼女』と交差する。

 まぁ、あの時は早々に『私』が彼女を乗っ取ったんだけどね!


「ナナシも連れてくる? リンディス」

「……いえ。いきなり彼と連携を取るのも難しいですからね。それよりもまずは、修道院に魔族が居るか居ないかを確認した方が良いでしょう。ナナシさんは伏兵としておきましょう」


 姿を隠せる魔術は便利だけど、同族には見抜かれてしまう。

 リンディスが王城なんかでは隠れられない理由ね!


「そう! じゃあ、行くわよ!」


 エルトとリンディスだけ連れて修道院へ突撃ね!



 修道院へ訪れた私達は、シスターが出迎えてくるのを待つ。

 リンディスの魔術は見破られるかもしれないけど、それでも私とエルトの持っている剣と、リンディスの銀髪を隠蔽して貰うわ。


「……お待たせ致しました」


 修道院の視察という名目で訪れた私を、夢の中そのもののリムレッド院長が迎えたわ。


「リムレッド院長ね」

「……? はい、貴方様は……」

「クリスティナ。ただのクリスティナよ」


 夢の中の私と違ってシスターじゃないわ!


「手紙でお伺いしていましたが、改めてお聞きします。本日はどういったご用件でしょうか?」

「そうね……」


 私は何も包まれていない包装を掲げたわ。


「?」

「──薔薇よ」


 光と共に私は薔薇の花束を咲かせる。


「……っ!?」

「私ね。最近、神殿にこうして薔薇を寄贈しているの。イリス神の天与を授かった者としてね。今日はその一環で来たのよ。修道院に訪れた者にも女神の加護があるようにね」


 夢の中のリムレッド院長は薔薇を見て動揺をしつつも毅然と対応していた。

 現実の彼女もそれは変わりないみたいよ。


「なるほど……寄贈ですか」

「ええ」

「勿論、薔薇だけではない。マリルクィーナ修道院への寄付もするつもりだ」


 エルトは予め準備していた袋をリムレッド院長に手渡した。


「これは……貴方様はどちら様でしょうか?」

「あら。聞いていないの?」


 私が行くという話しか通してなかったのかしら?


「エルト・ベルグシュタット。伯爵家の長兄だ」

「……! こ、これは失礼致しました」


 まー。エルトにはかしこまるのね?

 あれ? 一応、私って表向きは侯爵令嬢なんだけど?


 でも予言が正確に伝わっているなら私がマリウス家とは縁が切れたって知れ渡っているかしら?

 あと自己紹介でただのクリスティナって言っちゃったわね!


「では、当院のご案内を致しましょう。こちらへ」


 意外とすんなりね。

 後ろめたい事がないのか、それともバレる筈がないと思っているのか。

 リムレッド院長が何も知らないって事はありえるかしら?


「ねぇ、院長」

「はい。なんでしょうか」

「この修道院にはミリアリアっていう女の子は居る?」

「……!」


 ん? 何かしら。彼女のことが引っ掛かるの?


「……お知り合いのお名前ですか?」

「まぁ、そうね!」


 向こうは知らないでしょうけどね!


「居るわよね?」

「…………、生憎と」


 居ないの? 夢と現実の差異かしら?


 私はエルトとリンディスに目配せしたわ。


「居る筈なのだけれど?」


 確信が持てないから、こんな風に表立って来ているんだけどね。

 それでも私は胸を張って断言しておいたわ!


「申し訳ありません。名簿を確認致します。私の記憶にないだけかもしれませんので」

「ふぅん? そう。じゃあ、お願いするわね!」


 当たり前だけれど、シスターとして来たワケじゃないから院長が下手に出てくるわね!

 でも目付きは厳しいわ。


 これが普段からの対応なのか判断し辛いわね!


 それから私達は応接室に招かれたの。


「では、失礼ながら……お探しの女性が当院に居るか確認して参ります。少し、お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん。お願いするわ! 彼女に会えるの、とっても楽しみにしていたのよ!」


 私は微笑みを浮かべて見せたわ。

 フフン! 猫を被る時は、優雅な王妃候補スマイルよ!


「……ええ、それでは」


 リムレッド院長が応接室に私達を残して部屋を出ていく。


「リン」

「ええ、お嬢」


 リンディスに目配せをして、すぐさま院長の後を追って貰う。

 もちろん、姿を隠してよ。

 敵陣営として魔族が居るかもしれないけど……。


「……魔族の存在は希少だ。このような場所に常駐しているとしたら連中にとって、ここがかなりの重要拠点という事になる」

「うん」

「クリスティナの存在を仄めかしてから3日程度で、馬車を襲う教徒を確保してきた。実力も思想も、浅い者達だったが……それでも、それだけの者達が近くに居た」

「うんうん」

「クリスティナが夢の天与で知った人物について、修道院長が知らないと答えたのは……」


 考えられる答えは、3つかしら。


 1つ目、ミリアリアという女性は現実には存在しない。

 2つ目、リムレッド院長が単純にミリアリアという個人を把握していないだけ。

 3つ目、リムレッド院長がミリアリアを隠そうとしている。


「……こうよね?」

「ああ。俺達が一番に警戒すべきなのは3つ目だな」


 院長がミリアリアを隠そうとしている。

 夢の世界での彼女は性格が良くなかったけど、現実もそうとは限らない。


「……夢の世界の私がここに訪れたのはレヴァンとの婚約破棄の後よ。今とは何か月もの時間差がある」

「そうか……」


 もしもミリアリアが数か月前までは、この修道院に居たとしたら。

 ……今、彼女はどこにいるの?


「エルト。私、嫌な予感がするわ」

「……だろうな。クリスティナの予言を信じるのなら、彼女が今いる場所は」


 懲罰室の隠し扉を降りた先の……地下牢。

 死臭を漂わせ、邪神の祭壇があった場所……。


「ねぇ、エルト」

「少し待て」

「まだ何も言ってないわよ!」

「……お前、今すぐに突撃しようとしただろう」

「あら、分かるのね!」


 これは絆のパワーなのかしら!


「彼の帰還を待ってからでもいいだろう。それに院長にも揺さぶりをかけなければ」

「そう。この修道院の中にも教徒達は居るかしら?」

「表向きは、ここも三女神を信仰する場所の筈だ。こうして部外者を平然と中に招いた以上、大っぴらに邪教を信仰しているとは思えないな」

「じゃあ、洗脳の類はされてないかしら?」

「……クリスティナが見たように、食事を絶たれ、光のない懲罰室へ閉じ込められた後で『布教』をされたら分からない。そうやって信徒を増やしているのかもしれない」

「むー!」


 そんな事してるとしたら許せないわね!

 王国にあるすべての修道院を片っ端から襲ってやろうかしら!


 でも特別に厳しい修道院といえば、ここなのよね!


 大丈夫かしら、ミリアリア。

 まぁ、現実に会った事はないんだけど。

 でもリムレッド院長は現実にもいたのだもの。


 夢の中にしか登場しない人なら、それはそれで怪しい気もするし……。


 そこでノックもなくガチャリと扉が開かれた。

 誰の姿もなかったけれど、地味な髪色と瞳に変えたリンディスが姿を現したわ。


「リン、どうだった?」

「……調べようともしてませんでしたね。ただ、時間を潰してきただけです。お嬢達が何かを知っているとまでは警戒していない様子ですが……」

「彼女の返答によってはシロかクロかは決めつけられそうだな」

「ええ。そうなりますね」


 調べなかったのはミリアリアの事を把握しているからかしら。

 それとも私達にまともに取り合う気がないだけかも?


「……失礼。お待たせ致しました」


 リンディスが何喰わぬ顔で私達の傍に立って、少ししてから院長が戻ってきたわ。


「ミリアリアを呼んできてくれた?」

「……いえ。失礼ながら、その者は……現在、当院には居ないようです」


 あらまぁ。これってクロでいいかしら?


「現在、ということは他所に移った後か?」

「……いえ。そういう記録はありません」

「では、お勤めを果たして修道院を出たのかしら? マリルクィーナ修道院は終生まで壁の中で過ごす事になる厳しい院だと言われているけれど」

「……そのような話はただの噂に過ぎませんよ。多少、他所よりは厳しい場所かもしれませんが……」

「それでは、確実にこの修道院に入った記録のあるミリアリアはどこへ行ったの?」

「…………記録があるのですか」

「ええ。ここへ持ってきてはいないけれどね」


 嘘だけどね! フフン!


「……そうですか。では、修道院を既に出たのでしょう。失礼ですが、何年前の記録でしょうか?」

「数か月前よ。この修道院が1年もせずに出れる場所とは思えないけれど?」

「……おや。ですが、そういう事もあるでしょう」


 トボけてるわよね? これ、トボけてるわよ!


 私達とリムレッド院長の間に冷えた空気が流れるわ。


「……じゃあ、代わりにお願いがあるのだけど」

「何でしょう?」

「マリルクィーナ修道院は厳しい場所と聞いているわ。だからね。見せて欲しいの。──懲罰室を」

「……っ」


 この反応は『ある』のは間違いないわね。

 じゃあ、夢の世界と建物の構造は同じ……?


「さすがにこの件までは、しらばっくれないわよね。院長!」


 王妃候補スマイルからの悪女スマイルよ!


「……、それは」

「見せて貰うだけで良いのだけど。よろしいかしら?」


 私は悪女スマイルでリムレッド院長に圧力を掛けるわ!

 夢の世界で意地悪されたからね! 容赦しないわよ!



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