104 悪魔の末裔?
「さぁ、どう料理してあげようかしら!」
私とエルトを襲ってきた男達が目の前で倒れているわ。
天与の薔薇の蔓で拘束され、何人かは気を失ったままね。
マリルクィーナ修道院へ私が訪問すると事前に伝えた上で、2人だけで行動した結果。
私自身を囮にしての邪教徒の炙り出しに成功したってワケね!
この行動で見えてくる事は、やっぱり私は邪教徒達に目を付けられているって事かしら?
それとも目と鼻の先に彼らの祭壇があって、戦力が整えられるから手を出した?
聞いてみなくちゃ分からないわね!
今回の私達の目的は、修道院と邪教が何を企んでいるのか掴むことよ!
「以前、クリスティナをさらった邪教の者達は特別なシンボルも何も持っていなかったようだ」
「同じ集団かは分からないのかしら?」
「ああ。あそこに残された資料だけでは何とも言えないな。ただ記された内容からして予言の聖女と無関係とは思えない話だった」
「うんうん」
見る限り、アマネの見る予言書の事としか思えなかったのよね。
「それでこの子達、拷問するの? 拷問って私、初めて見るわね! いい声で泣くのかしら! ふふふ!」
「むぐぅ!?」
「なぜ拷問を……いや、尋問ならするが」
「ナナシがこういうのは得意みたいよ! これだけ人数がいるから誰かは教えてくれるでしょう。1人1人に分断してから先に情報を教えてくれた方だけ生かしてあげるのが良いらしいわ! 後で吐いた方には追加拷問するのがいいのよ!」
ゾクゾクしてきたわね!
「ふふふふ……」
「む、むぐぅう……!」
私は、悪女スマイルで襲撃者達を見下ろしてあげる。
「クリスティナ。お前はアルフィナで誰から何を学んでいるんだ」
「アウトローな連中との戦い方と制し方よ! フフン!」
マルクみたいに子供を人質を取るような相手もいれば、ミリシャみたいに平然と暗殺を依頼してくる人も居るんだもの。
私は悪意のやり取りにも慣れないといけないのよ。
王妃教育とは違って『悪女教育』は実践っていう感じがするわね!
今までの王妃教育は実践不足の頭でっかちの理論という感じだけど、悪女教育は実践で使えるわ!
でも度を過ぎたら後で不利益になるっていう事は念頭に置かないといけないわね。
手っ取り早く殴るのが短期解決でも、恨まれたり評判を落としたら後が手痛い……とかね。
この辺りが王妃としての振る舞いと、市井で好きに振る舞える事の違いよね。
貴族同士で喧嘩になる場合は、相手を取り込む事と根絶やしにする事を念頭に入れて立ち回らないといけないの。
……私には向いてないわね!
「とにかく、これで修道院付近に不穏な影がある事は証明できた。彼らの尋問は部下に任せるとしよう」
「そうして貰える? それにしても何人で襲ってきたの?」
「13人。多いな。修道院への訪問を表立って伝えてからそう経っていないのに、これとは」
うーん。元からこの地方に集まっていた?
ヘルゼン領でも、けっこうな人数の男達が居たわよね。
「クリスティナが視た地下室があるとして……別の出入り口もあるかもしれない」
「別の?」
「聞いた限りでは、その入り口から多人数が出入りするのは難しいだろう」
地下にある懲罰室の、さらに地下だものね!
外から女が送られてくる修道院なんだからシスター全員が邪教徒の筈もないでしょうし。
……でも夢の世界では問答無用で食事抜きに懲罰室行きとかしてたのよね。
私みたいに冤罪であっても容赦なく。
心を壊してから洗脳して邪教徒に仕立てあげる、なんてやってるのかも。
「んー。エルトの部下達が合流するまで、この場で分かる部分だけでも聞いてみましょうか」
「……そうだな」
エルトに視線を合わせて許可を得てから、薔薇で拘束している男の内の一人に私は近付く。
「むぐぅ!」
反抗的な態度ね。とりあえず意識が残っている男の内の1人に私は。
「──フンッ!」
「むぐぅ!?」
蹴りを入れてやったわ! フフン!
「私の質問に答えなかったら、その都度、蹴りを1発よ!」
「むぐぁ!? むぐぅ!!」
何か言いたそうに猿轡を噛んでいるわね!
噛ませている薔薇の蔓は強度重視にしてるから噛み切れないみたいよ!
「あんた達、なんで私を狙ったの?」
「むぐぅ!」
「答えなかったから1発よ!」
ゲシッ! と私は追撃を入れたわ!
「ふふふ。あら、意外と強情なのね。もっと簡単に話してくれると思ったのに」
「むぐ……むぐぅ……!」
「どうして話さないのかしら? 話してくれないなら、いつまで経っても貴方を蹴り続けなきゃいけないのだけど?」
「むぐぅぅうう!」
私はとびっきりの悪女スマイルで男に微笑んであげた。
相手から見える角度、笑い方……完璧な悪女よ! フフン!
少し見下す感じに顎を上げるのが絶妙な効果を演出するんだわ!
ちなみに美人な顔立ちの方が効果的らしいわよ。
フィオナが認めた美人の私に向いているわね!
「あらあら。ごめんなさい。それじゃあ喋れなかったわね? 私ったら少し抜けてしまっていたわ! ふふふ!」
「ぐ……」
私は、見下した視線のまま男の口元を拘束している薔薇をどけてあげた。
「貴方のお腹の中に解毒薔薇を咲かせてあげたから。毒を飲んでも自決できると思わないでね?」
「ぐっ……、こ、この……」
「返事がないわ!」
「ぐへぁ!」
天与なしキック! フフン! これが私の峰打ちよ!
「さぁ。どちらの立場が上か分かったかしら。ふふふ」
「クリスティナ。お前にもそういう一面があるんだな」
「嫌いになる?」
「いや。悪くない」
「ふふふ」
「はは」
悪女スマイルを解いて普通に笑ってみるわ! ふふふ!
婚約はしたけど、まだ私達、お互いのことほとんど知らないからね!
「この……悪魔の末裔めっ!」
「……悪魔の末裔?」
男が私に向かってそんな事を言ってくる。
何の事かしら?
分からなくて私は首を傾げたわ。
「エルトは悪魔の末裔なの?」
「俺の方か?」
「女の方だ!」
あら。分かってたけど、指定されちゃったわ!
「なんで悪魔の末裔かしら?」
もしかして私の知らない本当のお父様の出自を知っているとか?
「そんな力を持つ者が人間だと思ってるのか? はっ!」
「えー……」
何かしら、それ。
「悪魔でなければ貴様はバケモノだっ! 人間の皮を被っていても、お前の本性は変わらない!」
「ふぅん」
人間の皮は被れてるのね。どういう感じなのかしら?
ヘルゼン領で見つけた『転生者』も似たようなものじゃないの?
ヨナの身体に異世界人の魂を呼び込んで凄い力を持たせるとか。
「そういう思想でも、貴方達は魔族は平気なのね?」
火や幻惑の魔術を使う彼ら。その存在はリュミエール王国では貴重な存在だけど。
「それが貴方達の宗派なのね。天与を与えられた人はバケモノ扱いなの?」
「バケモノとしての力に目覚めた事を天から与えられたなどと……!」
つまり薔薇や怪力は私の生まれつきの力って事かしら?
「ふふふ。じゃあ、貴方達の考えだと、この力は私の才能枠なのね! エルト! 凄いでしょう! フフン!」
「なっ……」
「うん。まったく褒められていない気はするが……前向きなのは良い事だ」
「そうでしょう! フフン!」
私は胸を張ったわ!
「ところで悪魔の『末裔』という事は血筋的な思想が含まれているのか?」
「そういえばそうね。私が悪魔なんじゃなくて末裔だもの」
本物のお父様ったら悪魔なのかしら!? それは予想外だわ!
黒い翼とか生やせるかしら? クインが居なくても空を飛べるようになれそうだわ!
「貴様は悪魔の力を持って生まれたバケモノなのだ! いずれこの世を闇に落とす!」
「凄いパワーがある設定なのね!」
リュミエール王国だけじゃなくて『この世』をよ?
凄いわ。
この人達、私やルーナ様よりも天与の力を評価しているんじゃない?
「ぐっ……! 貴様! バケモノの分際で我らをバカにするのか!」
「バケモノや悪魔の末裔と『傾国の悪女』ってどっちがマシかしら?」
「……言われている内容が、どちらも変わりない気がするな」
傾国+悪女+予言だと『何をしたってアイツは悪者、悪役令嬢』になるものね。
バケモノも悪魔の末裔も似たようなものだわ。
結局、私が何をしても悪いと言われるレッテルよね。
「他にはないの? 貴方、その言い草なら、あの邪神を呼び出した人達と同類よね。見た目で言ったらアッチも相当だったわ! それでもアッチが正義で私が悪者なの?」
触手に気味の悪い見た目の邪神。
どう見ても不気味だったけど、案外、神様とか天使様ってそういうものかもしれないわね!
「邪悪なる者はお前だ! 見た目で人を騙し、付け入ろうとする悪魔め!」
「まぁ! 貴方も私が美人だって誉めてくれるのね! ありがとう!」
「ぐぬぬ……! 違うわ!」
見た目で騙せるっていう事は、見た目だけでも受け入れられやすいって事だものね!
「ふむ……。つまり天与を持つ者を警戒せよ、危険視せよ、という教えが行き過ぎた教義なのか?」
「三女神様のことも嫌ってそうね!」
神様にいいようにされるって考えたら、たしかに嫌われても仕方なさそうね!
「で?」
「な、なんだと?」
「それで私が悪魔の末裔でバケモノで。だから?」
「お、お前は死ぬべきなのだ!」
「うん。それで? 私が死んで貴方達は何を得するの?」
「得などではない! 我らはお前達、バケモノから世界を救うのだ!」
「ふぅん?」
とりあえず、この人個人は、そういう思想なのね。
他の人や邪教全体も同じ考えなのかしら?
それだとルーナ様もやっぱり狙われてるかもしれないわね。
「貴様は、」
「もういいわよ。フンッ!」
「ぐべっ!」
天与パンチで男をぶん殴ってあげたわ!
「他の人達も同じ考えか確認しないといけないわね」
「そうだな。しかし、彼らはこういう考えなのか」
「ビックリねー」
「……クリスティナは気にしないのか?」
「何を?」
私は首を傾げたわ。気にする事なんてあったかしら?
「ふっ……。いや。クリスティナが何も気にしていないならそれでいい。ああ、お前を慰める機会がなかったのは残念なところか」
「慰めなくてもいいから誉めなさい!」
「誉める?」
「そうよ!」
「ふむ」
エルトは首を傾げてから私の頭に手を置いたわ。
そして優しい手付きで撫でて来る。ふふふ。
「こうか?」
「フフン!」
「うん。嬉しそうだから良いんだな」
頑張った時はやっぱり褒められないといけないわよね!
「団長……!」
「お嬢!」
「あ、リーン! こっちよー!」
馬にのって追いついてきたリンディス達に手を振る。
「お嬢、ご無事で何よりです」
「リンディス! 聞いて! 私、悪魔の末裔なんだって!」
「……はぁ?」
「フフン!」
「いや、意味が分かりませんけど」
「あら。知らないの?」
じゃあ、本当のお父様の正体は悪魔じゃないのね!
ちょっと残念だわ! 自力で空を飛べるかもしれないと思ったのにね!




