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102/210

102 戦う2人①

「そう言えばエルトって、どうして私が見た事なかったの?」

「うん? どういうことだ」


 現実にあるマリルクィーナ修道院へと向かう馬車の中。

 私とエルトだけが乗っているわ。


 事前に神殿から私が行くことは通達済み。

 あとは餌が掛かるのを待つだけね。


「だって私、王宮で王妃教育を受けてたのよ? エルトは殿下の友人。なのに会った事がないっておかしくない?」


 夢の世界では2人は普通に親しそうにしてたけど。

 もしかして現実ではそこまでじゃないとか?


「……知らないのか?」

「何を?」

「ふむ……。まぁ、誰もが知る話とまではいかないか」


 何がかしら?


「レヴァンとは幼い頃からの友人だ。身分の差はあるが互いに親友だとそう思っている」

「うん」


 優しいレヴァンと物をはっきり言うエルトは、友人としても合っていると思うわ。


「そうなったキッカケがあってな」

「キッカケ? どんな?」

「……昔、レミーナ王女との婚約の話があった」

「レミーナ様と?」


 レミーナ・ラム・リュミエット様。

 レヴァンの妹ね。私の2つ下だから今は15歳かしら?

 王妃教育で王宮を訪れた際に何度か会った事があるわ。


「エルトがレミーナ様の婚約者だったの?」

「いいや。そうなった事はない。断ったからな」

「断った……王家との婚約の話を?」

「ああ」


 私、レヴァンとの婚約は問答無用だったんだけど!

 ベルグシュタット伯爵家は、王家との婚約を蹴っても許されるぐらいの地位だったかしら?


「なんで?」

「……気に食わなかったからだな」

「うん?」


 どういうことかしら?


「レミーナ王女がどこかの機会で俺を見て気に入ったらしい。見た目だけを見て、という点をどうこう言うつもりはない。今の俺もあまり変わらないしな」


 と、エルトが私をじっと見つめてくるわ。

 フフン! 私は美しいと友達(フィオナ)に評判なんだから!


「ただ、そのやり方が当時、気に食わなかった」

「ふぅん? 当時ってエルトも子供だった?」

「まぁ、それなりに」

「どんなやり方だったの?」

「……俺に好きだと伝える前に、国王から話が来た。今思えば貴族の政略結婚なのだから当然とも言えるが……ただし、国王陛下からの話だ。普通は断れない」

「そうよね」


 まぁ、私の場合はブルーム侯爵が私の為に何かするワケがなかったからだけど。


「そのやり方が気に食わなくてな。自分で好きだと伝えもせずに、権力を使って俺を手に入れようとした……と、当時の俺は考えた。なので、陛下の前でその旨を伝えた」

「陛下に」


 怒られそうね! 特にエルトのお父様が!


「王を前にして断る事がどういう事か分かるかと睨まれた」

「そうでしょうね」

「……その時の俺は、そのレミーナ王女のやり方を批判し、進言した。『王である父に頼めば人の心さえ手に入ると、幼い王女に思わせるのは良くありません。この婚約を断る事こそが、王女にその傲慢さを正す良い機会を与えるでしょう。そしてレヴァン殿下が、これから間違いを犯そうとした時も、今日この時のように命懸けで諫めるつもりです』と」

「まぁ!」


 凄い事言うわね。


「エルト、それいくつの時の話なの?」

「いつだったかな。数年は経っているぞ」

「……それ、本気でそう思って言ってたの?」

「出まかせに決まっているだろう。今、レヴァンが明らかな間違いを犯すなら正すつもりはある。だが当時の俺にそんな先の事を見据え、レミーナ王女の未来を見据えた上での教育論や忠義などない。……単に嫌だったんだよ。レミーナ王女とは合いそうになかったから」

「そうなの」


 今だったら私も同じように言えるかしら?

 でも、そこまでレヴァンとの婚約自体を嫌がってたワケじゃないのよね。


「まぁ、実際のところ俺の方も幼かったから赦されただけだろうが……」

「うん。そうよね」


 大人がやったら流石にアレだと思うわね。


「その事があって逆に陛下には気に入られた。レヴァンの立場におもねるような男ではないだろうと、友人関係を築く事も薦められてな」

「へぇ」


 あんまりレヴァンからエルトの話って聞いた事ないんだけど。


「……が、逆にレミーナ王女には嫌われた」

「それはそうね」

「なので、あまり王宮に行っては彼女を刺激するからと行かないようになった。レヴァンとの付き合いも専ら彼女の居ない場所だ」

「だから私とも会わなかったんだ!」

「そういう事だ」

「へぇ……」


 そんな事があったのね。


「でも小さい頃の話なのよね? 今は気にすることないんじゃない?」

「ところがそうでもなくてな」

「うん?」

「俺がこの歳になるまで婚約者を決めていない事もあってか……レミーナ王女からの招待はよく来る。レヴァンの友なのだから不思議ではないだろうと、パーティーのエスコートを頼まれる事も」


 そのパーティーでさえ見た事ないんだけど。


「それも断ってたの?」

「ああ」

「ふぅん?」


 そこでエルトが私を微笑んで見つめてきたわ。


「なぁに?」

「俺の婚約者が決まった、と知られればレミーナ王女はその相手に嫌味を言いに来るだろうな」

「まぁ……」


 なんだか複雑な事になるわね!

 レミーナ様も文句を言いにくいんじゃないかしら?


「彼女、まだエルトのこと好きだっていうこと?」

「どこまで本気かは分からないが。表向きは」

「へぇ……」


 私とレヴァンは元婚約者で、エルトはレミーナ様に婚約の打診をされていて。

 まぁ、まぁ……複雑な関係になりそうだわ!


 今後、滅多に王都に行かなきゃいいかしら?


「クリスティナ」

「なぁに、エルト」

「これから様々な令嬢に喧嘩を売られると思うが……流石にもう王族を殴るなよ。王族を殴る時は、俺が傍に居る時に殴れ」

「ん! いいわよ!」


 一緒に居る時なら良いのね!


 と、そこで。


 ガタン! と馬車が大きく揺れて停まったわ。


「んっ!」


 エルトが前のめりになる私の肩を支える。


「……来たらしいな」

「まぁ、森の中よ、エルト」


 凄い! こういうの、本当に森を抜ける街道の途中で起こるのね!


 わざわざ怪しい御者を見つけて馬車に乗った甲斐があったわ!


「さ、クリスティナ。連中がどう出るかは分からないが……お前はどうしたい? お前の事は生け捕りにしたいだろう」

「ふぅん。じゃあ、エルトの事は?」

「殺すんじゃないか?」

「そ。殺しに来たのなら、殺されても文句はなさそうね! 本当にその気だったなら、殺してさえあげないけど」


 ふふふ。薔薇の天与は心臓を刺されても死なせない、なんて出来るみたいだもの。ふふふ。


「俺の為に怒ってくれるのか、クリスティナ?」

「フフン! エルトはもう私の婚約者だからね!」


 婚約者を悪漢達から守るのは女の役割よね!


「……ところで俺も腕のある騎士だという事は忘れていないだろうな?」

「フフン! 知ってるわよ!」


 派遣された騎士達に聞いてるもの!


 それで馬車の外に……黒いフードを被った集団が見えたわ!

 さぁ、戦いの始まりね!



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