100 修道院の調査へ②
マリルクィーナ修道院の調査へはリンディスとナナシを連れていく事にしたわ。
「お嬢、本当に信用されます? この男」
「ナナシが裏切ったら身体の内側から毒薔薇がボン! って爆発するから大丈夫よ!」
「おい! 怖ぇ女だな!」
あら。乱暴な言葉遣いね。
「真面目に働く時もあるじゃないの。だから連れていくわ」
「はぁ……」
「あのな。お嬢ちゃん。普通は暗殺者なんてもんは信用しねぇの。カイルは例外だ。アレは元からお前の馴染みだったんだからな」
「じゃあ貴方も例外になりなさいよ」
「いや、なんで……はぁ」
フフン。諦めたわね!
「今まで律儀に仕事してきたんじゃないの? つまり真面目な仕事人って事ね!」
「暗殺ですけど?」
「仕事は仕事だわ! でも悪い事をしてない相手を殺したならダメね!」
「悪人でも法によって裁かれるべきという話は」
「それはそれ、これはこれよ! そんな事言ってたらマルク達は向こうの領地で野放しのままだったわ!」
「えー……」
フフン!
「誰かさんを殺す任務が失敗して、仕事は不義理の真っ只中だがな」
「まだ私を殺す気だったの? 何カ月経ってるのよ。そんなに時間を掛けて仕事できないんだから、向いてないわよ」
「うるせぇな! そこまで言うか!?」
「それよりミリシャが私をそこまで殺したいなら、なんで追撃がなかったのかしら?」
「あー……」
ナナシは視線を逸らすわ。
ちなみに今のナナシは……どちらかと言えばワイルドな? 雰囲気の短い銀髪ね。
リンディスが髪を結ったりも出来る長めの銀髪で、優男? と言えばいいのかしら。
そんな感じの2人。
だからリンディスとナナシって同じ魔族だけど正反対な雰囲気ね!
「おそらく自力で依頼を回す『合言葉』を手に入れたんじゃあねぇんだろ」
「どういうこと?」
「アレは『初めの1回きり』の合言葉だ。それでも、しっかりと暗殺の依頼として受けれる程度のな。もちろん金があって成立する話なんだが……そこは高貴なお貴族様。ポケットマネーで懐が痛まなかったらしい」
「……アマネが予言で知って教えたのかしらね」
「そうなんじゃねぇの? こっちも調べたが、どう見ても他に裏の伝手があるような女じゃなかったし。あの段階でお嬢ちゃんを殺して得する奴はそういないだろ。……まぁ、そんなザルな依頼でも受けたのは、お嬢ちゃんが暗殺対象だったからだが」
「ふぅん」
私が殺す相手だったから。カイルの『情』を殺すのに最適だったから。
その依頼を利用したのね。
予言書の中ではどういう流れだったのかしら……。
「現実だと、アマネが無責任に『暗殺ギルドはそこにあってー、合言葉はこれなの。そうしたらクリスティナを殺せるわぁ』みたいな事を吹き込んだのね!」
「お嬢。なんですか、その変な喋り方は?」
「アマネの真似よ?」
「えー……。私達、彼女のこと、知りませんが……何か嫌なのでやめてください」
「そう? 私はたまに夢の世界で見るからね」
「お嬢がどんどん変な事になっていくような」
それは気のせいよ!
とりあえず、リンディスとナナシを連れてクインに乗り込むわ。
アルフィナに来ていた視察隊は、準備を整えて帰っていった。
陛下への献上品はいくつか渡したけど、恐竜関連の素材は私が自ら持っていく予定よ。
「じゃあ、セシリア。帰ってきたらカイルとお話しするわね!」
「……はい。お嬢様。そうしてあげて下さい」
これからも私の傍で主治医として働いて欲しいけど。
でも気持ちで縛り続けるワケにはいかないからね。
「クリスティナ」
「あ、カイル」
でもまだ時間が必要だろうと思っていた私の元にカイルがやってきた。
「……もう私と会っていいの?」
「うん? うん……。その。変に気を使われるのもね」
「あら。必要なかった?」
私の考え過ぎだったかしら。
どうしても今の私は、夢の世界の『エピソード』と彼らを混同してしまいそうになる。
こういうのは良くないんだけどね。
だって、それってアマネと同じ行為じゃない。
クリスティナは傾国で、悪女。本人の意思なんて関係なく国外追放が最適!
ルーナは彼と運命の恋をするのよ、今は嫌悪感しかなくても関係ないわ!
……みたいなね。
「クリスティナ。僕は君の事が好きだよ」
「……うん。知ってるわ」
私は黒い髪の幼馴染、お医者さんになった彼の目をまっすぐに見つめ返す。
「でも、それ以上に君は僕の……心の恩人だ。医者で、研究者で。この道を胸を張って選べた事に感謝している。だから……恋愛とは、別の気持ちを君に持っている」
「……うん」
「……っていう話を師匠に何度もしたんだよね」
「うん?」
私はナナシを振り向いたわ。
「けっ。情に負けて仕事を放り出すとか。使い物にならねぇよ。暗殺者に向いてねぇ」
「そうね! カイルもナナシも暗殺者に向いてないわ! 辞めた方が無難ね!」
「はは。そうだね。クリスティナ。気を遣わせてしまっているかもしれないけど。僕の気持ちはそういうことだから。だから……うん。なんだか僕をフっちゃったな、みたいに悩まないで欲しい。だって、これからも薔薇の研究を一緒にやっていくんだろう?」
「……カイルはそれでいいの?」
「もちろん」
カイルは微笑んでくれたわ。
……私に彼の気持ちを推し量る事は出来ないわね!
「そう! じゃあ、カイルの言葉を信じるわ!」
だから私は胸を張って答えたわ!
「うん。君達の帰りを待っているから」
「ええ! 待っててね!」
こうして私は再びエルト達と合流する為に飛んでいったわ!
◇◆◇
「おお……ドラゴンってのは凄ぇな」
「この人員で空を飛ぶのもどうなんですかね……」
クインの背の上だから先頭が私、その後ろがリンディス、その後ろがナナシね!
「暗殺者を背にしている私達はどうなるのか」
「ナナシは足を洗ったから大丈夫よ!」
「勝手に洗うな、人の足を」
「何よ! 諦めなさいよ! 依頼人だってもう依頼のこと忘れてるわよ!」
「……お嬢ちゃんの妹、そんなタマか?」
どうかしらね? ミリシャって私が姉じゃないこと知ってたのかしら?
レヴァンが好きだとして、私との婚約は破談になったし。
家族じゃないと知っていたら……そこまで執着されなくちゃいけない事ってあるのかしら?
もうマリウス家に帰る気もないし。
放っといてくれるのが一番なんだけど。
「こっちの方かしらねー」
「ちょっと待ってください。お嬢、もしかして今、適当に飛んでませんか?」
「エルト達も移動してるだろうから、割と適当よ?」
「計画性がない!」
「おいこら、事前に人員選定しといてそりゃねぇだろ、お嬢ちゃん!」
「クインの鼻を信じなさいよね! フフン!」
「偉そうにするところじゃねぇ!」
何よ! クインは凄いんだから!
アルフィナの中に居るだけで大地の傷の気配が分かるんだし!
「どうにかなるわ!」
「あー! 下ろしてくんねぇかなぁ!」
「ナナシは逆らったり逃げたりしたら、身体の内側から爆ぜるわよ! フフン!」
「最悪だ!」
そんな薔薇の使い方できないと思うけどね!
その辺りはハッタリよ!




