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10 初めての魔物

 野営で一晩を過ごしてからまた移動ね。

 そして次の街にたどり着く。

 もう王都からは、かなり離れた場所に来たわ。


「おや?」

「どうかしたの」

「いえ、何やら街の様子がおかしく思いまして」

「おかしい?」


 私達は馬から降りて街の様子を見る。

 んー。なんとなく慌ただしくて、どんよりしてる感じ?


「ねぇ、そこの貴方達。街で何かあったのかしら?」


 私は道端で話し合っている人達に声を掛けたわ。

 おば様達ね。井戸端会議とかいうヤツかしら?


「へ? おやまぁ」

「あら」


 知り合いかしら? ううん。違うわよね。

 私の事を一方的に知っていてもおかしくないけど。


「お綺麗なお嬢さん。あのね。なんでも街道で魔物が出たんですって」


 魔物! こんな場所で?


「それも中々に大きな魔物らしくてね。差し当たって街の防衛団を組織してから、王都に騎士団の派遣を要請してるんだけど……物流が滞っててねぇ。困ってるんだよ」


 なるほど。困ってるのね!


「リン!」

「……ダメですよ、お嬢。聞いたでしょう。事は騎士団を派遣するような事態なのですから」

「何よ!」


 今、私の瞳には『魔物退治を』『してみたい』という文字が浮かんでキラキラと輝いていると思うわ!


 でもリンディスはそれじゃ納得しなさそう。

 だったら……そうね。


「何を言っているの、リンディス。私は民を傷付けるアルフィナに湧く魔物達を討伐せよと王命を賜ったのよ。なら、この道中に湧く魔物とて同じこと。ここで素通りする理由などあって?」


 フフン! これが『外行き』の顔。

 王妃候補モードよ!


「またそうやって屁理屈ばかり覚えて……」


 でもリンディスには効かないわね!


「お、王命で派遣? 一体、貴方は……?」

「ふふ!」


 ここで私は胸元から黄金のペンダント、【貴族の証明】を取り出して見せたわ。


「はしたないですよ、お嬢。胸元から出さないで下さい」


 じゃあどこから出すのよ!

 首元に下げてるんだからこうなるわよ!


「爵位持ちの証……では本当に、その、王命を? まだ騎士団の派遣を要請したばかりの筈ですが……」

「勿論、その騎士団とは別命ですから。騎士団も問題なく派遣される筈ですよ。それに」


 そこで私は微笑みかけたわ。


「──そんな恐ろしい問題なんて早く片付いた方が良いでしょう?」


 フフン! 王妃候補スマイルよ!

 物凄く練習したんだから!

 フィオナに散々にダメ出しをされながら出来るようになったのよ!


「まぁ……!」


 それだけで、おば様方に頬を染められたわ。


「あ、あの女騎士様?」


 女騎士! 中々いい響きね!


「貴方様のお名前は……?」

「名ですか」


 私は呆れた顔をするリンディスに目を向けたわ。

 ……首を横に振られたわね!


「故あって名乗れませんわ。ですが騎士団が来たなら……剣を携えた赤毛の貴族令嬢が居たとでも言って頂ければ。私の名も知れる事でしょう」

「まぁ!」

「素敵……」


 フフン! こういうのはキザに決めるのが良いのよ!

 フィオナに読まされた恋愛小説に出て来る騎士の真似っこでイチコロね!


「それで、その魔物。どちらに現れたかお分かりになって?」



◇◆◇



「お嬢は何をなさってるんですか……」

「いいじゃない。これも人助けだわ!」

「ですがですね」


 私はリンディスを後ろに乗せて馬を駆るわ。


「リン。考えてもみて?」

「何ですか」

「どの道、私はアルフィナで湧く大量の魔物を【天与】を用いて退けなければいけないのよ」

「……それは」

「なら、ここで少数で動く魔物と相対する事で、魔物討伐に少しでも慣れておくのは悪い判断じゃないわ」

「む……」


 フフン。まだリンディスを納得させる理由はあるわよ。


「それにね、リン。もし、ここで現れた魔物を私が放置して素通りしたら。そしてもし騎士団が到着する前に民が傷付いたら。それはやっぱり私の悪評に繋げられると思うわ。あの聖女や、王都の貴族令嬢達なら間違いなくそうするんじゃないかしら?」

「……そうですね。その事態はありありと想像できる。何より」


 リンディスは続けるわ。


「下手をすればお嬢がこの街を訪れたから魔物が湧いたのだ、などと因果関係が逆転した噂すら立てられるかもしれない……」

「そうね」


 それって、とてもありそうだわ。


「……なら確かにお嬢はこの魔物の問題を解決するしかないのか……」

「まぁ、本命はアルフィナ領なんだから、あまり寄り道するワケにもいかないのは分かるけどね」

「はい……。ですがいくら相応の【天与】を授かったからと言って騎士の護衛すら付けず、戦いとは無縁だった令嬢にこのような王命など、やはり馬鹿げています」


 まぁそうよね。

 普通の女の子だったら泣いちゃうんじゃないかしら。


「でも、そこで楽しんでしまうのがお嬢なのですよね……」

「フフン!」

「いえ、ですから褒めてません」

「褒めなさい!」

「はぁ……。何でしょう? この……普通の令嬢であれば悲劇のヒロイン然として何も為せず、悲嘆に暮れててもおかしくないのですが」


 分かるけど、そんな事してたら殺されちゃうんじゃないかしら!

 暴漢達だって私と、私の【天与】じゃなかったら冗談では済まされない事件だったものね!


「ですが、お嬢。【天与】が破格の性能とはいえ油断はいけませんよ。お嬢の剣術など未熟もいいところなのですから」

「分かってるわ!」


 でも今の私は鉄の剣を持っても許されてるの。ふふ!

 これから上達してあげるんだから!


「リン! 剣を教えてよね! これからは必要になる事だもの。文句は言わせないわよ!」

「……はい。稽古に付き合わせて頂きます。けっしてお嬢を死なせはしませんからね」


 死んだりしないわよ。

 死ぬつもりだってないわ!


「この辺りです、お嬢」

「ん!」


 私は街道から逸れた林の中へ馬を進める。

 ……木の幹に爪痕があるわ。


「噂になっていた魔物の特徴は大型の狼のような個体。旅人が襲われたものの、その時の馬車や馬の通行の兼ね合いで人の群れを警戒した狼が自ら逃げ、辛うじて旅人の命は助かった」

「うん」


 私の【天与】って身体が固くなったりはしないのかしら?

 こう……剣で切れなくなったり。

 んー。あんまりそんな感じはしないのよね。


 なんていうか『攻撃するぞ』っていう時だけ、凄くパワーが上がる感じ。


「素早い相手だったら【天与】のある私でも危険かもしれないわ、リン」

「……はい。お嬢には絶対に傷一つ付けさせません」


 リンディスが魔術で撹乱して、私が仕留めるのが無難な作戦よね。


「今更ですが、お嬢は魔物を攻撃する事に恐れはありませんか?」

「恐れ?」


 私は首を傾げたわ。どういう意味での恐れかしら。


「いえ、まぁ暴漢達を容赦なく切り捨てたりしたお嬢ですけど」

「フフン!」

「……平気そうですね」


 たぶん平気よ! 可哀想だったり、可愛かったりしたら分からないわ!


「なんというか一周回ってお嬢がこの立場で良かった気がしてきましたね……。一般的な貴族令嬢にこんな血生臭い真似が出来るとは思えませんし……。国王はそういうお嬢の性質を見抜いていた……?」


 私じゃない誰かが同じ【天与】を授かってたら、陛下はどのように決断を下したのかしらね!


 例えばミリシャとか。

 あの子だったらまず、つまみ出されない限りは王都から出ていきもしなそうよ!


 そう考えると私は王都や王城を出て行くのが素直過ぎたかもしれないわね。

 リンディスが言うように、もっとあそこで抗議し続けていても良かったかもしれないわ。


「私、陛下の采配が予言の聖女の言いなりになるような形は良くないと思うのよね」

「はい。お嬢のような被害者も生まれますし」

「……という事は」


 私が『傾国の悪女』になんかならないと証明して見せれば、それは即ち聖女の予言の絶対性を崩せるという事になるわよね。


 国が聖女に乗っ取られるのを防げる。

 フフン! そう考えれば少し気分が良いかもね!


「……! お嬢、近いです!」

「ええ!」


 私達は馬を降りたわ。

 馬の方を狙われると困るわね!


「お嬢と馬ごと認識を歪めます。魔物の狙いを逸らす事が出来る筈ですよ」

「うん! 頼りにしているわ!」


 私は意識を集中して【天与】の光を身体に纏う。


『ガルゥウウウッ!!』


 全身を真っ黒の体毛に覆われていて、男性3人分はありそうな大きさの狼が姿を見せたわ。

 それが素早い動きで私達の近くの木に向かって飛び掛かる。


 リンディスの魔術で錯乱してるみたい。

 残念だけど、私達はそこに居ないのよね!


「──フン!」


 私は素早い狼に対して離れた場所から……その間にある木を殴り付けた。

 それで砕けた木片が狼へと降り注いだわ。


『ガルゥウッ!!』


 横っ面からの突然の反撃に体勢を崩す魔物。


「今だわ!」


 私は抜き放った剣でそいつに飛び掛かる、


「はぁあああッ!」 


 そのまま私は剣を振るって魔物の身体を真っ2つに割いて見せたの!


『ガ──』


 フフン! どんなものかしら!

 血飛沫を上げながら、切り裂かれる魔物。

 やってやったわよ!


「お嬢……。たしかに強力な【天与】ですね……」


 リンディスだって驚いているわね!


「あ、この魔物。ちゃんと霧散せずに残る『変異タイプ』ですよ。……ちょうど良かった。魔物の身体を街に運びましょう。そして問題は解決したのだと報告を入れておけば良いでしょう」


 そんな感じで、私の初めての魔物討伐は問題なく終わったのよ!


 ……この時は思わなかったわ。

 今回の件で初めて私に興味を持つような騎士が現れるなんてね。


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[良い点] 大型の魔物を一撃で屠ることができる、驚異的な身体能力の天与「怪力」 これから大剣が必要になるかも
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