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幕間 ティナという少女 その二

 

 聖女にして公爵令嬢であるアンジェ=トゥーリアと出会った『あの時』からティナはあの背中に追いつくためならなんだってやった。


『貴女、ランクB冒険者のエルザ=グリードですね? 私に魔法を教えてください!!』


 例えば依頼のために村の近くに立ち寄った魔法を扱える女冒険者に頭を下げて、独学ではこれ以上の成長が見込めない魔法の腕を高めるなど、だ。……その際、交換条件として頭を撫でたり抱きしめたりとされたが、『事故死』した愛娘にティナが似ているからなどと言われれば断れるわけもなかった。


『ティナちゃん。熱心なのはいいですけど、あまり無理はしないでください。三日も寝ずに魔法の訓練に明け暮れて気絶するように眠る、なんてものが当たり前など身体を壊してしまいますわ』


『そんな悠長なこと言ってられねーですよ! 憧れに並ぶためにはまだまだ足りねーんですっ。だから師匠にやめろと言われてもやめねーですからね!!』


『……、ぐすん』


『ん? え、なんっ、わあ!? え、え!? なんで泣いているんですか師匠お!?』


『私は、もう、嫌なのです。万が一ティナちゃんが無茶を続けた結果娘のように死んでしまってはもう耐えられないに決まっています。ですから、お願いですから、身体を大事にしてほしいのですわ……』


『わっ、わわっ! わかった、わかったですよ!! ちゃんと休憩もするですからそんな泣かないでくださいよ!!』


 金髪をポニーテールに纏めたレザーアーマー姿のグラマラスな美女が人目も憚らずに泣くものだから流石のティナも慌てて前言を撤回していた。


 と、そこで口元をつり上げて『それはよかったですわ!』とあっけらかんと言うのだからタチが悪い。


『あっ、もしや嘘泣きですか!?』


『顔芸も冒険者には必要な技能ですわ。まあ嘘を言ったつもりはありませんが』


 泣きぼくろが目立つ目元の涙を拭い、エルザ=グリードは言う。


『ティナちゃん、貴女は天才ですわ。この一年、理論に基づいた訓練をこなすだけで私に匹敵する技量を身につけたくらいなのですから。ですから、もういいのではなくて? それだけの力があれば大抵の敵には勝てるはずですわ』


『全然ですよ。こんなんじゃ聖女様には遠く及ばねーですから!!』


『……あのお方は女神に祝福されているのではないかと思えるほどの才能の塊ですわ。いかにティナちゃんが天才でも越えられない壁はありますわよ?』


『だとしても、私は並ぶと決めたんです』


 そこだけは譲れなかった。

 エルザ=グリードがいくら泣こうが、この一点だけは。


『だって、好きな人とは対等でいたいじゃねーですか』



 ーーー☆ーーー



 現在。

 ランクB冒険者、すなわち並の騎士百人分の戦力に匹敵するとまで言われているエルザ=グリードは王都の冒険者ギルドに拠点を移していた。


 ティナは強くなった。王国でも三人しかいない最高峰、すなわちランクSにまでのぼりつめるほどに。


 師匠、とティナは今でもそう呼んでくれる。もうエルザではティナの足元にも及ばないというのにだ。


「結局、止められなかったですわね」


 ティナは聖女に憧れている。いいや、それ以上の感情を抱いている。


 だが相手は公爵令嬢でもあり、なおかつ『あの』第一王子の婚約者でもあるのだ。


 ──エルザの娘はあるパーティーで第一王子の服を汚してしまった。翌日、()()()()()()()()()()


 証拠など何もない。

 その後、王家にとっては簡単に握り潰せるような力しかなかったグリード家が没落したのだって運が悪かっただけかもしれない。


 だが、もしも、全ては『誰かの』力によるものだとしたら。


「まったく」


 ティナには『疑惑』も含めて話してある。聖女にして公爵令嬢たるアンジェ=トゥーリアはともかくとして、その婚約者である第一王子が危険であることは理解しているはずだ。


 それでもティナは止まらなかった。

 望みは一つだと、好きを貫くためならなんだってやると、これだけは師匠を泣かせることになろうとも譲れないと。


 あのティナだ。

 真っ直ぐで、純粋で、ブレない彼女がああも強く言い切ったならば止めるのは不可能だろう。


「精々頑張りなさいな。そのために()()()()()()()()()()()()()()()()()力を欲したのですからね」


 エルザ=グリードにティナは止められない。

 それでも何かできることはあるはずだ。力ではティナには敵わずとも、それでもだ。


 もう二度と『娘』を失うつもりはない。

 絶対に。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 ティナ(十歳当時)


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 十歳


【称号】

 未取得


【所有魔法】

 風属性魔法(レベル23)

 身体強化魔法(レベル45)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


【状態】

 呪縛・心(レベル1)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 エルザ=グリード


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 二十八歳


【称号】

 未取得


【所有魔法】

 炎属性魔法(レベル40)

 水属性魔法(レベル35)

 土属性魔法(レベル22)

 念話魔法(レベル30)

 魔力譲渡魔法(レベル30)

 高速移動魔法(レベル26)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


【状態】

 呪縛・心(レベル1)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ……第一王子が想像以上にヤな奴……。 ちょっと、アンジェが瘴気を受けて良かったなって思ってしまった……。
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