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第十六話 当たり前だからこそ

 

 世界のどこか、深い森の一角でのことだった。


 小さな里だった。そこには百人に近い生物が質素ながらも堅実な生活を営んでいた。


 整った顔立ちの、しかし耳が人間のそれよりも長いからと滅亡寸前まで迫害されてきた種族。


 エルフ。

 呪縛・心があくまでレベル1、ティナの例を持ち出すまでもなくそもそも恐れていなかったら背中を押されることもなかったことを考えると、呪縛があろうがなかろうが遅かれ早かれ人間との対立は避けられなかったのかもしれないが。


 悪意をぶつけてくる人間を助けるなんてあり得ない。百年以上前の虐殺を経験した者も、そうでない者も、人間に対して好ましい感情は抱いていないのだから。


 だけど、それでいて、彼女たちは知っている。

 人間はエルフを絶滅寸前まで追い詰めたが、決してそれが人間の全てではないことを。良い奴もいれば悪い奴もいる、それだけの話なのだということを。


 呪縛・心がなんだ。

 そもそも恐れていなければ、背中を押されてもなお『だからどうした』と即答できればいいのだと、彼女の生き様は示してみせた。


「はあ。これは仕方ないかなあ」


 族長の娘にして精霊に愛されし姫君であるクリナは小さく呟く。


 いつの間にか、クリナを囲むように多くのエルフが集まっていた。まるで病に伏せている族長に代わってエルフの長に等しい姫君の決定を待つように。


「人間は確かにわたしたちの敵だけどお、それはあくまで百年以上前に直接殺意を向けてきた『連中』や今もなお懲りずにわたしたちを敵視する者たちだけよお。それ以外のお、ティナのような者たちまで一律で憎悪の対象とするのは違うよねえ」


 だからあ、と。

 エルフの姫君は言う。


「困っているなら手を差し伸べるという当たり前の『道』を見失うわけにはいかないよねえ」


 それが決定打だった。

 人間の領域に確認されし脅威へと立ち向かい、困っている誰かを助ける。そんな当たり前を、そう、空腹で倒れていたクリナに迷わず手を差し伸べたティナのような当たり前を貫くために、だ。


「フィリい。五秒間、術者が視認している転移対象が動かないってのが転移魔法(トランスポート)発動の条件だったよねえ。もしもついていけないという者がいればその五秒の間にこの場から去るようにい。ああ、もちろんそのことで罰したりはしないから安心してねえ」


 クリナはそう言ったが、転移魔法(トランスポート)発動までの五秒の間、誰一人として逃げるようなことはなかった。



 ──ティナとクリナたちが出会う『きっかけ』こそ邪神の思惑ありきだったかもしれない。その末にアンジェ=トゥーリアは邪悪の手に堕ちたのかもしれない。


 だけど、それだけではない。

 紡いだものは決して邪神のためだけには作用しない。例えそこに何者かの思惑があっても、だからといって紡いだ絆も芽吹いた感情も色褪せるわけではないのだから。


 そう、全ては因と果で結ばれている。

 ティナという存在はアンジェが堕ちる『きっかけ』になったのかもしれないが、ティナという存在があったからこそエルフたちは当たり前を思い出した。


 困っている者がいれば手を差し伸べる。

 そんな当たり前を。


 邪神が知らず知らずのうちに招いてしまった『きっかけ』は良くも悪くも結末へと影響を与えることだろう。



 ーーー☆ーーー



 迫るは百を超える魔物の群れ。その一体一体が恐怖の象徴として長らく人々を苦しめてきた脅威であった。


 例えば、巨大な顎を開いて噛み砕かんと迫る十メートル大の四足歩行の獣。例えば、足場を溶かしながら濁流のように突っ込んでくるゼリー状の溶解液。例えば、ハリネズミのように全身の骨を突き出して転がり込んでくる白骨の塊。


 そのどれもがランクAと呼称されし魔物。単騎で相手することなど考慮すらされない、まさしく騎士団や複数の高ランク冒険者パーティーといった集団での対処が基本とされる怪物であった。


 だから。

 しかし。


「ぬうォおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 咆哮と共に背中に背負った大剣を引き抜く髭面の大男。魔力付加された魔道具にさらに武具強化の魔法を重ねて増幅。大剣、すなわち斬るための武器の性質を底上げした斬撃が先陣きって突っ込んできた十メートル大の獣へと叩きつけられる。


 ギッガァン!! と、そこらの民家くらい輪切りにできる斬撃が弾かれる。最高峰ランクの冒険者たるギルドマスター、その一撃さえも弾くくらい単なる動植物ではなく魔法の才能に満ちた『肉』を原料とした魔物の力は凄まじいものがあるのだ。


 そして、そもそもギルドマスターも真っ向からランクAの魔物を相手にするつもりもなかった。一体ならまだしも、百を超える群れを打倒できると思うほど自惚れているつもりはない。そんなことができるのはアンジェ=トゥーリアかティナくらいだろう。


 片方は敵に回り、片方は戦闘不能。

 であれば身の丈に合った結果を目指すしかない。


 十メートル大の獣は大剣を弾いたが、その突進の勢いを受け止めて殺すことはできた。僅かにたたらを踏む獣の顔面へと拳を叩きつける。破砕魔法、触れたものを砕く力が作用して、柔らかな眼球を吹き飛ばす。


 甲高い悲鳴のような鳴き声が炸裂する。そうして怯んだ獣を身体強化魔法でもって蹴り飛ばし、獣の後ろから迫っていたゼリー状の溶解液や白骨の塊へとぶつけ、その進行を阻害する。


 まともに相手をしたところでジリ貧だ。いずれはすり潰されるのは目に見えている。ゆえに撃破にこだわらない。食い止め、受け流し、その猛威が命を奪うような事態だけは阻止する。


 そう、『彼ら』の目的はティナを助けること。それ以外の些事に目を向けるのはティナを助けてからでいい。


 だから、


「エルザ!!」


 叫びに、金髪をポニーテールに纏めたランクBの冒険者が反応する。エルザ=グリード。ギルドマスターとは親しいわけではない。ティナを介して何度か話したことはあるくらいの、文字通り顔見知りでしかない。


 ゆえに普段は顔を合わせても何か話すこともないが、ティナという共通項がある場合は別だ。胸部の風穴が()()()()()()()少女を抱えて、エルザは魔法を発動する。高速移動魔法。その両足に作用する、移動速度を増幅する力が出力される。


 とにかく遠くへ。

 ティナの安全を確保することを優先してこの場から離脱する。


 その直前の出来事だった。



 グッシャアッッッ!!!! と。

 異様な音と共に一歩前に踏み出しかけたエルザの両足、高速移動魔法の起点となる場所から力が消失する。



「い、がぁ!?」


 崩れ落ちる。ティナを抱えたまま地面に倒れたエルザは突如走った激痛を無視して再度高速移動魔法を発動するが、やはり力が作用しない。


 視線を向けて、確信を得る。

 両足、その膝から先が消失していた。移動のために使われるべき足がなければ高速移動魔法が作用するわけもなかった。


 ドバドバと赤黒い液体が断面から噴き出していた。そんなもの無視して身体に力を入れるエルザだが、そこで気づく。


「いやはや、これぞ愛すべき無駄な足掻きなのだろうな」


 女の声音で、だけど致命的に異なると直感させる禍々しいそれが耳につく。


 正面。

 いつの間に移動していたのか、長い黒髪に青い肌の異形の女が立っていた。翼や尻尾といった異形を刻む彼女は口の端をつり上げながら、言う。


「その無駄な足掻きを砕いてこそより強い負の感情を誘発できるとなれば、丁寧に叩き潰してやらないとなあ!!」


 その時、エルザは迷うことなくティナに覆い被さっていた。いくら彼女が魔法の使い手とはいえ、両足を呆気なく吹き飛ばされたばかりだ。その身が盾になることはないとわかっていたが、その身を犠牲にしてでもティナに降り注ぐ暴虐が少しでも軽減すればと願って。


 その時、ティナのもとに駆けつけようとしていたギルドマスターへと魔物の群れが襲いかかっていた。武具強化魔法を込めた大剣や触れたものを粉砕する破砕魔法、魔力障壁による防具やその防具の防御力を増幅する魔法。その全てを魔物の群れは物量で押し潰す。いくら斬られても、砕かれても、防がれても、そうした連続がギルドマスターの力を削ぎ、やがてその身へと届くと分かっていたから。


 だから。

 だから。

 だから。



 瞬間、四色の光を束ねた一撃が長い黒髪に青い肌の異形の女へと襲いかかった。



 両手を交差して、受け止め、それでも数メートルも後退する女。そう、百を超える魔物を従えるほどの女が押し負けたのだ。


 じわり、と。

 閃光を受け止めた両手から血が滲んでいた。即座に塞がったが、確かにダメージが通った証明であった。


「ほう。ここでお前たちが参戦するか。だがもう遅い。人間どもの悪意に『封殺』されていた期間が長すぎたのだよ!!」


 異形の言葉に、言葉が返る。

 だんっ!! と。虚空より現れ、エルザやティナのそばに立った少女の言葉が。


「ごちゃごちゃとうるさいんだよねえ」


 少女一人だけではない。

 次から次に虚空より現れた者たちが魔物の群れへと突撃していく。


 人間のようでいて、致命的に異なる外見。

 長い耳はまさしく絶滅したとされるエルフのものである。


 百人近いエルフは迷うことなく魔物の群れへと、世界に害なす存在へと立ち向かう道を選んだ。


 その一人にして中心。

 二人のエルフを背後に従えた、支配者たる気品ある芯をもった少女は静かに、それでいて溢れんばかりの激情と共にこう言ったのだ。


「当初の予定では見知らぬ誰かを助けるためって話だったけどお、こんなの見せられたらさあ、貴様をぶち殺さないと気が済まないよねえ!!」


 直後、先の四色に束ねられし閃光が放たれた。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 アンジェ=トゥーリア


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 十五歳


【称号】

 女神より祝福されし聖女

 邪神より呪われし悪女


【所有魔法】

 浄化魔法(レベル99)

 炎属性魔法(レベル99)

 水属性魔法(レベル99)

 土属性魔法(レベル99)

 風属性魔法(レベル99)

 雷属性魔法(レベル99)

 身体強化魔法(レベル99)

 転移魔法(レベル99)

 収納魔法(レベル99)

 重力魔法(レベル99)

 ・

 ・

 ・

 ※全所有魔法を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル11)以上を使用してください。

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。

 ※レベルは99が上限です。


【状態】

 呪縛・心(レベル100)

 呪縛・体(レベル100)

 呪縛・浄(レベル100)

 憑依・魔(レベル分類不可)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


 エラー発生。上限を超える情報が表示されています。再度能力知覚魔法(ステータスオープン)を使用することを推奨します。

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― 新着の感想 ―
[一言] クリナ!!!頑張れ!!!!!! 助かったけどエルザさんの足が....
[一言] やばい、この展開は熱い……! こいうの大好き!
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