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第二話 お茶会

 


 それは件の平民と知り合って数日後、いつものようにアンジェ=トゥーリア公爵令嬢が校舎裏で膝を抱えて座り込んでいた時のことだ。



「よいしょおーっです!!!!」


 ドォンッ!! と勢いよく(おそらくは食堂の野外席に並んでいる)テーブルをアンジェの目の前に放り込む影が一つ。すなわちティナだった。



 突然のことに口元に手(というか触手)をやり、目を見開くアンジェへと片手で二つの椅子を抱えたティナはそれはもういい笑顔でこう言ったのだ。


「今日も最高にお美しい聖女様、お茶会するですよ!!」


「は、はあ」


 あまりと言えばあまりな状況に公爵令嬢として社交会を渡り歩き、聖女として瘴気漂い魔物が跳梁跋扈する戦場を生き抜いてきたアンジェがロクに反応できなかったのも仕方ないことだろう。



 ーーー☆ーーー



 どうしてお茶会をしようなどと思い立ったのですか? というアンジェ=トゥーリア公爵令嬢の問いにティナは椅子を並べながら、


「令嬢といえばお茶会、これ基本ですよね!! いやまあ庶民も庶民な私が公爵令嬢様にして聖女様でもあるお方をお茶に誘うなんて身の程知らずだとは思ったんですけど、こうしてまた出会えたんです。変に遠慮してせっかくの奇跡を無駄にしたくねーってことでお誘いした次第ですねっ」


「そう、ですか」


「あっ、嫌でしたか!? 無理なら無理とはっきり言ってくれれば、はい!! 私は聖女様に不快な想いをさせたいわけではねーですから!!」


「嫌ではありませんよ。わたくしも貴女とはお茶でも交えながらゆっくりお話ししたいと思っていましたので」


 どこまでも真っ直ぐなティナ相手に変に格式ばった言葉を重ねたり、下手に本音を隠す必要はない。そういう『貴族的な対応』が不要な相手だということくらいは短い付き合いながらもわかるというものだ。


「聖女様が私とお話ししたかった……? そんな、そんなの、えへ、えへへっ。ちょっと、もうっ。照れるじゃねーですかっ!!」


 赤くなった頬を隠すように両手をばたつかせるティナ。そうやって素直に己の感情を出す様を貴族としての観点で見れば呆れるべきなのかもしれない。


 だが、ここは社交界でもなんでもない。

 ゆえにアンジェは公爵令嬢だの聖女だのの視点は置いて、湧き出る衝動を押さえつけるようなことはしなかった。


 羨ましい、と。

 そう感じて──


「ああーっ!?」


「っ。ど、どうかしましたか?」


「そのぉ、お茶会だっていうのに肝心のお茶だのお菓子だのを用意するのを忘れていたんですよねーはは、あはは……。ごめんなさい聖女様あ!!」


 ドォンッ!!!! とテーブルを放り込んできた時の比にならない勢いで頭を下げるティナ。下げすぎて地面にめり込み、巨人が殴りつけたようなクレーターが出来上がっているほどだった。


「きゃっ。ティナさんっ。頭、大丈夫ですか!?」


「大丈夫じゃねーですよお!! 私はお茶会だっつってんのにお茶を忘れるようなどうしようもない愚か者ですう!!」


「え……? あっ、今のは非難したわけではなくて純粋に頭を怪我していないか心配になったのでございますよっ」


「頑丈なことだけが取り柄なので心配いらねーですよ!!」


「そ、そうですか……」


 初対面の時からして積極的に迫ってきたティナだが、意外と打たれ弱い一面もあるようだ。


 恥じ入るように頭突きで生まれたクレーターに顔を隠すティナ。アンジェとしては本当に気にしてはいないのだが、こうも申し訳なさそうにされては放ってもおけない。


 膝をつき、ティナに出来るだけ近づいて、声をかける。


「ティナさん。わたくし、嬉しかったのでございますよ」


「……へ? 何がですか???」


「昔はよくお茶会に誘われていました。令嬢といえばお茶会、というティナさんの言葉は少々簡略化しすぎとも思いますけど、間違ってはいませんので」


 ですけど、と。

 ()()()()()()だとわかっているので受け入れてはいても、なぜだか感情的に揺れてしまう声音に眉を潜めながらもアンジェは続ける。


「わたくしが瘴気に蝕まれ、異形と化してからはお茶会に誘われることは減っていきました。公爵令嬢や聖女という価値があるからこそ建前めいた会話はあれど、参加者によって主催者の品格が問われるお茶会に異形の女を招くことをこの国の常識は良しとはしませんから」


 歴史を紐解けばわかるものだ。


 人間側からエルフへと友好関係を結びたいと嘘をつき、誘い込んだ上で皆殺しとした。


 獣人を人の形を真似た獣として考え、奴隷化し、今もなお都合のいい労働力として酷使している。


 人間よりも少し耳が長かったり、毛深かったりするだけ。たったそれだけの些細な違いを『魔物のようだ』とでも言いたげに虐げてもいい存在と扱うのが常識とされている。


 ()()()()()()だから。そう、現在進行形で悪感情を向けられているアンジェ=トゥーリア公爵令嬢が現状を受け入れているくらいには常識的なことなのだ。


 だけど。

 だから。


「ですから、ええ、本当に嬉しかったのでございますよ。お茶会に誘われるなど、今はもうありえないと考えていたのですから」


「……ッ!?」


 バッと顔を上げるティナ。

 顔中土だらけなその有様にアンジェは思わずくすりと笑みを浮かべていた。


 アンジェが公爵令嬢だの聖女だのという仮面を被ってのつくりものではない、心の底からの笑みを浮かべたのはいつぶりだろうか。


 自然にそんな笑みが浮かぶくらい、この短い間にティナという存在はアンジェの心の中に刻まれていたのか。


 咄嗟に土に汚れた顔を拭ってあげようとして、震えるように触手が跳ねるに留まる。()()()()()()だからと、小さく歯を食いしばる。ゆえにアンジェは待った。待って待って待って、やがてぐいっと顔の汚れを腕で拭い、ティナが立ち上がる。


「ありえないなんてもう言わせねーですよ。お茶会くらい私が、いつだって! 何度だって!! 誘ってやるですよ!!!!」


 果たしてティナは気づいているのだろうか。

 ()()()()()()だと考えず放ったその真っ直ぐな叫びがどれほどアンジェの心に突き刺さっているのかを。


 変に気遣ってほしいわけではないので表情こそ変えなかったが、その内側ではどれだけの衝撃が走り抜けているのかを。


「それでは」


 努めて。

 表情を変えることなくアンジェはこう言った。


「次、お茶会に誘ってくださる際はお茶やお菓子を忘れないようお願いしますね」


「ぐう! そ、それはもう今回の失敗を帳消しにするくらい凄いのを用意しますから!! 期待して待っているですよ!!」


 どんっ! と力の限り胸を叩いて、力加減を間違ったのかげほげほっ!? と咳き込むティナ。なんだかそのしまらない姿が彼女らしくもあり、微笑ましいと感じるのだから、本当短い期間で絆されすぎだろう。


 容易く他者を受け入れるなど貴族としては失格だとわかっていて、それでも悪い気はしていないのだから重症にもほどがある。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 アンジェ=トゥーリア


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 十五歳


【称号】

 女神より祝福されし聖女


【所有魔法】

 浄化魔法(レベル99)

 炎属性魔法(レベル99)

 水属性魔法(レベル99)

 土属性魔法(レベル99)

 風属性魔法(レベル99)

 雷属性魔法(レベル99)

 身体強化魔法(レベル99)

 転移魔法(レベル99)

 収納魔法(レベル99)

 重力魔法(レベル99)

 ・

 ・

 ・

 ※全所有魔法を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル11)以上を使用してください。

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。

 ※レベルは99が上限です。


【状態】

 呪縛・心(レベル41)

 呪縛・体(レベル100)

 呪縛・浄(レベル41)

 憑依・魔(レベル分類不可)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


 エラー発生。上限を超える情報が表示されています。再度能力知覚魔法(ステータスオープン)を使用することを推奨します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のステータスが物凄く気になる……。 っていうか、世界のシステムで99が上限なのに、「呪縛・体100」……? 世界の上限を超えるもの……瘴気はこの世界のものじゃない……?
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