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幕間 ティナという少女 その四

 

 それはティナが十二歳の頃の話。実力だけなら最高峰ランクを与えられてもおかしくないのだが、その一つ下であるランクAに留まっていた(一応ランクAでも王国内に数十人程度なのだが)。


 今でさえも危険な依頼ばかりを選び、難なくこなしているティナが最高峰ランクを手に入れては今以上に無茶を重ねてしまうと(ティナ視点では心配性なお人好しである)グレイ=リュカシーが手を回してランク昇格を阻止しているからだ。


 ……そう長くは保たないにしても。



 それはそれとして依頼にあった魔物を始末して素材を回収した帰り道、ティナは小柄な銀髪の女の子が倒れているのを発見した。



『呪いの森』。

 昔に大規模な瘴気が観測された森であり、瘴気自体は当時の聖女によって祓われたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()始末し損ねた魔物が独自の生態系をつくりあげている魔境の一角である。


 そんな森に小柄な、見た目からしてティナと同じくらいの年齢だろう女の子が倒れているのは不自然だった。人のことは言えないだろうが、こんな危険地帯を女の子が一人で出歩くなど普通ならありえない。というかとっくに殺されてしかるべきだ。


 だが、薄い緑の布地を最低限巻きつけただけの色々肌色が危うい女の子には外傷らしい外傷はなかった。


 と、そこまで観察してようやくティナは気づく。


 耳。

 人間とは違う、長く伸びたその耳に。


『もしかして……エルフ、ですか?』


 信じられないという色を乗せた呟きに反応したわけではないのだろうが、見事にぶっ倒れているエルフの女の子からこんな呟きが漏れた。


『う、うう……おなか、すいたよう』


『…………、』


 とりあえず手持ちの干し肉を与えてみたらめちゃくちゃ喜んでくれた。



 ーーー☆ーーー



『おっ肉う!! わあいお肉だよう!!』


 冒険者御用達の安くて長持ちする干し肉一つで随分な喜びようだった。それこそいきなり丸齧りして涙を浮かべるくらいには。長期保存を重視しているので味はそこまでのはずなのだが。


『んんーっ!! やっぱりお肉はいいよねえ。リーゼさんといい、みんなでお野菜ばかりすすめてくるけどそれだけじゃ育ち盛りの胃袋は満足しないんだよう!! お肉ばんざーい!!』


『ああ、そういえばエルフは菜食主義が多いと何かの本で読んだことがあるですね』


『……? あれ??? よくよく見てみるとあなた誰かなあ? 里のみんなの顔は全員覚えている、はず……だ、けどお』


 小柄で色々と布面積の危うい女の子の声が萎んでいく。視線の先、ティナの耳元を見つめて。


『耳が、短い……? ま、まさか、にっにににんげっ人間さんなのお!?』


『ですね』


『うっひゃあ!? わたしっこっころっ殺されるのかなあ!?』


『殺すわけねーですよ』


『……え?』


 顔色を青ざめさせたかと思えば飛び跳ねて身体を守るように両手で抱きしめながら後ずさってすっころびそうになり、最後に信じられないとでも言いたげに見返してきた。


『だから、殺さねーですよ。過去の人間はエルフを敵視していたかもですけど、私がそれに倣う筋合いはねーですから』


『えっ、だけど「呪縛」は、いや、そうだよお、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『……? 何の話ですか?』


『あなたは良い人だねって話かなあ。初手で大当たりとか最高だよねえ!!』


『良い人って、普通目の前で倒れている人、ああいやエルフ? とにかく放っておけねーですよ』


『それが普通だったら当時の人間たちが「呪縛」に背中を押されることもなかったはずなんだけどねえ。まあわたしもリーゼさんのような当時を生きた者たちから話を聞いただけだから実感はあまりないんだけどお』


『よくわからねーですけど、まあなんでもいいです』


 がふがふ丸齧りスタイルなエルフの女の子と違って干し肉を千切って口に運んでいたティナは『そういえば』と呟き、


『自己紹介がまだでしたね。私はティナといいます』


『あっ、わたしはクリナだよお!! っていうか、人間の中ではエルフは百年以上前の「虐殺」で絶滅したって扱いのはずだけど全然驚いていないよねえ』


『生き残りがいたってだけのことをわざわざ驚く必要ねーですよ』


『……、あは。本当変な人だねえ』


『ですか?』


『だよお』


 くすくすと口元に手をやり、笑い声をあげるクリナ。『呪いの森』は魔物が独自の生態系をつくりあげているほどの危険地帯だが、エルフもまた人間とは比べ物にならない魔法の才能があるとされている。一説には人間の魔法体系とは異なる──それこそ()()()()()()()()()()『何か』があるとも。


『んう? そんなに見つめてどうしたのかなあ?』


『こんなぼけっとした子が人間の魔法体系とは異なる「何か」を使えるとは思えねーですよね』


『なんだか失礼なこと言われたよう!!』


『まあ聞くだけ聞いてみるですか。今のままではいつまで経っても聖女様には追いつけねーですし』


 ティナがエルフの強さの秘密を聞き出し、あわよくばその力を伝授してもらおうと口を開きかけた、その時だった。



 ガッバァン!!!! と。

 クリナを綺麗に避けて、ティナにだけ凄まじい衝撃が走り抜けた。



 そのまま軽く数十メートルは薙ぎ払われた。その間に屹立していた樹齢百年以上の太く強靭な木々が粉々に砕け散るほどの威力で。


『な、にがあ……!?』


『大丈夫ですか?』


『って、うわあ!?』


 突然の声に飛び上がるクリナ。

 ティナが吹き飛ばされたのを呆然と見送ったはずが、直後に件のティナがすぐ隣から声をかけてきたのだ。驚くなというのが無理な話だろう。


『あれえ!? 今吹っ飛ばされてなかったあ!?』


『ですね。だから吹っ飛ばされた後にこうして戻ってきただけですよ』


『サラッと無茶苦茶言ってるよう!! レベル69の身体強化魔法かくありきって感じかなあ!?』


『クリナ』


 短く。

 ティナは片手をあげてレベルなどという()()()()()()()()()を叫んでいるクリナを制する。


『どうやらいきなり魔法攻撃仕掛けてきた奴のご登場みたいです。危ないので下がっていてください』


 ざ、ザザッ、と。

 草を踏み、ゆっくりと、それは現れた。


 防具でありながら動きやすさを重視した薄緑のアーマー、腰まで伸びた銀髪に冷徹な光をたたえた銀の瞳、両の手にそれぞれ薄刃の剣を握った二十台前半らしき外見の女だった。


 何より長く伸びた特徴的な耳。

 その正体はクリナの口から示された。


『リーゼさん!?』


『姫様。しばしお待ちを。かつてと同じように薄汚い手を我らエルフに向けんとする醜悪な人間は必ずや殺処分しますので』


『っ!? リーゼさん、待っ……!!』


 直後、先の倍する衝撃がティナへと殺到した。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 ティナ(十二歳当時)


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 十二歳


【称号】

 未取得


【所有魔法】

 風属性魔法(レベル52)

 身体強化魔法(レベル69)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


【状態】

 呪縛・心(レベル1)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 クリナ


【性別】

 女


【種族】

 エルフ


【年齢】

 十歳


【称号】

 精霊に愛されし姫君


【所有魔法】

 精霊魔法(レベル分類不可)

 能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル18)

 能力強化魔法(スキルツリー)(レベル分類不可)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。


【状態】

 呪縛・心(レベル1)

 精霊伝心(レベル分類不可)

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、呪縛は悪感情を促進するだけ……。しかもすべての人間が持ってるらしいということは、最初から誰もが持ってるということで……過去に他種族が迫害されたときは総じて呪縛・心のレベルが高かった…
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