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【週末小説シリーズ】一文無し

作者: Giya
掲載日:2021/04/25

過去の週末小説シリーズより。

 そんなに遠くない未来。

 彼は、タイムマシンを自作した。


 つい最近、彼女に振られた。

 彼女にはだいぶ貢いでいた。

 俺はミツグ君だった訳だ。

 彼女に貢ぐため、男は収入の割の良い、短期で給金が貰える仕事に移っていた。昨日、そこから「来月から来なくていいから」と言われた。

 自分が、がらがらと壊れていく音が聞こえた、ような気がする。


 既にタイムマシンが発明されてから数年経つが、製作と利用は厳重に管理されている。

 それでも、ネットの裏サイトには作り方がアップされてたりする。

 製作するには、原材料費がそれなりにかかる。

 彼は、なけなしの貯金を全部はたいて、タイムマシンを作った。

 過去に戻って、金儲けをしようと思ったのである。

 ペテンの材料は、自分の頭の中にある。


 江戸郊外の、街道から外れたとある村。

 彼はそこに来た。頭を丸めていた。

 村の辻に立って、「弥勒様は56億7千万年後にいらっしゃいます。56億7千万年後の弥勒様に会えるまで長生きする秘法を伝授します。お金は頂戴いたしません。ただただ、1日のうち、半分より多く寝ることです。例えば、暮れ六つから明け六つ、それより一ときだけ多く寝る。それを続ければ、1日で1年、2日で2年、3日で4年、4日で8年、5日で16年と長生き出来るようになります。夜中に用足しで起きたら、最初からやり直しになります。さあ、みなで弥勒様に会おうではありませんか」

「おい、1日で1年、2日で2年までは判るが、何で3日で4年、4日で8年になるんだい?」

「それがこの秘法の秘密です。ですから、皆様が何十年も続けなくても、弥勒様に会えるようになります。私は村はずれのお堂をお借りして暫くこの村におります。お悩みがありましたら、いつでもどうぞ。但し、私も暮れ六つから寝ますのでそれまでに」

 言い終えると、男は何処かへ去っていった。

 村の人々は、半信半疑ながら、簡単だからやってみるかと話し合っていた。


 男は、村を去ったその足で、近在の算盤職人の家に向かっていた。

「何だってぇ?珠が1つで、尺のやたら長い算盤を作れだと?そんなの、何に使うんだよ?」

 男は、職人に先ほどの秘法を伝えた。

「なるほどね、前の日数と同じ日数を足した分だけ、次の日数になるってことか。判った、作ってやる。だがなぁ、お代はちゃんといただくよ」

 さすがに算盤職人だけあって計算は速い。

「お代は、一月だけ待って下さい。その間に、売れたらまた同じものを作って下さいますか?どんどん売れれば、お代もどんどんあなたに入ります」

「よし、早速作ってやる。3日ばかり待ってくれ。3日したらまた来なされ」

 男は、ここまでは段取り通り、と村はずれのお堂に向かった。

 これから先は、完全にタイムパトロール法に触れる。男は、未来から持ち込んだ入眠剤を粉にしたものを、この時代の紙に小分けにしていった。

 此の手の薬を飲みつけないものは、これで朝までぐっすりだろう。


 3日後、男は算盤職人から受け取った、まるで錫杖のような、珠が1つずつしか付いていない妙な算盤を持って、また村の辻に立った。

「弥勒様に会うための秘法はおやりになってますか?何、小用を足した、それはまた最初からです。何、続けるには算術が出来ない?そういう方のために、これを用意しました。これは、「2進の算盤」と言います。1日寝たら、一番下の珠を下に。2日寝たら、一番下の珠を上げて、2番目の珠を下に。3日ねたら、一番下の珠を下に。4日ねたら、3番目の珠を下にして、下2つの珠を上に。判りますか?算盤を、寝た数だけ桁上がりするように使うものです。そして、一番上の桁まで来たら、成就です。これをお使いになりたい方は、他の人とは一緒に使えませんから、買って下さい。1つ1両になります。何、高い?ええ、別にこれを使わなくても出来ますから、買っていただく必要はありません。お堂にこれを置いておきますから、どうやって使うかもっと知りたい方は、どうぞおいでください。

それから、どうしても寝付けないかた、途中で起きてしまうかた。秘薬があります。これを飲めば、直ちに眠くなり、寝付けば朝まで目が覚めることはありません。材料と作り方はお教えできません。限りがありますので、どうしても欲しいと言う方はお堂までご相談に来て下さい。1包み1両です。これも高い?そう、寝られる方には必要はありません。そうですね、お堂で1包みだけ小分けにして差し上げますから、お試しになりたい方は早めに来て下さい。1包みだけの小分けですから、すぐに無くなりますよ。では、また」

 言い終えた男は、お堂に向かった。

 間もなく、客人が来た。村長である。

「お頼みいたします。秘薬を試させて下され」

「はい、ではこれだけ。朝までぐっすりになるかどうかは、秘薬の量の加減で変わりますが、寝付きが良くなることはすぐに判りますよ」

 それから数人、算盤をいじったり、秘薬の小分けを貰いに来たりした。


 翌日。村長がお堂に来た。

「よく効きました、朝までぐっすりです。是非その秘薬をお譲り下さい。とりあえず、2包みほど」

「では、2両です。昨日も申しましたが、量の加減で寝られる時が変わりますから、お気を付けて」

「はい、それはもう。ありがとうございます」

 村長の話を聞きつけたのであろう村人が何人か、秘薬を求めにやってきた。皆で分けるから1包み欲しいと。男は、村長に言った言葉と同じ事を言って、売った。


 数日後。馬に乗った、偉そうな御仁がお堂にやってきた。

 男は、待ってました、と言わんばかりににこやかに応対した。

「おい、その算盤と、秘薬とやら。全部よこせ。お代はこれで足りるだろう」

 どん、と音がするように、風呂敷包みを置いた。ちらと覗くと、小判が数十枚は見えた。

「はい、ではただ今秘薬をご準備いたします。算盤はそれをそのままお持ちになって結構です。・・・お待たせしました。秘薬はこれで全部です」

「ふん、結構あるな。量は、加減すれば良いのだな?よし、これで殿の眠れぬ病もなんとかなろう。邪魔した。御免」

 御仁は、早々に立ち去った。

 男は、これで此処での商売も終わり、とばかりにお堂からタイムマシンを隠してある場所まで逃げるように走った。もちろん、小判の風呂敷包みも一緒である。


 自分の時代に戻った男は、着替えも早々に、コインショップに小判を持ち込んだ。

「本物の、江戸時代の小判です。幾らになりますか?」

「ちょっと待ってくれよ、かなりきれいなもんだねぇ。今年代判定機にかけるから」

 ショップの主人は、ある機械に小判をあてた。

「あぁ、惜しい。こりゃ偽物だ。しかし良くできてるねぇ、本物みたいだよ」

「だから本物だと」

「年数が違う。こいつは、鋳造されてから良くても数年しか経っていない。本物なら、数百年は経っているからね。まぁ、「金」としての価値はあるかもしれんから、持ち帰ったらどうだ」

 男はへなへなとへたり込んだ。そうか、年数が違ったか。

 間もなく、タイムパトロールが男の処にやってきた。

「時間跳躍機製造法違反と、時間跳躍機使用法違反で逮捕します。この小判は没収します。後で、その年代に戻さないとパラドックスが発生しますから」



男は、文字通り一文無しになった。

初出は2009年1月2日、当方のブログです。なんとなくもったいない感じがしたのでなろうに転載してみました。

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