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側仕えと邪竜教の断末魔

 コランダムの住む屋敷は町から少し離れた丘の上にあった。

 神国の神官達と一緒であるため、最初よりも大所帯になってしまったがコランダムは慌てることなく挨拶をする。


「ようこそ、お越しくださいました。神使様がお越しになったことは神々の導き──」


 長い挨拶を終えた後に神使がコランダムへ向けて迎え入れたことを感謝する言葉を伝えた。


「約束通りに来たことには感謝することじゃ。其方らにとってはタイミングが悪かったかもしれんがの」


 神使の意地悪な言葉にコランダムは反応はしない。

 何食わぬ顔をする。


「神使様は勘違いされておられる。私たちは潔白です」


 コランダムを舐めるような目で見つめる神使は我慢比べを先にやめた。


「まあ、好きに言うがいい。最高神を通して見れば其方が嘘を吐いていることはすぐに分かった。ラウルよ」



 神使がラウルに指示を出すと、捕まえた邪竜教の者達をコランダムの前に出す。

 そして息絶えたピエトロを見て、コランダムの表情がわずかに揺れた。

 だがすぐに平静を装うのだった。



「まさか邪竜教に襲われていたとは……よくぞご無事でした」

「白々しいの。まだ自分は関与していないと言うか」

「はい。私たちには関係がありません。アビ・ローゼンブルクが我々の日々の努力を疑うせいか、邪竜教と関わりがあると疑われて困っている次第です」



 ピリピリした空気になり、神官達が殺気立っていた。

 神使がそれを止めるように手で制した。


「まあよい。この者達の処分は任せる。どこかに逃がすもよし。じゃがそれは決定的な証拠になってしまうがの」

「そんなことはしません。すぐに処分しますよ」


 コランダムが目配せをすると騎士達が一斉に邪竜教の信者達を剣で屠ろうとする。


「ちょっと!」



 目の前で殺されるのを見たくなかった私は割って入った。

 邪竜教の信者を守ろうとすると、コランダムが私を睨んだ。


「何のつもりだ、小娘!」

「そっちこそ! 別に殺す必要はないでしょ!」



 彼らが犯した罪は許し難いことだが、罪を償う時間さえあげないのはあまりにも理不尽だ。

 だが私の考えは間違いというように、神使がラウルに命令をする。



「ラウルよ、エステルを押さえよ」

「かしこまりました……」


 私がラウルの方へ向くよりも早く、彼に急接近され、反応する事もできずに簡単に組み伏せられた。


「ご容赦ください、エステルさん!」

「──ッ!」


 起き上がろうとするがビクともしない。

 力が戻ってきてはいるが、まだまだラウルに敵わなかった。

 私の邪魔が無くなったことで、コランダムの騎士達が一斉に信者達を血の海に沈めた。


「はは……邪竜様、バンザイ……」


 断末魔が私の耳をうち、邪竜へ感謝を伝える声が彼らの生き方を象徴する。

 コランダムは神使へ目を向けた。


「邪魔が入りましたが、これで我々の冤罪も晴れましたかな?」

「ふむ。じゃが、まだ足りんな。もうしばらく滞在して他に邪竜教の痕跡が無いかを調査しよう。もちろん、ナビ・コランダムも協力してくれるのだろ?」

「ええ、いくらでも人員を貸し出します。それで我らの無罪が証明できるのなら安いものですから」


 お互いが怖いくらいに笑顔だった。

 そして次に神使が私へと言いようもない複雑な顔を向けた。



「前に私を助けてくれた礼はこの件と相殺しよう。お互いに貸し借りはもうない。次に邪竜教を庇うような真似をすれば命がないと思え」


 ラウルが懐に隠していた短剣を首元へ付ける。

 私に選択肢を与えないつもりだ。

 悔しいが今はまだ死ぬわけにはいかない。



「かしこまりました。ご無礼を働きまして申し訳ございません……」



 謝罪をするのと同時にラウルが私を起こしてくれる。


「申し訳ございません。エステルさんへこのような手荒なマネをしてしまいまして……」

「気にしないでください」

「またいずれお詫びをしますので、本日はこれにして失礼させていただきます」


 ラウルは微笑みかけて、神使と共に教会へと馬車を走らせる。

 残った私たちにコランダムは何も言わずに踵を返して屋敷の中へ帰った。

 私たちもここに残っても仕方がないので、シルヴェストルの屋敷へと向かうのだった。


 領主一族が仮住まいするための屋敷は、コランダムの住む屋敷と比べても変わらないほどの立派なモノだった。

 たくさんの側仕え達がシルヴェストルを迎え入れるために玄関で待っていた。

 私とブリュンヒルデ、カサンドラは、しばらくの間はここに住まう。

 シグルーンだけは別宅があるのでそちらで泊まることになった。



「ではエステル様のお荷物はわたくしがお運びます」



 この屋敷に仕える側仕えが私の荷物を淡々と運ぶ。

 側仕えは基本的に貴族であるため遠慮したいが、私が自分で運ぶと言っても全く聞いてくれなかったのだ。

 部屋での荷解きもすぐに終わって、シルヴェストルと晩餐を共にする。



「シル様も見違えるほど食事のマナーが付きましたね」



 シルヴェストルのカトラリーの扱いが上手くなっており、もう食事で食べ散らかすことはなくなった。

 だがシルヴェストルは私へ不満の目を向けた。


「あれほど口うるさく言われたら誰だって良くなるぞ」

「口うるさいくらいがいいじゃないですか。それに何だかんだ言って、練習で私が料理を作ったら喜んで食べてたくせに」

「うっ……エステルは思いのほか料理が美味いからな。だが流石にみんなが見ている食堂でされると恥ずかしくて死んでしまいそうだ」


 前までシルヴェストルは部屋の中で食事をしようとするので、誰の視線も浴びることはなかった。

 だがやはり人に見られていると、自分以外は綺麗に食事をしていることに気付き、それで恥ずかしさを覚えてくれたのだ。

 おかげで簡単に矯正できたが、それを根に持たれているのだ。

 それをクスクスとブリュンヒルデが笑っていた。


「シルヴェストル様とエステル殿はまるで子と母に見えますね」

「できればお姉さんって言ってよ」


 シルヴェストルとの年齢差は十歳にも満たない。

 それで母親のように見えると言われると少しショックだった。

 文句を言ってもらおうとシルヴェストルに同意を求めようした。


「シル様もいやですよ……どうかしました?」



 顔を俯かせて何やら顔が赤い気がする。

 チラッと私の方へ目線だけ向けた。


「エステルは俺のことは好きか?」

「もちろんですよ。いつも何だかんだ頑張って素敵じゃないですか。作法も勉強も、剣の稽古だって、ずっとサボらずに頑張ってくれますし」

「そういうのではない……」



 シルヴェストルはため息を吐くとそれ以上は言う気がないようだった。

 何だかおかしな空気になってしまったので別の話題へ変えることにする。


「そういえば町の看板にお祭りって書いてなかった?」


 私が尋ねるとカサンドラが教えてくれる。


「農業祭だな。夏の野菜が実ったことを祝う伝統祭だ。水を含んだ風船を果物に見立てて、それを当て合うことで涼を得るんだ」

「へえ、面白そう。シル様もその時に一緒に行きますか?」


 シルヴェストルも祭りという言葉を聞いて目を輝かせて大きく首を振る。

 すぐに機嫌が直るのは彼の美徳の一つだ。

 それからどんな屋台が出るかなどを教えてもらい、想像するだけで楽しくなった。

 そんな時に部屋の外が騒がしかった。


「おい、馬鹿な弟が来ていると聞いたがここか!」


 廊下から入ってきた男は嫌味な顔をした男だ。

 さらにいえば私はその男を知っている。


「あ、兄上……」



 現れたのは、シルヴェストルとレイラ・ローゼンブルクの兄であった。

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