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側仕えと魔道具

 領地会議も終わり、私は側仕えの仕事を終え、各ナビ用に用意された部屋の間へ向かう。

 一個一個、部屋のプレートを確認するとレーシュの部屋を見つける。

 私はノックをすると入室の許可が出た。


「レーシュ!」


 部屋の中でこんな日でも真面目に資料を読んでいたレーシュで、邪魔をしたかと思ったが、一度資料を机に置いて手を広げてくれた。

 私はその胸に飛び込んだ。


「元気にしていたか、エステル?」

「うん……レーシュも無事でよかった」


 まだひと月分しか離れていないのにすごく長い時間離れていた気がする。

 彼も同じ気持ちようので、優しく私の頭を撫でながら抱きしめてくれた。


「領主の側仕えでかなり動きが清廉になったな」

「頑張ったんだよ。少しでも認めてもらうために。でも全然勉強が出来なくて、へこたれそうになったけど、フマル達が一緒に頑張ってくれるからどうにか頑張れた」

「そうか……」


 もっといっぱい話がしたいため、二人でベッドの上に座って話をした。

 しかしどんどんレーシュの顔が曇ってくる。


「待て待て、どうして力を失ったのにそんな危険なことをしている!」



 グロリオサと戦った時の話を些細な話題として出したのがいけなかった。

 少し怒ったレーシュの顔を直視できず、後ろめたさから顔を背ける。

 すると彼の手が無理矢理を私の顔を真正面に向けさせた。


「いいか、お前は無鉄砲なところがあるんだ。さらに方向音痴も治ってないのなら誰かと絶対に行動を共にしろ!」

「は、はひぃ!」


 久々にレーシュから怒られた。

 だがすぐに彼の目は元の優しい顔に戻っていき、ちょっといい雰囲気になってきて、彼の顔が近づいてきた。

 私も目を瞑って受け止めようとしたところで、部屋をノックされた。


「モルドレッド様、エステル殿の護衛騎士のブリュンヒルデとシグルーンの入室のご許可をいただけますか?」

「は、はい!」


 ビクッと体が震え、仕事柄なのか勝手に体が動こうとしたがレーシュの手が強く私を引き止める。

 有無を言わさずに私の唇を奪う。

 長い接吻が続き、ゆっくりと彼の口が離れる。


「レーシュ、お客が──んっ」


 また口を塞がれ、そのままベッドに押し倒された。


「ふんっ、待たせておけ。俺はお前との時間の方が大事だ」

「ちょ、ちょっと! レーシュ、待って!」



 私が必死に彼がキス以上のことをしようとするのを止めた。

 すると少し不機嫌になるレーシュ。


「俺だけか? お前がいなくて辛かったのは?」

「それはもちろん私も──」

「ならどうして嫌がる?」

「だって──ッ!」


 私は口をモゴモゴとさせてしまい言葉が出てこない。

 手で赤面した顔を見せないようにする。


「まだ綺麗にしていないから、お風呂に入ってからの方がいぃ……仕事終わりだったでまだ汚れているし……」


 するとようやくレーシュも理解してくれて慌て出した。


「そ、それは悪かった。お前の気持ちを無視したな、お前を見たら我慢できなくなったんだ」


 レーシュは立ち上がり、手を差し伸べてくれたので立ち上がった。

 すると耳元で囁かれた。


「ならパーティの後は覚悟しておけ」


 かぁーと顔が茹でられたかのように熱くなる。

 それを誤魔化すように私は部屋のドアを開けて二人を迎える。


「エステル殿、やはりここに──大丈夫ですか? ものすごく顔が赤いですが?」

「あらあら、お邪魔でしたかしら」


 シグルーンは上品に手を口に当て笑い、ブリュンヒルデもそこで合点がいったようだ。

 すると後ろから不機嫌なレーシュの声が聞こえてきた。


「くだらんこと詮索はいい。それで団欒とした時間を潰しに来たのだから、緊急なことなんだろうな?」

「レーシュ! ごめんね、二人とも」


 まるで子供のように拗ねているレーシュを窘めて、二人へと謝罪をする。

 だが二人とも気にしていないと言ってくれた。

 二人を部屋へ通して、椅子に腰掛けてもらい、私はレーシュの隣のソファーに座った。

 まずはシグルーンから話を始める。


「お休みのところ申し訳ございません。実は耳に入れておきたいことがありましたので」

「俺に?」


 レーシュが私の方へ見るが、全く話を聞かされていないので、首を横に振って知らないことを伝えた。



「ええ、最近は邪竜教の信徒の目撃情報が多くなっておりますので、もしかするとエステルの身が危ないかもしれないと思いまして」

「私が?」



 どうして邪竜教と私に関係があるのだ。

 よく分かっていない私にレーシュが教えてくれた。


「お前が海の魔王を倒したことはどんどん噂が広まっているからな。自分の信仰する神の聖霊が殺されたら怒り狂ってもおかしくはない」

「ええ!?」


 てっきり人間の敵を倒したことで喜ばれるだけかと思ったが、それを良しと思わない連中がいることが信じられない。


「そうです。それにもうじき魔力の奉納でアビと各地を周りますと危険が伴います。身辺の警護をするのは私たちと仕事とはいえ、自衛だけはしてもらわねばならない時があります」

「そうだな。こいつはたまに気付いたら突進していることがあるからな」



 頭が痛い話だ。

 レーシュは一度手を組んで何かを考え、答えを出す。


「分かった。二人に魔道具素材の依頼をしたい」

「かしこまりました。ご予算はいくらになさいますか?」

「大金貨十枚までなら好きに使っていい。その代わり、S級一つとA級は二つ混ぜろ。欲しい素材は──」


 シグルーンが何やら書字板に書き込んでいく。


「ちょっと、待って、待って! た、大金貨十枚!?」


 まるで当たり前のように話が進んでいくが、私は立ち上がって話を遮る。

 私の元の賃金が小金貨一枚で、十枚分で大金貨になる。

 だが元々小金貨一枚だけで、平民の給与一年分近くに相当する。

 それが大金貨十枚なら、平民の百年分くらいのお金だ。

 流石に無駄遣いしすぎだ。


「前まであんなにお金に苦労していたのに、私に使いすぎよ!」


 いくらレーシュと付き合うようになったからといって、そんな贅沢は望んでいない。

 だがレーシュは落ち着けと嘆息する。


「仕方ない。俺では魔力が少ない。魔力があれば素材の質を下げてもいいが、肝心の魔力がないのなら良い物を手に入れるしかないんだ」

「で、でも……そうだ、ラウル様って確かすごい魔力を持っているんだよね! お願いすれば安く……してくれ……えっと、どうしたの?」



 私の言葉がどんどん小さくなっていくのは、周りからの信じられないという視線が向けられたせいだ。

 ラウルの魔力はすごいのだから、友達価格で安くなるのではないかと思った程度だったが、どうやら私の意見は的外れのようだった。

 ブリュンヒルデが困った顔で、チラチラとレーシュを見ながら小声で伝えてくる。


「エステル殿、流石に槍兵の勇者と親しいとはいえ、それは言ってはいけません」

「それってどういう……あっ! 魔力が貴重って話だから?」


 貴族は税のように魔力を取られ続けると聞いている。

 もしかするとそれをねだるのはいけないのかもしれない。

 だがどうやらそれだけではないようでレーシュの機嫌がどんどん悪くなってきた。


「エステル、後で教えてやるから一度静かにしていろ。シグルーン、依頼だけは先に終わらせるから早急に手配してくれ」

「か、かしこまりました!」


 シグルーンはいつもより慌てて書字板に書き込んでいく。

 そして二人は逃げるように部屋から出て行った。

 残ったのは私と不機嫌なレーシュだけだった。


「お前、誰かから魔道具はもらっていないだろうな?」

「えっと……うん。だって貴重な物なんでしょ?」

「それもあるが、絶対にもらうな」


 どうしてそんなに頑なに言うのだろう。


「魔力は血のようなモノだ。どこの誰だか分からん男の魔力が魔道具に付着して、お前が身につけるなんてガマンならん」

「そうすると、もしかして誰かの魔道具を身に付けるのって、食べ物に自分の髪の毛を入れて相手に渡すようなモノってこと?」

「なんだそのとんでもないプレゼントは。平民ではそんなことをする奴がいるのか? だがおおむねそういうことだ」


 貴族は自分で料理をしないから知らないだろうが、たまに想いが行き過ぎてそんなことをする女性はたまにいる。

 私もひえーと思ったが、おそらく似た感覚なんだろう。

 そうすると私は別の男性からそれをもらえばいいと言ったことになるのだろうか。

 急に背筋が寒くなった。

 私は急いでレーシュへ頭を下げた。


「ご、ごめん! し、知らなくて……」


 するとレーシュが私の頭を撫でる。


「お前がまだ俺たちの常識に疎いことは分かっている。思ったことをすぐに口に出す正直さは俺が一番好きなところだが、なるべく二人っきりの時にしてくれると助かる」

「うん……」


 やっと元のレーシュに戻ってきた。

 しばらく二人でまったりとした時間を過ごし、私はパーティの準備のため一度自室へ戻るのだった。

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