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側仕えと自慢の彼

 「これは、これは、皆様お揃いでしたか。改めて名乗らさせていただきます。海聖都市モルドレッドのナビ・モルドレッド、ここに推参しました」


 わざわざ大きく挨拶をする。

 いつもと変わらないふてぶてしい顔で緊張なんぞしてない様子だった。



「遅かったのね」


 領主が尋ねた。

 するとレーシュは顔を上げる。


「ええ、野蛮な連中が私の行く手を阻むものでしたのでね。危うく無能な勘違い男が出席するところでした」



 レーシュはギロっと領主の兄を睨んだ。

 だがそれは領主の兄を怒らせるに十分な一言だ。


「む、無能だと! たかが中級貴族の分際で、僕を馬鹿にするのか!」


 小物臭がする領主の兄は立ち上がって激昂した。

 だがそれでもレーシュは一歩も引かずに人差し指を相手の顔に突きつけた。


「私は今はナビです。貴方よりも立場も責任も重い。貴方はたかが元中級貴族にすら劣る犬畜生なんですよ。成人した貴方はもう領主一族の庇護を離れ、一介の上級貴族でしかない。無様に家督を奪われた無能者なんですよ!」



 領主の兄は怒り、拳をレーシュへと放つ。


「あぶな──」


 私が叫ぶと同時に肉を打つ良い音が聞こえた。

 レーシュの顔の前ででっかい手のひらが見えた。



「ぎやぁぁああ!」


 領主の兄は殴った腕を押さえて痛みに悶えて転がる。

 拳を防いだ手の持ち主はぽりぽりと頬を掻いて、騒ぐ領主の兄に呆れていた。

 大きな図体をした大男は、この場に相応しいとはいえない服装だ。

 上はコートを着ているが半裸の状態で、頭にドクロのマークがある帽子。

 それに特徴的な紫の髪をしている。

 しかし誰も注意なんぞできない。


「紹介が遅れました。彼こそが海の英雄ウィリアム。私の妻となるエステルと共に海の魔王を討伐したローゼンブルクの勇者です」



 ざわっとこの場にいる全員の息を呑む音が聞こえた気がする。

 今なら私も分かるが、側にいるだけでとてつもない威圧感を感じる。

 もし暴れられたらこの城は簡単に落とされるだろう。

 だがそれでもコランダムは並みの胆力をしておらず、髪のように顔を赤くして怒鳴り散らす。


「き、貴様、そのような者を連れて何を考えている! また反逆をするつもりか!」

「いいえ、ナビ・コランダム。今は物騒な時代ですから、私は護衛をお願いしただけです。今だって、そこに無様に転がる不埒者が攻撃を仕掛けてくるくらいですから」


 言いたい放題のレーシュだ。

 しかしこれは敵を増やしすぎではないか。

 私が心配になってしまうほど、彼が来てからこの場が荒れていく。


「モルドレッド、あまり騒ぎはやめてね」


 とうとう領主が口を挟む。

 それだけで場が引き締まった気がする。

 レーシュも領主に逆らうつもりはないようですぐに謝罪する。


「大変失礼しました。ウィリアム、そこの男は外に出してくれたまえ」

「っけ。しょうがねえな。たんまり金はもらったから外で遊んでおくわ。帰る時は言ってくれ」


 ウィリアムは床に転がっている領主の兄をひょいと掴む。



「は、離せ! この私に無礼な!」


 ギャアギャアと騒ぐので、拳を頭に落として領主の兄を気絶させる。

 やりたい放題なのに、あまりにもその悪名が轟きすぎて誰も注意できないのだ。


 すると外から慌ただしい足音を立てて騎士たちがやってきた。

 その先頭にはトリスタンが我先にとやってきたのだった。


「海賊王ウィリアム、この領地最強の騎士たるトリス──」


 威勢よく現れたトリスタンだが、最後まで言う前に言葉を失った。

 その気持ちは痛いほどわかった。

 本物のウィリアムを見て体が震え出している。

 ただ立っているだけでウィリアムと自分の実力差を感じ取ったのだ。

 顔から血の気が引いており、一歩も動かない。

 それは他の騎士たちも同じだ。


「いいところに来たな。こいつを頼むわ」


 気絶している領主の兄をトリスタンへ投げて後を任せる。

 そして鼻歌を歌いながら部屋を出ていくのだった。

 まるで嵐のように去っていった。


「トリスタン、早くドアを閉めてちょうだい」


 領主が退屈そうに命令すると、やっとトリスタンは魂が入ったかのようにハッとなった。


「し、失礼しました!」



 扉を閉められ、やっと元の静寂が戻ってくる。


「では時間になりましたので、領地会議を始めます。各々、領地の状況を説明なさい」



 順番にどんどん領地の魔力や特産、農作物の収穫量、さらに学生の勉強等、多岐に渡って説明される。

 私も勉強はしていたり、資料をまとめたりしたので、少しは話の内容が分かるが、それでも何とか聞き取るので精一杯だ。

 そして最後にレーシュの発表になった。

 他の者たちと同じく基本的な話をするが、やはり他と比べて海の魔王の被害が大きいため実績はまだそこまで大きくはない。


「ただ、これは今の話です。これまで問題になっていた海の魔王、海賊、海産物、全ての障害はもうすでにありません」


 レーシュはここから怒涛の攻めに入る。

 海聖都市は期待値も大きいのだ。



「現在、我が領土では雨が少なく、温暖な気候を利用してパンの材料となる新たな麦を植えております。さらに夏に良質なブドウが取れますのでワインの量産を行うための準備、さらに冒険者を利用した魔道具素材の採取、ネフライト様の協力もあり、スマラカタとは協力関係を強固に敷いておりますので、今後は魔道具開発にも注力していきます。海産物も徐々に漁獲量が増え、アビへ献上できる逸品が多数ありますのでお楽しみください」



 お魚いいな、と思っているのは私くらいで、他のナビたちはぐぬぬ、悔しそうに話を聞いている。


「そう、楽しみね。神国との貿易はどうかしら?」

「そちらも順調です。神使様のお声もあってかあちらも協力的ですので。ただやはりまだ小さな領地ですから、どこか好意的な領地と一緒に発展していきたいものですね。明日は一日中、屋敷で休息を取るつもりですので、どこか好きパートナーが訪れないか神に願います」



 ナビたちがお互いに目で牽制しあっている。

 しかし何人かのナビはおそらく接触しようとするはずだ。

 敵意以外の目もかなり多くなっており、レーシュの儲け話に少しでも乗りたいと思っているようだった。


「だいたい報告された情報と相違はないわね。では魔力の分配の順位を発表します。今回問題になっていた、海賊と海の魔王の問題を解決したモルドレッドを一位とする」



 レーシュの顔がニヤリと悪くなっていた。

 コランダムとスマラカタ両名共に口惜しそうに睨んでいた。

 だがレーシュはどこ吹く風のように澄まし顔だ。


「二位はコランダム、三位はスマラカタ──」



 てっきり二位はネフライトがいるスマラカタかと思ったが、感情で決めずに実績で選んでいるようだ。

 そこからどんどん順位を読み上げていった。



「以上です。異論があるのでしたらこの場で言いなさい」



 誰も何も答えない。

 レーシュだけが満足そうにする会議で終わったのだった。

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