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側仕えの新たな加護

 私が加護というものを知ったのはレーシュの家に来てからだ。

 一応認識があったのは、夢での訓練や一騎当千と呼ばれる技があったためであり、その前だと特に変な力を持っていた自覚はない。

 だが神使もラウルの言葉に納得していた。


「ラウルの言うとおりじゃ。海の魔王を倒せるほどの其方が何も加護を授からぬはずがない。レイラよ、加護を調べる魔道具を渡してあげてくれんか?」

「かしこまりました」



 領主はすぐさま護衛騎士を呼び出し、私の情報を引き出す魔道具を持ってくる。

 ブローチ状の宝石は私が前に血を取られた魔道具であった。

 羊皮紙の上に宝玉を置く。


「よし、エステルよ。ここの宝玉に血を垂らしてみよ」


 ナイフで軽く指先を切って垂らすと宝石が光り、羊皮紙に赤い文字が刻まれていく。

 前にやられた時には字が読めなかったが、今ではその文字も読めるようになっていた。

 私の身長、体重、年齢、犯罪歴等、多くの情報が載る。

 そして加護の項目を見つけた。


 加護ーー剣



 全員がなんとも言えない顔になっていた。

 前に聞いた剣聖と比べるとかなり地味に見える。

 レティスは藁にも縋るような面持ちだ。


「なんとも端的な単語のみじゃ。力を失ったと言っておったが、実は剣を持つと力が漲るとかあったりせんか?」

「今朝触りましたが、素振りすらキツかったです」



 神使と領主が揃って残念そうに息を吐く。

 この二人は似た者なのかと思うほど、息がぴったりと合う。

 そんな二人に、ラウルとネフライトが揃って苦言を言う。


「神使様。エステルさんも好きで力を失ったわけではありませんので、あまり大きな落胆はするべきではありませんよ」

「レイラもよ。エステルはわたくしの友人なのですから、あまり傷付けないでくださいませ」


 ラウルとネフライトが二人して、自分の主を諌める。

 お叱りを受けた二人はお互いに顔を見合わせた。


「「真似をしないでくだいさいませ(真似をするでない)」」



 またもや二人は息の合う掛け合いをする。

 ラウルとネフライトも処置なしと頭を振っていた。


 諦めがついたのか神使は元の威厳ある姿に戻る。


「ラウルの言う通りじゃの。海の魔王だけでも討伐してもらっただけでもありがたいことじゃ。獣人の国で新たな神が居着いたと噂も流れておるから、早急に隣国の問題を解決したかったのだがの」



 獣人国は暗殺者トップのヴァイオレットが住んでいた故郷でもあった。

 昔はよく私の国と小競り合いをしていたと聞いていたが、神国が間に入ったことで平和が訪れたと聞いている。

 私はレーシュへ聞いてみる。


「獣人国に神様がいたら危ないの?」

「ああ。人よりも強い力を持つ部族が神の恵みを手に入れたら、その影響は計り知れんだろう。食料の改善は人口の増加につながる。人口が増えれば、それだけ強い戦士が増えるからな」



 ようするに今の平和は、こちらの方が強いからこそ保たれているだけということだ。

 そこでふと疑問に思ったことがあった。


「そういえば邪竜教って何ですか?」



 突如として空気が凍った気がした。

 レティスからとてつもない怒りが滲み出し、領主を除いて平然としている者はいなかった。



「邪竜教は我が国でも裏で暗躍する異教徒のことじゃ。最高神の恵みを忘れ、別の神に統治をさせようなんぞ愚かな思想。最高神に渡すべき魔力を横流しする恥ずべき者たちじゃ」



 神国に問答無用で邪竜教を引き渡すことになっているのは、神国にとって許し難き存在だからのようだ。

 あまり宗教に詳しくない私だが、魔力によって収穫量が変わると聞いてからは神様を敬う気持ちが芽生えている。


 レティスは息を吐いて少しずつ怒りを収めていく。


「すまんの。邪竜教に関しては目の上のたんこぶなんじゃよ」

「い、いいえ! ただ邪竜教がどんなことをしているのか知らなかったから気になっただけで、変なことを聞いてしまってごめんなさい!」


 私はすぐさま謝る。

 すでにレティスは先ほどまでの怒りは鎮まっており、意外な情報を教えてくれる。



「何を言っておる。其方が倒した海の魔王こそが邪竜教の信仰する聖霊じゃ」



 ──海の魔王って魔物じゃないの!?



 強い魔物としか認識していなかったので容赦なく倒したのだ。

 もしかすると私はかなり罰当たりなことをしたのかもしれない。

 私の心配を察してか、レーシュは机の下から手を握ってくれる。


「あまり考えすぎるな。聖霊といってもこちらに害を為すのなら魔物と対して変わらん。神が俺たちを選ぶように、俺たちも選ぶ権利はある」

「何もないのならいいけど……」



 やってしまった以上はどうしようもできない。

 レーシュたちが特に気にしていないのなら本当に大丈夫な気がしてきた。

 だがもう一つの問題を領主がレーシュへ尋ねた。



「そういえばモルドレッド。エステルちゃんが今後剣聖として表舞台に出るのなら、力を失った今のままだとかなり危ないと思うのだけど、何か考えはあるのかしら?」



 先ほど馬車の中で似たような話があった。

 土地を管理する上級貴族、いわばナビ・モルドレッドの夫人になるのなら危険は免れないと。

 その時に出た話だと──。



「ええ、護衛は付けます」

「ならちょうど良かったわ。ちょうどその子の護衛に就きたいって騎士の子たちがたくさんいたのよ」


 ぽんっと両手を合わせた領主の思わぬ一言に私とレーシュは顔を見合わせた。

 貴族が平民を護衛したいなどと自分から志願するなんてあまりにも酔狂だ。

 領主は私たちが無言でも構わずに話を続けた。


「海の魔王との戦いに参加していた子たちがエステルちゃんの戦いを忘れられないそうよ」



 無我夢中で戦っただけだったが、貴族でも評価してくれるのは嬉しい。

 しかし領主の言葉を信用してもいいのだろうか。

 レーシュもまた疑いの目を向ける。


「それは人柄的にも大丈夫な人物だと思ってもいいのですか? 俺の邪魔をするため、エステルに仕えるふりをしたいとかではなく?」



 考え足らずな私と違い、こうやって疑ってくれるのは助かる。

 領主も頷いて問題ないと太鼓判を押す。


「大丈夫よ。二人の可愛らしい女の子だし、貴方もそっちの方が色々嫉妬せずに済むでしょ? あっ、もしエステルちゃんが望むなら、モルドレッド似の騎士を──」

「女性騎士でお願いします、アビ・ローゼンブルク!」



 領主のからかいをレーシュが遮り、私の護衛騎士とは後程顔合わせをすることになった。

 だがまだ領主はレーシュに伝えることがあるようだ。



「ねえ、モルドレッド」


 両肘を机に置いて顔を預け、色っぽい仕草をする。

 猫撫で声を出す領主は女の私から見ても女性としての魅力が強い。

 だがそれが逆にレーシュは警戒の色を強めた。



「エステルちゃんを私に預けてみない?」


 考えてもいなかった提案に私どころかレーシュも固まった。

 しかしネフライトは手を合わせて、それは名案だと領主に賛成した。



「えっと、えええ!?」


 そんな声しかあげれない。

 私が領主のところにいってどうなるのだ。



「お断りします!」



 レーシュは語気を強め、明確に拒否をした。

 私もそこで了承してくれなくて良かったとホッとする。

 ただ領主も簡単に退いてはくれなかった。



「モルドレッド。エステルちゃんって貴族世界のこと全く知らないでしょ? それなら私の側仕えとして、もっと広い世界を見るべきじゃない?」

「エステルにそんなものは必要ない! 戦いで頑張ったこいつにこれ以上辛いことを任せるつもりはありません」



 レーシュの言葉に領主とネフライトは同時にため息を吐いた。

 領主の代弁をするように、ネフライトが次に発言する。



「モルドレッド、エステルを貴族と平民の架け橋として選んだのは貴方でしょ? それなのに何もさせずに、自分の家に縛りつけようなんて、エステルを人形か、もしくはただの剣聖という置物としか考えていないのではなくて?」

「違う! 彼女は平民側の窓口に立ってもらえたら十分役目を果たせる! それに領主がエステルにそんなことをするメリットがどこにありますか!」



 レーシュも一歩も譲らず、ネフライトと睨み合っていた。

 そこで領主も参戦する。


「モルドレッド、平民と貴族の壁を壊すつもりなら、考えるべきは今までの常識よ。私には分かるわよ、貴方の失敗する未来が。貴方の欠点はいつも最短距離を走ろうとすること」

「それの何がいけないのですか! 俺なら──」



 レーシュが熱くなったタイミングで、テーブルを叩かれた。


「ええい、全員落ち着け! 本題からどんどんずれているわい!」



 神使が止めに入ったことで、一度場が静かになる。

 そして神使は私を見つめる。


「エステルよ、自分の道は自分で決めよ。そして忘れてはならんのは、己の人生を誰かに委ねるでない」



 神使から言われた一言が私の胸に残る。

 それから貿易や神国関連の話が続き、私はその話に付いていけないもどかしさを感じるのだった。

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