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側仕えとベヒーモスの初戦

 三大災厄と呼ばれる人間に害を与える魔物がいる。

 海は漁に行くことすらできず、陸では最短の道で国境を越えられない。

 過去に騎士が討伐しようと動いたが、全て失敗に終わってからは戦わない道を選んだという。



 ──こんな化け物なら仕方ないかも。



 海の魔王と戦う予定だが、かなり相手を低く見積もっていた自分の甘さを知る。

 ここまで感じる力のプレッシャーに一筋縄ではいかないと感じさせられた。



「ガアァァァァァァァァァア!」



 轟く威嚇の声がビリビリと身体中を震わせた。

 距離が近づいている証だが、まだ見えないのにここまで感じるのなら大型の魔物ということだ。

 進行方向のためかその道に魔物はいない。

 おそらくは本能的に邪魔をしないようにしているのだろう。



 ──何か来る!?



 勘としか言いようがない。

 急いで馬を方向転換させて真横に走った。

 そしてすぐさま、地面スレスレの赤い太い光が地面を焦がしながら走る。



「なに、これ……?」



 光が通った場所が抉れている。

 もしあの場に残っていたらタダでは済まない。

 これは一人で来て正解だったと思う。

 もしレーシュが側にいたら守りきれない可能性があった。

 また走らせようと馬の手綱を強く握るが、馬が頑なに前へ行こうとしない。


「ごめんね。怖いよね」


 馬の本能が走るのを止めているのだ。

 足が竦んでおり、無理矢理に鞭で叩いても満足な走りは出来なさそうだ。

 一度馬から降りて、馬の顔を触る。


「ありがとう。ここから大丈夫だから。元来た道に戻りなさい」



 分かったのかどうか分からないが頷いた気がする。

 そして来た道と反対方向へ帰っていった。


「少し遠いけど、あっちも迫っているならそんなに時間は掛からないよね?」



 持っている装備を確かめて呼吸を整える。

 心は落ち着いており、呼吸の乱れもない。

 それはレーシュの顔が同時に浮かんだからかもしれない。

 再度私の勘が叫んだ。


 赤い光が私目掛けて放たれた。


 もし馬に乗っていたら姿勢が整っていないので危ない。

 だが待ち構えている今ならその限りではなかった。


「ふぅ──」



 息を大きく吸い込み、身体が強く変化する。

 天の支柱は呼吸によって身体中の血液の流れを早くして筋力を増強する技。

 夢の中で教わった技の一つだ。

 だがこれだけだと無駄になる力も多いため、さらに神経を研ぎ澄ませることでさらに力を思い通りに扱える。

 迫り来る光の濁流を真っ向から立ち向かう。

 腰を落として、その一瞬へ集中を研ぎ澄ませた。



「第二の型“(ナズナ)“!」



 鞘から抜き去り、剣を光に向けて一閃した。

 斬撃が放たれ、遅れて音を鳴らす。

 斬撃が音より早く進み、赤い光を切り裂いていき、遅れた風圧が残った光を霧散させていく。



「ギャウンッ!」



 見える範囲でどんどん爆発を起こしていき、甲高い悲鳴が聞こえた。

 おそらく大きなダメージは与えられていないが、少しは牽制にはなっただろう。

 馬がいなくともそれ以上の速度で走れるので、私は標的目掛けて一気に駆け抜ける。

 何度も光の奔流がやってくるが無駄な体力を使わないように避けるだけにとどめてどんどん距離を詰めた。



「見つけた!」



 目の前に見えるは、強大な怪物だった。

 象と竜の顔を持つ二頭竜で、禍々しいその姿は居るだけで恐怖を与える。

 領主の城と変わりないほどの体躯を持ち、尻尾は蛇のように動き、さらに牙をのぞかせる。

 象の鼻から血が漏れているのは、先ほど放った斬撃を喰らったからだろう。

 相手もこちらへ馬のように四足で走っており、速度は馬よりも何倍も早かった。



「グルルルル!」



 お互いに近づいてきたので減速すると相手も同じく減速した。

 一斉に止まり、睨むように互いの視線が合わさった。


「汝ガ剣ノ者カ」

「しゃ、しゃべった!?」


 竜の口から人語が発生されたことに驚く。

 これまで出会った魔物で喋った魔物はおらず、聞いたこともなかった。

 それについては気分を害することはないようだが、象の顔から伸びる長い鼻を地面に叩きつけた。



「殺ス、殺ス! 俺ノ鼻二ヨクモ!」

「待テ」



 象は私が攻撃した攻撃を受けたことを根に持っているようで、今にも襲いかかりそうなのを竜が止める。

 別々の意思があるようで、同じ体でも別々の個体と思ったほうがいいかもしれない。



「ソノ加護ハ危険。潔ク死ネバ苦痛ハ与エン」



 武人気質があるようだが、言っていることは最低だ。

 魔物に死んでくれと言われて死ぬ馬鹿がどこにいるのかと交渉の余地もないことを知る。

 私は剣を構えなおし、目の前にいる巨大な化け物を倒すため集中した。



「お生憎だけど、私は帰らないといけないところがあるの」



 遠距離だったとはいえ、全力で放った(ナズナ)が皮膚を切った程度しかダメージを与えれないのは誤算だった。

 並大抵の技では弾かれてしまうのがオチなので、急所に全力を叩き込むしかない。



「ナラ死ネ!」


 象がもう待てないと長い鼻を地面へ強く叩きつける。

 すると地面を伝って衝撃波がやってきた。

 逃げ場はなく普通なら避ける術はない。


「第一の型“(セリ)”!」


 衝撃波が当たる寸前に突きを繰り出し、衝撃波の点を突く。

 するとまるで膜が破れたかのように霧散した。



「ナニィ! 小癪ナ!」



 また衝撃波を出そうとしてくるので、その間に距離を詰めた。

 落ちてくる鼻を下から切り上げる。



天の支柱(てんのしちゅう)!」



 全力の力を込めて鼻を切り裂く。

 血を盛大に出し、痛みで象は呻いていた。


「ヌオオオオ!」



 やはり鼻が弱点のようだ。

 今なら無防備になっているのでこのまま押し切りたかったが、竜の方が左の腕で私を引き裂こうとしてくる。



華演舞(かえんぶ)!」



 伸びてくる腕に剣を当てると弾かれるが、それを利用して体を一回転させる。

 そしてそのまま腕の上で着地をして、腕の上を走って竜の本体まで走った。



「疾イ!?」


 私の動きについてこれず驚愕して間に私は次の技を出す。


「はぁああ!」



 大上段から思いっきり剣を振り落とす。

 肩から腰にかけて切り裂き、大飛沫を出していた。



「グオオオオ!」



 私の勘が逃げろと囁く。

 その場に留まることをせずに一度後退すると、ベヒーモスの周囲の土から赤い光が上へと伸びる。



「負ケ犬ノ神ヲ侮ッタカ」



 何のことを言っているのか分からないが、相手の油断がなくなったようだ。

 かなりの大技を連発して、体力を消耗したので私も少し危ない。


「此方モ本気デ行ク!」



 私の行く手を阻むように地面から先ほどの赤い光の柱が立った。

 触れたら危険だと本能が警告しており、少しでもそこから離れようとしたが、ベヒーモスは光の柱を直進してきた。



 ──自分の技ならダメージないの!?


 だがその考えは違う。

 体から少しばかり湯気が出ているので、おそらく熱さに耐性があるのだろう。

 竜の左腕が振り落とされてくるのでステップを踏んで避ける。

 しかし避けた先で象の鼻がなぎ払おうとしていた。


 ──回復している!?


 確かにさっきは切り落としたのに、いつの間にか元通りだ。

 このまま当たるのは危険のため、体を柔らかく使い鼻の下に潜り込む。

 通り過ぎたことで安堵する暇もなく、何度も連続攻撃が飛んでくる。


「ハァハァハァ、強い!」


 息の合った攻撃にどんどん息が切れていく。

 このままでは体力が尽きてしまう。

 だが体力を温存して勝てる敵でもなく、また体が硬すぎて並の攻撃では刃が通らない。


 ──でもここならあれが使える。



 私には一つ切り札があった。

 制御が効かない技だが、今なら誰も周りにいない。

 もし使えばしばらく動けなくなってしまうが、体力がなくなってしまったらもう使うこともできなくなる。

 一番隙の多い象なら足止めの時間を稼げる。


「第五の型“仏の座(ホトケノザ)”!」



 剣を象の体に突き立てる。

 外傷はほとんどないが、この技は相手の内部にダメージを与える。

 象と竜の両方の体から血が噴き出る。


「「グオオオ!」」


 同時に叫び声を上げて暴れ始めた。

 経験上ある一定以上の強さを持つ敵だとこの攻撃は二度目が効かないので、おそらく魔物は弱い箇所を意図的に強化できるのだと結論づけている。

 しかしこうやって時間を稼ぎたい時には最適の技だ。


 ──今だ!


 距離を取り、剣を地面に突き刺した。

 体から湧き上がる力を感じる。

 おそらくこれが加護の力だと思える唯一使える技を放つ。


「一騎当せ……ん?」



 放とうとしたときに異変が起きる。

 ベヒーモスはこちらを攻撃するのをやめてどんどん遠ざかっていく。

 あれほどのダメージを受けてもあれほど早く走れる体力に陸の魔王の名は伊達ではないと知る。

 だが何にせよこちらの勝利だ。


「良かった……」


 倒せたかもしれないが、ここでぶっ倒れるのを避けられたのは良かった。

 剣を鞘に戻して来た道を戻ろうとした時にレーシュから言われた言葉を思い出す。


 ……もし迷ったらあの新峰山の麓で待機しろ!



 辺りを見渡すともう目の前に大きな山があった。

 おそらくここのことだろう。

 近くに森もあるので焚き火も問題なさそうだ。


「疲れた……」


 私は疲れで重くなった体を引きずって、山の方へ足を運ぶのだった。



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