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エピローグ

 邪竜フォルネウスとの決戦の後、国中で異変が起き始めた。

 最高神の力が弱まったこともあり、国中の建物が急に消失することがあり、即座に立て直しを行ってきた。

 俺、レーシュ・モルドレッドは国王の助言機関として国の復興の最前線に立っていた。


 エステルが眠りについた日から一年という短くも長い月日が経ち、どうにか魔力が無くとも生活できる基盤は作り上げた。

 元々平民の家は魔力では無く、土木で作っていたから壊れることは無かったため、基本は都市部に住む貴族の屋敷だけ立て直せば良かった。


 貴族や平民という大きなくくりは未だ変化は無く、今はまだそこへ不満を持つ者は少ないらしい。

 だがいずれはそこも大きな争点になることは目に見えていた。

 俺は頭を働かせて数字を出していくと、ぎゃあぎゃあうるさい声が響いてきた。



「おい、モルドレッド! 私は働き過ぎだと思わないか?」


 新国王リシャールは机にうつぶせになりながら、顔だけ起こして俺へ文句を言う。

 レイラが指名手配されて国王の座が空いたが、王太子のリシャールが生きていたため、彼が新たな王として君臨することになった。

 今いらいらしているので、たとえ国王でも言葉は選ばない。


「思いませんので働いてください。俺は今日、大事な日なのに、どうしてこんなことを手伝わないといけないのですか!」

「そ、それはだな……」


 リシャールが慌てだして怪しいことこの上ないが、俺はもっと大事な用件がある。せっかくスケジュールも調整したのに、どうして他人の尻拭いで時間を浪費せねばならない。

 俺は机の上を整理して、机から離れた。


「とにかく、俺はもう今日は上がります。大事な約束がありますので」

「ちょ、ちょっと待て! もう少しだけ付き合――」



 リシャールは机から乗り出したせいでそのまま机ごと倒れた。

 俺は知らぬふりをして、部屋から出て、王城から出た。


「っち、なんで呼んだ馬車が来ない」


 俺は太陽の位置を確認すると、もう時間がないと焦ってきた。


 今日は俺とエステルとの結婚式だ。


 国王命令で無理矢理に仕事をさせられたせいで時間がぎりぎりだった。

 仕方ないと俺は走っていく。

 貴族街を走りながら、街並みを見る。立て直しを行ってだいぶ前とは雰囲気が違っていた。

 俺もこの貴族街で新居を構えたのだ。



 俺は特別に貴族位をもらうことになり、また貴族街に屋敷を一つだけもらった。

 その屋敷も前の屋敷と似た作りにして、エステルが住みやすいようにしていた。

 俺が走っていると、ゴミ箱を漁るオレンジ頭が目についた。


「あれは……たしかエステルの友人のオルグだったか。おい、何をしているんだ!」


 俺が声を掛けるとオルグもやっと俺に気付いたようで慌てだした。

 こいつも俺たちの結婚式に来る予定とは聞いていたが、どうしてこの場所に居るのだ。


「れ、レーシュ様、そのぉこれはですね……」


 何か隠し事をしているのは明白だ。俺は問い詰めようとしたら、路地からルーナという女性が現れた。


「オルグ、見つかった? あっ、レーシュ様、ちょうどよかったです!」


 ルーナは俺へ何かを伝えようとしたが、オルグが必死に止めようとする。


「おい、ルーナ! 黙ってた方が――」

「馬鹿ね! もう時間が無いんだから、そんなことを言っても仕方ないでしょ!」


 ルーナはオルグを黙らせた。もしかするとリシャールが俺を止めていたのと関係があるのもしれない。


「エステルちゃんがどこを探しても見つからなくて……レーシュ様は心当たり無いですか?」

「なんだと?」


 また頭の痛い問題だ。あいつは今日をあれほど楽しみにしていたんだ。

 それなのに急に居なくなるなんてあり得るのだろうか。


「もしかしてあいつは一人で式場へ行こうとしたのか?」


 俺が尋ねるとルーナは頷いた。話をよく聞くと、途中まで一緒だったらしいが、迷子の子供が誘拐されそうになって、それを追いかけたらしい。

 だがその子供と供にエステルは姿を消したのだ。

 ここに移り住んでからまだ日が浅いエステルは、満足に道を覚えていないのだ。


「あいつはまったく……」


 俺は空を見上げると、二人の女騎士が空を動き回っていた。


「エステル、返事をしてください!」

「エステル殿、いないですか!」


 シグルーンとブリュンヒルデが空にいれば気付きそうだが、もしかするとこの周辺にはいないのかもしれない。


「俺もあいつが行きそうな場所を回ってみる!」


 オルグ達と別れて俺はまた走り出した。

 もしかするともうすでに式場についたかもと、教会へと出向いた。

 だがそこの入り口では、神使とラウルが立っていた。二人はがっかりしたように首を下に向けた。


「エステルは来てませんか?」

「まだじゃ。弟君と暗殺娘も探しに行ったが、まだ帰ってこん」


 あの二人ならエステルの行く場所にだいたいのアタリはつけそうだ。

 なら二人が知らない場所だけ俺が探せば良い。


「早くせねば、ラウルのつまらない一発芸で場を持たせないといけないぞ」

「わ、私がですか!? モルドレッド、早く見つけてくださいね!」


 慌てるラウルをからかいたいが、他にもたくさんの来賓がいるので、待たせすぎるのも失礼だ。

 すると教会の扉から大貴族ネフライトが出てきた。


「モルドレッド、時間は気にしなくていいから、エステルの服だけは綺麗な状態で来てくださいね」


 ネフライトは新たな領主に就いたシルヴェストルの補佐として、コランダムと供に支えてくれている。

 だがレイラの護衛騎士だったジェラルドはレイラを探すため、行方知らずらしい。

 ネフライトがいるのなら他の参加者達も文句は言えないだろう。

 彼女に感謝しつつ、俺は教会を離れた。


「あとはどこに行くか……」


 一緒に行ったお店や露店周りも向かったが見つからない。

 途方に暮れ始めた時、通り過ぎた占い師が後ろから声を掛けてきた。


「おや、探し人がいるようですね。占いましょうか?」


 藁にもすがる思いで立ち止まりかけたが、俺は占いなんてものは信じていない。

 無視して行こうとしたが、先ほどちらっと見えた後ろの二人に見覚えがあった。

 一般人とは思えない肩幅の広い男に、褐色の肌の女性。

 俺は確かめるために戻ってみると、机の上に水晶を置いて、それっぽく見せる占い師は綺麗な金髪をした美女だった。


「何をしている、レイラ・ローゼンブルク……」


 名前を呼ぶと、まるで今気付きましたといわんばりの下手な演技で驚いたふりをする。

 目の前に座っている彼女は、国中から追われるレイラその人だった。


「今日はエステルちゃんが結婚するって言うから来たのよ。招待状も来ないから、人目だけでも見たくてね」


 ハンカチで涙を拭う仕草をするが、この女を呼べば結婚式どころではなくなる。

 だが彼女も分かっているからこそ、こっそりと来たのだろう。


「さっきエステルちゃんはこの道を歩いていったわよ。ちょうど貴方の屋敷よね」


 この女はどこで俺の屋敷の情報を知ったのだ。後ろで立つカサンドラは元暗殺者なので、情報収集は得意だからだろうと一応は納得する。


「見つけたのなら案内してくれ」


 俺はため息を吐きながら文句を言った。

 しかしレイラは「まだまだつまらない男ね」と俺を小馬鹿にする。


「甘えないの。私は貴方に譲ったのよ。それとも私が彼女のエスコートをした方が良かったかしら?」


 レイラはニコニコと笑う。前みたいな裏がありそうな笑いではなく、純粋な微笑みだった。

 後ろの護衛二人は肩を竦めて、騒ぎは勘弁してくれと言っているようだった。


「結構だ。それとエステルに会いたいときは夜なら許してやる。お前達が昼間に来たらそれだけで騒ぎになりそうだからな、では行く」


 俺は返事を聞かずに自分の屋敷へ向かった。


 レイラがやったことは許されるべき事では無いが、遅かれ早かれ起きていたことだ。

 それをあいつが自分の責任で、裏で手回しをしていた。あの女で無ければ、俺たちはとっくに邪竜の支配する国になっていただろう。

 そこだけは感謝するべきだ。


 屋敷へたどり着く。側仕え達はみんな教会で待っているため、誰も家にはいなかった。

 だが入り口のドアが開いているため、誰かが中へ入ったのだろう。

 ふと、どうしてか俺の二階の執務室に居る気がしたので、俺の足はそちらへ向かった。

 気持ちが急ぐため早足で歩く。すると俺の執務室が見え、そこのドアが開放されていた。


 そしてそこには白いウェディングドレスを着ているエステルが、俺の椅子の上でうずくまっていた。


「どうしよう……場所が分からないよ……レイラも意地悪で道を教えてくれないし……」


 小さく丸くなっている彼女は昔と変わらない。でも彼女はもう剣聖ではなく、剣神として色々な人からありがたがられている。


 俺は笑いそうになった。


 邪竜を倒すという偉業は出来ても、たかが道すら満足に覚えられないのが彼女らしい。


「エステル」


 俺が呼ぶと、彼女の体がビクッと震えた。

 そして恐る恐る俺を見上げた。


「レーシュ!」


 椅子から飛び出して俺の胸へと飛び込む。どうにか上手く受け止められてホッとした。


「まったく……」


 俺は彼女の匂いも顔も性格も長所、短所、全てが好きだ。

 彼女の顔がベールで見えづらいが、逆にちょうどいいかもしれない。


「最初の出会いもこんな場所だったな」



 俺は彼女から離れて、膝を突いた。下からならベールの中身もよく見える。

 最初は貴族の側仕えが来ると喜んでいたら、やってきたのは今よりも貧相な服を着ていた彼女だった。

 だが彼女の心は、服が綺麗になろうともそれすら上回る澄んだ心のままだ。

 俺は彼女の手を取った。


「改めておかえり、俺の愛しの姫君」


 まだまだ課題も多いこの世界だが、彼女がいればどんな問題でも解決できるだろう。

 俺が勘違いをしなければ彼女は採用されず、出会いすらなかったかもしれない。

 レイラが暗躍していたとしても、彼女と俺の出会いは間違いなく運命という言葉が相応しかった。


 彼女は嬉しそうに、はちきれそうなほどの笑顔をしてくれた。


「ただいま!」


 この笑顔を見るために俺はこれまで頑張ってきたのだ。

 もし時間が巻き戻せるのなら、俺は彼女と出会った日よりも前に、彼女へ会いに行っていただろう。


 俺は立ち上がって、彼女のベールを上げて、ゆっくりと唇を合わせるのだった。






勘違いから始まる剣聖側仕えと没落貴族の成り上がり──側仕えが強いことはそんなにおかしいことなのでしょうか──

これまで読んでくださってありがとうございました!

彼女たちの物語は一旦は終わりです!

これから国の復興や獣人国から襲来、貴族と平民の内乱など色々なことが起きると思いますが、エステルとレーシュは常にその最前線で解決していきます!


貴族と平民の問題は二人の子供が矢面に立つと思いますが、彼女たちの子供もまたおそらく自分の強さを自覚せずに、周りを巻き込んでいくことでしょう。


最後にエステルたちの幸せを願ってくださる分だけ、下のお星様を押してくださるととても嬉しいです!




新作も始まりましたので、ぜひ恋愛モノを読みたい方は読んでくださいませ!

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