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側仕えとモルドレッドの賢者 ??

 これから話すのは昔の記録だ。

 モルドレッドが全てを残そう。


「お父様、この城にも神様がおられるのですか?」


 息子からの些細な質問が全ての始まりだったのだろう。だがこれを責めるつもりはない。

 レーシュが教えてくれたからこそ、私は動くことが出来たのだから。


 結論として、国はある実験をしていたことを突き止めた。

 最高神から生まれ、そして神官達から逃げ延びた竜神フォルネウスを王国へ呼び込めば、もう二度と神国に頼らずに、独立国家として君臨できるという愚かなことを考えていたのだ。


 私は家の暖炉の前で妻にこのことを話した。

 妻もまた顔を青くして事の重大さを理解してくれた。


「それであの子の加護を取り上げたのですね」


 レーシュは魔法の天賦の才を持っていた。魔力は高くなくとも、魔道具に関する造詣が深く、まだ五歳になったばかりで、加護という希有なモノを取得したのだ。

 しかしその優れた才能は、どこかで潰されてしまう恐れがあった。


「レーシュよ、すまない。お前の加護は視えすぎている。この加護はお前を殺してしまう」


 もしレーシュが竜神の魔方陣を視たことがバレたら一巻の終わりだ。

 それだけは防がなくてはならない。


「あなた、今日はレイラ様のお披露目よ。そろそろお城へ行きませんと」



 今日は領主の子供が初めて公に姿を現す。

 かなり頭が良いと噂は聞いており、貴族院に通い出せば、私の息子も彼女の在学中に接することも多いはずなので、少しでも息子を売り込まなければならない。

 私は息子を側仕えのイザベルに任せて、妻と供に領主の城へと向かった。


 大きなホールで私は知人達へ挨拶をして回る。

 そして時間になった頃に、領主から挨拶が始まった。


「皆の者、本日は私の娘のために集まってくれたことを大変嬉しく思う。紹介しよう、レイラ・ローゼンブルクを!」


 するとホールの入り口が開いて、レッドカーペットの上を金髪の少女が歩く。

 優雅な足取りで、その堂々たるは子供という雰囲気ではなかった。

 もしかすると世に名を残すかもしれないと思わせるほどの覇気を感じさせられた。


「まあ、レーシュと歳が近いとは思えないほど立派ね。あら、あなた……どうしてそんなに震えているの?」



 妻は私の異変に気付いた。だが私だからこそ気付いたのだ。

 レイラと呼ばれた娘は私の領民の子供で、人さらいによって彼女の姉妹もろとも行方不明になったのだ。

 平民とは思えないほどの美貌だったので、私も覚えていた。

 だがどうして彼女が領主の娘として紹介されているのだ。

 妻が不安そうに私を見るので、私は虚勢を張った。


「酔いすぎてしまってな。少し風に当たってくる」



 私は中庭に出た。どうやって彼女は魔力を得たのだ。平民は魔力を持たない民だ。だからこそ貴族は特権階級を得ているのだ。

 もし魔力がある人間を作り出せるのなら、国はもっと進歩するだろう。

 しかしそうなれば貴族が貴族たらしめる魔力を平民に持たれてしまい、貴族の優位性が揺らいでしますだろう。

 だからこそどうしてそんなことを行ったのか疑問があった。

 その時、後ろから声を掛けられる。


「こんばんは、モルドレッド」


 ゾクッと背中から冷や汗が流れた。振り向くとそこにはレイラ・ローゼンブルクがいた。


「これはレイラ様、わたしなんぞを知っていようとは! 挨拶が遅れてしまい申し訳ございません!」


 私は急いで礼をする。すると彼女はクスクスと笑っていた。


「わたくしに気付いたのは貴方だけですので、どうかご内密に。死にたくはないのでしょ?」


 ごくりと唾を飲み込んだ。この数年で彼女に何があったのだ。平民だった頃とは彼女の様子が違う。

 私は自分より幼い少女の威圧に飲まれているのだ。



「もちろんでございます。ところでレイラ様……」


 私はただ頷くだけでよかったのだ。

 だが私は一歩足を進めてしまった。


「私という手駒はおひとついかがですかな」


 彼女の眉がぴくりと動く。値踏みするように私を上から下まで見渡した。


「いいでしょう。ここでは目立ちますので、こちらの世界へ来てください」


 レイラは指をパチンと鳴らすと、先ほどの庭から変化し、荒野へと場所が変わった。


「こ、これは……こんな奇跡、聞いたことがない!?」



 魔法でも一瞬で世界を作り出すことは出来ない。

 彼女はどうやってこれを作ったのだ。

 しかし彼女はつまらなそうに答えた。


「加護と言うらしいですよ」

「貴方様も加護を……なんとも素晴らしい才能が――」


 まずは褒めようとしたが、彼女から睨まれた。


「これはもらいものよ。竜神フォルネウスをこの身に宿すために、私は長い時間を掛けて加護を神の加護に昇華させるのが私の使命よ」


 神を宿すなんぞ、それは神国の神使のような存在になるということだ。

 そうなると、この子は王国の裏側と繋がっているのだ。

 レイラは自身の髪をくるくると指で巻いて遊んでいた。


「貴方が私の手駒になってくれるのなら助かるわ。私はこの国のために生きるつもりはないの。最初は従順でも、最後に私の安寧を手に入れる。神の庇護で私は何不自由ない生活を過ごしたいのよ」


 この数年で彼女に一体何があったのかは想像すら出来ない。だが先ほどまでの作った笑顔とは違い、今は無表情で目の色すら消えてしまっていると思えるほど濁って見えた。


「加護なんて本当にくだらないと思わないかしら?」


 彼女は自分の腕を前にかざすと剣が出現した。

 加護は才能がある者に対して神からの祝福というのが常識だ。

 誰でも喉から手が出るほど欲しがるのに彼女はそう思わないようだった。


「知っているかしら。加護って神が降臨する依り代を作りたいがために人間に贈っているそうよ」


 初耳だ。加護は神国が情報を流さないので知る術が少ないのだ。


「そうだったのですね。神は人間に何を求めているのでしょうか」

「決まっているじゃない。神の力を高めるためよ。神達は私達をただの器、もしくは贄としか考えていないわ!」


 レイラの苛立ちが全面に出たせいか、この謎の荒野の地面が崩れていく。


「おかげで私は一睡も出来なくなったわ。眠れば地獄が待っている。加護を進化させるために、

 ずっと戦わされるのよ。私はそんなことのために生きているわけじゃないのに……」



 彼女は泣くことはなく、ただ憎悪を募らせていた。

 その恨みはおそらくこれからも続き、最後には鬼の子として一生を歩むであろう。

 それはレーシュの未来すら潰してしまう地獄の道だ。

 だからこそ私がどうにかしなければならない。


「レイラ様、どうかわたしめにチャンスを与えてくれませんか」

「チャンス? 何を言っているのかしら?」


 レイラの目からスッと憎悪が消え、虚空から剣が出現して私目がけて降り注いだ。


「うわっ!」


 思わず尻餅をついた。

 私を紙一重で避けて、剣が無数に地面へ突き刺さる。わざと外してくれたようだが、私の命はいつでも消されると思い知らされるようだった。



「貴方は私の手駒になるのでしょ。黙って従えばいいのよ」


 私は恐怖で体が震えた。自分より二回り以上離れている少女に全く勝てる気がしないのだ。

 しかしどんなに賢く、力が強くともまだ子供だ。

 私が示さねばならない、大人というものを。


「人生を諦めるのは結構ですが、私にも大事な家族がおります。貴女様は”王のいない側近”という童話をご存じでしょうか?」


 レイラは知らないようで答えない。

 彼女の興味が冷めないうちに話を続けた。


「愚かな王に優秀な賢者がおったそうです。その賢者は王に見切りを付けて、王子を真の王へと成長させるお話でございます」

「何が言いたいの?」

「私が貴女様の賢者になりましょう」



 レイラは大きく目を見開いた。そして地面の崩れも止まった。

 彼女は小さく笑うだけだが興味を持ってくれた。


「それほどまでに怯えている其方が私を導くか……」


 私の虚勢もバレているらしく、彼女から見たら滑稽な姿かも知れない。

 しかし彼女は少しだけ気持ちの変化があったようだ。だからこそは私はさらに言葉を続けた。


「ですから最後まで諦めずにご自身が本当に幸せになる方法をお探しください。それこそが誰も見えなかった道であるはずです」


 私のような凡才ではおそらく道半ばで倒れるだろう。

 しかし彼女ならばそれすら解決できる気がする。


「いいでしょう。良きに働きなさい」



 彼女の加護の世界から放たれ、元の世界へ戻された。私は水面下で協力者を募った。

 その時、リシャール王太子殿下と出会い、あの方もまた今の王族のあり方に疑問を持っていたのだ。

 着実に内乱の準備が進み出していたが、レイラはそんな私に冷や水をぶつけた。


「くだらないことに精を出しているわね、モルドレッド」


 数年が経ち、レイラも大人の女性の階段を上っていた。

 しかしそのカリスマと知性は前とは比べものにならないだろう。

 そんな彼女は冷たい目を向けた。


「貴方は馬鹿な内乱を考えているようだけど、そんな時間稼ぎで何ができるの? 貴方は賢者になり得ないようね。私は貴方から何も得ていない」



 失望されるというのはきついものだ。

 だが私はもう未来へ託している。


「レイラ様、御心を煩わせてしまい申し訳ございません。竜神を殺せる術は今のところ見つかりません」

「でしょうね。私も考えが出てこないわ。どんどん竜神フォルネウスの魔力が増えています。もうじき聖霊を生み出して、最高神からさらに魔力を奪っていくことでしょう」


 このままいけば竜神の力は遠くない未来で最高神を越える。

 そうなれば悪神を崇拝する者以外には悲惨な未来が来るだろう。


「まだ内乱まで一年近くあります。どうかレイラ様も幸せになる道を諦めないでください」

「諦めないでどうしろと言うのですか。神を斬れる剣士でも探せと?」



 レイラの言葉に私は一つのひらめきがあった。



「レイラ様……そういえば貴女様の加護は譲渡可能でしたよね」

「ええ、そうよ。それが――」



 レイラ様はすぐに私の言葉を理解した。


「私の加護を誰かに預けて育てる……」


 しかし彼女はすぐにその考えを笑った。


「どこにそんな強者がいるのよ。最近剣帝と名乗って遊んでいるリシャール殿下も私に及ばないわよ。与えるだけ無駄よ」


 彼女はその加護ゆえ天才的な騎士の素養もある。

 だからこそ視野が狭くなっている。


「レイラ様、世界は広い。私達が知らないだけで世に出ていない天才がおるはずです! まだ時間もあります。最高神を殺して竜神に付き従うまではどうか最後まで抗ってくださいませ!」


 私の言葉が響いたのかは分からない。私と彼女はこれが最後だ。

 彼女がどういう過程を歩むかは今の状況では分からない。




 しかし私も彼女に全てを委ねることはしない。

 我が息子レーシュよ。

 おそらくお前は辛い人生を歩んだはずだ。

 私を恨んでいるかもしれない。

 しかし内乱を起こして、私では時間稼ぎをすることしか出来ない。内乱でおそらく私はレイラ様の手で殺されるだろう。だがあの方はきっとお前を守ってくれるはずだ。

 あの方も気付いていらっしゃったのだろう。


 私が賢者として育てることにしたのは、レーシュお前だったのだから。


 私の部屋の隠し部屋を見つけなさい。その部屋に私のこれまでの研究成果がある。

 お前の血さえあれば開けられるだろう。


 もしかすると手遅れかもしれないが、まだ間に合うのならどうか世界を救ってくれ。

 この魔道具の存在はレイラ様とお話をするつもりだ。

 時が来ればお前が聞くことが出来るよう彼女が手を回してくれるはずだ。


 私は、自分の息子を信じている。

 出来れば結婚するまでは見届けたかったがそれは叶わないようだ。

 愚かな父を許してくれ。

 それともし、我が妻マーガレットが近くにいれば聞かせてやってほしい。

 愚かな夫で申し訳ない、と。


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