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側仕えとモルドレッドの家族 レーシュ視点

 俺たちはまた馬車に乗ってモルドレッド邸に向かう。丘を下って、森の中を進み、丘からは更地に見えた目的地を目指す。

 昔はよく素材を集めに入った森に懐かしさを感じた。そして先ほどまで見えなかった屋敷の屋根が、木々の隙間から見えてきた。


「本当に俺の家が残っていたのか……」


 昔と変わらない青色の屋根が見え、少し感慨深くなった。

 あれから色々な事が起きて、もう二度と戻らないと思っていた俺の屋敷だ。

 家族が死んだ後に燃やしたはずだった。

 おそらくはリシャールが何かしらの仕掛けをしたのだろう。


 森を抜けると、庭までもが前のまま、花壇も花で埋め尽くされていた。

 前を走っていたリシャールは馬を降り、厩務員に馬を預けた。


「其方の家は私の仮住まいとして使わせてもらった。私が言うのもおかしなことだが、よくぞ参った。今は私が主人であるので、私がもてなそう」


 俺達もリシャールに続いて屋敷へと入った。

 側仕え達が俺たちを出迎えて、客室まで案内してくれる。

 作法が貴族のように感じた。

 するとリシャールは心を読んだかのように答える。


「この者達は私と供に内乱へ参加して生き残った者達だ。あちらの世界でどうなっているのか知らんが、この世界では俺が保護をして一緒に生活している」


 内乱の後には何人かの貴族が生死不明になっていた。親父達が引き金となって反逆者に仕立てられたので、これまでの優雅な生活ができなくなったはずだ。

 しかし誰も俺へ恨みの目を向けてこなかった。


「恨まれないのが不思議か?」


 またもや心を読まれ、俺は正直に答える。


「よく私の心が読めますね。これでも気持ちを隠すのは得意なのですがね」


 リシャールは「当然だ」と鼻で笑った。


「王になろうとしていたのだ。人の表情には敏感でなくてはどうする」


 客間の前にたどり着くと、俺以外は客間へ通された。

「其方はまず父親の言葉を聞いてこい。ほらっ」


 リシャールは懐から小さな箱を取り出して、それを俺へと投げた。

 受け取った俺はその箱の魔方陣に目が行く。


「血縁者しか開けられない魔道具ですか?」

「左様。中身は声を録音する魔道具だ。それを其方へ渡すように言われていたのだ」


 リシャールはそれだけ言って客間へ入っていく。

 執事が道案内を代わった。


「ではレーシュ様こちらへ付いてきてくださいませ」

「ああ……」


 今さら親父から何があるというのだ。

 少なからず俺は恨みがあった。

 親父が馬鹿なことをしなければ、こんな不遇な人生を送ることはなかった。

 エステルと出会い、前以上に成功したともいえるが、全てが結果論でしかない。

 もしかするとその前に死んでしまったかもしれないのだ。


「レーシュ様、どうかお父上をお恨みにならないでくださいませ」


 目の前を歩く執事は前を向きながら言う。


「誰かがしなければもう手遅れだったのです」

「手遅れ? それは一体どういうことですか?」


 執事が答える前に、部屋へと着いた。

 そこは昔、俺の部屋だった場所だ。


「お父上がおそらくその魔道具に遺しているでしょう」


 執事はそう言ってドアを開けた。俺一人でこの話を聞けということだ。

 一個だけどうしても聞きたいことがあった。


「貴方は俺の親父を恨んでいないのですか? 親父が内乱を起こさなければ幸せな暮らしが出来たんですよね?」


 俺の親父もまた、俺のように多くの騎士達を無理矢理に脅して従わせたと聞いた。

 しかしここに住む者達にはそんな雰囲気を感じさせられなかった。


「貴方のお父上は未来のために命を投げ打ったのですよ。それは時間稼ぎでしかなかったかもしれませんが、立派な後継者が現れました。貴方様が私達の行いが無駄でなかった証明です」


 俺は手に持つ魔道具の箱を見る。親父は死ぬ前まで何を考えていたのだ。

 結局はこれを聞くしかわからない。

 俺は部屋に入るとドアが閉まり、執事の足音が遠ざかっていくので、誰にも聞かれることはない。

 俺は改めて部屋を見渡した。


「前のままで残していたのか」



 整頓されているが、俺が貴族院に向かう前のままだ。たくさんの魔道具の設計図が山積みになっており、何度も読んだ魔道学の本が棚に並んでいた。

 俺の家はそこまで裕福ではなかったが、家族は俺の教育のためにお金を惜しまなかったのだ。


 俺の家族を想う気持ちとどん底まで堕ちた辛い事実が心の中でせめぎ合っていた。

 俺は早くこの気持ちに決着を付けたい。


 ナイフで軽く親指を切って血を少し出す。

 箱の上面に平らな凹みがあり、そこに垂らすと鍵が開く音が聞こえた。

 箱の中には貝殻が入っており、俺はそれを取って耳へくっつけた。

 すると声が聞こえてきた。



「レーシュ……」


 懐かしい親父の声が聞こえてきた。もうほとんど忘れかけていた声だったが、それでも一言聞くだけで親父だと分かる。

 ぐっとお腹へ力をいれて、気持ちが揺さぶられるのを止める。


「これを聞いているのなら、おそらくはレイラ・ローゼンブルクが最高神を殺そうとしたのだろう」


 俺はそれを聞いて戦慄した。どうして親父が未来の出来事を知っているのだ。

 俺は親父の話に集中する。


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