表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/166

側仕えと最後 ラウル視点

 黒いもやの中で取り込まれていた王国の貴族の中から、最後の希望が立ち上がった。


「邪竜フォルネウス!」


 剣聖エステルは剣を振るう。その剣が竜神の鱗に触れると大きなスパーク音が響いた。

 竜神の不可視のシールドがエステルの攻撃を真っ向から受け止める。

 邪竜はまるで食事を邪魔された獣のように、低い唸り声を上げた。



「ほう、人間。神に楯突くか。スプンタマンユの涙は其方へ落ちたのだな」

「そうよ! おかげで動けるようになったわ!」



 エステルに希望を託すしかない。もし彼女で勝てなければ誰も勝てないのだから。

 だが現実は無情だ。


「神に力比べが意味があると思ったか??」


 フォルネウスはただ腕の爪をエステルの方へ向けただけだ。

 それだけなのに、エステルはものすごい勢いで地面へと落とされた。

 地面にクレーターができ、エステルは吐血していた。


「がはっ!」


 生身の人間があの衝撃を受けたら即死だ。

 エステルはとっさに体を硬くして耐えたが、それでも彼女はまだ諦めていない。

 エステルはすぐに立ち上がった。


「華演舞! ハコベラ!」



 エステルは一瞬で空へ上がってまた神の前まで行った。

 だがフォルネウスは笑っていた。


「神に速さが意味があると思うのか?」


 エステルは空中で動きが止まった。まるで見えない糸で吊されているように。

 まるでアリと象の戦いだ。

 三大災厄を全て倒したエステルが全く歯が立たないのだ。



「うおおおおおお!」



 しかしエステルはまだ諦めない。

 体が動き出して、神の縛りを解いた。

 少しばかり邪竜も感嘆していた。


「ほう、我の力に抗うか。だがそれまでよ」


 フォルネウスは息を思いっきり吸い込み、口を膨らませて、思いっきり息をエステルへ吐いた。

 炎のブレスがエステルを灼く。


「あああああ!」


 エステルは体を回転させてブレスの軌道から逃れる。そして燃える上着を脱ぎ捨てて、地面へ火を押しつぶすように転がった。

 腰にあった回復薬を頭から被り、やけどの跡が消えていった。

 あと少し灼かれていたら、エステルといえどもそれだけで終わっていただろう。


「我の僕よ、これから一体になる準備をする。それまで邪魔をするでない」


 今戦えるのはエステル一人だけだ。

 援護をしたいのにこの黒いもやのせいで一歩も動けない。

 それどころかどんどん意識が保てなくなってきた。


 レイラは、カサンドラとピエトロを引き連れて一階へと降りてきた。

 レイラの姿はいつの間にか正装から黒い鎧に変化しており、エステルへ剣を向けた。


「レイラ、どういうこと! どうして貴女が邪竜なんかに従っているの!」

「さあ、なんでだと思う? それは貴女の剣で聞いてみてはいかがかしら」


 エステルはその言葉通りに動いた。

 だがいつものキレがない。

 それどころか私より遅い動きをしているようだった。動いたのはカサンドラだった。


「今のお前なら私でも勝てるだろう」


 カサンドラが前に立ってエステルの剣を手刀で弾き、そして拳がエステルの腹を捉えた。


「かはぅ――」



 エステルは吹き飛び、痛みを必死に我慢しようとお腹を押さえた。


「力が出ない……体も硬くならない……」


 エステルは膝立ちをするのがやっとのようで、お腹を押さえながら敵を睨んだ。

 ピエトロは腹を抱えて笑い出した。



「あははは、当たり前だよ。だから言ったんじゃんかよ! 加護に頼る人間が! お前らの強さに上限が無いのはスプンタマンユのおかげさ。だけど、お前らの神様はどんどん食われている。人間の限界なんてそんなもんなんだよ!」



 エステルの顔がどんどん絶望に染まっていく。

 まだこの先に邪竜がいるのに、その下っ端たちにすら及ばないのだから。

 レイラは悪魔のような顔で笑っていた。


「良い余興はまだあるの。おいでモルドレッド」


 王国の貴族達の席に居たモルドレッドが虚ろな目で立ち上がった。黒いもやを身にまとい、レイラの言葉に従って来た。

 レイラは落ちている剣を拾ってモルドレッドへ渡した。


「自分の手で最後の始末をしなさい」


 モルドレッドは感情を失った顔で頷き、剣を持ってエステルの元へ向かっていく。


「エステルちゃん、選んでみて。助かるためにモルドレッドを殺すか、愛する人の剣で死ぬかを。もちろん私達を狙っても良いけど、モルドレッドの身は保証しないわよ」



 悪魔の提案だ。エステルがそんなことを選べるわけが無い。


「レーシュッ! レーシュ! レ――――ッシュ!」


 エステルは何度もモルドレッドを呼びかける。だがやはり返事は無い。

 エステルは涙を流しながら、手を震わせていた。

 このまま奪い取れば簡単にモルドレッドを倒せる。


「お願い、目を覚まして! レーシュ――」


 だが無情にもモルドレッドの剣はエステルへ袈裟斬りを放った。

 そこで私の意識もとうとう無くなった。



 それから次の日に私は廊下で目覚めた。

 何事もなかったかのように一日が始まっており、私の逃亡の罪も無くなっていた。

 ただし自分の自我が戻り前の記憶が戻ったのは、式典の日から三日が過ぎてからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ