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側仕えと殺人犯は勇者 ラウル視点

 荒野の中で迫ってくる大軍。

 前にエステルが召喚した甲冑の戦士が私へぶつかってきた。

 私の槍で百体までは倒したはずだ。

 しかしすぐに体力が尽きてしまい、私は息を切らして地面に倒れた。


「頑張ったわね、槍兵の勇者様」


 レイラが倒れている私を見下ろしてた。

 まさか領主であったレイラにこれほどまで加護を操る才能があるとは思ってもいなかった。


「その加護は……エステルさんのものでは……かはっ……」


 勢いよく蹴り上げられて地面を転がる。体力を回復するための時間稼ぎがばれていたのだ。


「元々は私のモノよ。長い間、姿を隠していたけど、オリハルコンの名前もかなり安くなったようね。貴方たちが同列なんて笑わせてくれますのだから」


 レイラの言葉で私は一つ確信した。

 どうやって化けていたのか知らないが、おそらく彼女が姿を消していた剣帝だ。


「ピエトロが側に居るのなら貴女様はあちらと手を組んでいたのですね」


 私は槍を支えにして起き上がる。邪竜と手を結んでいるレイラをここで倒さねばならない。

 彼女のような悪魔の知恵を持った者と邪竜が手を組めばもう人間に勝ち目がなくなる。

 槍を水平に構えて、私のグングニルへ魔力を注ぎ込んだ。


「女性に手を上げたくなかったですが、貴女様はここで死んでもらいます!」


 この距離なら私の槍の一撃の方が勝るはずだ。

 領主一族の魔力がいくらあろうとも、それは王国内での話。

 私の魔力は神国でも十本の指に入るほど多い。

 それにグングニルが合わされば、剣帝といえども防ぐことができないはずだ。


「試してみてはいかがですか? わたくしはあまり口数が多い男性は好みませんの。モルドレッドはやっと行動で示すようになって嬉しい変化でしたわよ」


 レイラはコロコロと笑う。それを見る限りなら普通の女性だ。

 だが彼女の威圧感は私の背筋を常に寒くさせた。


「あの男を比較に出すとは貴方様も性格が悪い。いざ――!」


 私はグングニルを掴む手に力を込めた。

 腕の遠心力で槍を思いっきり投擲した。

 レイラの元へ一直線へ進み、魔力を吸ってどんどん肥大化していく。


「一騎当千、魔剣」


 彼女も一本の巨大な剣を出現させた。

 そしてその剣もまた私の槍のように水平に射出され、私の槍の先とぶつかった。

 お互いの力がぶつかる。

 バチバチと火花を出して、力比べになった。


「これも私の魔力を吸っているの。貴方とは同条件ですわね」


 馬鹿な、目を張ってしまった。

 たかが領主一族の魔力が私の魔力と互角……いいや私の方が押されている。



 魔力の差が優劣を決める。

 私の槍が弾かれ、目の前まで大剣が迫ってくる。

 死が目の前まで迫ってきて、世界が白く塗りつぶされた。


 そして――。





 ぽたぽた、と何か垂れる音が聞こえて意識が覚醒した。

 真っ暗で何も見えないのは、目が暗闇になれていないからだろう。

 頭がガンガンと痛み、手で頭を押さえると、ぬちゃっとした感触があった。


「これはなんだ?」


 水のような気もするが生臭い。

 そうするとこれは血であろう。

 しかしこれほど血が流れているわりには貧血の症状は出ていない。

 ふと先ほどのことを思い出す。

 先ほどまでレイラと戦っていたはずで、私は死んだと思っていた。

 しかし足は地面に立っており、生を実感していた。

 もしや夢だったのかと、まだまだ意識が寝ぼけているようにも思えた。


「ひぃい! お許しを――」


 耳を打つ悲鳴が聞こえ、私は辺りを見渡す。

 やっと視界が暗闇に慣れてきて、その声の元へと走った。

 神官の服をまとった男が泣きながらうずくまっていた。


「どうした! 何があった!」

「あわぁあ! お助け! お助けを!」


 私を見るとまるで悪魔でも見たかのように怯えて、両手を結んで命乞いをする。

 何が起きているのか分からない私はどうすればいいのだ。

 すると急に部屋のランプが灯りだして、部屋が明るくなった。

 思わず目を覆い、刺激から身を守る。



「こ、これは――ラウル様、まさかこれは――」



 神官達が大勢駆けつけてくる。

 一体何事だと私は視界が明けた周りを見渡した。

 すると血の海とかして床の上には大勢の白衣をまとった神官達が死んでいた。

 そして私のグングニルの槍は元々赤いが、それよりも赤黒い液体がこびりついていた。。

 まるで私がこの惨状を引き起こしたかのようになっていた。

 こちらを見る者達の全員が私へ怯えている。


「ち、違う! 私はしていない!」


 いくら弁明してもこの状況では全く信じられない。


「そ、そうだ! か、彼なら私がやっていないことを証明してくれるはずだ」


 この場に生き残っていた神官がいる。

 今は精神が錯乱していても、彼に少しでも私では無いことを言ってもらわねばならない。

 だがそれも無残にも希望はなかった。



「ら、ラウル様、お許しください! もう私は最高神様のためだけに生きます! どうか、命だけは……命だけは!」


 錯乱がどんどんひどくなり、別の神官が手当をしようとしても暴れる。

 数人がかりで無理矢理に運ぼうとした。


「教王様が来られた! 道を空けてください!」


 まもなく本当に教王が来られた。臭いもひどいこの部屋でも鼻をつまむことなく、亡くなった者達へ祈りを捧げた。

 そして見開かれた彼の目は私へ審判をくだそうとする。


「ラウル殿、このようなやり方をされるとは失望いたしました」

「ち、違います! 私ではない! そうだ! 先ほど私の部屋にレイ――」



 私の言葉が続けられるよりも早く、私の体に光の拘束具が巻かれた。

 喋ることができず、ただ相手を見ることしかできない。


「神官達には、もしものために私へ逆らえないように魔法の契約を結んでおりましたが、まさか貴方へこれを使わなければならないのは遺憾である」


 このままでは弁明もできない。

 この契約は私の力では破ることができないのだ。

 契約を破棄できるのはさらに上の存在である神使でだけ。

 だが彼女はここにはいない。


「この場に倒れている者は私と縁深い者たちですね。まさか先ほどの事を根に持たれたのですか?」


 違う、私はやっていない。

 だがそれも伝わなければ意味がない。


「君たち、彼を地下牢へ閉じ込めておきなさい。今日は大事な式典なので、沙汰は別の日になるでしょう」


 私は神官達に取り押さえられて、身動きもとれないままに地下牢へと連れて行かれた。


 レイラの目的はおそらく神使だ。

 だが私はあの御方を守ることが出来ない。

 せめてモルドレッドにこのことを伝えたい。

 不可能な願いを持ったまま、暗くて狭い独房へと入れられた。


「入ってください!」


 私を連行した神官は私を押して無理矢理に入れた。

 足も満足に動かせない私は倒れるように中へ入った。


「おい、さすがにラウル様へ失礼ではないか!」

「あぁん? ふざけるな! あの中で死んでいたのは俺の娘だ! どんな理由があれば死なないといけないんだ!」


 神官がお互いにケンカをする。しかしすぐにお互いに冷静になって、鍵を掛けてからこの場から離れていった。

 本当に私があれをやったのか?

 いいや、そんなことはどうでもいい。

 早くここから抜け出して神使様のところへ行かねばならない。


「んん! んー!」


 壁でこの拘束をこすって傷付けようとしたが全く傷つかない。

 もっと強い力ならどうにかなるかもしれないが、私はこの拘束で力すら奪われている。


 体感の時間では、もう式典は開始している。

 どうか神使がこの異常に気付いて中止にしてくれることを願うだけだ。

 だがこんな神頼みしかできない自分が憎い。

 思いっきり地面へ頭突きした。

 私の力が足りないことがこれほど悔しいとは思わなかった。



「痛くないの?」


 突然声が聞こえたので私は地面から顔を上げると、そこには黒い装束を着た小さな少女が居た。

 顔は全く見えないが、ただ者ではない。

 目の前にいるのに気配を感じないのだ。


「んん!」


 言葉が出せないが唯一の希望かも知れない。

 私は体で、出してくれ!、と訴えた。


「たすけてほしい……ふーん」


 まさかこんな言葉にならないことでも相手に伝わった。

 しかし少女は悩ましそうにする。


「フェーの部屋に入ろうとしていた人だよね。んー、ただの散策のつもりだったけど、助けた方がいいのかな」


 フェーとはおそらくエステルの弟のことだ。

 そしてあの時のことを知っているのなら私もこの者の正体へ思い当たる。

 おそらく彼女は、ヴィーシャという暗殺組織の当主だ。

 悪の組織であろうとも今はここから出ることの方が大事だ。

 私はさらに強く唸った。


「まあ、何かあればこっそり始末すればいいか」


 恐ろしいことを言う。だが彼女の戦場はこういう狭い場所だ。

 草原などの広い場所なら勝機はあるが、隠れる場所が多ければ多いほど、彼女が有利になるだろう。

 私では彼女の存在を察知できないのだから。


 彼女の手が牢屋の錠前に触れた。


「変な鍵……まあ、関係ないけど」


 彼女は一瞬で牢屋の鍵を開けた。

 魔法で出来ているので、本来は魔法の鍵が必要なのに、彼女はそれを一瞬で解析したのだ。

 流石はヴィーシャだ。

 いつの間にか手にナイフを持っており、首をこきこきと鳴らした。


「暗技、千枚おろし」


 私を拘束していた光の拘束具は細切れになった。

 教王の魔力で作られているので、それだけで強力なはずなのに、彼女にとって紙とは変わらないように見えた。

 私はようやく自由になり立ち上がった。


「助かりました。このお礼はいつかさせていただきます!」

「うん、期待してる。フェーに欲しい物を聞いておく」


 彼女は特に何も欲しいものはないようだ。

 私は頭を下げて、手に意識を集中させた。


「出でよ、グングニル」


 思った通り何も起きない。

 グングニルを呼び出そうとしたが、もう私への使用者権限を外されている。

 しかし武器がなかろうと関係が無い。てきとうな槍を拝借すればいい。

 足へ力を入れて、思いっきり蹴り出した。

 私は全速力で地下室を駆け抜けた。


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