側仕えと戴冠式
とうとう戴冠式の当日。
王城前には多くの民衆が集まり、新しい王を一目見ようと集まる。
続々と空から他領の貴族も集い、お城の中も人でいっぱいだ。
今日だけはいつもより気合いを入れた衣装を用意され、黒を基調としたワンピースに軽い素材で作られた白のローブを羽織った。
レーシュも髪をかき上げて、顔がよく見えるようにしていた。
そして重厚な黒のローブで貫禄を感じさせられた。
私とレーシュはレイラに呼ばれ、王の間へやってきた。
「おはよう、二人とも。昨日は眠れたかしら?」
レイラが私達へ微笑みかける。
いつも通りだが、服装だけはいつもより豪華だ。
赤いローブを羽織り、その下には黒いスレンダードレスが見える。
まるで夜空のように光り輝いて見えるのは、ドレスに小さな宝石達が散りばめられているからだろう。
頭にも小さな王冠を付けており、それを映えさせるために綺麗な宝石達が髪に飾られていた。
「おはようレイラ、綺麗だよ」
「貴様、その口の利き方はなんだ!」
隣に立っていたジェラルドがぎゃあぎゃあ言う。
またレイラの護衛騎士に戻れたことで、いつも通りの賑やかさになっていた。
「では、二人も来たことですし、お披露目といきましょう」
レイラはヒールを鳴らしながら私達の間を抜けていく。
国王になるというのにいつもと変わらず堂々としていた。
そこで私は首を振った。
肩書きが国王になったことでさらなる覇気を放っていたからだ。
元々、領主一族は王族の傍系だったらしいので、彼女にその片鱗があってもおかしくはない。
綺麗な足運びで進み、開かれている窓から外のざわめきが聞こえてきた。
そしてレイラの姿がバルコニーから見えた瞬間に一気に静かになっていった。
無音になるまでレイラは待つつもりなのか、レイラは無言のままだ。
長い時間が経った気がした。民衆から不安を感じ、もしやレイラが喋る内容を忘れたのではないかと思ったのかもしれない。
人々の我慢がそろそろ限界になりそうなところで、レイラの澄んだ声が轟いた。
「メギリストに住まう民達よ。今日より第7代国王となったレイラ・メギリストだ。喝采を上げろ!」
レイラが腰に差していた剣を抜いて振り上げると、それが合図となり、爆音が鳴り響いた。
赤色の煙が空に舞い、それと同時に民衆も全員が拍手で出迎えた。
また拍手が止まると、レイラはまず最初にこれまでの経緯を発表する。王族の不正や邪竜教への関与、そしてその特権階級を利用して民達に不当な生活を強いたことを。
だが最後に国王が改心して、妻のレイラにその地位を預けて亡くなったということも聞かされた。
レイラが国王の代わりにこの国を導くことを約束する。そしてそのけじめとして、王族に加担していた重鎮達を裁く。
猿ぐつわをはめさせ、縄で両手両足を縛っていた。
何やら叫んでいたが、レイラによってその体ごと神への貢ぎ物として魔力ごと捧げられた。
「では次にこの戦いで私の代わりに指揮を執り、見事勝利へ導いた男を紹介いたします。レーシュ・モルドレッド、前へ出なさい」
「はっ!」
レーシュは歩き出して、レイラと同じくバルコニーに出た。
レーシュに対して多くの拍手が巻き起こったのは、おそらくはビルンゲルが事前に知らせてくれたからかもしれない。
「知っている者もいるかもしれないが、このレーシュ・モルドレッドの父親は国家を乱した大罪人として処刑された。しかしそれは間違いだった。真っ先に王族が邪竜へ関与していることを突き止め、少ない戦力でそれを討とうとしたのだ。結果的に失敗したことで、その子息である彼には不遇な毎日を遅らせてしまった。国を代表して謝罪させてほしい」
レイラが頭を下げることで、貴族達がざわざわとする。
「いいえ、私の忠義はレイラ・ローゼンブルグに捧げておりましたゆえ、どのような立場であろうとも、私の役目は変わりません。そのため謝罪もいりません。その言葉だけで亡くなった父も報われることでしょう」
もし謝罪を受けたらレーシュは一笑遊んで過ごせるだけのお金だってもらえたはずだ。
しかし彼はそれを選ばなかった。
レイラは頭を上げ、また民衆へ語りかける。
「レーシュ・モルドレッド。其方はよくぞこの短期間で多くの偉業を成し遂げた。この件だけでならず、これまでに邪竜教の一派を捕らえ、さらに港町も見事に復活させた。父親の無実の罪によって不遇だったにも関わらず、それでも私へ忠義を誓ってくれたことに感謝を送ろう。民達よ、この忠義者へ大きな拍手を送ってくれ」
大きな拍手がレーシュを祝福してくれた。
少しだけこしょばゆそうにしているレーシュが微笑ましい。
だが一部の貴族達がひそひそとしている。
「しかしやり方が強引だったな」
「勝てたからよかったが、あやうくローゼンブルクの貴族達が全員死んで土地が死ぬところだったぞ」
貴族達の間で不満がどんどん広がる。
そしてレイラもそこへ触れる。
[ただ、今回の戦いでナビ・モルドレッドは大きな罪を犯しました。その内容は今回は彼の名誉と引き換えに伏せさせていただきますが、ナビ・モルドレッドの爵位を返上してもらいます]
平民達からは不満の声が、貴族達のほとんどが喜びの声を上げた。
「うむ……」
部屋の隅に立っているコランダムが腕を組んでうなっていた。
ネフライトもその隣に立っており、コランダム同様険しい顔をしていた。
ネフライトは私へチラッと視線を送ってきた。
その時、レイラの言葉が響き渡る。
「その代わり、モルドレッドには提案のあった別の地位を授けます。これまで王族へ諫言をする者がいなかったため、その助言機関を貴族以外の者で構成する。モルドレッドよ、民達へ示せ」
レーシュは一歩前に出て、民衆へ自信に満ちた顔をさらした。
「私の名前はレーシュ・モルドレッド。この場に居る者達へ告げる。新国王レイラ・メギリストは平等なお方だ。これからは貴族も平民も関係が無い! 国を変えたい者、名を上げたい者、その他に野望がある者は全て私に付いてこい! 平民となった私が示そう! 我々は血筋や魔力だけで生きているのではないことを! モルドレッドの名は反逆者の代名詞ではなく、変革者であったことを!」
レーシュの宣言に反応は分かれた。片方は期待に胸躍らす歓喜する者と不安で黙っている者。
おそらくそれは貴族と正面切って発言する事への怖さだ。
しかし――。
「そして私へ協力してくれる同士を紹介しよう」
突如として城の後方に流れている運河の方向から爆発したかのように大きな音が立った。
「がははは」と聞き覚えのある声と供に、空からストンと海賊帽子を被った半裸の男がバルコニーへ着地した。
「名前を知っている者も多いだろう。彼こそが海の王者ウィリアム! 海の魔王の妨害にも屈することなく、世界を渡り歩いた彼の見識は大きな飛躍の一歩となるだろう」
ウィリアムが味方になってくれることは平民達からしても安心できるだろう。
彼を止めることは誰もできないからだ。
レーシュは伝えている。
貴族からの危害から守ってみせると。
「そして我々の守り神も紹介しよう。邪竜の魔の手を退け続け、見事に国を取り戻した剣神エステルを!」
私はレイラからもらった騎獣を出現させる玉を握りつぶすと、前に乗った大きな白い羽がある白馬が現れ私はそれに飛び乗った。
すると馬が一直線に外へと飛び出した。
風を切って私は民衆の前へ出た。
そして持っている銀の剣を空へと掲げた。
レイラとレーシュはお互いに握手を交わしていた。
レイラは言う。
「剣神の元で誓いましょう。我々が手を取り合うことを」
レーシュも言う。
「剣神の元で誓いましょう。我々は同士であることを」
大きな節目となった今日、民衆は大きく拍手をして変化を受け入れ始めた。
貴族と平民の垣根はまだまだあるだろうが。
人々には希望があった。
愚王が消え、新たな王が誕生したことに。
人々は考えたはずだ。
これから良き明日が来ると。
だがそれはまだ成就できない。
神国へレイラの正式な王の承認をもらう式典の日。
私の存在を――。
人々の記憶からも――。
邪竜が私を消したのだった。