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側仕えとプロポーズ

 やってきたレイラは、手を頬に当てて困った顔をしていた。

 鎧はすでに脱いでおり、黒いドレスへ着替えていた。後ろの側仕えに花束を持たせていた。


「お見舞いに伺ったら何やら物騒ね。またモルドレッドが何かしましたの?」

「いいえ、私はレイラ様を助けるために最善の方法を取っただけです。少しばかり手荒な方法でしたがね」



 レーシュの言葉に集まっている者達は苦い顔をする。コランダムは一番の重鎮として話をする。


「アビよ、いいや……もう国王なのだから、ドルヴィと呼ばねばな。モルドレッドは今回の内乱の罪を一人で被るつもりのようだ。ただし、私はそれを認めるつもりはない」

「と、言いますと?」


 レイラが聞き返す。コランダムは少し間を取った。


「こやつの罪は私の命で軽くしてやってくれませんか」


 周りがざわついた。コランダムがまさか自分の命をレーシュのために捧げるなんて誰も思ってもみなかったのだ。


「駄目よ。貴方はまだまだ頑張ってもらわないといけません」


 レイラはそれは許さないと首を振った。


「でもモルドレッドのおかげで助かったのも事実よね。さてさて、どうしましょうか」



 レイラは腕を組んで悩んでいるそぶりをしているが、おそらくもう答えが出ているのだろう。

 その時、別の側仕えが慌てた様子でレイラへ耳打ちする。


「いいわよ。呼んでください」


 誰を、と思っていたら、ここへやってきたのは意外な人物だった。

 私が操られていた時に、貧民街で出会った眼帯男、名前は確かビルンゲル。

 内乱を起こそうとしていたギルド長だ。



「新しい国王陛下、私はギルドの責任者ビルンゲルと申します」

「ええ、存じております。先ほどの戦いでも援護をしてくださったと聞いておりますわ」


 そういえば、ミシェルが彼らに情報を伝えて、反逆者を一網打尽にしようと計画していた事を思い出す。しかしタイミング悪く、陥落の手助けになってしまったようだ。

 貧民街の人たちは今の王族にかなり不満を持っていたので、新しい王を見定めに来たようだ。


「我々は不当にも前の王族達から追いやられました。貴方様は私達に対しても神の恵みを与えてくださいますか?」


 せっかく王が代わっても、また前のようなことになったら、彼らも救われないだろう。

 レイラなら心配はいらなそうだが、私もどう返事するのか気になった。


「ええ、もちろんよ。そういえばエステルちゃんが彼らの手伝いをしてくださったのよね?」


 レイラが私の名前を伝えると、ビルンゲルの目が私と合った。

 すると先ほどまで緊張していた顔が光り輝いた。



「これは剣聖殿! 先日は内乱のための情報を教えてくださり、本当にありがとうございました!」


 それは私であって私ではありません。しかし下手に何かを言って関係をこじらせたくない。

 私は曖昧な笑みを浮かべるだけに留める。


「邪竜を退けた姿はあまりにも素晴らしく仲間達もその神々しさに体が震えたと言っておりました」


 たぶん、それは神の威圧だと思います。

 私も近くに居るだけで震えそうになりましたゆえ。

 しかしビルンゲルは感激している様子で何も言えない。

 レーシュも興味があるようで私へ小声で尋ねる。


「おい、操られている時に何があったんだ?」

「いろいろあったのよ」


 過去のことは全てどこかへ捨ててしまいたい。それくらい今の私とは別人だったのだ。

 するとビルンゲルがレーシュを見てまた顔を輝かせる。


「もしかするとその黒い髪は……貴方様が噂のモルドレッド様ですか?」 


 レーシュは苦い顔で「どんな噂だ」と聞くと、ビルンゲルは声を弾ませた。


「地方のギルドからたびたび報告を受けておりまして、かなり平民に寄り添った領地経営をおこなってくださったとか。この戦いの主導をされたのも貴方様だと聞いております。もし何かあれば気軽にギルドへお越しください。我々はいくらでも貴方様のお手伝いをさせていただきましょう」



 お辞儀をしてビルンゲルは去って行く。私はレーシュへ「良かったね」と言うと、少しまんざらではなさそうな顔をしていた。

 しかし、やはりブリュンヒルデのお父さんが良い雰囲気をぶち壊す。


「ふんっ、平民風情が。おっと、そういえばモルドレッドはもう魔力がないのだったな。同じ平民らしくお似合いではないか!」


 いいかげんこの人を黙らせたい。

 しかしレーシュは無視して、レイラへ話をする。


「レイラ様、私はまだ貴女を助けたお礼を頂いておりません。内乱を起こした罪は受けますが、それ以上の対価をもらいたい」


 レーシュはいつもと変わらずに交渉をしようとする。


「そうね。なら七日後に戴冠式を行うからその時に発表するわ。今は療養しなさい」

「アビ! その者に温情など――」


 またもやブリュンヒルデのお父さんが口出しをしてくる。

 しかし、その言葉の途中でがくんっと倒れた。

 どうやらブリュンヒルデのお兄さんが殴って気絶させたようだ。


「父が失礼しました。おそらく戦いで疲れてしまったのでしょう。責任を持って連れて帰らせて頂きます。ブリュンヒルデ、私が父の代わりに残るから、お前は父上を送ってくれ」

「かしこまりました!」


 ブリュンヒルデは父親を担いでいく。私と目が合ったのでお互いに軽く微笑み合った。


「では皆様、戴冠式まで時間もありませんので、急ぎ準備をしましょう。新たな王の認定も神国から頂かないといけませんから、その打ち合わせを行いますので、皆様出席をお願いいたします」


 レーシュ以外の上級貴族達はレイラに付いていく。何人かの貴族達は納得していないようだが、二大派閥の当主達が手綱を握ってくれているので、それ以上のいちゃもんを付けられることはなかった。

 レーシュをまたベッドまで運んで休んでもらう。

 りんごをもらってきて、一切れサイズに切ってフォークで差し出す。


「ああ、ありがとう」


 レーシュは穏やかな顔に戻り、私が差し出したリンゴを食べてくれた。

 私はもう一つ差し出した時に、彼が尋ねてくる。


「なあ、エステル?」

「うん?」

「神国で結婚式を挙げよう」

「ん……えっ――!?」


 少しだけ頭の中で混乱が起きた。突然そんなことを言われると思っていなかったため、不意打ちに思わずしどろもどろになった。


「大丈夫なの? 今ってこんな大変なときなのに……」

「ずっと延期になっていたからな。それに俺はこれから少し暇になる。ちょうどいいさ」



 私は内乱の沙汰のことを言っているのだが、彼はそこまで悲観していないようだった。

 しかしもっと懸念もあった。


「でも神国で結婚式ってお金がたくさん掛かるんじゃないの? これからのことを考えると――」


 私がお金の心配を口にすると、レーシュは口をあんぐりと開けて、呆れた顔をする。


「お前は俺を誰だと思っている。結婚式で使うお金くらいならいつでも稼げる」


 彼の手が私の頬を撫でる。


「それにお前が真っ先に言う言葉はそれじゃないだろ?」


 彼と見つめ合った。そして触られている頬が、彼の手から伝わる体温よりもずっと熱くなっている気がした。


「はい。楽しみにしています」


 レーシュは「それでいい」と満足そうに頷き、またリンゴを所望するので、フォークに刺して差し出した。

 なんだか長い旅のような毎日だった。でもそれでも悪くない日々だったと思う。

 結婚式が待ち遠しい。


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