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側仕えと邪竜? レーシュ視点

 俺の名前はモルドレッド。

 内乱の首謀者だ。

 俺は最後の魔力を使った。これでもう二度と魔法を生成できない。

 騎獣もまた魔道具で代わる代わる出している。魔力が無くとも、この革命は成功させねばならない。

 エステルを遠ざける事に成功して、おそらくはフェニルに負けを自覚させられるだろう。

 俺の騎獣にあぐらをかいているウィリアムへ話しかける。


「ウィリアム、あの水を制御したのだろうな」

「あたりめえだ! 俺は水ならどんなことでも操れる。無傷で飛ばしてあるよ」


 その言葉を聞いて安心した。

 だが俺の最終目標はもう一つある。



「モルドレッド、少しいいかしら」



 俺の横で大貴族ネフライトが話しかけてくる。俺は軽く一瞥だけした。


「どうぞ」


 俺の立場はローゼンブルクの貴族を脅す犯罪者だ。

 もう今までのように彼女たちに下手に出ることも、ましてや普段通りの会話なんぞはできない。

 それなのにネフライトは全て分かっていますというようにあきれた顔をする。


「わざわざ憎まれ役はしなくていいわ。どうせ戦後のことを考えて、私達の立場を危ぶんだ――」

「勘違いしないでください。私は自分の目的のため其方らが必要なだけだ」


 俺の冷たい物言いにもネフライトはため息だけこぼす。


「まあいいでしょう。それよりも本当にあれでエステルは元に戻るの?」

「それは大丈夫です。信頼できる筋から情報をもらっておりましたので」

「そう、ならいいわ。でもまだ油断は禁物よ。王国騎士団長がどうしてまだ出てこないのか不思議ですが、あれを倒さない限りは私達の敗北よ」


 分かってる。王国騎士団長の実力はエステルを除けば国でトップだ。だがこちらもウィリアムがいるので戦力としては負けてはいない。

 しかしどこか不安がある。鳥肌が先ほどから止まらないのだ。


 考えても仕方が無い。


 とうとう俺たちも城門の真上までやってきた。

 ウィリアムの海賊団とヴィーシャ暗殺集団の工作員も動き出してくれているので、順調に国を荒らしてくれている。


「モルドレッド殿!」


 スキンヘッドの騎士であるチューリップが俺へと方向で帰ってきた。俺の中で頼れる騎士であるが、彼は俺を軽蔑しているだろう。

 だがそれを辛いとは思わない。思ってはいけない。


「どうした、チューリップ」

「どうやら我々以外にも戦いを起こしている者がいるようです。貧民街の平民達がこちらと協力して国を落とすのを手伝ってくれています」

「なんだと?」


 この国の未来に失望しているのは俺たちだけでは無い事は分かっていたが、まさか平民がタイミング良く手伝ってくれるのは嬉しい誤算だ。

 戦力としてはそこまで役に立たなくとも撹乱として使えるのならそれで十分だ。

 俺は剣を持って、高く天へ振り上げた。

 魔道具で声を増幅させた。


「国の者へ告げる。我の名前はレーシュ・モルドレッド。先の内乱を引き起こした先代モルドレッドの息子だ! 我々は正義の使者である! 国を賊へ渡そうとする無能な王族を追い出し、我々は未来へと向かう。これまでの三大災厄の被害は王族達が邪竜へ国を明け渡そうとしたからに他ならない。明日を望む者は我々に付いてこい!」


 この戦いが終わった後に俺たちは悪者であってはならない。しかしやはり侵略者は受け入れが難い。

 大きな何かで人民の心を引きつけないと完全な勝利とは言えない。



「メギリストの国王、ドルヴィ・メギリストが命じる」


 城の上で騎獣に乗った国王を発見する。

 遠くからでも俺を睨んでいるのが分かった。

 王都からどんどん貴族が出てきた。非戦闘員など関係なく、王命で出動を余儀なくされたのだろう。



「モルドレッド、国王に刃向かう事は許さん! 契約通りに死ね!」


 国王はにやにやとするが何も起きない。まだそれが無効化されたことに気付いていない間抜けだ。


「なっ、どうして死なない! 死ね、死ね、死ね!」


 みっともなく何度も繰り返す。俺はそれを一笑に伏す。


「願い事なら夢の中でしてください。父の無念は私が晴らしましょう。国を守らない王なんぞ必要としていないのですよ。その玉座はいただく」

「おのれ! たかがいち貴族ごときがドルヴィたる我になんたる口を利くか! 神の雷を受けよ!」


 国王が詠唱を行うと空から雷が振ってきた。だがそれは俺を守る海の守護者が高く舞い上がって拳でなぎ払った。


「あん? 少し痒いじゃねえか! お返しだ、ごらぁああ!」


 ウィリアムは空中で正拳突きを国王へと放つ。空気弾が国王の頭を吹き飛ばすべく、すさまじい轟音と供に向かっていった。


「あわわ! ぐ、グレイプニル、余を守れ!」


 国王の前にフルプレートの戦士が現れて、ウィリアムの拳を大剣で受け流した。

 国王はわめき散らす。


「反逆者どもを逃がすな! 我が許そう。新たな神への供物は反逆者全てを捧げる。神降ろしを行うまで敵を止めよ、グレイプニル!」

「御意!」


 竜のような騎獣に乗って王国騎士団長グレイプニルが前に出てきた。


「反乱者達を逃しはしない。モルドレッド、貴様の女から奪った力を食らうがよい」



 グレイプニルは剣を前に突き出した。


「一騎当――」


 グレイプニルがそう呟こうとした時に、空が急激に変化して、雷がグレイプニルへ直撃した。


「ぐおおおおおお!」


 グレイプニルの断末魔が響き渡った。

 何が起きている。

 晴天から黒い雲に一瞬で覆われ、雷鳴がいくつも鳴り響く。

 国王の様子もどこかおかしい。


「ど、どういうことだ。これで神が我に降りるのではないのか!? あの女は確かにそう言っていたはずだ」


 体中が急激に震えだした。何かとんでもないものが来るのが本能で分かる。

 ウィリアムもまた冷や汗を流して、俺へと忠告をする。


「やべえぞ、大将。このままここに居たら死ぬ。三大災厄以上のやべえのが来る」


 逃げたいがここで逃げては全てが無駄になる。絶対にこれは勝たないといけないのだ。


「我を呼んだのは、貴様か」


 おぞましい声を出すのはグレイプニルだった。しかし様子がおかしい。

 その鎧がボコボコと動き出して、姿を変えていく。

 巨大化していき、姿をドラゴンへ変えていった。

 空へと昇っていき、どんどん巨大化していく。

 その大きさは天を覆い尽くさんばかりであり、そして特徴的な黒い鱗を持っていた。


「あれが邪竜なのか?」


 三大災厄が合体した聖霊バハムートと同じかそれ以上の威圧感を感じた。

 口から大量の湯気を出し、大きな雄叫びをあげる。



「グオオオオオオオオオオオオ!」



 その雄叫びは俺たちの動きを止めた。初めて目にする神に俺は畏れてしまった。心から崇拝せねばならない魅力が押し寄せてくる。

 あれこそが神なのだ。


 国王は頭を掻きむしっていた。


「くそ、どうして思い通りにならん! 王軍は一度城へと待避しろ! 巻き添えを食らわぬうちに城へ結界を張る! 魔力を集めろ!」


 王族達の貴族は我先にと城へと逃げ帰ろうとする。

 このまま逃がしてはいけないのに、邪竜が空かこちらへ攻めてくるのだった。


「贄共よ、良い魔力をしておるな。少しは腹の足しになろう」


 迫り来る邪竜へ俺はどうすればいい。こんなやつにどうやって立ち向かえばいいのだ。



「まずは貴様達から食らうてやろう」



 動け、そう命じても身体が動かない。ウィリアム程の猛者ですら、身動きすら取れない。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように。


 だがそんなときに人々の支えがやってきた。

 天馬のような騎獣に乗って、光り輝く粒子を散らしていく彼女はまるで天からの使いのようだった。


 その光景を見た者達は後にこう語った――あれこそが剣神――だと。


 栗色の髪をなびかせ、誰もが恐怖で動けずとも彼女だけはいつも通り、剣聖としてその務めを果たす。


「邪魔ぁぁあああ!」



 邪竜の横っ面を一本の剣で弾き飛ばす。


「グヌオオオオオ!」



 邪竜は地面へと落ちていき、家々を壊していく。


「誰だ、我にこのようなことをしでかす愚か者は!」


 邪竜はまた飛び上がり、一人立ち向かう勇者へと荒い声を飛ばした。


「やっと出てきたわね。見た目で分かったわ。あんたでしょ? これまで国を荒らしてきたのは!」


 彼女は地面から邪竜を見上げた。それだけなのに、俺たちは安堵した。彼女ならそれをやってくれると。


「私はエステルよ。謝るなら今のうちよ。私は怒っているんだからね」


 エステルと邪竜は見つめ合った後に、同時に動き出した。

 エステルの剣が邪竜に当たる寸前で不可視のシールドに阻まれる。

 お互いの力が均衡し、スパークを引き起こした。

 天上の戦いが目の前で繰り広げられていた。


「レーシュ! レイラは任せたぁああ!」


 エステルの言葉で俺もハッとなる。


「任せろ! 魔力を持つ貴族達は全員で結界を破壊しろ! 魔力が無い者達は俺と供に他に抜け道が無いか探せ!」


 俺の役目はエステルが勝った後の舞台を整えることだ。

 そのためには大きな旗印が必要だ。

 レイラ・ローゼンブルクという、新たな王が。


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