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側仕えの知らない裏の者 カサンドラ視点

 私の名前はカサンドラ。

 現在、領主の間に来ていた。椅子に座っているレイラ様はにこやかな顔をしており、いつもよりも血行も良くなっている気がする。

 計画通りに進んでいることで、やっと心に余裕が持てているのだろう。



「ごめんなさいね。ずっと会いたかったのにこんな夜更けに呼んで迷惑だったでしょ?」


 護衛騎士達もこの場から外してもらっているので、今は二人っきりになっていた。

 ただ現在の私は逃亡中の身であるため、もし護衛騎士に見つかれば敵対は免れない。

 だからこそ人目につきにくい時間を選んだのだ。



「いいえ。私の命はレイラ様だけのものです。好きに使ってください」



 エステルが槍の勇者ラウルに敵対した時には私は一撃で沈められた。

 しかしエステルの善戦のおかげで、機を見て逃げ切ることができた。

 そのせいで私は帰る場所を完全に無くしてしまったが、レイラ様の側にいるのに肩書きは重要ではない。


「まさかこれほどまで先のことを読まれていたとは……ベヒーモスへの魔力の奉納を裏から止める命を受けた時は、貴女様をどうやってこの地から連れ去ろうか考えたくらいです」



 レイラ様から邪竜教への調査を依頼され、私は何人かの部下を潜入させていた。

 そして邪竜に捧げるはずだった聖杯を偽物にすり替えて、魔力の奉納がされないようにしたのだ。


「ふふ、エステルちゃんが守ってくれるって宣言してくれましたからね」



 エステルの名前は出てきて少しばかり嫉妬する。

 ただ、今回ばかりは彼女無しでは到底叶わない計画だっただろう。



「神使様も可愛いわよね。ノコノコやってきてくれたおかげで、全部計画通りなんだもん。これで神国もしばらくは下手なことはしないでしょうから、動くなら今のうちでしょうね」



 陸と空の魔王が倒されてから平和が訪れていたが、それは今だけだ。

 まだまだレイラ様の悲願は達成していない。

 私はレイラ様の命によってしばらく王都で活動してその機会をずっと待っていた。


「でもエステルちゃんが間に合わないかもって少しだけ焦りましたよ」

「彼女は明後日の方向へ行こうとしてましたからね」



 エステルを探すために飛ばされた方へ向かったが、どこを探してもエステルを見つことは出来なかった。

 仕方がないので、加護を使って捜索範囲を広げることでようやく見つけ出し、お友達達に見つかるようにエステルを上手く魔物の群れを操って誘導したのだ。

 これで三大災厄という大きな障害も取り除かれたが、一つだけ心配もあった。


「シルヴェストル様はいかがいたしますか? 私は側に仕えることができませんので、そこだけが心残りです」



 あまり知られていないが、レイラ様は弟をかなり溺愛されており、それが行き過ぎて箱入りにしてしまっていた。

 信頼出来る者を置かないと彼女が常に不安に駆られるようで、私以外に任せられる護衛騎士がいるのか心配だ。

 しかしレイラ様はもう大丈夫と言う。


「しばらくはコランダム領で勉強をしたいそうですから、安全については大丈夫でしょう。いずれあの子は私の代わりにこの地を治めてもらうつもりですから、コランダムが味方になれば安泰でしょうからね」



 レイラ様はもうすぐ領主の地位を“譲る”つもりであるため、その後継者をシルヴェストルにしようとする。

 レイラ様の兄君はもうすでに最高神に捧げられたので、骨肉の争いを考える必要もない。


「あとはこれを乗り越えれば全て終わりよ」



 レイラ様は手紙を私のところへ投げた。

 中身を読んでみると、驚きの内容が書かれていた。



「王城へお供を連れずに召集させるなんて……。もしや今回の計画がバレてしまったのではないですか?」



 そうなればレイラ様の身に危険が及ぶ。だがレイラ様はまるで出来の悪い子供へ言うような顔をする。


「ふふ、あんな愚王にそのような考えはないわよ。おおかた、私をそろそろ欲しがっているのでしょうね。ずっと求婚ばかりされて鬱陶しかったけど、今回は本当にタイミングがよろしくてよ」


 現在の国王はずっとレイラ様を邪な目で見ていた。

 元々、国王へ成れない者だったが、内乱で兄弟が全員死んだことで、運良くその地位に座ったのだ。

 しかしお世辞にもレイラ様のお側に似合う者ではない。

 もっと深くまで王城の中にまで侵入して、レイラ様に危険が及ばないようにしないといけない。



「そろそろモルドレッドも知りたいでしょうね」



 レイラ様の計画の全貌については私は知っている。

 それが彼女との契約だからだ。哀れな一族だと思う。


「ではお伝えするのですね。先代モルドレッドがどうして反逆したのかを」



 大きな爪痕を残した内乱によって、モルドレッドの坊やは多くの者から恨まれることになった。

 だが決して先代モルドレッドは私利私欲のために内乱を起こしたわけではない。

 もし先代モルドレッドがいなければ、この国はもっと前に終わっていただろう。

 レイラ様は肘掛けにもたれて、色っぽく体をくねらせた。


「頑張った彼に少しは私も報いたいのよ。彼の父親が反乱を起こすように扇動したのが私だと知ったら、どんな顔をしてくれるのかしらね」



 まるであの坊やから恨まれることを望んでいるようだが、それは彼女の本心を隠した顔に過ぎない。

 もう十分にも頑張っている彼女のために犠牲になれたのだから、先代モルドレッドの人生にしては過ぎた功績だろう。



「レイラ様……私に“一騎当千”の加護をお与えになるのでは駄目でしょうか?」



 エステルが現在持つ加護は譲渡可能だ。

 レイラ様の計画においてなくてはならないものだ。

 しかしレイラ様は薄く笑うだけだった。



「無理よ……エステルちゃんでも持て余していたのよ。他人の加護なんて持つモノではありません」


 レイラ様は立ち上がって、防音室へ向かおうとする。

 私も付いていこうとしたが断られた。



「わたくしもそろそろ準備を急がないとね。“一騎当千”の加護が戻って来る前に」



 レイラ様はいつものように夜を使って、鍛錬をするつもりなのだろう。

 いつかエステルから奪うために──。

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