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側仕えとみんなの希望 レーシュ視点

 陸の魔王がどんどん迫るにつれて、空がどんよりとしてきた。

 近づくほどに俺の鳥肌が逆立っていき、早くこの場から去りたいと思ってしまうのは強者への恐怖からだろうか。

 一万の魔物達もまるで陸の魔王のために道を作るように間を分けて、そして動きを止めていた。

 まるで王を崇拝するかのように。



「騎士達よ! 一度下がりなさい!」



 領主はすぐさま騎士達へ指示を出した。

 俺もそれが最善だと思う。

 前線に出ているオリハルコン級の四人以外では到底敵うはずがないのだから。

 応援に来た冒険者達も陸の魔王のプレッシャーにすぐさま気付いて、攻撃を中断して退いていく。


 陸の魔王が黒の地帯の中央に到着すると、装備している大きなハルバードのような武器を強く地面に打ちつけた。



「人間ヨ、ヨクモ主ヲ裏切ッタナ! 生キル価値ノ無イ虫ケラノ分際デ!」



 陸の魔王は強い怒りを出し、俺たちへ殺意を飛ばす。


「オ前ラヲ全テ殺シテ、主ノ腹ヲ満タソウ」



 陸の魔王はハルバードを器用に振り回して、それを四度強く振り抜いた。

 斬撃となり、四方へと飛んでいく。

 当たった場所は抉れ、山すら貫通してその先が見えてしまっている。



「グオオオオオ!」



 大きな雄叫びをあげたとき、海賊王ウィリアムが拳を振り上げて陸の魔王へ攻撃を仕掛けた。

 だがそれは不可視のシールドに阻まれて、拳が届くことはなかった。


「くそっ! 硬え……」


 ウィリアムは攻撃が通じないと分かるとすぐさま距離を空けた。



「次は私が行こう!」



 すぐさまラウルはグングニルに魔力を込めると大きくなり、陸の魔王と同じくらいの大きさになった。

 そして槍を射出したが、陸の魔王は手に持つハルバードで弾き飛ばした。


「人間ガ神ニ魔力デ勝テルト思ッタカ?」


 陸の魔王は四本足を動かし、一気にウィリアムとラウルに迫った。

 ハルバードを大きく振り上げて、上段から大きく振り落とした。


「「甲羅強羅!」」


 ラウルは槍を、ウィリアムは拳で受け止めようとした。

 だが──。


「「がはっ……!」」


 圧倒的な力に一瞬も持たずに吹き飛ばされていく。

 一気に後方まで吹き飛ばされ、二人とも白目を剥いて倒れていた。


「ヴィー!」


 だが二人が気を引いた隙に、フェニルが背後に回っている。

 サリチルの姿を借りたヴァイオレットも正面から挑んだ。



「一騎当千、竜殺し!」

「腹殺!」


 フェニルの大剣が背中を、ヴァイオレットの短剣が腹を、それぞれ狙った。

 しかしやはり陸の魔王の不可視のシールドが全く歯を通さなかった。


「笑止!」



 ベヒーモスの体が急に赤くなったかと思ったら、周囲が爆発した。

 魔法を発動して一気に始末しようとしたのだ。



「おい、フェニル! 無事か!」



 俺は叫んだ。

 エステルの弟が死んだらあいつが悲しむ。

 だが煙の中からヴィオレットに担がれたフェニルの姿を見つけ、ギリギリで射程範囲外に逃げたようだ。

 二人ともまだ無傷で安心した。

 だがベヒーモスの守りを突破できないことには絶対に勝利はできない。



「アハハハハ! やーい! みんなよわーい!」



 道化師の笑いが響く。

 こちらが弱いのではない、ベヒーモスが異次元過ぎる強さを持つのだ。

 昔、騎士達もベヒーモスに戦いを挑んだことがあったが、これほど圧倒されなかったと聞く。

 単純に時間の経過と共に魔力を手に入れすぎたのだ。


「僕は巻き添いを受けたく無いから帰るね! ばーい!」


 やっとふざけた道化師野郎の声が無くなったが、このままではエステルが来る前に全滅だ。


「モルドレッド、エステルちゃんはまだなの?」



 騎獣に乗って領主が俺の元までやってきた。

 残念ながらまだ見つけたという報告がないため、首を振って答えた。


「そう……ならそれまで持ち堪えないといけませんね」


 領主は魔法を空へ放って狼煙をあげて騎士達を集結させる。

 集まった騎士達は全員が顔を真っ青にして、絶望の顔に染まっていた。


「数が少ないわね。これで全員かしら?」


 領主の言葉の通り、たしかに騎士の数が少ない気がする。

 それに答えるのは、頭がツルツルしている勇猛なチューリップだった。


「恐れながら、何人かの騎士は逃げてしまいました。ただ今回はご容赦くださいませ。わがはい達も逃げ遅れたに近いのですから」


 常に部下達を奮い立たせてきたチューリップすら、ベヒーモスとの対峙で心がすり減っているようだった。

 しかしこれは責められることではない。


「まあいいでしょう。私たちも勝たねば裁くことすらできませんからね」


 領主もため息を吐くだけで、それ以上は追求しなかった。

 だが問題はこれからの作戦だ。


「今は勇者達がどうにか陸の魔王を止めてくれますが長くは持たないでしょう。誰か打開できる策を持っていませんか?」


 誰も手を挙げずに下を向いた。

 あればとっくにしているだろう。

 俺が手を挙げると一気に視線が集まる。


「結局、モルドレッドだけね……」


 領主は周りへの蔑んだ言葉を隠さずに出す。

 最初から俺以外に期待していなかったのは明白だ。


「ではモルドレッド、意見を述べなさい」

「かしこまりました。現状、陸の魔王は我々が使う魔法と同じモノを使っているはずです。それなら必ず魔法には配列があります。魔法に干渉して、魔力の一部でも綻びを作れば勝手に霧散するはずですので──」


 俺が提案していると隣から横槍が入った。


「そんな不可能な話をするな!」


 文句を言い出しのは、俺のエステルに喧嘩を売ったトリスタンだった。


「あれに近付くだけで死に向かうようなものだ! それに魔力に干渉なんて神業を使える者なんているものか!」


 周りも同調するように異論を唱えていく。

 それは犯罪者の息子である俺の言葉を一切聞きたくないからでもあるのだろう。

 俺はトリスタンの言葉を吐き捨てた。


「ふんっ、お前ら一族は出来ることしかしないからだろ!」

「何だと!」


 文句ばかり言うこいつらに俺は苛立っていく。


「神を倒すのに、何を寝言を言ってやがる! 神頼みがしたいのなら、神殿に行ってずっと拝んでおけ!」



 どうせ騎士の連中を頼りにするつもりはなかった。

 魔力切れだけは一番の懸念事項だが、俺がやるしかない。



「言わせておけば!」


 トリスタンが俺に掴みかかってきた。

 馬鹿力で締め上げられ、俺の首が絞まっていく。

 苦しくなってきた時に思わぬ人物がやってきた。


「それは私が手伝おう」


 赤い髪の男が鎧を身に付けてやってきた。

 そいつは先ほどまで心が折れていたコランダムであった。

 周りも彼の登場に驚き、俺を絞めていた手も解かれた。


「ごほごほ……ナビ・コランダム……」



 一応牢屋は開けてやったが本当に出てくるとは思わなかった。

 死んだ目をしていたくせに、今は少しはやる気があるような目だ。

 そしてコランダムは領主へこうべを垂れた。


「アビ・ローゼンブルグ、私の領地をお守りいただきありがとう存じます。この領地の責任者として、私が体を張りましょう。もし勝つことが出来たら、この領地は貴女様の好きにしてください」


 その姿は他の貴族達へ衝撃を与えた。

 ずっと狂犬として今の領主を認めてこなかったコランダムが、領主に全てを委ねるのだ。

 コランダムが邪竜教と関わりがあることはほとんどの者は知らないので、この光景に不思議がっていた。

 領主は満足そうな顔をしていた。


「あら、今日は殊勝な態度ね。いいわ、貴方の特攻を許可します」

「はっ!」



 許しが出たことで俺はコランダムに作戦を伝える。

 その時、一羽の鷹が俺の肩に止まり、そこには手紙が足に付いていた。



「その鳥はなにかしら?」


 領主の問いを全員に聞こえるように答えた。

 そして俺とコランダムで一緒に前に出る。


「フェニル、ヴァイオレット! 今からそいつの守りを解く! それまでどうにか持ち堪えろ!」



 二人は現在も陸の魔王の猛攻を避けていた。

 コランダムは剣を持ち、俺の護衛をすることになったが、そもそも近付けばコランダム諸共、一撃でやられてしまうだろう。

 だが近付かなければ勝機はない。


「っち! もう少し巨体に見合う動きをしやがれ!」


 もっと動きが制限されなければどうすることもできない。

 その時、俺の後ろで気配を感じた。


「おい、大将。奴を止めればいいんだろ?」


 後ろを振り返ると、吹き飛ばされたはずのウィリアムとラウルがいつの間にか起き上がって近付いていた。

 ラウルもまた槍を構え直していた。


「何か方法があるのだな? なら私が動きを止めよう」


 何も聞かずに二人はまた陸の魔王に挑む。


「背中、来ル!」


 陸の魔王は竜と象の二頭竜であり、象がウィリアムたちの動きを察した。

 すると陸の魔王は跳躍して、ハルバードを大きく振りかぶった。


「雑魚ハ死ネ!」


 ハルバードを無造作に何度も振り、斬撃の嵐を降り注ぐ。

 四人とも回避に集中してどうにかその攻撃を耐えしのぐ。


「ウィリアムさん! 僕と上に! 神官様はあの大きな槍をお願いします!」


 フェニルが指示を出すと、ウィリアムと一緒に飛び上がった。

 しかし相手にこちらの動きは筒抜けであり、このままでは無防備な空中でやられる。

 ハルバードを構えた陸の魔王が撃ち落とそうとする。


「援護する」


 ヴァイオレットは振り落としたハルバードに短剣を横からぶつけてわずかに軌道を変えた。

 ギリギリ二人はハルバードの一撃を避け、陸の魔王より上空へと昇る。


「全力で地面へ落とします!」

「あー、そういうことかよ! いいぜ!」



 フェニルは大剣で、ウィリアムは拳で陸の魔王の脳天に一撃を喰らわした。


「無駄ナ事ヲ」


 またもや不可視のシールドが発動して、陸の魔王には届かない。

 だが二人の一撃はダメージを与えなくとも、陸の魔王の落下する速度は早めた。

 そして陸の魔王の下には、すでに魔力を溜めた巨大化したグングニルを構えたラウルが居た。


「ヌ!?」


 落下の速度とグングニルの貫通力があれば不可視のシールドの限界点を超えられる可能性があった。

 槍とシールドがぶつかり大きな音を立てる。

 だがそれでも突破できない。


「ぐぬぬぬぬ! これでも破れぬか! モルドレッド! 早くどうにかしろ!」



 俺もこいつらを信じてもうすでにコランダムと共に接近した。


「よくやった!」


 俺は近付いた事で、遠くでは確認できなかった半透明のシールドがよく見える。

 淡い光を放っており、すぐさま魔力を陸の魔王へ向けた。


「コランダム! 俺がこいつの魔力に合わせる! お前は俺の魔力に合わせろ!」


 詠唱を唱え、相手のシールドに干渉する。

 即座に俺の知識で魔力を解析して、魔力が綺麗な配列になっているのが分かり、俺の魔力でその隙間を割り込ませる。

 配列を乱すが乱したところもすぐに戻ろうとする。

 俺の魔力だけでは足りないが、コランダムも俺と同じように割り込ませていく。

 まるでパズルのように嵌め込んでいき、そしてやっとシールドが霧散した。


「我ノ盾ガ!?」


 陸の魔王のシールドが消え去り、ラウルのグングニルにその腹が吸い込まれた。


「はあああ!」



 ラウルの槍が陸の魔王の腹に風穴を開けて、そのまま腹の向こうまで過ぎ去った。

 陸の魔王も今の一撃は堪えたようで、地面に降り立つとその場にしゃがみ込む。


「人間ニ醜態ヲ晒ストハ……」



 陸の魔王は傷を回復すると聞いているが、この傷ならもうしばらく回復に時間が掛かるはずだ。


「騎士達よ! 今だ! 遠方から魔法を放て!」



 領主の指示が飛び、動かない陸の魔王へ火や水などの魔法が絶え間なく放たれた。

 やはり不可視のシールドで防がれたが、これで自分の傷を治すのに手間取るはずだ。

 コランダムは俺を引っ張って騎獣に乗って距離を開けた。


「うむ……魔力が空だな。回復薬を使うか?」


 コランダムの言葉に首を振る。


「いいや、これは一度しか使えない。もっと魔力の密度を高められたら侵入なんて許してくれないだろうからな」


 俺の役目はこの一回のためだけだ。



「行けるぞ! 陸の魔王が瀕死だ!」

「魔力が続く限り放て!」



 人間が陸の魔王をこれほど追い詰めたことはない。

 騎士達の士気が戻り、もう少しで勝てるかもしれないと希望に繋がった。

 さらに──。


「よくやった皆の者! 神使である私も手を貸そう!」



 神使が前線へやってきて、祝詞を唱えた。



「最高神スプンタマンユは我らの父なり。全ての大地は最高神の物であり、我らは貴方様へ最高の忠義で恩に報いよう。全知全能の力を持って、悪しき神を討ち滅ぼさん。神の怒りをその身に浴びて悔い改めよ!」


 空からゴロゴロと音が聞こえると、光の奔流が降り注いだ。

 するとガラスが割れるような音が響き渡り、ベヒーモスの不可視のシールドの許容範囲を超えた証。


 ──これが神使の魔力……。


 貴族は魔力を持っている者だけがなれる。

 その頂点に立つのが神使だ。

 これほどの強力な魔法を唱えられるのは神使ただ一人。

 いくら陸の魔王でも傷付いた体でこれを喰らえばもう立ち上がれないはずだ。

 砂塵が巻き起こり、陸の魔王の姿が見えなくなっていた。

 そして次第に光も消え去り、煙が消えるのを待った。

 勝った……。

 そのはずだった──。



 砂塵が晴れると、陸の魔王は変わらず地面にしゃがんでいるが、光の一撃を受けていない。

 それは少し上に滞空している存在が代わりに受け止めたのだ。



「どうして……空の魔王まで……来るんだ」



 最後の三大災厄が現れた。

 六本の翼を持つ、鳥の上半身と馬の下半身をした空の魔王ジズだった。

 神使の一撃を受けたはずなのに空の魔王はピンピンとしており、少し焦げている程度だ。

 だがそれもすぐに治っていく。


「人間ヨ、ヨクゾ我ヲ追イ詰メタ。褒美トシテ真ノ姿ニ戻ロウ」


 陸の魔王はそう言うと、空の魔王が陸の魔王とぶつかった。

 すると強烈な光を放つと同時に、三頭竜の化け物が誕生した。


「我ハ聖霊バハムート!」


 名前の宣言と共に雷が俺たちへ降り注ぐ。

 魔道具の盾を軽々と打ち破り、雷を生身で受けた。


「ガハっ……」


 燃えるような熱さに耐えられず、俺は地面に倒れた。

 他の騎士達もバタバタと騎獣から地面に落ちていく。

 防げたのは魔力が多い神使と領主だけ。

 前線にいる物達含めて全員が等しく地面に倒れてしまった。



「グオオオオオ!」



 聖霊バハムートは勝利の雄叫びをあげる。

 だが一人だけ立ち上がる者がいた。

 オリハルコン級の戦士達ではなく、一人の貴族の男が。

 コランダムだけが立ち上がったのだ。


「陸の魔王よ……時間を稼がせてもらうぞ」


 コランダムはふらつきながらも立ち、傷付いた体を奮い立たせるように堂々とした立ち振る舞いだった。


「アノ時ノ人間カ」


 聖霊バハムートは大きなハルバードを出現させ、ゆっくりとコランダムに近づいた。


「主ニ全テ、捧ゲヨ」


 コランダムに逃げる力はない。

 俺と同じく雷を受けて満身創痍のはずだ。

 魔力も残っていないのなら、逃げることすらできない。



「祈りを……捧げた。いつかお前達からの恐怖が無くなることを……」


 聖霊バハムートはそれを聞いて笑い出した。


「人間ガ夢ヲ見タナ! グハハハハ!」


 神の笑い声が響く。

 三つの顔がコランダムを嘲笑っていた。

 だがそれも終わりだ。


「邪竜の……しもべ風情が……夢を語るな」


 ズドーンとまた雷がコランダムに降り注いだ。

 煙がコランダムの体から立ち昇る。


「調子ニ乗ルナ、人間」


 だがそれでもコランダムは倒れない。


「まだ、気付かんか……私達を舐めすぎたな」



 コランダムの言葉に首を傾げた聖霊ハバムートだったが、その異常にやっと気付いた。


「あはは……はははは!」


 誰かの笑い声が一つ聞こえ、それはどんどん伝染して周りへ伝わり、どんどん笑い声が増えていく。


「はは……やっとか」


 俺もまた笑ってしまっていた。

 騎士が、四人のオリハルコン級の戦士達も、領主も神使も、そしてコランダムも。



「気ガ狂ッタカ?」



 聖霊バハムートは俺たちの不自然な笑いに戸惑いを見せていた。

 その時、聖霊バハムートの背中に何かが当たった。


「魔物ダト?」


 バハムートの背中にぶつかったのは魔物の死体だ。

 そしてバハムートもようやく気付いたのだ。

 俺たちとの戦いに夢中で、後ろで何が起きていたかを。


「言った……だろ? 時間稼ぎだと……お前の相手は私ではない。我らの剣聖だ」


 コランダムは愉快そうに声が弾んでいた。

 一万の魔物達はもういない。

 陸の魔王が戦っている間に一人の剣士が片付けていたのだ。

 魔物の死体を越えて、剣聖の称号を持つ彼女が帰ってきた。


「モルドレッドよ」


 コランダムが俺へ問いかける。


「あの剣聖に頼っていいのだろうか?」


 今にも倒れたいだろうに最後までカッコつけたがる。


「ふんっ、あいつに聞け」


 俺が答えると、コランダムは満足そうに後ろに倒れながら呟いた。



「許可済みだ」



 聖霊バハムートは今回の戦いで初めてくぐもった声を上げた。

 それはもしかすると前に痛い目にあったからなのかもしれない。

 そして聖霊バハムートは六本の翼を広げて、迫り来る強敵へ先制攻撃を仕掛けに行った。



「我ハ聖霊ナリ! 人間ハ死ネエエエエエ!」


 持っているハルバードを上段から彼女目掛けて振り落とした。

 人間では到底防げない一撃であるにも関わらず、吹き飛んだのは──。


 聖霊バハムートだった。


「グオッ!」


 何度も地面にぶつかり後方まで飛ばされる。

 立ち上がったバハムートの顔は驚愕で歪んでいる。



「よく持ち堪えたわね。後は私に任せなさい。側仕えはね、後始末が得意なのよ」



 彼女が港町で海の魔王を倒す光景を見た騎士達は多い。

 笑い声はいつの間にか歓声に変わり、みんなが彼女の名前を叫んだ。



「覚悟は出来ているんでしょ? 今日の私は絶好調よ」


 この戦いの後には、誰もが親しみを込めて彼女をこう呼ぶ。

 剣聖エステル、と。


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