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側仕えと聖霊ニーズヘッグ レーシュ視点

 俺のレーシュ・モルドレッド。

 神使に捕らえられたが、仲間達の協力でどうにか逃げ出すことが出来た。

 あとは事前に計画していた援軍を集結させ、大義名分も神使に伝えるだけで良かったはずだった。


 魔道具で全体に自分の姿を見せて、神使の同意をもらいこれで一件落着だと思っていたが、何者かに俺の映像を奪われることになった。


「みんな、お久しぶりー! 邪竜教の宣教師ピエトロだよー、ピエトロだよ! あはははは!」



 どうやって俺の魔道具を乗っ取るようなことをしたのか不明だが、見るからに危なそうなやつだ。



「くそっ……何だ、あれは!」


 魔道具の動きを止めても映像がどうしてか残り続ける。

 苛立っていると騎獣に乗ったラウルが俺の元まで来ていた。

 俺を捕まえに来たのかと逃げようとした。


「待て、モルドレッド。神使様からお許しがあったのなら何もせん」


 ラウルは嘘を吐くような男ではないので、本当に捕まえるつもりはないようだ。


「なら何のようだ? 俺はあの頭の悪そうな道化師を視界から消したくてたまらないんだ」

「無駄だ。おそらくはあれは幻影だろう」


 ラウルから教えてもらい、ピエトロは加護で幻影を見せることが出来ることを知った。そうすると俺の魔道具が残っているように見せているのだ。


「何だか僕が居ない間に面白いことになっているね! でも、でも流石にやり過ぎだよ。僕は赤い髪のおっさんに言ったのにさ、ベヒーモス様に魔力を与えないと、直々に滅ぼしに来るよって!」


 ──陸の魔王が来るだと!?



 確かに陸の魔王は魔力を奉納しないとやってくるとは聞いていたが、次の奉納までまだ期間があると聞いていた。

 それなのにどうして陸の魔王がタイミング良くやってくるというのだ。

 だが今はそんなことはどうでもいい。

 次の策を考えないと全てが終わる。


「厄介ですね。この魔物の数に加えて、陸の魔王ベヒーモスまで来られたら、我々ではどう足掻いても勝てませんね。神使様だけでもお守りしなければ、邪竜によって神国までもが完全支配されてしまいます」


 ラウルの言葉にさらに俺の心は焦っていた。

 このまま神国まで撤退されたら本当にお終いだ。


「逃げるのか!」


 神国を挑発してでも残ってもらうしかない。

 エステルに加護を返すにしても、陸の魔王を相手しながら、約一万の魔物を殲滅できるはずがない。

 だがラウルは俺の言葉に怒るわけでもなく、いつものすました顔をする。


「ご心配なく、私が残ります。それであれば体裁は保てるでしょう」



 神使の立場は神国でも疑問視され始めており、これ以上の失策はしたくないのだろう。だがラウルがいるのならまだどうにか出来るかもしれない。

 領主も同じ考えのようで、騎士達を鼓舞した。


「ローゼンブルクの騎士達よ! 他国である神国が残るのに、逃げ帰ることは許さん! 勝って生き残るしか生還の道はないとしれ!」


 領主は前線でずっと戦っており、彼女が戦っているのに騎士が逃げ帰っては一生の恥となる。

 指揮官がまだ前線に残ることだけが騎士達の士気を保つ唯一の方法だった。



「ふーん、一応みんな残るんだ」


 空の映像に映るピエトロはつまらなさそうに呟いた。



「じゃあベヒーモス様が来るまでの余興はこの子だ!」



 ピエトロの言葉と共に空から急降下してくる竜がいた。

 城と同じくらい巨大な竜がやってきた。


「ぐっ……風が!?」



 領主がいる付近に降り立ったため、舞い上がる風のせいで領主は騎獣から吹き飛ばされた。


「アビ!」



 護衛騎士のジェラルドがどうにか救出して彼女を救い出す。



「強いよ、強いよ! だってベヒーモス様が直々に作られた聖霊ニーズヘッグ様だもん! あははははは!」


 赤い竜ニーズヘッグが大きな雄叫びをあげる。



「グオオオオオ!」



 その声は俺たち人間の恐怖心を煽る雄叫びだった。

 そして大きく息を吸い込んで、口から火炎の玉を吐き出した。



「「う、うわあああ!」」



 何人かの騎士が喰らってしまい、火炎の玉は山の一部を削り取っていた。

 騎士達から恐怖がどんどん伝染していった。



「おい、ラウル! あの竜はお前で倒せるんだろうな!」



 オリハルコン級のお前が勝てないのなら誰も勝てない。

 勝てると言ってほしかった。

 しかしその言葉は返ってこない。

 何故なら、ラウルがいなくなっていたからだ。


「あいつ、逃げたのか!?」


 俺はラウルの姿を探したが見つからない。

 絶望的な状況に必死に頭を働かせる。

 その時大きな雄叫びが聞こえた。



「はははは! 面白え! 神様をぶん殴れるんだろ!」



 ニーズヘッグへ挑むのは海賊王ウィリアムだった。

 得意の拳で顔面を思いっきり殴った。


「グオオオオ!」


 ニーズヘッグの巨大が空の上で傾いた。

 それだけウィリアムの一撃が強烈だったのだろう。

 さらに──。



「グングニルよ、邪竜の使徒を討て!」


 いつの間にかラウルもニーズヘッグに迫っており、魔力で巨大化させた大槍がニーズヘッグにぶっ刺さった。



「ギャオオオオオン!」



 ニーズヘッグもグングニルの一撃は堪えるようで悲鳴に近い声を上げた。

 そしてその大槍に飛び乗った二つの影が見える。



「ヴィー! 傷口を広げて!」

「うん!」



 フェニルとサリチルに偽装したヴァイオレットが走っている。

 ヴァイオレットが短剣を手に取って、竜の鱗を削ぎ落としていく。

 早業すぎてニーズヘッグも逃げる暇がない。


「一騎当千、竜殺し!」


 フェニルは手にどデカい大剣を出現させてニーズヘッグへと突き刺した。


「グオおおおお!」


 さらにフェニルは上へと剣を振り上げて、ニーズヘッグの頭まで切り裂いた。


「グオ……ォ」



 ニーズヘッグは絶命して、その場に倒れ落ちていった。

 まさか聖霊がこれほどあっけなく倒すとは、嬉しい誤算だ。

 ラウルはすかさず怯えている騎士達へ宣言する。


「騎士達よ! 我らが前に出る! この戦いは負け戦ではない! 剣聖が来るまでの持久戦だ! 戦え!」



 ラウルの一言によって騎士達は自分たちの剣を振り上げて喝采をあげる。

 聖霊を簡単に倒したことで、一気に士気が回復したのだ。


「ニーズヘッグ様が、ニーズヘッグ様が──!」


 宣教師ピエトロは口に指を入れて信じられないという顔をする。

 おそらくは相手にとっても誤算だったのだろう。

 オリハルコン級の戦士が四人いることがどれほど凄いのかを。

 フェニルが大剣を空に浮かぶピエトロへと向けた。


「次は君でいいのかな? もしかして邪竜教の神も大したことないのかもね」



 フェニルの言葉がピエトロのプライドを傷付けたようで、ピエトロは怒りで歯を強く噛んでいた。


「加護に頼っているだけのくせに、くせに!」



 ピエトロの姿はまだ見えず、どこにいるのか見つけねならない。

 しかしその時間はなかった。


「あは、あはははは!」


 ピエトロは突然笑い声をあげた。


「カッコつけちゃってさ! どうせ、どうせ、もう全部終わるんだよ! だってほら──」


 遠くの方から砂煙が迫ってきていた。

 いや、それはただの砂煙ではない。

 砂煙の前を象と竜の二つの顔を持つ二頭竜が走っていた。

 ニーズヘッグと同じくらい巨大で、なおかつ砂煙を後ろに出すほどの脚力でどんどん迫っているのだ。


 本物の災厄が──。



「勝てるものなら勝ってみろよ! 陸の魔王ベヒーモスによ!」



 三大災厄と呼ばれる陸の魔王がとうとう姿を表した。

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