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側仕えと決別

 光が間近まで迫ってきていた。

 ゆっくりと時間が遅く感じるが、体もまたゆっくりと動く。

 死が目前に迫ってくる。


 バチッ。


 私の頭の上に光が当たった直後に何かに当たった音が聞こえた。

 指に付けていた指輪が壊れる感触もあった。


「ィ──ッ!」


 頭から滑り込んで光が落ちるはずだった場所から離れた。

 そして私がいたところはそのまま光が勢いを取り戻して大穴を空けた。



「はぁはぁ……」



 背中から悪寒を感じた。

 レーシュからもらった指輪が守ってくれなければ今の一撃でやられていた。

 少し離れたところにいるシルヴェストルが「大丈夫か!」と私へ心配の声をあげた。

 私は目を離しては危ないと神使へ意識を集中させた。



「ほう……最高神の力をほんの刹那とはいえ防ぐとは良い魔道具を身に付けていたようじゃな、だが──」



 神使は軽く目配せを隣の騎士にする。

 神国最強の神官、槍兵の勇者ラウルが槍を私へ向けた。


「このような形でエステルさんを相手したくありませんでしたが、どうか大人しくしてくだされば後で解放いたします」



 ラウルは命令だからか本意ではない気がした。

 だがここで退いてはコランダムを神国へ奪われ、この邪竜教の集落も危ない。

 そして領主もまた無事では済まないだろう。



「待ってください、神使様! 悪いのは邪竜なんでしょ! コランダムも仕方なく──」



 神使の手が私へ向けられると、手の先がバチバチと光を放つ。

 また魔法を放とうとしているのに気付き、体が勝手に回避行動を取ってくれた。

 直線の光が私の立っていた場所を通り過ぎていく。



「やめて! ここで魔力を使ったら魔物が寄ってくるんでしょ!」

「心配はいらん。これは最高神の加護の力だ。魔法とは違う。じゃが、私では相手するのは厳しいの。ラウルよ、加減するでないぞ。その前に……」


 神使は私を置いて、カサンドラへ目を向けた。



「ラウル、その娘も危険じゃ。どちらも行動不能にしろ」

「はっ!」



 ラウルの姿が一瞬で消えた。

 いや、腰を屈めて走り出したことで目が追いつかなかったのだ。



「くっ!」



 カサンドラは剣をラウルに振るうが、ラウルの槍捌きが剣を受け流し、無防備になったカサンドラの腹に掌底を放った。


「うっ……」


 一発で崩れ落ちたカサンドラをそのままに、次は私の番だとラウルが動き出す。

 このままでやられてしまうと体が自然に血流を加速させ、足へ力を集中させた。


「華演舞!」



 体が軽やかになり、レーシュからもらった身体能力を上げる指輪のおかげで今出せる最大速度でラウルを翻弄しようとした。

 だが──。


「天の支柱!」



 ラウルは地面に大きく振りかぶった槍を打ち付けると、衝撃波が私の全身を打った。

 全方位の攻撃に速さが意味をなさなかったのだ。


「ぐっ──!?」


 吹き飛ばされた私は痛みを我慢して、すぐさま立ち上がった。

 だがもうすでに目の前までラウルが迫ってきていた。

 槍を持っていない左の拳が私の腹へ放たれようとしていた。

 カサンドラと同じく気絶させようとしているのだろう。

 剣を腹の前に出して彼の拳を受け止めるが、細腕から信じられない力でまた吹き飛ばされた。

 地面を何度も跳ねてやっと止まれた。


「痛い……けど、まだ動く……」



 シグルーンとブリュンヒルデは神使に逆らうことはできないためか、この光景を黙ってみているしかない。

 誰の協力も期待できない。



「コランダムよ、其方は弁明はないのか?」

「ございません」

「そうか、それなら家族諸共、最高神への還るがよい。その後にアビ・ローゼンブルグも送ってやろう」


 神国の騎士たちがコランダムを取り囲み、腕を縄で縛り上げた。

 一切の抵抗をせずに終わってしまった。

 コランダムはそのまま連れて行かれようとする。

 全てを諦めた、そんな顔だった。



「待てえええ!」



 私は大声をあげて止めようとした。

 だが私の呼び止めを誰も聞きはしない。

 そんな時に神使の体が光り輝き始めた。


「これは……最高神が私の身体を……」


 神使は片膝を付いて、少し苦しそうな顔をした。



「神使様!」



 ラウルが駆け寄ろうとしたが、神使が手で制した。


「心配はいらん。最高神が何かをしようとなさっているだけだ。しかし一体何を──」



 神使の体がさらに光り輝き、私は直視が出来ずに目を瞑ってしまった。

 やっと光が収まってきた気がして目を開けると、そこは先程の場所とは違った。

 見渡す限りの草原が広がっていた。


「ここは何?」



 辺りを振り返るが私以外は誰もいない。

 少し歩くとたくさんの畑がいくつもあり、農作業をする農民たちがそこにはいた。

 元々農民だった私はその光景に懐かしくなり、そこで自分の目を疑ってしまう意外な人物を見つけてしまった。



「コランダム様、今年も実りは良いです」

「ふむ、確かにな。この地は其方たちの働きのおかげで豊かでいられるのだ。本当に感謝をしておる」



 コランダムの和やかな顔はこれまでの仏頂面とは違った。

 別の女性の農民が抱き抱えている赤ちゃんをコランダムが抱き抱えた。

 すると赤ちゃんはお母さんから離されたことで泣き始めた。


「ははは、あやすのは上手くなれんな」


 コランダムは笑い、村人たちもつられて笑顔になっていた。


 突如として夕方になった。

 目の前にある畑は全て消え去り、残るのは辺り一面の大穴と砂地だけだ。

 そして私が前に見た陸の魔王ベヒーモスが大きな雄叫びをあげている姿だ。

 コランダムは膝をついて陸の魔王の後ろ姿を見ている。


「すまない、みんな……」


 たくさんの騎士たちが倒れている。

 ほとんど五体満足といえず、生き残っているのはコランダムを含めて数人しかいない。

 無数の魔物たちが陸の魔王の後ろを付いていくように北上していく。



 場所が変わり、コランダムの屋敷へと貴族達が集まっていた。

 そこにはシグルーンのお父さんや私たちを苦しめた領主の側近だったジギタリスやジールバンがいた。

 ジギタリスはコランダムへ弾んだ声を出した。


「ナビ・コランダム、これは神の思し召しだ。魔力さえ奉納すれば守ってもらえるんだ、逆によかったではないか」


 その言葉にシグルーンのお父さんが眼鏡の奥の眼光を鋭く光らせた。


「無礼ですよ、ジギタリス殿。これは早急にアビに報告するべきです! 邪竜教に民を堕としてしまってはもう本当に後戻りができません!」


 コランダムは悩んだ様子だったが、ジギタリスは甘い言葉を囁く。


「そんなことをすればコランダムは終わりですよ。邪竜に魔力を捧げなければ領地が滅ぼされる。ですが、領主に知られなければ今の平和は保たれるのですから」

「新しいアビは聡明なお方です。見事内乱を鎮めた手腕を知らぬわけがないでしょ!」

「ふんっ、あんな小娘なんぞに希望を抱くだけ無駄ですよ」


 ジギタリスは口をニヤリと気持ち悪くあげた。


「もしやナビ・エーデルはご自身の娘がこの件でアビの側近候補から外れるのが恐くて仰っているのですが?」

「何を馬鹿なことを……」


 シグルーンのお父さんは剣を抜き出して、ジギタリスへ向けようとしたがジールバンがそれを止める。



「まあまあ兄者、落ち着いてください。ジギタリス様も長旅で疲れておいででしょうから、この後で私の家で歓迎させてくださいませ」

「お、おう、そうか!」



 シグルーンのお父さんの剣幕に圧されて、ジギタリスの提案に乗って二人で部屋を出て行こうとする。

 そして去り際にボソッと呟いた。


「まあ私はどちらでもいいですがね。ですが、浅慮で全てを失うことがありませんように」


 残されたコランダムとシグルーンのお父さんだったが、またもや別の来訪者がやってきた。


「おお、ナビ・コランダム! 聞いたぞ! 陸の魔王が現れたんだってな!」


 ブリュンヒルデのお父さんもまたタイミング良く来訪したようだ。

 返事をするのはシグルーンのお父さんだった。


「なんの用だ、ナビ・ベルクムント?」

「何だとはひどいな、ナビ・エーギル。お前はずっと仏頂面でいかん。おっとそうだ、ナビ・コランダム。そちらの領地に溢れた魔物を退治してやるぞ。その代わりこっちは内乱のせいで魔力が足りなくて仕方がない。助けてやるからこっちに魔力を多く配分してくれるだけでいいぞ! タダ飯食らいの平民がたくさん居なくなって余ってしょうがないんだろ? 陸の魔王さまさまだな! ガハハ!」


 ここでも空気を読まないブリュンヒルデのお父さんにコランダムが腰の剣を抜いた。

 顔は怒気で赤くなっており、ブリュンヒルデのお父さんも急な変化に驚いていた。


「失せろ! 私がお前を殺してしまわないうちにな!」

「お、おい! 何を怒っているんだ……私が助けてやるって言っているんだぞ?」


 コランダムの剣がブリュンヒルデのお父さんの頬を掠めた。


「そうかよ! こっちは善意で助けてやろうとしたのにそういう態度を取るのか? もし魔物が現れても、スマラカタ派閥は一切手出しできぬようにしてやるからな!」



 完全に決別した様子で、ブリュンヒルデのお父さんは帰っていく。

 シグルーンのお父さんは心配そうにコランダムの顔を覗き見た。


「あんな小物に心を動かされてはなりません」

「分かっておる」

「私も出来る限りサポートしますので、どうか早まった考えだけはおやめください」

「私は邪竜と手を結ぶ。もうこれしか方法はない。密告したければ好きにしろ。誰か、この者を追い出せ!」

「なっ! お待ちください! くっ、離せ!」



 コランダムはシグルーンのお父さんの止める手を振り解いて、近衛兵に命令して追い出すのだった。

 そして雨が降る日に変わり、部屋には邪竜教の宣教師ピエトロが前と同じく道化師の格好でソファーに座っていた。


「ベヒーモス様から話聞いたよ!」

「お前が噂のピエトロか……」

「あっ、僕もしかして有名人? 有名人?」



 まるで歌でも歌いそうなほどご機嫌なピエトロにコランダムは苛立ちながら尋ねる。


「魔力の件だが少し待ってほしい。今は内乱が終わったばかりで魔力が足りない。必ず用意するから──」

「嫌だなー、神様が待てるわけないじゃないか?」



 ピエトロはコランダムの首元へ鎌をそえた。

 少しでも動かせば首が刎ねられてしまうだろう。


「魔力なんてそこらへんの人間でもいいんだよ? 貴族の数が少なくても平民なら一日十人も奉納すれば貴族一人分くらいにはなるでしょ?」

「それは……」

「君は忙しいでしょ? 僕が全部やってあげてもいいよ! この土地の者たちを順番に捧げていくから!」


 ピエトロの悪魔の提案にコランダムは慌てて止めようとした。


「ま、待て! 私が必ず準備する! だから何もしないでくれ!」

「そう……でも忘れないでね。一日でも約束の奉納日を過ぎたら、ベヒーモス様が滅ぼしに来るから……アハ、ハハハ!」



 ピエトロは愉快そうに高笑いをする。

 そこで先ほどまでの光景が消え去り、元の場所に戻っていた。

 神使も光は消え去り、首を傾げていた。



「一体何じゃったのだ?」



 神使には先ほどまでの光景が見えていなかったようで、他の者たちも特に変わったところはない。

 私だけその光景を見たようだった。



「まあよい。ラウルよ、エステルを捕まえよ」

「はっ!」


 状況は変わらず、ラウルは槍をこちらへ向ける。

 このままではコランダムも領主も全て助からない。


「コランダム! 神使様に言いなさいよ! 全部邪竜が悪いって! どうしようもなかったんでしょ!」



 先ほど見たコランダムの過去は誰であろうともそうせざるなかったはずだ。

 もちろんこれまで犯した罪が無くなるわけではないが、それでも酌量の余地はあるはずだ。

 しかしコランダムは小さく呟くだけだ。


「お前に何が分かる……どうせ何をやっても意味がなかったんだ」


 私はその言葉が気に食わなかった。

 無意識に体が動き、コランダムへ走り出した。



「行かせません!」


 ラウルが私の行く道を立ち塞がった。

 槍が私を薙ぎ払おうと横から迫った。


「邪魔よ!」


 体が勝手にスレスレで避けてくれた。

 ラウルの横を通り抜け、コランダムのところまで走った。



「コランダムを守れ!」


 コランダムを連れて行こうとした神官たちが剣を抜いて私へ攻撃するが、ラウルと違い強くないため、峰打ちで切れ目なく倒していく。


「うおっ!?」


 私はコランダムを押し倒して目が合った。


「ぐぬぬ、何をする!」

「あんたこそ!」


 ラウルの強烈な気配が目前まで迫ってきているのを感じた。

 時間がない私に出来ることは少ない。


「レーシュは……諦めなかったぞ!」



 コランダムの目が揺れた。

 だがそれでもまだ足りない。

 彼の心の底には届いていない。

 一度彼は陸の魔王に心を折られてしまっている。


 私はコランダムを離して、ラウルへ向きなおった。



「ラウル様、どうしてもコランダムを連れていきますか?」

「最高神を裏切った者を逃せば、信者たちの信仰に影響が出ます。この時代は規律がなければ立ち行かないのです」



 何を言っても無駄ということだ。

 再度神使へも目を向けた。



「私に何を言っても無駄じゃよ。邪竜教がいる限り、どんどん邪竜に魔力が奪われる。今はまだ最高神の力が優勢でもいずれその限りではなくなる。悪い芽を摘まなければ、今よりもひどい時代がやってくるじゃろう」

「それなら早く邪竜を倒してよ。何も守ってくれない神様なら最初から居ない方がましじゃない」


 私の言葉に神使だけではなく、他の神官たちも眉を顰めた。


「最高神の偉大さも分からぬか!」

「これまでの恵みも自分たちのおかげだと勘違いしているのだろう」

「ラウル様、どうかこの者に正しい教えを!」



 私への野次がどんどん広がっていく。

 だが私にはそんなのはそよ風のように感じられた。


「エステルよ、私の前で最高神を(けな)すのなら覚悟は出来ているのだろうな?」


 神使が手のひらに光を集めて私へ向ける。



「そうやって自分たちより弱い相手に吠えるだけなら好きにしなさい。私も最初から間違っていたわ。あんたたちみたいな弱虫に頼るくらいなら最初から私がやればよかった。剣を振る気がないあんたたちに誰かを罰する資格はないわ」

「もうその撤回はさせんぞ!」


 神使の手からこれまで以上に大きな光が放たれた。逃げることはできない。

 私は持っている剣の重さを変えていく。

 邪竜教から奪った剣はまるで大岩を持っているかのように重い。

 だがどうしてかこの剣は私には軽く感じられた。

 おそらくはそれが私の加護“剣”のおかげだろう。


「第二の型“(なずな)”!」


 光へ向けて剣を振るう。

 そこから斬撃が飛び光とぶつかった。


「なっ!? 光を切り裂くじゃと!?」


 斬撃が光を裂いて神使まで到達しようとしていた。どんなものでも弱い場所がある。

 私は感覚でその弱い点をすぐに見つけることができるので、神の如き力があってもそれを使う者が弱ければ私が必ず勝つだろう。


「神使様!」



 ラウルがすぐに神使の前に立って私の斬撃を槍で振り払った。

 主を狙われたことでラウルの迷いも無くなっているようだった。


「エステルさんおやめください。もし貴女が戦おうとすれば、モルドレッドもまた連座せねばなりません。それは本意ではないはずです。貴女は少しの間、監禁されるでしょうが、私がなるべく早くあの男の下へ帰られるように──」


 ラウルの言葉が終わらぬうちに距離を詰めてお互いの武器が何合もぶつかり合った。


「エステルさん! ヤケになっては──ッ!」

「ラウル様、勘違い……しないでくださいッ!」



 お互いに距離を一旦空けた。

 私は全身の血流を加速させる。



「レーシュを狙うなら狙ってみなさい。私が全て守る」


 ラウルのわずかな動きを見逃さないように意識を張り詰めていく。



「エステル、お前の優しさは美徳かもしれんが、それは付け込まれる隙になるじゃろう。ラウルとすでに互角に戦える其方はいずれ第四の災厄になる。ここで消さねばいずれ神国に災いを及ぼすだろう。ラウルよ、あやつを消せ」

「しかし……」

「ラウル! これは命令じゃ! エステルがレイラ・ローゼンブルクの元へ行ってから、最高神があの女を危険視している。神の憂いは晴らさねばならん」


 神使はラウルへ有無を言わさぬ気迫で命令した。

 決心が固い神使の言葉をラウルもまた従うようだった。

 お互いに走り出して、お互いの武器がぶつかり合った。

 威力も速さも互角、ぶつかるたびにお互いの体に生傷が増えていく。


「どんどん速くなってる……これは遊んでいる場合ではありませんね!」



 そうラウルが言っているが、まだまだ私の速さはラウルに追いついていない。

 レーシュからもらった指輪のおかげで身体能力が上がっているが、魔法を使っていないラウルに押されているのだ。

 もしここが魔法が使える場所だったら簡単に決着が着いていたかもしれない。



「聞かせてください……どうしてそこまであの男を守ろうとするのですか」

「本気で言っているの?」



 私の中の怒りが燃え上がり、ラウルの槍を弾いた。

 しかしすぐに体勢を整えて、出来た隙も無くなってしまった。

 ラウルは槍を振りかぶって私へ振り落とそうとする。

 その時、私は剣を手放した。


「なっ……」


 無防備な者に攻撃するのを躊躇ったのか、大きな隙を作ってくれた。

 だが私は戦いを諦めたのではなく、彼の襟元を掴みたかっただけだ。

 思いっきり引っ張って私は頭を引いて思いっきり頭突きをした。



「ぐっ……ぁ」


 ラウルは思わぬ一撃で苦悶の声をあげた。

 槍が振られたので無理に追撃せずに後ろに下がった。

 私も額が痛いが、ラウルも同じくらいのダメージは入ったはずだ。


「コランダムは守るべき人のためにああするしかなかった」


 コランダムの生き残る道はあれしかなかっただろう。

 結果的に最悪な方向へ進んでしまったが、それでもまだやり直せるはずだ。

 しかし神使はそう思ってはおらず、私の言葉を嘲笑うようだった。


「だから許せというのか? その者たちが何をしているのか知らぬから──」

「罪を償うべきよ。たくさんの罪の無い人たちを勝手に生贄にして、知らぬ顔で生きていくことは私も許さない!」


 私は剣を神使へ向けた。

 そしてコランダム、ラウル、神国の神官たちを順番に見た。


「覚悟はすることね。もし邪竜を恐れて、それ以外へ攻撃するなら、私は喜んであなた達にとってのもう一つの災厄になってあげるわ」



 神使が小さな悲鳴を上げて尻もちをついた。

 だが誰も神使を起こそうとはせず、私をジーッと息を呑んで動こうとはしなかった。

 ただ一人、槍兵の勇者を除いて──。


「モルドレッドにも前に言いましたが……」


 ラウルは懐から何かを取り出した。


「今の私に勝てない貴女では陸の魔王は到底勝てません。その甘い幻想を突き破りましょう」


 彼の手に大きな赤い槍が出現した。

 ラウルの最強武器であるグングニルだ。

 本気で私を倒そうと彼の目が据わった。

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