Pre.7
数日後、兄妹に隣人が現れる。彼もまた、この街に来て日が浅いのだという。
「いいものですね。通りのほうは賑やかですが、ここらは落ち着いていますから。そして遠すぎもしない。」
「ええ、そうですね。」
「誰も他人の私生活に干渉することはない!」
男は声を荒げ、興奮気味にそう叫んだ。
「おっと失礼。ともかく、私はこの街を気に入ってしまいました。隣人としてお互い仲良くしましょうね。」
いずれにせよ、この街では初めてのことであった。隣人であるというだけで挨拶を交わす、ということはなかったのだ。私たちがそうしなかったということはなかったが、人々は関心を示さなかった。ただ、「はぁ」とだけ返しただけであったし、その後交流が生まれることはなかった。
私はこの風変わりな隣人を好感を持って迎えたが、妹は強く警戒した。
「胡散臭いよ、そんな人間。お兄ちゃんは人がよすぎるよ。」
そう、ぶつぶつと言葉を垂らした。
彼らは兄妹であるとしていたが、それにしてはあまりにもいびつな関係であるように映った。
互いを見るその目は兄妹のそれなどではない。もっと慈しむべき存在、つまりは人生におけるパートナー、夫婦に近いものに見えたのだ。一体どうしてそう思えたのかはわからない。もっとも、それを、共に同じ家で生活し、互いに支え合う存在であると定義した場合、男には線を引くことなど不可能であった。
いずれにせよ、試みの第一段階が成功したことには違いなかった。案の定だが、挨拶に反応したのはあの男女のみであった。やはり誰も関心を抱かない。
「実は家を持ったんだ。」
馴染みの店主へそう洩らす。店主は、それはめでたいとだけ言うと、なにも疑念を抱くことなく会話を終えてしまった。嘆かしいことに、彼もまた男を富をもたらす客としてしか認知していないのだ。