Pre.5
山を下り終え、森を抜けた頃には日はずいぶんと傾いていた。日が沈む前に村を見つけ、どうにか寝床を得ることができた。質素な、不慣れな寝床であったが、疲れ果てた我々には些細な違いでしかなかった。
翌日、礼を言って村を後にする。そんな日が3日続き、海が見えた。
「本当に青いんだな。」
ずっと内陸で過ごしてきた私たちには海は話の中のものであった。そのために実在すること、目の前にあることに驚きを隠せない。
「深い縁はあるよ、見知らぬものなんかじゃない。」
妹はしばらく海を眺めた後、そう、ポツリと呟いた。私が覚えていないだけで、昔訪れたことでもあったのだろうか。
海岸に鳥が群がっている。妹がいうに、海に潜り、魚を捕るのだというのだから不思議なものだ。
港街は交易が盛んで発展しているとは聞いていたが、自らの治める街にそれなりに自信を持っていたためにその規模には驚かされた。建物は大きく、人や物資の流れは速い。一度妹から離れてしまえばたちまちはるか遠くにまで流されてしまいそうだ。しかし、妹はそんな中を難なく進んでいく。
あるところで通りから外れると、街並みががらりと変わる。人は少なく、通りほど華やかではない。それでも中小規模の店は並ぶ。表通りとはまた違う、気を惹かれるような品々が並ぶ中をやはり妹は興味なさげに過ぎてゆく。
やがて少しばかり古式の家のドアに鍵を差し込み、開けた。どうして妹がこのような場所にある家の鍵を持っているのだろうか。そんな疑問を抱くも、入ってという妹の言葉に従う。
「しばらく空けてたから色々と湧いてるだろうし掃除も必要だけど、まず休みたいでしょ。」
そう言うと比較的綺麗な椅子を探し出し、座るよう促す。
どういうことだ、そう尋ねる前に妹が口を開く。
「ここは私たちの持ち物だし、そのことには誰も何にも言えないよ。
でも、お兄ちゃんは私に疑問を持っていてね。私を疑って、正せるのはお兄ちゃんだけだから。だけど細かいことまでは知らなくても大丈夫。これについてはそういうことだと受け入れてほしいかな。」
私は釈然としないまま、家の中を動き回る妹を眺めていた。