Pre.1
私たち兄妹は庶民の家に産まれ、両親の死後はその友人であったという地元の、いわゆる大地主に引き取られた。
内外において家族として特別に愛された我々のことを兄が快くは感じていなかったのは事実であっただろう。しかし、そうであっても彼は兄らしく振舞おうとしていたし、私たちの頼りにならねばと努力していたに違いなかった。
だが、事件は起こった。ある日の夜、妹が兄に迫られたのだと両親に泣きついた。兄は否定し、母の制止したが、冷静さを欠いた父は兄との縁を切った。おそらく全ては妹の嘘であったのだろうが、弁明は叶わず、私が長男となった。
事件から数カ月が経過した頃、父が倒れ、まもなくして母も倒れた。遺産は全て私たち兄妹のものとなり、私が地主として地域社会を治めることとなる。
この街のほぼ全てが私のものであるというのはどうも未だ腑に落ちない。それでも、だからと私が放棄でもすれば社会は崩壊するだろう。地主と、その土地を借りるもので構成される社会は頑丈なようで柔い。脆い人間がつくる社会がどうして頑丈であろうか。
それでも、相互に利益と安全を保障し合うことで、それなりには安定していた。幸いにも商業が発展しており十分以上の収入を得られたし、余剰な儲けは公共設備の整備に充てることとなっていた。それほど資金の使い道がない中においては、必要以上に持っているのは危険でしかなかった。事実、人に妬まれ、襲われるという事件は時折耳にすることがあった。-それらは特に農村部、貧しい地帯での出来事であった。
家は妹に任せ、昼は街に出る。その日の人々の動向、作物の収量、売り上げ…。旅人は他地域の情報をもたらした。
人々は私を快く迎え、尊敬する。橋を整備してくださった、井戸を、水路を…。それは私自身ではなく、歴代の地主の功績によるものに違いなかった。果たして彼らは本当に私に敬意を抱いているのだろうか。彼らが富豪に媚びるだけなのか、言葉通りの人々なのかを判別できるほどの関係ではなかった。
そのようなことは重要でもなかった、我々は身を預け合って成立しているのだから。
家に戻ると妹が迎えてくれる。
ドアを開けると駆け寄ってくるこの愛らしい存在が、同時にたまらなく恐ろしく感じる。
間違いなく兄の件は嘘であったし、去りゆく兄を見る瞳は奇妙にも笑って見えた。
父母についても不審だった。父は兄のことを後悔し、母は妹を疑い、そしてその直後に立て続けに亡くなった。そして私は地主となり、妹と二人で生活している。偶然であろうが、どうも気味が悪かった。
そんな邪な考えを追いやり、そっと妹を引き離す。