第八十七話 シトカさんからのお願い
幸せな誕生日を終え、そろそろ次の町に移動するか考えていた二人は今日も冒険者ギルドに顔を出していた。
「【黒猫】さん、お願いがあるのだけど、ちょっとお話を聞いてもらっても良いかな?」
最近ギルドにいなかったシトカさんが話しかけてきた。
「お久しぶりですシトカさん。最近見かけなかったけど、元気でした?」
僕が返事をして、シトカさんの顔を見ると、少しやつれていた。
「元気と言えな元気なんだけど、ちょっと色々とがあって……。マスターは今は出てこられませんので……私からのお願いを聞いてもらえません?」
「どうしたの? 何か依頼? 僕とサクラはそろそろ旅に出ようと思っているから、長くかかるものでなければいいけど……」
そう僕に返事を返されたシトカさんは表情を曇らせた。
「長いのは無理か……。でも【黒猫】が入ったら早く終わるかもしれないから……」
何か込み入った話なのか……話し合いができるように個室に移動した。
そしてシトカさんから聞かされた話がこれである。
誰も受けてくれなかった【ゴブリンが増えているかもしれない】の調査は誰も受ける者がいなかったため、結局は冒険者ギルドで行うことになった。
その中でもシトカさん自身は調査が上手い人だった。
そしてシトカさん自身が今回調査した感じでは、ゴブリンの上位種が誕生しているのは確実なそうだ。
その為ゴブリンの勢力に押され、弱い魔物が今までより街道近くに出現している。
中にはオークと鉢合わせた馬車もあり、今回出現しているゴブリンの上位種は、かなりの高ランクな魔物と考えられる。
そして、オークが外に追いやられるほどとであれば、ゴブリンの集団も百匹単位か千匹に届くかもしれないという事だ。
ゴブリンとはいえ魔物。通常の人間は大人が数人がかりで一匹を討伐する魔物。
それが千匹いたとすると、ゴブリンの上位種がいなくとも、高ランクの冒険者を招集しなければならない。
出来るだけ広範囲の殲滅攻撃ができる高ランクの冒険者を集めることで、冒険者や街の人々の被害を抑えたいようだ。
まだ小さな町や村にも被害がない今の時点で、ゴブリンの拠点を殲滅する作戦を立てていると言う。
ギルマスのウールは今、そちらにかかりきりのため不在なそうだ。
「ん~、殲滅作戦ですか……参加したいですけど、目立つのは嫌ですね……。さすがに、この殲滅作戦で広範囲殲滅魔法を使うと、目立ちますよね……。サクラも目立たせたくないので……」
「普通にあなた達が行動すると目立つわよね……。それでも【黒猫】には参加してもらいたいんだけど、駄目かな?」
「駄目ではないけど、何か対策はないのかな? 人に被害が出ないようにしたいのはやまやまだけど、目立つか目立たないかなんだよね……。冒険者の集団になるでしょ? サクラだけでなくて、僕も嫌なんだよ、目立つのは……」
そう言われるとシトカさんも考えているようだ。
……僕も、誰かが犠牲になることは嫌なので考えた。サクラもその話を聞いて考えている。
……
……
何かを考えながら、サクラが口を開いた
「ねえシトカさん? 今回の作戦の参加者はだいぶ決まっているの?」
「ある程度の人選は済んでいます。参加が決まった冒険者もいます。」
「その中の一番強い人はどのランク?」
「Sランクパーティーが二つあります。」
「Sランクパーティーって、ゴブリンの集団にはどれくらいの戦力になるの?」
ちょっと考えてからシトカが話し出した。
「通常ゴブリンが千匹だったら、二パーティーで半分以上は殲滅できると思います。その後も勢いをつけて、残りのゴブリンにも攻撃を加えることが出来ると思います。ただ、他の冒険者にも被害は大きいと思います、数の暴力は強さ以上に危険ですから……」
「そう……勇者は今回は参加しないの?」
「今回は勇者様は残念ながら参戦できません。情報を国へ上げましたが、防衛であれば参戦するという事です。」
「じゃあ、今回予想されるゴブリンの上位種はどれくらい強いの?」
「おそらくゴブリンキングかゴブリンロードがいると思っています。キングはAランク、ロードはSランクです。ただ、ロード種は、その個体の経験により強さに変動があるりますので……。今回のゴブリンの発生がダンジョンでなく野生なので……。野生で現れた上位種の魔物は早めに討伐したいのです。経験するほど強くなり、時に進化するので……」
……
……
「わかったわ、参戦しましょうラウール。」
「それでいいのサクラ。目立ってしまうよ。」
「今回は仕方がないわ。ただ、この討伐依頼が終わったらもう出発してもいい?」
「それはいいけど……目立たない方法も考えておこうよ。」
「そうね……。シトカさん、作戦開始はいつになるの?」
「もう少し作戦を練り、戦力もまだ集めるので、もう一週間程度は必要です。」
「そう……わかった。じゃあサクラと僕達【黒猫】は参戦します。作戦日や、集合する日が決まったら教えてね。」
「ありがとうございます!! 心強いです。勇者様は表立って言いませんが、お二人を尊敬しているみたいですよ?」
そう言われた後にシトカさんとは別れた。
シトカさんはまじめな話になって、口調も丁寧になっていた。さすが冒険者ギルドの受付!
僕達は当日にどうやって目立たないか?
どうやって犠牲を少なくするかを考えていた。




