第八十五話 勇者とダンジョンボス
僕は覚醒したから結界魔法を解除した。
それから四人を起こし、全員起きてから朝食を摂り、攻略を再開した。今日の目標はボス部屋手前まで進むことにした。
「ぼにょごにょごにょ……ファイヤーランス!!」そう詠唱しヒミカは低階層よりも強い魔法を唱えている。
「はっ!」とグンジョウが複数のスライムを切りつけている。手数が増えてきている。
「でりゃ!」とダイチが力任せにスライムを叩き伏せている。
出来るだけ魔石を傷つけないよう倒している。
レベルがあるなら、レベルが上がったと思えるほど強くなっているように感じる。
「そろそろ僕達も戦おうか?僕もサクラも暇になってきちゃった。」
「もう少し待ってくれラウール。俺達がもっと苦戦するまでは三人でやらせてくれ。」
「んーーわかった。もう少し我慢する。」
そう言いながらも、ラウールの出番がなくいまま四十階まで到着し、目の前にはそこそこ大きい扉がある。
「この扉の大きさだと……中ボスだと思うから、三人とも油断しないでね。集団で来るか、強い個体が来るかわからないから。」
「わかったよラウール。」
そうグンジョウが返事をして剣を構え、後ろにヒミカ、一番前にダイチが位置取り門を開けた。
中ボスはそこそこ強い個体のスライムが溶けて、円盤状になった【ポイズンスライム】だった。
「三人とも、この個体は毒を飛ばしてきたはず……体にも毒があるから、自分の体に毒がつかないように気をつけて。もし毒の攻撃を受けたらすぐに言ってね。僕もサクラも回復できるから!」
「その時は頼む!」
そう返事をしたダイチはポイズンスライムに斬りかかる。
しかし攻撃を当てると体が飛び散り、ダイチは避けるために後ろに下がる必要があった。
「ダイチ! 下がってる間は私が!」
今まで詠唱していたのかすぐに「ファイヤーランス!」と火の槍を飛ばした。
火の槍が当たるとポイズンスライムの体は、少し小さくなる。
「僕も行くよ!」とグンジョウが魔法の後に斬りかかった。
三人が一緒にではなく、順番に切りかかることで、ポイズンスライムの体が小さくなってきた。
……
攻撃を繰り返していたが、小さくなったポイズンスライムはヒミカに向かって飛びかかった。
「きゃ!」
油断していたのか、腕が毒に触れてしまった。
それを見ていた僕はすぐに状態回復魔法と唱え治す。
「ありがとう! ラウール、助かったわ!」
そういってヒミカはまた詠唱を始めた。
「お願い!5連ファイヤーボール!」
スライムに向けて火の玉を飛ばす。
5つの火の玉が命中すると、ポイズンスライムは動きを停止した。
「やった~! 詠唱を少し変えて、イメージを強くもったらできた~!」
ヒミカは本番で成功させたみたいだ。
やはりヒミカにも小チートはやはりあるな……
ポイズンスライムの魔石はヒミカが記念に受け取った。
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その後も順調に攻略が進んだ。
ヒミカは後衛で、回復も出来るようになりたいと望み、僕とサクラにコツを聞いてきた。
魔法の練習をしながらも、四十八階まで到達した。
ここまででも成長した勇者達。
詠唱はもちろん必要だが、ダイチが魔法を使えるようになった。
てっきりグンジョウが先と思っていたが、大学まで進学した知識とイメージで、ダイチが魔法は一歩リードした。
初めての魔法は、水を指先に集めて飛ばす、ウォーターボール?だった。
「やったぜラウール! 俺も魔法が使えるようになった。水はなんとなくコツをつかんだから、このまま練習を続けるぜい。」
「おめでとうダイチ。ここからは、水の圧縮とか、飛ぶ早さとか、大きくしてみるとか工夫するといいよ。」
「おめでとう。私からの助言は、水が氷るイメージで、氷も使えるように練習したらいいと思うよ。」
「サクラもありがとうよ。だけど……一気に全部はできないぜ!」
良い笑顔で答えたダイチ……
その後ろで悔しそうな表情のグンジョウ……
「グンジョウもすぐだ! 俺でも出来たんだからな。お前が一番器用なんだから、一気に色々覚えるんじゃないか!ファイヤー?!……なんてな。」
「ありがとうダイチ! 悔しいけど頑張るよ!」
この勇者達とここまで一緒に来たが、好い人たちだ。
好ましくない勇者であれば距離を置くと考えていたが、今では今後も何かあったときには手を貸そうと思えた。
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そしていよいよ次の階にボスがいる。
ラージスライムはおそらく【黒猫】であれば余裕だが、勇者達はどうだろう?
どの程度のピンチで手を貸すか考えどころだな……
……怪我をした場合の回復役に徹するか……少しは削り役をするか?
「サクラは戦いたい?」
「そうでもないよ。なんか人数も増えて、キャンプをしているみたいで楽しかったし……。このまま勇者に任せてもいいよ。ラウールはどうしたいの?」
「僕も迷ってしまったから。削るか回復か……それとも何もしないか。」
「じゃあ今日はもう休むんだし、明日までに決めたらいいんじゃない?」
「そうだね。明日の朝起きて、一番初めに思い浮かべた役割をする。」
自分の役割は何と思い浮かべるだろうな……
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うーん、目が覚めた。
初めに思ったのは……魔法で削る役だ。だからサクラには回復役を任せよう。
僕はサクラと勇者三人にその役割分担で良いか聞いてみた。
「できるだけ俺達がにも経験を積ませてくれよ!グンジョウはどうだ?」
「僕も同じ。少しは手加減してね。」
「私も。ただ、魔法が被らないようにお願いねラウール。」
それを聞いたサクラも「私もいいよ。傷ついたら治すから、任せておいて! 危なければ、私も大鎌で参戦するよ!」と言ってくれた。
「「「サクラの大鎌は遠慮します!」」」
話し合いを終えた僕達は、ボス部屋の前まで進んだ。
「この先は通常ならラージスライムがボスとして待ち構えていて、変異種が出たと言う情報もないよ。だから一気に削っていこう! 攻撃あるのみ。ただ酸の攻撃は範囲、距離ともに普通のスライムより長いから気をつけて!」
「「「「はい!」」」」
ギギギギと門を開け僕達はボス部屋へ入った。
ボス部屋に入ってすぐに僕が魔法で風の刃を飛ばし、ラージスライムの体を削っていった。
それでもまだ高さ、幅共に二メートルは残っている。
「……これくらいで一旦任せるよ!」
僕は後ろに下がった。
そこへ詠唱を終えたヒミカが「ファイヤーランス連射!!」と三連続で火の槍をラージスライムに当てた。
その火の槍の後ろからはグンジョウが素早く移動し、ラージスライムに斬りつけた。今回のボスは毒の攻撃がないため、何度も斬りつけることに成功している。
ラージスライムは酸を広範囲に撒き散らそうとしたが、死角に回り込んでいたダイチが攻撃した。
ラージスライムの後ろで軽くジャンプし、上段から大剣を叩きつけた。
ラージスライムはその一撃で酸を床にばらまく。
そこへグンジョウが再度斬りかかり、僕の後方からはヒミカの詠唱が聞こえる。
「下がって二人とも! ファイヤーウォール!!」
そうヒミカが唱えると、炎の壁が出現し、ラージスライムめがけて進んでいく。
……
ラージスライムは炎の壁に体当たりで抵抗したが、体が蒸発し魔石だけが残された。
……
見事にダンジョンボスを倒した勇者達は「「「やった~!」」」と飛び跳ねて喜んでいる。
「初めてのダンジョンボス、倒したぜ!」
「やりました……これこそ異世界!」
「私が止めを刺したよ!ダイチもグンジョウもありがとう!魔法の使い方も上手くなってきた!」
「だけどラウールが始めにダメージを与えてくれなかったら、どうなっていたかはわからないな。」
そういってダイチは僕を見た。
「ん~、たぶん大丈夫だったよ。それでも怪我くらいはしたかもね! サクラが直ぐに治したろうけど。」
「うん!直ぐに治したよ。それでも痛かったと思うよ!」
……痛いのは嫌だった勇者三人は改めて僕達にお礼を言った。
そして目の前に出現した宝箱だが、僕が魔力を込めて罠はないか探ってみた。
「……罠は無いようだから、誰か宝箱を開けてみて。ちなみに、魔力を込めて宝箱を探ってみると、罠があるかわかるよ。あとで練習してみたら?」
僕のアドバイスを聞いたあと「私が開けたい!」とヒミカが宝箱を開けたいと立候補した。
特にダイチとグンジョウも反対はせず、ヒミカが宝箱を開けることになった。
……
「何が出るかなーーーエイ!」
カパッ!
宝箱からは…………杖が出てきた。
【炎の杖:火の魔法の威力を増強させる】
僕には杖の特殊効果がわかった。
しかしそれを教えると、自分のスキルがばれてしまうので……言わない。
杖の先に赤い宝石がはめ込まれている。
赤い宝石は、勇者のお披露目会でヒミカが装備していた杖の宝石よりも大きい。
「たぶん色からして、火の魔法の威力が上がったりするんでないかな。ヒミカがお披露目会で持っていた杖はどうだった?」
「あれは今言われたままで、火の魔法の威力が上がるものよ。今回のダンジョンに装備してくるには高価すぎた物だったの。」
「じゃあこれからはこれを自分の物にして使ったら?僕達の中で誰も杖を使う人がいないと思うし。」
その僕の言葉に反対する者はいなかった。
宝を手に入れ、転移陣で帰還するときは、勇者のテンションが最高潮に達した。
そして僕は……転移の魔法を覚えた……
何て事もなかった……
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無事にダンジョンを攻略し、街までの移動時は弱い魔物のみ出現し、特に苦戦もしなかった。
ニジュールに到着したところで勇者とは別れた。
勇者にはまた魔法を教えてほしいと言われ、一緒に依頼も受けたいと言われる程度には仲良くなった。
勇者と別れた僕とサクラは宿屋わかばに移動した。宿屋も満室になっていたというなく、同じ部屋をとることができた。
……
今後の予定を立てるために僕達は今食堂にいる。
「これからどうするラウール?もう少しここに留まる?」
「……もう少しで僕の誕生日だから、誕生日まではここにいてもいいかな。移動中に誕生日になってもいいんだけど、なんとなく街で迎えたい。」
「そうね。ラウールはもうすぐ誕生日だものね! 誕生日を祝ってから出発しようか!」
「じゃあ、この街には長くいるけど、もう少し楽しもう!」
この世界も地球と同じく、一時間、一週間、一月、一年であった。その呼び方は違うが数え方は一緒で、慣れた感覚で良かった。
ラウールは初めて時間の単位を覚えた時の事を思いだし、両親の数を教えている姿が目に浮かび、両親に会いたいと思ってしまった……




