第八十三話 勇者とダンジョン
色々と話してくれた勇者……いきなりこの世界に召喚され、元々いた世界に心残りはないのか僕は聞いてみた。
ダイチは大学を卒業して就職先が決まっり、入社式の会場に向かっている時に召喚された。
特にやりたい仕事があったわけでもなかった。とりあえず就職できるところを探し、て就職が決まった会社だった。
だからか仕事に対しての心残りはない。
人間関係も友達には会いたい気持ちはある。ただ人との新たな出会いも楽しめる性格で、これから人の輪を広げていければ良いと言う。
家族に会えないことは残念だが、自分は三男で下にもまだ兄弟がおり、自分がいなくなっても家はどうにでもなるだろうと言う。
ん~、さっぱりとした良い男だ。
ヒミカは高校を卒業し、専門学校に進学が決まっていた。
元の世界で学びたいことがあったが、こっちの世界でも魔法と言う興味が引かれるものがある。
人間関係もそんなに人付き合いもしていないかったから、自分がいなくなったところでその他大勢でしょと言う。
家族は兄がいて、兄にばかり構う親だったようで、逆に清々してるんでないかと言う。
冷静な良い女だ。
グンジョウはちょうど両親を事故で亡くし、途方に暮れていた状況だった。
遠くの親せきのところに引っ越したが、自分の居場所がないように思えていた。
だから特に違う世界で何処にいようとも、感じる気持ちは同じそうだ。
引き際の良い少年だ。
三人の事情を聞くと、特に本人達には召喚された事も問題がないように思える。
召喚した人がこれから豹変し、三人の考えが悪い方向に行かない限りは大丈夫かなと思える。
この三人と話して今の状況を考えると、少し強くなるために僕達が力を貸しても良いかもしれないと考えた。
「色々聞いたけど、僕達と一緒にダンジョンでも行ってみる?」
そう僕がダイチ達に言った時、僕達が座るテーブル席に、今までここの冒険者ギルドでは見たことのない、世紀末な格好をした四人組が近づいてきた。
「うおい! 勇者ってお前らか!? こんなひ弱そうなのが勇者だと! ぷっーー、俺と勝負してみろよ!!」
すると三人は吹き出してから声を揃えた。
「「「ようやくテンプレきたーー!!」」」と叫んでいた。
「ああん!何言ってやがる! うおい! やるか!? かかって来いよ!!」
いきなりかかって来いって……
どこの何さんだよ……
しかし、世紀末な人に他の冒険者から声がかかった。
「新顔! お前らやめておけ!その二人はやばいぞ!」
「あいつ【黒い悪魔】のつれに絡んでるぜ。」
「【黒猫】二人揃ってるぞ……瞬殺……」
「初めて見ることが出来るのか……【漆黒の翼】の漆黒の翼を……」
「この前ミノタウルスの変異種の黒を討伐したのはあいつらだろ?」
「俺はデーブンにくぎを刺されてるから、目も合わせないぜ!」
「普通数日かかるダンジョンも、あいつらなら一日だろ……格が違う……」
「あの絡んでるやつは誰だ?」
「最近来た……Dランクだかの奴だろ?」
「死んだな。」
僕達の噂と共に物騒な声が聞こえてくる。
最近は気軽に声をかけてくれるけど、戦闘力は認めてくれてるしねここの冒険者はね。
少しざわついていたが、ダイチがやっと口を開いた。
「ラウールとサクラって何者?」
サクラは口を開かない。
地面をじ~と見ている。
僕は今は半笑いな顔をしているだろう。
「僕はAランクのラウール。それでサクラはBランク。サクラの二つ名は【黒い悪魔】。ちょっとはしゃぎすぎて魔物の首を一狩り二狩り三狩りと一撃で首を落としてダンジョンを攻略していたからついちゃった二つ名なんだ。」
ぞわっ!!
勇者三人は「何この人達」と思ってしまった。
地面を向ていたサクラが怒りながら言葉を返してきた。
「ラウールだって【漆黒の翼】でしょ。八歳の時の威圧で魔力が黒い翼に見えて……いくつかの冒険者ギルドの冒険者を震え上がらせた……。Gランクで初めて二つ名がついた冒険者!人の事言えないでしょ!!」
ゾワっ!!
「こっちもこわっ!」と勇者三人は思った。
「そんな……サクラみたいに黒いローブに、大鎌で魔物に突撃していかないよ!!」
勇者は想像した……この人は死神……黒い髪で黒いローブで大鎌で……。サクラが追いかけてくる姿が目の前に浮かんだ……「うん怖い」なと三人は思った。
これくらいの口喧嘩は日常になってきた僕達は、最後は笑っていた。
そして笑った姿を見て絡んできた冒険者は、「すいませんでした!!」と言って、走って冒険者ギルドから出て行った。
絡んだ冒険者が出て行ったあとは、冒険者ギルドの中は普段の雰囲気に戻っていた。
そして勇者三人は小声で相談した。
ダンジョンに行ってみたかったが、騎士と行くのも味気ないから、この先輩冒険者が一緒に行ってくれないかと思えた。
冒険者なら、騎士よりもダンジョンに詳しいのではないかと言う考えも持っていた。
あんなにみんなに知られているのに、恐怖を与えていないという事は、良い人達なのではないかと思えた人物だ。
話し合いがまとまり、代表してダイチが話し始めた。
「ラウールとサクラ……俺達と一緒にダンジョンに行ってくれないか? 冒険者ギルドに登録したのは今日だけど、ランクの高い冒険者や騎士とは十分に戦えてるんだよ俺達……。だから……一緒に行って、俺達をより強くなるよう鍛えてくれないか?」
僕達ももう一度相談してから返事をした。
「いいよ。僕達【黒猫】が一緒に行こう。もし希望のダンジョンがあれば教えて。なければ僕たちが選ぶから。……それでいつ頃行く?」
「一度城に戻って報告するから、手紙で連絡するぜ。ダンジョンはちょっと考えさせてくれ。初めてのことだから……三人で決めたいんだ、記念にね!」
僕達はその後少し雑談をして、泊っている宿屋を教えた。
日程と場所が決まったら一緒に行こうという事に決めて……
~~~~~
今僕達は待ち合わせの場所に来ていた。
そこは……
冒険者ギルド……
いつもの場所だな……
勇者達は数日考えて、挑みたいダンジョンが決まったようだ。
ゴブリンが多いダンジョンか、スライムが多いダンジョンかを迷っていたようだけど……
何と……
今回は……
スライムだらけのダンジョンです。
ちょっとテンションが高くなって話し出すのを引っ張ってしまった。
ただ僕達もスライムはあまり討伐したことがなかった。
普通のスライムは出てくるけど、スライムの種類は詳しくない。
それで今回選んだダンジョンは、【スライムの楽園】。
スライムには詳しくない僕達もちょっと嬉しかった。
自分も知らないダンジョン。
どうせだったら、初めての方がいいよね。
その名の通り、スライムだらけのダンジョンの制覇を目指した。
このダンジョンは意外にランクが高く、攻略者が少ないダンジョンだ。
スライムは、高ランクになるほどダメージが与えられなくて苦戦する魔物だ。
「今日は頼むよラウール。俺達三人も、準備を整えてきた。」
ダイチは今までとは違い、貴重な魔物の革の素材の服を着ていた。
残りの勇者、ヒミカ、グンジョウ共に革装備だ。
ヒミカは地味な色のローブ。
グンジョウは地味な服。
それでも素材の良さは感じられる。
「僕達もあれは、儀式用に着てるんですよ。普段の装備はこんなのもですよ。僕は二刀流にあこがれて、この二本の剣で戦います。ダイチ、あっ僕たちはこっちでは呼び捨てって決めたのでダイチと呼びますが、ダイチは大剣です。ヒミカは魔法を使いたいと言うので、杖を使ってます。」
「へ~そうなんだ。じゃあ、僕達のことも呼び捨てで良いよ。僕もそうするし……もうダイチは初めから呼び捨てだしね。」
「悪いな、呼び捨てが普通だったから敬称を付けて呼ぶのに慣れなくてな。俺のこともダイチで頼む。」
「私もヒミカでね。私は後衛になると思うからよろしくね。」
「じゃあ私もサクラでね。私達はどの立ち位置でもいいから、フォローに回るわね。」
「へ~、ランクが高くなるとどっちも行けるのか? 俺なんかは超前衛だからな。ただ、狭いところは苦手だ。」
「僕も二刀流に慣れてないから、広いところでないと味方にあたるかもしれないから……僕から距離をとっててね。それでラウールの武器が初めから気になってたんだけど、刀だよねギルドで持ってたの?」
「刀?この武器はあまり見ることがないからね。僕は月光って呼んでるんだ。この片手剣もあるところにはあるよ。探してみたらーー欲しければ。」
「そうなんだ!今度探してみる。僕たちの世界だと、刀って呼んでて、二刀流っていったら刀なんだ。」
「へ~、僕はこれ一本だからやったことないや。今度見つけたら買ってみよっかな。」
そんな話をしながら、【スライムの楽園】に向かった。
スライムの楽園はここから歩いて半日くらいのところにあるので、ゆっくりと歩いて向かい、食事をとってから挑む予定だ。
そして、三人のペースに合わせると、三日程度は攻略に時間を費やすと思う。だからいつもの通り、アイテムボックスXには大量の食材が入っている。
勇者の三人も、アイテムポーチを持たされているようで、身軽な旅になりそうだ。ただ、討伐した魔物の素材まではあまり入らなそうなので、道中の魔物の素材は僕が担当することになる。
僕達はまだ自分の能力を明かしていない。アイテムボックスXについては、今後も話す予定はないので、上手く誤魔化すつもりだ。
門番さんに挨拶いて街から出た。
もちろん門番さんとはお互いに名乗っており、この街の情報が必要な時は、いつも聞きに来ていた。
スライムの迷宮までもう半分という所まで来て、魔物が現れた。やはりこの辺りは魔物の出現率が高い。
門番さんも最近魔物が増えていると心配していた。
ゴブリンが三匹で僕達が出るまでもないので、勇者三人に任せてみた。
ダイチは思ったより素早くて、早いスピードで駆け寄るとゴブリンに攻撃させる暇を与えず切り裂いていた。
グンジョウもゴブリンの傍に駆け寄ると、細かく攻撃を繰り返し、全く危なげなく倒していた。
ダイチとグンジョウがゴブリンを倒した後に、左右に分かれて残りのゴブリンと距離をとった時、ヒミカが「ファイヤーボール!」と唱えてゴブリンを焼き殺した。もちろん詠唱をしていてた。
この三人の実力であれば、情報通りなら三十五階層程度までは移動スピードも速そうだ。
五十階がボスだから、予定通りの日数で攻略できると考えた。
「三人とも強いね、さすが勇者。ここからまだ修行して強くなるんでしょ?Sランクの冒険者くらい強くなるんじゃない?どう思うサクラ?」
「そうね。勇者っていうだけあって、今でも強いわね。けどまだ私たちの方が強いかな?」
そうサクラに言われるとヒミカが口を開いた。
「この世界の人も強いものね。それでも私達はまだ戦いを知ったばかりなのよ。すぐに追いついてあげるわ。仮にも勇者だからね。」
「そうだぜ!この世界だと、魔物を倒していくほど強くなるんだろ。ゲームの世界みたいで不思議だぜ!」
「僕もゲームが好きだったから、この世界のシステムはワクワクするよ。できたらステータスが見れたらな~。鑑定の魔法って、物の名前はわかるけど、人の情報は全く分からないみたいだしね。ちょっと残念だったよ。」
ステータスって……確かに僕たちも自分のステータスしか見られないしね。
この世界のステータスやスキルは可能性や才能、技能の上手さが表されているしね。
数値もおよその平均値と自分の数値の比較になるしね。特定の人とは比べられないからこそ、慎重に行動するんだけどね。
そう僕は考えていた。
「へ~、そんな便利な能力があったら良いね。ただ、人の能力を一瞬でどうやって知るんだろうね?能力だけの世界だとそれでもいいんだろうけど、シチランジンでは聞いたことがないな。スキル?って、うまく使える技術のことかな?それもわかったら成長しやすいんだけどね。」
そう言いながら、ゴブリンの魔石を採取していた。
勇者もどうやってか、魔物とも戦ったこともあるし、解体の経験もあるみたいだ。
存在を隠していたのにどうやったかはあえて聞かない。
その後は何事もなくスライムの楽園まで到着し、食事を開始した。




