第八十一話 勇者召喚が……
勇者が召喚されたと言う話を聞かないまま、時間が過ぎていった。
ラウールはその間にキソに会うことに成功した。
キソはラウールを見るなり、サワーに「あの者を捕らえろ!」と言った。
ラウールは自分がやつあたりしたことが悪かったと考えていたので、動かずにいた。
サワーはラウールを縛ると、目隠しもしてきた。そして何をされるのか、処刑だけは許してほしいと言おうとしたその時……くすぐられた……
それはもう長時間……
ラウールはくすぐったいのもあり涙目になって謝った。
ラウールの中ではかなりの時間が経過したと思える時が経過し…………キソは目隠しを外してくれた。
そしてしっかりと目を開けると……キソは泣いていた。
キソは悪くない事柄で泣かせてしまったため、ラウールは精一杯謝った。
キソは優しい人だった。結局はお互いに謝罪合戦となり……最後は2人で大笑いし仲直りした。
そんな純粋な心に触れたラウールは……二度と同じことを繰り返さないと心とキソに誓った。
だからもう少しキソの側にいたいと、この街に留まろうと思った。
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なかなか勇者召喚の話が聞こえてこない……
あれから大分時間がたち、ウールと面談もした。
キソとも何度か会い、リバーシやチェスで対決もした。
カードゲームでは意外にサワーが強かった。
たまにキソと森に行き、野草の採取や肉を手に入れて喜んでいた。
キソは無事に学園行事の遠征も終わらせていた。
それだけ時間がたっても勇者召喚が成功したと言う噂もない。
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ラウール達はダンジョンや町の外の依頼も積極的にこなし、サクラはBランクの試験も受けた。
思った以上に時間が経過し、サクラがBランク試験も合格した。
ぐラウールは十六歳になる頃までここで過ごしていたところ、不意に『ファンフート・テザンが勇者を召喚した。もうすぐ訓練も終わり皆の前に現れる』というお触れが街にもたらされた。
「意外にこの言葉を聞くまで長かったねサクラ……こんなに待つとは思わなかったよ……。結局は上手く勇者の召喚を隠せていたんだね。」
「本当にそうよね。私なんて依頼をこなしすぎて、自分で想像していたよりも早くBランクに到達してしまったわ……」
「僕とランク……もう少しで……追い付かれるよ……」
「ウンウン、それよりも今は勇者ね。何人が召喚されたのかしら?」
「そう来るか……ウン、噂もないからね……。一人だけだったら、ある程度は強いと思うけど、召喚された勇者はこの世界で生活しても良いって本当に思ってるかな?」
「どうなんだろう? それでも訓練は受けたみたいだし……勇者にそんな無理も言わないと思うけど……どうやったら会えるかしら?」
「それについては僕はちょっと考えてるんだけど、サクラが良いなら協力してほしい。」
「それは内容によるけど、何か良い案があるの?」
「ん……何となく思い浮かんだんだけど……サクラの見た目は、完全にこの世界では浮いてるよね?」
「……そうね……日本人顔だから……。この街では長く生活していて、そんなに気にしている人もいなくなったけどね……」
「だから……危険もあるけど、勇者のお披露目の時に勇者から見える位置に立って……顔もそのままさらしてほしいんだ。それでサクラが危険になったら、僕が守るから……」
「……危険って……私も勇者って思われるってこと?」
「そんな感じ。勇者でなくても、何かの関係があるって思われるでしょ。それは貴族にだけでなくて、街の人にも……」
「そうね……街の人も勇者と同じような雰囲気の顔だとね……」
そうサクラは話して、不安そうな表情をした。
「でも……優先するのはサクラだよ! もし危険なら、転移してでも他の街……国まで逃げるよ。」
「……ありがとう……もし勇者が不幸なら助けになりたいし、自分も危険な目には極力会いたくないし……」
最後は二人で相談して決めた。
勇者の顔を見る……
勇者が不幸そうな顔をしていないか確認する……
いかにも乗り気なら、そのまま姿は見せない……
顔を見せてから誰も接触してこなければ、こちらからは積極的に動かない……
何かしらの情報は得る……
これらを行動目標として、いざとなったら全力を出し、転移でどこか遠くに逃げると決めた。
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国は勇者の情報を徐々に表に出してきていた。
勇者は三人……
勇者は黒髪……
勇者は様々な知識を持っている……
勇者は繁栄をもたらす……
勇者は短時間で戦闘力も飛躍的に上昇した……
勇者は召喚した者に忠誠を誓った……
勇者はファンフートに敵対する者を許さない……
勇者を得た者が次の教皇に相応しいと考えている……
キソからも貴族経由の情報を得ることができた。
貴族には先にお披露目をしていたようだ。
【一勇者は男:大きく体格もいい:Aランク冒険者との戦いも互角:二十歳位の見た目】
【二勇者は女:百六十センチ:痩せた体格:魔法が得意で大規模魔法を覚えた:二十歳位の見た目】
【三勇者は男の子:百五十センチ:中肉中背:目立った特徴はないが教わったことはできる:十二歳位の見た目】
一と二の勇者は口調こそ丁寧だが、皆を見下しているようだった。三勇者はおどおどしており、気弱な印象を受けた。
キソの話をまとめるとラウールとサクラは思った……お披露目はそろそろだと。
そしてラウールとサクラは二人で話し合った。
「サクラはここまでの話でどう思った?」
「ん~、よくわからないかな。気弱そうに見えても悪い人もいるし、態度がでかくても、実は不安で強がっている人もいるし。……やっぱり私が姿を見せるのがいいかな?」
「そうだよね…がこれくらいの情報だとね……。じゃあお披露目を待とうか!」
結局は二人はそう言う結論に達した。
そしてキソには良くしてもらっているから、今後事情があり「挨拶が出来ないまま旅立つことがある」かもしれないと伝えた。更に付け加えて、それでも後で正式に挨拶には行くと伝えた。
さあ、後はどうなるかな。
ラウールとサクラは今後の展開に不安を感じていた。




