第七十八話 ラウールのやつあたり
時間を無駄にしたと思ったラウールは、命を大事にと言う言葉を忘れ、Sランクボスのいるダンジョンにサクラと共に挑んだ……全力で挑んだ。
その結果全五十階のダンジョンを二日で攻略した。
ダンジョンボスは、オルトロスだった。
二首の地獄の犬……
強かったが鬱憤がたまっており、つい我を忘れて一撃で撃破した。
冒険者ギルドに戻ってきた時に、シトカから手紙を渡され、冷静さを取り戻したラウールとサクラはその手紙を読んだ。
『全然会いに来てくれないので、ぜひ待ち合わせをしたいです。返事は冒険者ギルドに取りに伺います。駄目ならまた手紙を送ります。 キソ。』
キソからの手紙だった。
……そして忘れていた。
この前サワーを見て気づいたが無視していた。
……権力を使う学園の教師にイライラしていたから。
「サクラはどうする?僕は会うだけならいいけど、何かお願いされるのはお断りだ。」
「私も! あの教師を見たら、良い貴族も嫌いになりそう! あの教師の立場が貴族か何かは知らないけど、嫌い! ああやって自分の立場を利用してくる人は。」
サクラも学園の教師に不信感を抱いていた。
ようやく良い貴族もいるのだと考え直し、キソは良い貴族だと思えていた。
しかし学園の教師の話を聞いて、良い貴族でもあの教師が教えているキソに距離を感じてしまっていた。
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ラウールは返事を書いた。
明日の朝なら冒険者ギルドの酒場で会えることを。
それ以外の場所であれば、会えないことを。
この手紙を今日中に届けてほしいと、冒険者ギルドに託した。
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次の日の朝、冒険者ギルドにラウールとサクラ、キソとサワーにウツカが酒場にいた。
「お久しぶりラウール!」
そうキソが声をかけてラウール達と同じ所に座った。
「お久しぶりですキソ様。お元気でしたか……」
「なんでそんなに他人行儀なの? もう少し砕けた口調で話してくれてたじゃないラウール……」
「そんなことはございませんよ。私はいつもこういった口調です。」
固い口調で話すラウール……
混乱するキソ……
「ラウール、何か怒ってるの?」
「いえ、キソ様を怒るなど、我々平民にできる事ではございません。気のせいではございませんか?」
「ではその話し方は何……そんな話し方なんてしなかったじゃない!?」
「権力がある方には丁寧に伝える必要があるでしょう? ウッド様みたいに言われても困りますから。キソ様も、学園の関係者ですから……生徒とはいえ……」
キソは目が泳いだ。
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「そんな……ウッド先生は……そんなことをしたのですね? ラウールがそんな態度になるような事を……」
「そうですね……私はあの教師みたいな人が大嫌いです。自分だけが正しい、自分だけが正義……自分のいう事を聞け!……そんな人が!!」
魔力が冒険者ギルド内に充満した……
冒険者ギルド内にうめき声があふれた……
目の前のキソも苦しそうにしているが、何かの魔道具を持っているのか、ぎりぎりのところで耐えている様子だ。
「……ご、めん、な……さい。」
キソの謝る声で、ラウールは魔力を抑えることが出来た。
「申し訳ありませんでした……これこそ罰せられますね……。今日はお引き取りください。」
そう告げると、ラウールはサクラの手を引いて冒険者ギルドを立ち去った。
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「ごめんサクラ……。僕は無理だ。なんで偉いと言われる人に我慢しないといけない!」
サクラは戸惑った……
ここまで感情を出しているラウールを見るのは初めてだった。
いつもは怒っても……どこかで線を引いて許してくれるラウール。
今回のラウールはいつもとは違う……
私はどうしたらいいの?
「ごめんね……僕の前世の気持ちを引きずっている言動だよきっと……。この感情は抑えられないし。」
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「立場、思い、個性は人それぞれ……。そういう思いに気づかず、自分の価値観だけ押し付けて来る人たち……。他の人は違う思いも持っていると想像もしない人……。そんな前世を思い出して、我慢がならなかった。強い人も、弱い人も……それぞれの人が違う価値観を持ち人生を送っている。その人の人生は、その人だけのものなのに……。その人が考えて、動いて、あがいて、一生懸命で……。だけど自分と違う価値観と違う価値観に沿った行動と言うだけで……それだけで頑張りも否定する。そんな前世の事を思い出してしまった……」
ラウールの闇は深かった……
これまで負の感情を表に出してこなかった分、前世のうん十年と今世のうん十年の鬱憤が溜まっていた。だから今回のラウールは頑なになっている。
サクラは聞くだけしかできなかった。
サクラも自分の感情を圧し殺し、前世の両親の思いを尊重していた……
サクラの人生も人に左右された人生だった。
自分の価値観を持つことが出来ない……最期だけが、自分の意思を表に出せた人生だった……
二人は今世こそ『なんとなく』生きて行きたいと言う思いを抱いている。
自分の価値観を否定されず、しかし全てが思い通りにはいかない……そんな難しい人生。
なんとなくは難しい……
しかしなんとなく……なんとなく。
適当ではなくなんとなく。
他人の正義を押し付けられない人生……
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キソはラウールとの関係について振り返った……
キソはラウールに手紙を書いた。
そして明日からは遠征だ。
近くの森だけど、『遠』と生徒は呼んでいる。
サワーに頼んだから今頃は、ラウール宛の手紙が冒険者ギルドに届いているはず……
ラウールが遠征に同行する冒険者だったらいいなーー
冒険者ギルドから戻ってきたサワーの口数が少ない……
何を聞いても答えてくれない……
遠征当日だ!
楽しみ~!
教室に入ると連絡事項あると言われ、今日の遠征は中止になったと聞いた……ナゼ?
授業開始の時間になると、教師が詳しい説明をしてくれた。
事前の打ち合わせに行った教師が、何かをしてしまって、冒険者ギルドから依頼を断られたと……
何をしてるんですか!
生徒の楽しみを奪って!
それでも遠征は必要な行事なので、再度日程を調整してくれるそうだ。
ただ冒険者ギルドは、学園の依頼を今後は受け付けないと教師から説明された。
さらに、学園に関わるもの全て……生徒の依頼にまで影響が及ぶようだ……
そこは学園長が直々に冒険者ギルドと交渉する事になっている。
出来る限り生徒には影響が及ばないようにお願いしてくれるそうだ。
そこまでの揉め事になるなんて……何をしてくれたんですか先生!
ラウールから会ってくれると返事があった。
久しぶりに会えるから……場所がどこでも、ウキウキしていた。
冒険者ギルドに入ると、まわりの冒険者全員から視線を感じた。
ラウールと話していても冷たい……距離を感じる……
ラウールの態度まで変わるなんて、どんなことがあったの?
落ち込んだまま冒険者ギルドを出て、サワーをもう一度問い詰めた。
すると、ウッド先生は冒険者を侮辱した……
受付の人に暴力を振るおうとした……
幸いサワーが止めたため、怪我はなかったようだが、冒険者達の怒りは収まらないのだろう……
そしておそらくラウールが来た方向から考えると、今回の依頼を一度は受けてくれていたのだろう……
実際に侮辱された中にラウールもいた……
その後は学園長の必死な謝罪もあり、学園の生徒には影響がないようにすると、冒険者ギルドから返事があった。
学園と教師については観察期間として、学園の評判を今後注視し、依頼受注停止の処分を解くか決めるそうだ。
ラウールともう一度普通に話はできるのかな?
寂しさが込み上げるキソであった……
そして数日後にラウールから謝罪の手紙が届いた。
『あの時はどうかしていた……許してもらえるならまた前みたいに気楽に話したい』と……
私は嬉しかった。この手紙には、自分勝手な人は嫌いと言ったけど、キソを嫌いなわけではないと書かれている。
最後には『本当に反省している』と……
ん~私が悲しくなった分、どんな仕返しをしてみようか?
次に会うのが楽しみになった、性格の良いキソだった。




