第七十七話 初めてみた依頼
今日もラウール達は冒険者ギルドに向かっていたが、二つ名についてどうなっているか気がかりだった。
しかし今さら対策を考えてもしょうがない……現実を受け入れようと思っている。
それでも思い気持ちのまま冒険者ギルドについたラウールは、思い切ってドアを開けた……
「「「「!!!!」」」」
冒険者ギルド全体がざわつき始めた……
もしかして、噂が大きくなっている!?
「あの子が【黒い悪魔】……」
「あの子が【漆黒の翼】……」
「【黒猫】の二人……」
「あの者と目を合わせるな、目を合わせた者は首を狩られると…………」
「あの者に害意を向けるな……一瞬で意識を刈り取られると……」
物騒な声があちらこちらから聞こえてきた。
なぜか僕達は魔物だけでなく、人間も攻撃すると思われている。
現実を受け入れようとしたが、流石に少し落ち込んでいると、受付の奥から誰かが話し出した。
「静かにしなさい。【黒猫】の噂はをするのは良いでしょう。しかし正しい情報をつかんで下さい。【黒猫】はこれまでの行動で、理不尽な行いはありません。人に感謝される行動をしてきています。このギルドで誤解を招く噂をする事を、私……ギルドマスターが許しません。」
冒険者ギルド内がざわめいた。
「あのギルマスが言うからには本当に良い事をしているんだろ。」
「あいつらは良い奴だ。」
「だれだ変な噂を流した奴は。」
「ギルマスの言う事を信じる!!」
「俺はデーブンから聞いた。」
「デーブン?……そいつが嘘の情報を流したのか?」
「ちょっと待て! デーブンはそんな事を言ってないぞ。デーブンは【漆黒の翼】を尊敬しているぞ!」
「じゃあ誰だ!! どこで情報を曲げやがった!!」
そういった声が聞こえる。
デーブンさん……ごめん、疑った……
更にギルマスは
「【黒猫】の二人は強い! 理不尽な事はしない。この私が保証する……以上だ!!」
そう言い残しギルマスは奥の部屋に戻っていった。
何が起こったかわからない僕は、シトカさんに事情を聞くために受付に向かった。
今の騒ぎで誰も受付に並んでいない。
「シトカさん……これってどうなってるの?」
そう聞いた僕にシトカさんは微笑みながら答えてくれた。
「ごめんなさいねラウールさん。物騒な噂がギルドで囁かれていたから、ギルマスに相談したの。そうしたらギルマス本人が動いてくれたの。ラウールさんの依頼達成時には、様々な人に感謝されているのは、冒険者ギルドでは把握しているのよ。前は悪い噂を消すことまではできなかったんだけど、Aランクになったから、冒険者ギルドも介入できる範囲が増えたの。」
僕はよくわからなかった……
ちょっと返事に困っていると、説明を続けてくれた。
「低ランク冒険者に冒険者ギルドが介入すると、贔屓をしていると思われるの。だから、冒険者に不利なことがあっても、噂される程度なら介入できないの。だけどAランク冒険者は、冒険者ギルドに多大な貢献をしているランク。だから高ランク冒険者が悪く言われると、冒険者ギルドも悪く言われているも同然なの。」
ん~僕は何となくは理解してきた。
「冒険者ギルドが査定してランクを上げるでしょ。素行の悪い冒険者に高いランクを冒険者ギルドが与えて、その人が悪さをした場合は……冒険者ギルドの評判は落ちるでしょ? だから、Aランク冒険者の評判を悪くする行為には、冒険者ギルドが直接介入するのよ。」
うん! ようやく理解した。
そして嬉しいよ、冒険者ギルドが守ってくれた……
「ありがとうシトカさん! 今までの冒険者ギルドでは……一度評判が落ちると、居心地が悪かったから。嬉しいよ! サクラもこれで普通にしていられる。ギルマスにもお礼を言っておいて。」
「どういたしまして。ギルマスにもお伝えしておきますよ。今後直接お話をする機会もあるかもしれませんよ~。ギルドマスターは他の街のギルドマスターとお互いの情報を交換していますから。ただラウールさんの情報を、冒険者ギルド間でやり取りするのは許可してくださいね。」
「それは必要なことだろうから、問題ないです。」
何かの遠距離の連絡手段でもあるのかな? ちょっと方法が気になるな。
あ、あとはここのギルドマスターには、直接会えたらお礼は言おう。
~~~~~
ひと騒動あったラウール達だが、周囲から好意の目を向けられ依頼票を確認している。
何か珍しい依頼はないかと、低ランク依頼の範囲も確認していた。
そこでこんな依頼を発見した。
【学園行事の護衛:人の護衛は騎士や学園職員が行います。その周囲を警戒をしてくれる冒険者を募集します。Dランク以上対象】
学園関連の依頼を見つけた。
この世界の学校は入ったこともない二人。
興味が出た二人はこの依頼票を持ち、シトカに説明を求めた。
シトカが説明するには、この依頼は通常であれば危険度も低い。
街の近くにある森に学園生がパーティーを組んで行き、二泊の野営をするものだ。
卒業後の旅を想定して、徒歩での移動の練習をする。
野営の練習や魔物に襲われた時を想定した訓練。
騎士を目指している者は、周囲の警戒や弱い魔物討伐をする。
最終学年の四年生が必修の授業という事だ。
まれに冒険者志望の学園生もいるようで、冒険者への質問に答える事や、冒険者活動について教える事も依頼の一つになっている。
ラウールとサクラは少し話し合い、面白そうな依頼だから受けることにした。
「高ランクのラウールさんには簡単ですが、頑張ってください。行事は一か月後と期間がありますので、忘れずに集合してください。行事が近くなった時に、一度注意事項が書かれた手紙が渡されます。その後、行事前日に一度全員が集合しますので、手紙に書かれた場所に集合してください。」
そう説明を受けた後に、冒険者ギルドを出た。
~~~~~
一ヵ月と期間が空いたため、自分たちの強さを上げようと、ダンジョンに挑んでいた。
出来る限り変異種が出ていないところで、Aランクがダンジョンボスのところを選んでいた。
いくつかのダンジョンを制覇したところで、手紙が来た。
手紙の内容はーー集合場所、注意点が書かれていた。注意点は生徒を威嚇するような装備をしない事。生徒の傍は騎士が守るが、生徒に危険が及びそうな時は介入すること。学園から指定された魔物以外は討伐すること。後は細かい決まりが書かれている。
その後も続けてダンジョン攻略をしていた。
そんな中で、Sランクパーティーの戦闘を見ることが出来る機会があった。
サクラ1人より弱かった……
~~~~~
今日は打ち合わせの日。
打ち合わせ場所は冒険者ギルドだった。
学園で打ち合わせとならず!!
ちょっと残念な二人だった。
「私はウッドです。今回の学園行事の責任者です。私の失敗にならないように精一杯頑張ってください。」
偉そうだ……
この先が心配だ……
「お前達の使命は……学園の生徒達と、騎士様が傷つかないように守ることだ。そして適度に学園生が討伐出来るよう指定した魔物を弱らせ、且つ学園生が無傷で行事を終了するようにするのだ……」
おい!
無茶な依頼になってきているぞ……
この依頼をだした学園は知っているのか?
これくらいの難易度の依頼になると、もっと依頼相手の冒険者ランクを上げないと駄目なのではないか?
「私が報酬を恵んでやるのだ。精々励むんだな!」
そう教師が言った瞬間。
「「俺たちは降りる。」」
そうAランクパーティー二組は宣言した。
「なんだと! 一度受けた依頼を下りるだと! これだから冒険者風情は!! 膨大な違約金を払ってくれるんだろうな!」
「通常の違約金をな。お前みたいな奴のいう事を聞きたくないからな。」
そういって一組の冒険者は立ち去って行った。
「俺達もだ……じゃあな。」
そういって二組目の冒険者も立ち去った。
僕もこの依頼は受けたくないと、声を出そうとしたその時……ある冒険者が口を開いた。
「これはどうするんだ?Aランク達がこんなにおりて、俺達だけでこの依頼を受けろと?」
「お前ら冒険者のせいでこんなことになっているんだ! 死ぬ気になって依頼を達成しろ!」
そんなことを目の前の教師は言い出した。
流石にこんな教師の依頼を受けるのは……無理だ。「僕達もこの依頼はやめます。」と僕も宣言した。
僕達の宣言を聞いた他の冒険者達も反応した。
「「「高ランク冒険者が下りる依頼は俺達にも無理……」」」
そう言って、全ての冒険者が違約金を払い、依頼を受けないことにした。
……学園の違約金詐欺か?
わざと?
~~~~~
依頼を受けないことにしたラウールとサクラは、この待っている期間でもっと違う所に移動したり、全く別の依頼を受けることが出来たのではないかと、イラついていた。
そこに先ほどの教師が二階から降りてきて「冒険者ギルドはこんなに無責任なのか!!」と叫んでいた。
その教師の前にはシトカがいて、一応という感じで謝っている。
「申し訳ございませんでした。しかしあの言い方を初めからされていたら……冒険者ギルドは依頼を受けないか、もっと依頼達成金を上乗せしていました。今回の事はギルドマスターにも報告いたします。」
そう言われた教師は、目に見えるほど顔を真っ赤にして、シトカを殴ろうとした。
バシッ!!
教師の手はシトカに届かなかった。
……シトカの目の前には、サワーがいた。
「何をしているのですかウッド殿?学園は冒険者ギルドを敵にするのですか?」
そう言って、サワーはウッドを睨む。
「お前は……ポルフォ家の騎士様……。これは誤解です!ここの冒険者ギルドが私のいう事を聞かないから……」
おい、まだ言うのか!!
そこにギルドマスターが受付の奥から現れ「今後学園の依頼は受け付けないことにする。」抑揚のない声で宣言した。
「くっ!! 何を言っているギルマス!お前ごときが!!」
一斉にウッドに威圧が飛んだ。
ラウールとサクラも威圧を飛ばしていた。
こいつは何様だ!!
ラウールもサクラも一番嫌いな人間だった。
こんな奴が教師をしている学園など、何があっても知らないと。
「サワー殿?あなたには関係ありませんが、それを冒険者ギルドから見えないところに置いておいてくれませんか?」
ギルドマスターはもの凄い威圧を発している。
「申し訳ありませんウール様! 今すぐに!」
そう謝ると頭を下げてからサワーはウッドを引きずって、冒険者ギルドを出て行った。
「今回は申し訳ない。今後はあんな依頼は受けない。許してくれ。」
冒険者ギルドのギルドマスターウールは、冒険者ギルド全体に聞こえる声で宣言した。
「ギルマスのせいでないですよ!!」
「おらはギルマスに忠誠を!!」
「ギルマス、ギルマスが謝らないでください!」
「ギルマス!! 俺は今後、学園関係の依頼は受けないぜ!!」
「一生ついて行きます!!」
「あいつを殺りますか!?」
「学園と事を構えますか!!」
「今後学園関係の依頼は俺たちは受けないぜ~!! な~みんな!! 『ふぇぇええ~~!!』」
今いる冒険者達全員がギルドマスターを支持している。
ラウールもウールを信頼できる相手と見ていた。
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少し熱気の下がってきた冒険者ギルド。
しかし冒険者ギルドの決定は、今後ニジュール学園の依頼は受け付けない。
学園に所属している者の依頼は、今まで以上に精査し依頼受諾の可否を判断する。
学園に所属している者の家族の依頼も、同じくらい精査し依頼受諾の可否を判断する。
そう決定した。
ラウールはその決定を聞いて考えていた。
他の街でも貴族相手にも冒険者ギルドは強気な対応をしていた。
これこそが自由を生きる冒険者ギルドの姿だと感じた。
一方が得をする関係はダメだ。
お互いが対等な関係でないと、命を懸けた依頼は受けることが出来ない。
今回の騒動は、冒険者の命を軽く見た教師、その教師を派遣した学園が問題だ。
僕達は今日も時間を無駄にした。
このままこの街を出ようかな?




