第七十三話 闘牛の迷宮へ
【闘牛の迷宮】に到着するまでの間、サクラのステータスについて話をしていた。詳しいスキルまではお互い話をしない事にしていたので、ざっくりとサクラが教えてくれた。
やはりサクラは魔法主体で、空想や科学的にイメージできる現象は全て魔法として使えるようだ。魔力の回復も早い。
そして、体も一般人よりは強く、器用になるものがあるみたいだ。
魔法の話に花を咲かせていると直ぐにダンジョンに到着した。
受付のシトカさんが言ったように、人気が良くも悪くもないダンジョンだという説明通りで、直ぐに中に入ることが出来た。
「じゃあ行こっかサクラ。今日はニャンの者でなく普通の冒険者で。」
そう言ってラウールは月光を持ち、魔物の革で出来た防具を装備している。
「そうね、今日はにゃんはなしで。」
そう言ってサクラはロマンの大鎌を持ち、魔物の皮の服に、黒の魔物の皮のローブを装備している。
二人は順調にダンジョンを進んで行った。
途中で会う冒険者もいたが、サクラの姿を見てギョッとした表情をし、近づいてくることはなかった。
サクラはこの世界では珍しい顔立ちで黒髪。その人が黒装備に大鎌……。他人だったら僕も近づかないとラウールも思ってしまう。
魔物も、四足歩行の牛の魔物は出て来た。
全長が四メートルほどの魔物も出てきたが、強さはさほどでもなく、サクラの大鎌で首を一閃されていた。
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順調に七階まで到達したラウール達は、昼食をとっていた。
「ここまで順調だね。前の街のダンジョンもだったけど、僕たちの速さがあれば、他の冒険者よりは攻略が早いね。」
ラウールはサンドイッチもどきを食べている。
「そうねラウール。他の冒険者もこのダンジョンでは接触もないしね。普段だったら、少しは声をかけてきたり、たまには絡まれてたのにね。とうとう私たちにも貫禄がついてきたのかしら?」
ラウールはその言葉を聞いて目頭を押さえた。
「サクラは天然なのかな?それとも人工なのかな?」
「へっ?天然?人工?芝?」
「ふぅ~、天然さんか……。これまでの旅でわかってはいたけどね……。」
ラウールはやれやれといったポーズをして再び話し出した。
「サクラ……? 大鎌を持った女の人がいました。その女の人はこの世界ではおそらくほとんど見る事のない容姿です。その人が黒いローブを着て魔物に急接近し、後ろから大鎌で首を斬っている。それも一撃で……。そんな人を見て、サクラだったら近づく?」
顎に手を当てサクラは考えている。
しかし首を傾けたまま言葉は出てこず、ラウールがまた話し出した。
「僕だったら怖くて近寄れないよ……まるで死神……。この世界にそういう概念があるかはわからないけど、レイスとかその辺のイメージでない?」
「たしかにそうね……けどもこれは私の自由……ロマンなのよ~~~!」
「は~、それはそれでいいよ。僕が気にするわけではないしね。だけどそう見られているのは自覚しておいてね。死神猫サクラ!」
いやいやと手を振りサクラはうろたえながら答えた。
「そんな名前、外では言わないでね……。二つ名は自然につくものだけど、誘導しないでね……。」
そんな会話をして再度ダンジョンを進んで行った。
やはり周りの冒険者はラウール達に近づかない。そして、九階に到着した。
九階も順調に先に進んでいたが、突然……前方に気配があると嬉しそうにラウールが話し出した。
「……うまい肉……。肉……。」
「肉?何か肉がいるの?」
「サクラはA5ランクの肉は食べたことがある?」
「あるけど……。」
「それの数倍上手い!!」
「えっ、え~~~! 数倍!」
「そう数倍……」
「殺りましょう……いくらでも……」
その言葉が合図となり、世紀末の何かのように走り出した二人は、あっという間にフォレストフォーンの姿をとらえた。
そして、目でとらえられない速度で首を斬った。
「今日の祝勝会は焼肉……ステーキ……。私が何か作る? それでもいいかな……ん……でも……。」
サクラが首をもって一人で話している……。
「こわっ!!」
そこに通りかかった冒険者がいた。
「ひっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
もうスピードで走り去っていった。
その冒険者の仲間らしき五人もその声を聴いて、一番遠くに見える冒険者に直ぐに追いつくほどの速度で走り去っていった。
「やってしまった……僕のイメージは無事か……?」
「ラウール?何かあった?今日はごちそうよ……。私が料理してあげる……。」
ぞわッ!!
死神スタイル(勝手に名付ける)でそう言われると怖い。
そして今気づいたけど……
フォレストホーンの肉って、サクラは食べたことがあるような……。
気のせいかな?
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その後は順調に進んだ。
進んだ先に門の魔力を感じる。
そろそろこのダンジョンのボス部屋だ。
「ラウール、この通路の真ん中にある宝箱はどう思う?」
怪しすぎる宝箱が通路にあった。
ここまで怪しい宝箱はないと思う。
例えるなら、宝箱をたどって先に進むと罠がある……その一番最初の宝箱の様に……。
「サクラは開けたい?」
「ん~怪しすぎるからパスかな。それにこの階で出る程度の宝は興味もないし。」
「そう、じゃあ行こうか先に。もうすぐボスだ。手ごわいボスが出てくれたほうがいいな。」
ラウール達は宝箱を無視して進み、ボス部に到着した。
ちなみに、あやしい宝箱の中身は……十万Gと、このダンジョンでは良い方の中身だった。
ラウールの幸運値が高いからこそのこの宝。
しかし、ラウールにとってはそこまででもない、微妙な宝箱の中身だった……。




