第七十話 皇都ニジュール到着前の争い
冒険者ギルドでウツカと別れ、必要な物を買い足した。
そして目立たない格好と言われ、ラウールとサクラは夕食を宿で摂りながら考えていた。
「ラウール……どうする?見た目で目立たないのって?」
「うーん……目立たないって言ったら軽装?」
「軽装……目立たないと言ったら地味な色?」
「地味な色って言ったら……闇に溶け込む黒?」
「黒って言ったら……あのローブ?」
「あのローブって言ったら……。」
自分たちで地雷を踏んだ…………
「サクラ……普段着で行く?」
「普段着って言ったら……素手?」
「素手って言ったら……魔法で戦う?」
「魔法は目立つから……魔法を隠しながら接近戦をする?」
「魔法で接近戦と言ったら魔法の爪……。」
またであった…………
二人は平民にしては上等な素材の服に決めた。地味に上着はベージュのシャツでズボンは茶色。腰には適当なナイフを装備。
キソ様と街で出会い移動先が一緒で、馬車に同乗する事になった友達の役と考えた。
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一晩眠り……待ち合わせの門で少し待つと、キソ様達が到着した。そして馬車を護衛しているサワーが先に声をかけてきた。
「おまたせラウール。今日は私達が護衛するから、二人はキソ様と一緒に馬車に乗ってて。」
相手からの提案に驚いた。二人はどうやって友達役に持っていこうかと考えていたからだ。
小声で僕はサワーさんに聞いてみた。
「サワーさん、良いんですか?僕達も友達を装うのがいいと思っていたんだけど、そんなに簡単に貴族の馬車に乗せても……。」
僕にサワーさんも小声で答えた。
「良いんだよ。キソ様は気にしないし、強い者が隣にいるほうが安全だ。」
じゃあ良いか!
「サワーさん。今日はキソ様と一緒によろしくお願いしますね。サクラも一緒に馬車に行こう!」
「そうねラウール。私もキソ様と話したいことがいっぱいあるから。」
そう言って馬車に向かった。
「ラウールさん、サクラさん、数日間よろしくね!」
元気いっぱいにキソ様が迎えてくれた。
「「よろしく!」」
僕達も馬車に乗り込んだ。
流石に貴族の馬車は立派で広い。座り心地の良いクッションもある。
中も何かの魔道具なのか、過ごしやすい温度だ。
「じゃあよろしくね!何もなければお話し相手になってね!旅の話も聞きたいし、魔法の事も知りたい。それとも勉強でも教えてあげよっか?」
元気にキソ様は挨拶してくれた。
「キソ様よろしくお願いします。護衛として乗っていますけど、僕も色々と話を聞きたいな。」
「私もよろしく。首都の事も教えてね?」
……キソ様を乗せた馬車は出発した。
貴族専用門を通り、護衛が身分を証明する。
ほとんど時間もかからず、馬車の中も確認されることもない。
はっ!!ここの門番情報が……門番さんの名前も知らない……。門番に拘りをもつラウールは落ち込んだ……。
~~~~~
門を出て馬車は街道をゆっくりと進んだ。
首都ニジュールまでは五日間程度の道中だ。
馬車の中では初めにキソ様の事を聞いていた。
キソ様は十五歳だった。十二歳で学園に入学し、今の時点ですでに卒業できるほどの天才だった。
魔法も簡単なものは使えると言っていたが、光属性の魔法だけのようだ。
学園で学ぶ事も楽しいが、内容が簡単に思えてきて……時々旅に出たくなるそうだ。
キソ様の容姿は目立つこともない。
だから服装を地味にすると、貴族の娘と思われなくて楽だと言った。将来は教会で働き、貧しい人を救いたいと熱心に語っている。
そんな話をしながら暗くなってきたため、一泊目は夜営となった。
キソ様は夜営も苦ではないようで、テントで女性陣と一緒に休んでいた。
仲のいい貴族と護衛だ。
二日目も特に何事もなかった。
光属性の回復魔法を教えてほしいと言われたが、ラウール達の魔法の使用方法は独特なので、魔素の使い方を教えた。
この世界では魔法を人に教える時に、弟子のみと言う条件も付けることがあるため、キソ様もその説明で納得してくれた。
キソ様は魔法も才能があり、魔素の練り方も短時間で上達していった。しかしラウール達が詠唱を知らないので、それ以上は教えることが出来なかった。
二日目も夕方になり、この日も夜営であった。途中で猪を騎士が捕まえたため、焼肉を食べた。内緒で臭いが周囲に散らばらないように魔法を使った。
三日目は小さな町まで移動することになっている。
途中で魔物が出現していたが、騎士たちが危なげなく討伐していた。
ゴブリンやオークなら集団でも倒せる騎士達が、なぜ盗賊には一方的にやられていたのか?
この日は僕達がの旅の事をキソ様は聞きたがった。だからデーブンさんの変わりようを教えた。僕が味方に魔法を使った事は内緒にし……昔のデーブンさん……この前会った時のハイテンションさを伝えた。そして、ラウールとクロース、クリスとの冒険。サクラとのダンジョン攻略について語った。黒猫の真似でダンジョン攻略したこと以外を……。
この日の宿は小さかったが、キソ様は文句も言わず楽しそうだった。
四日目はキソ様が「勉強してみない?」と、僕達が知らないと思っている知識を教えてくれようとした。
しかし、ラウールは転生チートだった……。読み書き算数は、キソ様が質問してくることも全て答えることが出来た。キソ様は教えることはないと項垂れた。
サクラは転移チートだった。僕より前世で知識を得ていたため、逆に色々なものの原理を教えようとして……僕が止めた。
勉強を教えることをあきらめたキソ様は、僕とサクラから、計算方法を聞き出した。
ラウール達はこの世界の魔法について復習した。やはり詠唱、詠唱短縮、無詠唱と難しくなるようだ。
イメージだけでは魔法が発動しないようで、ラウール達は「神様が作った肉体にも秘密があるのかな?」と小声で話していた。
この日も夜営だった。残り一日で予定通り到着しそうだ。
そして五日目……
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『敵襲!!』
その言葉で目が覚めた。ラウールは気配察知を怠っていた。
寝ながらでも周りの気配を探ることが出来るのだが、この時は油断していた。長旅と、特に出番もない状況。平和を満喫してしまっていた。
テントの外からは……剣を打ち合う音が聞こえ、すでに攻撃を受けているようだ。
ラウールは急いで外に出た。するとそこには血を流した騎士や、テントが切り裂かれた状況を確認できた。
幸いキソ様のテントは一番攻めにくい所であり、無事なようだ。
油断していたラウールは自分に腹が立っていた。護衛依頼を引き受けたのに、周りに傷つく人がいることが許せなかった。
そしてラウールには必要ないのだが、皆に聞こえるように呪文名を叫んだ。
「範囲回復!! ……みんな無事!!」
光り輝いた場所からそれぞれが声を出し返事をする。
キソ様のテント以外からは声が聞こえた。全員怪我をしていたかもしれないが、死んでいる者はいなかった。
「サクラ!! 起きろ!!」
そう叫ぶがサクラはなかなか出てこない。
起きた気配を感じるが動かない……。
何をしているんだサクラ!!
こいつらを二人で殲滅するんだ!!
そう心の中で怒鳴っていても始まらない……。
思い切ってラウールは叫んだ……。
「サクラ!!黒猫モーード!!戦闘開始!!」
するとどうでしょう、いきなりキソ様のテントから飛び出した影が……。
その影は「しゃー!!」と目の前の敵を威嚇し始めた。
目の前にいた敵は戸惑っている。
この前ラウール達が助けた時より人数は少なく、総勢十五人程度だが……感じる気配は強者のものだ。
その強者達が動きを止めている。
その姿は…………黒一色のパジャマ?
モコモコした寝巻きに、ナイトキャップ?
耳が付いてる?
黒猫!!
「サクラ!!一人を残し接近戦!!」
そうラウールが叫ぶと、サクラは目にも留まらぬスピードで動き出した。
「ラウール!こいつらかニャン!殺るニャン!」
そう言うと目の前にいた五人の服が切り裂かれた。
「まだまだニャン!! 次ニャン!!」
また叫ぶと更に五人の服が切り裂かれた。
「まだまだまだまだ!!にゅあん!! あっ!!」
サクラの動きが止まった……。
そのスキを突きラウールが敵に迫った。
そして一人ずつ殴りつける。
ある者は顎を砕き、ある者は鼻を折り……ある者は体をくの字に曲げ吹き飛んでいた。
更に魔法を使い始めた。詠唱は適当だが、雰囲気を出している。
「人に害する者たちよ われの怒りを買う愚か者よ 世界が滅ぶ我の魔法を受けよ この世に生まれたことを後悔するがいい 断罪の剣!!」
そうラウールが叫ぶと、敵一人一人の後ろに、三メートルほどでT字型の柱が出現した。
それに吸い込まれるように敵は柱に打ち付けられ、手足を固定された。
・・・・
・・・・
そう、全裸で……
十五人中十人が全裸……
五人は殴られ顔が変形している……
無駄に上手く土魔法でT字の柱を瞬時に作り……魔力の緻密なコントロールで、それぞれの真後ろに柱として建てた。
その柱に向け風魔法で打ち付け、更に土魔法で固定する。
そして気づくものはサクラくらいだが……光魔法と闇魔法で、演出もしていたのだった。
四種類の魔法を緻密に、大胆に……自由に使えるラウール……。
チートだ……
「ラウール!そこでとどめだニャン!!殺るニャン!!」
そうサクラはラウールに叫んだ。
「そうだね。とどめも大切だけど、何でこんな事になっているか……こいつらに聞かないとね?僕はこれでも怒っているんだけど……。」
ラウールは今まで出した事のないほど、膨大な量の魔力を放ち、威圧した。
「「「「「…………。」」」」」
目の前の敵達は震えあがっている。
顔色は逆さなので赤いが、狼狽えている様子である。
「ラウール! 凄い殺気ニャン!! 私もやばいニャン!!」
そう言っているサクラ。
口調が戻ってないぞ。
意外にサクラも頭に血が上っているのか。
「お前達に聞きたいことはたくさんあるけど、僕でなくて、この騎士たちに話してね? ちなみにこの磔は、僕でないと外せないと思うよ。ものすごく魔力を込めているからね。」
そう言って魔力を更に強く発した。
「「「「「「…………」」」」」」
もう目の前の敵達はもの凄い光景になっていた。
全裸で恐怖……逆さま……ひどい。
想像に任せよう……
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騎士達は無事だった。
よかった。僕が引き受けた依頼で犠牲者が出たら……。
僕は耐えることが出来なかったかもしれない。
そう考えているとサクラが話しかけてきた。
「ラウール大丈夫?」
「サクラ!いい働きだった。さすがニャンの者!!よっサクラ、猫の化身!!」
サクラは天を仰いだ。
そして怖い顔になった。
「ラウール……話があるの、私たちパーティーにとって今後の行方を左右する、大切な話が……。」
そうにじり寄ってきた。
「ねえラウール?私たちのパーティーは解散するの?」
「えっ解散するの?」
「そうよ……ここまでの事をされてはね。じゃあね……。」
「わかった。じゃあ僕が解散届を出しておくよ。元気でねサクラ!」
サクラは目が泳ぎだした。
サクラは手が震えだした。
サクラは目に見えるほど汗を流している。
「ちょっと~、冗談に決まってるじゃない……。」
サクラの声は震えている。
「ちょっと怒ってみただけよ。本気で解散なんてしないよね?」
サクラは僕の様子を窺っている。
ものすごく不安そうだ。
「ごめんねサクラ。ちょっとからかった。僕から本気で解散っていう事は……今後もないと思うから、冗談って受け止めて。ごめんね……。」
ほっと一息つきサクラは僕の手をとった。
「ラウール、私も一緒に旅をしたいから……。ごめんね。そしてありがとう……。だけど……わかりにくいからその冗談はやめて~!」
ラウールとサクラは悲惨な光景に似合わないほど、自分たちの世界に入っていた。
・・・・・・・
・・・・・・・
「さすが【黒猫】・・・。」
キソ様が呟いていた。




