第六十六話 面倒事は風のように
日が沈み暗くなってきた頃、ラウールとサクラはまだ街の中にいた。
冒険者ギルドで騒ぎがあり、しばらくフクネさんと話し込み、その後は冒険者ギルドにある本の続きを読んでいた。
最近はニャンの者騒ぎがあり、冒険者ギルドには行き難かった。しかし入ってしまったからには、滅多に見ることの出来ない本の続きが気になっていたからだ。
日が沈んだ頃にフクネさんが声をかけて来て、時間が遅くなったことを教えてくれるまで、時間を忘れ集中してしまっていた。
そしてフクネさんも今から帰るので、一緒に食事でもどうかと誘われ、おすすめの店に移動している。
「フクネさんのおすすめのお店はどんなところですか?ラウールと私も好きなものがあるかな~?」
「どうでしょう。私がよく寄るお店で、色々なメニューがありますよ。」
「へ~僕は何でも食べられるけど、サクラは何が食べたいの?」
そう言いながらゆっくりと、人が良く通る表通りを歩いていた。
しばらくして
「ラウールさん、サクラさん、もう少しですよ。」
そうフクネさんが言った瞬間、僕達に声をかけてくる者がいた。
「まて!! 俺様の話を聞け!!」
そう後ろから声が聞こえてきた。
一瞬無視して行こうかなと思ったが、一応あの貴族の声だったから、僕達は振り返った。
「「げっ!」」
「げっ!とはなんだ俺様に向かって!! 俺様はそこの二人、黒猫に用事があるんだ!!」
僕達の正体を知られるのが早かったな……。やっぱり黒髪の二人組は目立つかな?
それでも冒険者ギルドでは僕達に何も言われなかったし、誰かに聞いたのか?
そう考えながらも僕は返事をした。
「申し訳ございません俺様。私達に用事があるようですが、いったい何の用件ですか?」
「お前ら、ドブン達を嵌めただろ!!お前が捕まって、ドブン達を開放させるんだ!!ドブンを襲ったのは僕達ですって憲兵に言ってこい!!」
僕は虚をつかれた……。
そんな理不尽な……。
「フクネさん?これって貴族の権利ですか?」
「さすがにそんなことがあるわけないでしょう……ラウールさん……。貴族は街の治安を正す時や、相手自身に重大な過失や被害を与えた時は、直接その場で処罰する権利があります。よく言われる無礼打ちもその範囲です。けれども、何もしていない庶民を罰することなど、貴族でもできませんよ。」
「さすがにそうですよね。他の国でもそんな理不尽な法律はありません。この国の法律も本を読む限りは、理不尽なものはありませんでしたし。」
「何をごちゃごちゃ言っている!! 早く行ってこい!!」
そう、ウオルフ・ゼンダー男爵はわめいている。
「私達は丸腰のところを襲われたんだし、何にも悪くないわよ! あいつらがいきなり襲ってきたから、返り討ちにしたまでよ!! ちょっと怪我をさせたまま……ダンジョンに忘れてきたけど……。ついでに報告も忘れるところだったけど……。」
「お前たちが悪い!!」
そう言い放ち、ウオルフは街の中で剣を抜いた。
「さすがに街中で、こんなに皆に見られている状況では……言い逃れはできませんよ。私も副ギルドマスターとして、正式に教会に抗議します!」
そう言われたウオルフは、サクラに向かって走り出した。
しかしその動きに切れはなく、すぐにラウールが反応し駆け寄った。
「いやいや、そんな動きではサクラは切れませんよ?」
「そこは、サクラは僕が守る! でしょ!!」
「そんな! サクラを守るほど、男爵の動きは鋭くないでしょ?」
「それはそうだけど、ここは女の子に男を見せて。」
「サクラは僕が守る! でいい?」
「何をじゃれあってるんだ!!」
目の前の男爵は、ラウールがサクラの前に立つと既に動きを止めていた。
そして、結局はフクネさんに向かって剣を振り下ろそうとした。
「もう引き返せませんよ……。」
そう言ってフクネさんは、ウオルフにだけ威圧を飛ばしたようだ。
「くっ!! 俺もここまで来たら引けないんだ!! 俺とドブン達でいくら稼いだと思ってる!! そのお金で今の地位まで登ってきたのに!! ここで俺は稼ぐ方法をなくせないんだ!!」
ラウールはあちゃ~と、手を額に当てた。
言っちゃったよ……。
この大衆の前で……。
ある意味大物だね。
あっ、誰かがウオルフの後ろから近付いている。
憲兵?いや違うな。
…………あれは教会の人間かな。
ウオルフはまだ気づいていないな。
大告白大会が続いている。
「だから俺の言う事を聞け!!」
そう言った時、後ろから来た人間がウオルフに声をかけた。
「ウオルフ、そこまでにしろ……。どちらにしてもお前は終わりだ……。」
そう言われたウオルフは、険しい表情で振り返った。
そして剣を落とした。
「これは……いえ、何でもありません。私は何もしていません……。」
「もう無駄。お前は今この瞬間に貴族ではなくなった。そして……ダンジョンで冒険者を襲っていた盗賊の共犯で、処刑が決まった。」
「………いえ違います……お『だまれ。』」
もう何も言わせないと言う気迫を感じた。
そしてウオルフは跪いて項垂れた。
「こいつを連れて行け!」
そう男が言った後に二人の男が現れ、ウオルフを連れて行った。
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「この度は申し訳ありませんでした。ウオルフの暴走で、教会は冒険者ギルドと敵対することは考えていません。お許しいただけますか?」
「冒険者ギルドといたしましては、元々ウオルフ元男爵個人へ罰を下しただけです。教会と対立するとは、考えておりません。」
そう二人は話し始めたが、正式な謝罪と話し合いは、後日冒険者ギルドで行うという事になったようだ。
目の前の男……オーハン・グルギサ伯爵は、この街の教会の司祭で、ウオルフの上司にあたるそうだ。
グルギサ伯爵は、ラウールとサクラにも丁寧に頭を下げ謝罪した。
そして賠償は……これもまた後日という事になった。
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後日冒険者ギルドで正式に伯爵から謝罪を受け、金銭をいただいた。
そして撃退したわけでもなかったので、【黒猫】二人のランクアップはなかった。
なんとなくケチが付いたと思ってしまったラウールは、そろそろ次の町に行こうかと考えていた。




