第六十四話 ここでもご貴族様
【コボルトの森】を制覇したラウール達は、冒険者ギルドに回収した素材を提出し依頼を終えた。もちろん着替えは済んでいる。
「はい、依頼達成です。これでサクラさんはDランクです。おめでとうございます。」
サクラはランクアップすると思っていなかったから驚いていた。
「おめでとうサクラ。次はCランクに上がるために、盗賊とか人相手にだね。…………あ~!あのダンジョンの人たちはダメかな?」
「ダンジョンで何かあったんですか?」
「え~と、追剥に会いまして、返り討ちにしました。」
……………………受付さんはため息をつき、これだとフクネさんも苦労しますねと考えた……。
「えーと、フクネ先輩から聞いてはいましたけど…でなきゃ先に言ってくださいね、そういった情報は……。それで、どうしたんですか?その人たちは…………。」
「え~とですね、服を切り裂いて……、1人は手首を切り落として……、1人は足を切り落として放置してきました。」
「…………何といえばいいのか……。だれか証明できる人はいますか?」
眉間に指をあてている。
「目が疲れましたか? え~と見ていた冒険者がいました。名前は聞きませんでしたけど、男性が三人、女性一人のパーティーでした。」
「そうですか…………。後で見ていた人がいないかは探してみます。ただ、証拠がないと不利になることもありますから…………早めに教えてくださいね?」
「はい、わかりました! あと、後ろ盾がいると言っていましたよ。罪を犯して捕まっても何とかなる的な……。」
デアエンさん、目の前の受付さんはまた眉間に指をあてた。
「追加情報ですか……。わかりました。聞かれて正直に答えていますし、【黒猫】の二人には罪はないでしょうが、四人パーティーを見つけることが出来たら聞いておきます。ラウールさん達ももし見かけたら、冒険者ギルドに行くように言ってくださいね。」
そう言われたその時、冒険者ギルドにその四人が入ってきた。ダンジョンで倒した男五人を連れて。
「ちょうどいい!! さすがの幸運値!」
僕は今入ってきた冒険者たちに声をかけた。
そして、その冒険者と、ご注意ください人の男は別室に連れて行かれ、ラウール達はギルドで待機となった。
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「時間がかかってるね?」
ちょっと飽きてきた僕は、目の前で魔物図鑑を見ているサクラに声をかけた。
「そうね。おそらくだけど、後ろ盾の事も聞いてるんでない?」
「ん~、一先ずは僕たちの潔白だけは証明してもらって、早く帰りたいんだけどな~。そろそろ夕方だし……。」
「私も帰りたいけど、一応見張られている感じだしね、他の受付さんに。」
そう言われて、僕も本の続きを読みだした。僕はこの国の規則が書かれている本を読んでいた。
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「お待たせしました。【黒猫】さんは黒猫の格好をして撃退しただけと確認が取れました。ですので、無実が証明されましたよ。」
「とんだ不意打ちだよ。」
ラウールは肩を落とした。
「それがあった……。」
サクラは天を仰いだ。
「あとは後ろ盾ですが、これはラウールさん達にはお教えできません。しかし、冒険者ギルドがしっかりと調査することをお約束いたします。」
「それはいいんですけど、僕たちに危険は?そして猫の格好は忘れてください…………。」
と頭を下げた。
「今の時点で危害は加えられないでしょう。今何かすると、自分が関わっていると言っているようなものですからね。そして忘れませんし…………フクネさんにもお伝えします。」
そう受付スマイルが飛び出した。
僕は記憶が廃れていく事をはあきらめた……。
「じゃあ、実害がありそうなら教えてくださいね……。」
そうい言って冒険者ギルドから出ようと、ドアの前に歩いて行った。
そして僕がドアに手をかけようとした瞬間、ドアが勢いよく開け放たれた。
「おい! ここにドブンがいるだろ! あいつを渡すんだ! あと他にも四人いただろ…………そいつらもだ!!この俺様の言う事が聞こえないのか!! 早くしろ!!」
そう、身なりの良い中年の小太りな男が怒鳴り始めた。
「そこの女! 早くしろ!! 貴族である俺様が言っているんだからな!」
段々と受付に近づきながら言い放っている。
「これはこれはウオルフ・ゼンダー男爵。ドブンと言う男でしたら、これから憲兵に引き渡されますが?」
受付の前に到達した男爵は、カウンターを叩いた。
「それはいかん!俺様の命令に従うんだ!!」
「お受けいたしかねます。犯罪については、貴族様でおられてましても、介入することは認められておりません。」
「だから今渡すんだ! まだ憲兵は来てないんだろ!」
「無理でございます……。」
何度となく渡せ、無理を繰り返していると、憲兵が到着した。その憲兵にも渡せとウオルフは言っていたが、「何か後ろめたいことでもあるのですか? 我らと一緒に行きますか?」と言われて、顔を真っ赤にして引き下がっていた。
そして次は誰がドブンを突き出したのか聞き始め、怪しさ満点の貴族だ。
だが冒険者ギルドは中立な組織、貴族がごねただけでは名前を聞き出すことはできなかった。
しばらくして、大きな音を立てながら貴族は帰っていった。
「できるだけ巻き込まれないように気を付けてくださいね?」
「いやいや、そこは冒険者ギルドで守ってくださいね?」
「これまでのいきさつを知っているのが、ギルドだけとは限りませんから?」
「え~………………。」
できるだけ目立たないようにしよう。
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目立ちたくないと言いながらも…………見ている者はいるのだ……。
目の錯覚だろう……。
あの子たちは何だったのだろうか?
今回攻略したダンジョンは難しくはない。しかし簡単でもない。そんなダンジョンに子供がいた……。
あの子たちは武器も持たず、コートに普通の服……、但し全身目立つ色の全身黒の装備だったが……。
これまで俺達は地道に力をつけるため、初級のダンジョンから順に攻略してきた……。
初級のダンジョンでも……、あんな装備で攻略しているものは見たこともない。
初級でも……、粗末だとしても武器か……、せめて身を守る装備を身に着けている。
俺達は戦っていた。
目の前にいるトレント三体と……。
そこに、コボルトの集団が攻めてきているのが見えた。
さすがに数が多い。
一旦撤退するか考えていた時に…………「にゃー!!」と言う女の声が聞こえてきた。
そして後から、「待つニャン!!一人で行くなニャン!!」
そう聞こえてきた。
ニャンとは?…………
そう思った瞬間、コボルトは鋭い爪で引き裂かれていた。
何が起ったかわからず、ニャンと聞こえた方向を見てみると、小さな子?……。そろそろ成人になるだろう年頃の背丈の……黒い人見た目な二人いた。
パッ……と見た時にはわからなかった姿だが、目の前のトレントを倒しきった後にもう一度確認した。
フードの隙間から少し見えた表情は、にこっとした表情をした男女の姿だった。
まるで俺たちが魔物を倒しきるのを待っていたかのように観察し、笑顔を向けた後はすぐに立ち去って行った。
何者だったのだろうか?…………
ダンジョンにはまだ俺たちの知らない何かが潜んでいるのか?
そう思案しても何も解決にならないと、頭を振って、頬を叩き気合を入れ直した。
「ありがとうニャンの者。しかし、その格好でダンジョンにいるのは浮いているぞ……。」
あれは……冒険者ではなく、未知の者ならいいなと思っていた。
流石にあれに……助けられるのは……、うん、駄目だ……。
お前ら……そんな恰好で格好つけられても……締まらないぞ! と言ってやりたい。




