第六十一話 初めてのダンジョン
僕たちは冒険者ギルドにいた。周りのざわめきは割愛する。
受付で、初心者でも簡単なダンジョンがないか聞くと、そのままの名で【初心者のダンジョン】があると言う。これはクライスの街で一番階層が短く、魔物も弱く、罠もわかりやすく、まるで練習しろよと言うようなダンジョンらしい。
そのことを聞いた僕とサクラの行き先が決定した。
そしてもう少し情報を聞いてみると、ダンジョンによって危険度は違うが、ダンジョンに入る条件は特にはないと言う。
入ったことと出たことだけを、ダンジョンの入り口にいる人に伝えるだけだと言う。そしてその人は、どのギルドにも所属していない人になっているそうだ。
ダンジョンは利益が出るものだから、どのギルドにも不公平にならないための措置のようだ。ただ、ダンジョンに入るのはほとんどが冒険者か、国を守る役割の騎士や衛兵である。
一般人はよほどのことがない限り立ち入らないと言う。
ダンジョンで手に入った素材や宝は、冒険者ギルドでも、商人ギルドでも買い取っている。
冒険者は冒険者ギルドに売ることで依頼達成数を稼ぐことが出来る。
依頼票をわざわざ持っていくかなくとも、素材の売却が常設依頼になっているとのことだ。
冒険者ギルドを出て、僕とサクラは初心者のダンジョンに向かっていた。
「ね~サクラ、初心者のダンジョンって、地下五階までで、出て来る魔物もスライム系統だけなんだってね。」
「そう言ってたね。だったら、罠察知や解除の練習にしようよ。ラウールも私も二人で探してみよう。」
「そうだね。多分だけど、僕達ならスライムでかすり傷もおわないから。」
二人はそんな話しながら先に進み、ようやく目的のダンジョンに到着した。
目の前には、初々しい冒険者らしき人が大勢いた。
「ん~、さすがに並んでるのか~。」
「初心者って私達もだけど、初々しいね。」
「そうだね。僕は冒険者ランクが高いけど、普通なら僕の年齢は位だと低ランクだろうしね。」
辺りを見渡しても、僕より幼い冒険者はほとんどいない。
サクラと二人で会話していると、僕達が受付する順番が来た。入り口では名前を尋ねられただけで、特に他にやり取りはなかった。
「とうとう初ダンジョンだね!行こうサクラ!」
「そうね、行きましょラウール!」
そう言って二人は先に進んで行った。
ちなみに、ライダース装備をラウールはしていない。
ここまでくる間に手に入れている物から選んでいた。
ラウールは丈夫そうな服とローブ、どちらも黒のもの。剣は月光を持っている。
サクラも丈夫そうな服とローブで色は深い緑。武器は大鎌だ。なんでもロマンだそうだ……。
月光以外は、いわゆる初心者でも手に入る素材で出来ている。
【初心者のダンジョン一階】
思っていたより広い。そして、草原タイプのようだ。気配を探ると辺りには人の気配だけだ。スライムは全て他の冒険者に倒されているようだ。そして、出来るだけ広く気配察知すると、不自然な魔力があるところが二か所ある。そのことをサクラも察知したようで、二人でその方向に進んで行った。
一つの魔力は、地面から感じた。
「ラウール?ここじゃない?変な魔力を感じるところは。」
「そうだね。この地面はなんか変だね?ちょっと魔法で石をぶつけてみる?」
「少し離れて試してみようか。」
そういって二人は距離を開けた。そして僕が地面の土も利用し魔法を使用した時に、違和感を感じた。
「サクラ……、ダンジョンの中は魔法で地面の土を利用するのは大変だよ……。魔力が通るのが表面だけみたい。」
そう言われたサクラも魔力を通してみているようだ。
「そうね、自然を利用しにくい状況みたいね。ダンジョンの外だったら、よく物語であったように、家でも作れるのにね。」
そう、この二人は逃亡しながらも、魔法の可能性を探っていた。
自然や地球の知識を利用する場合と、自分の魔力だけに頼る方法との違いを感じていた。
特に、自分の魔力だけを利用する時には、多くの魔力を使用しなければならなかった。
ラウールはララから聞いた理論と、自分の考えで開発した手段がある。
自分自身の魔力と周囲の魔素を混ぜる事以外に、地球の知識を利用することで威力の高い魔法を使用していた。
サクラに教えた事も、ラウールが体験していたから教えることが出来るものであった。
そして二人は地球の知識と言う共通の部分があることで、この世界の人よりも魔法の使い方が上手かった。
「ちょっとだけ外よりハンデだね?それでもサクラ、僕たちの魔力は多いし強いから大丈夫だよ。」
「それでは初めに私が…………落石!」
と、罠であろう部分に岩を落としていた。
ズボン!!
何かの音がした後に、そこには落とし穴が出現していた。
「やっぱり罠ね?」
「そうだね。これくらいの深さなら、ちょっと足を取られてしまうけど、怪我もしないね。」
「でもこれがすごい深かったり、下に鋭利物があった場合は大変ね?」
「そうだねサクラ。それでもこれで罠の見分けはつきそうだから、もう一つの不自然なところに行ってみよう。」
2人は先に進んで行った。草原なので、不自然な魔力のある方向に進むと、迷うことはない。
そしてしばらく歩くと、目の前に階段があった。
「…………あっけないね。」
ラウールは項垂れた。
「そうだね…………。」
サクラは肩を落とした。
「それでも、この感覚を覚えておこうね。なんとなく違いも分かったし、他のダンジョンでも利用できる業だね?サクラはどう?」
「私はたぶんラウールより、ちょっと違いが判らないと思う。ただ、慣れたら大丈夫かな?」
「僕は魔法以外のスキルもあるからね。それでもサクラは、このダンジョンで練習したらわかるよきっと!」
「うん!私も頑張る。」
2人は階段を下りて行った。そして怪しいところに寄り道しながら、どんな罠があるのか確認した。
罠の解除が出来ないかも試してみたが、今はわからなかった。そして順調に五階層までついてしまった。五階層も特に問題になるところもなく先に進んだ。
そしてその先に感じた違和感……。それは罠でもなく、階段でもない不自然な所…………門だった。
「ねえラウール?ここが最後の部屋かな?」
「おそらくね。もの凄い大きな門だけど、これはどうやったら開くのかな?」
「四階あたりから他の冒険者がいなくなったものね?」
「ん~、初心者のダンジョンとは言え、初心者にスライムは苦戦しそうだしね。叩き潰すか、魔法を使わないといけないしね。ある程度の力があれば大丈夫だけどね。」
そう話しながら門に更に近づくと、門が自然に開き始めた。
「近づくと開く門か?次からは気を付けないとね。自分たちのタイミングで入れないと、苦戦する場所もあるかもしれないから……。」
そう言って2人は門の先に進んだ。




