第五十八話 テザン皇国へ
町から村、時に森の中で野営をしながら先へと進んだ。
馬車や徒歩、時にはサクラと走って競争していた。
徐々にブレットンに近づいてきたが、追手に出会うことはなかった。
時々出現するオークも、僕は一瞬で殲滅するつもりでいた。しかしサクラの戦闘経験が少ないため、色々と試しながら倒していった。
サクラが戦闘をしても傷つくこともなく、僕たち二人は「強い」と、感じることが出来る移動時間だった。
ブレットンへ案内する看板を見つけた後は、街道から逸れて、南西の国境に向けて森の中を進んだ。
森の中でもオークがいたが、特に苦戦することもなく進むことが出来た。そして気配察知で人の気配が多く感じられ、国境がもうすぐの所まで到着した。
「サクラ、前に三人いる。おそらく敵だ。誰かを探しているのか、相手も気配を探っている様子がある。」
僕はサクラに小声で呟いた。
「そう、やはり追手はいたのね。国境はもうすぐだっていうのに……。どうするラウール?」
「僕は……サクラにとってはひどい選択かもしれないけど……、人を殺す経験をしてほしいと思っている。これから先、盗賊に会ってしまった時にためらわないように……。自分が傷つくことを避けるために……。相手が敵対して来るんだから、遠慮はいらないと思う。」
サクラは考えている様子だ。前世ではそんなことは一般人には不必要な行為だったから。それでもこの世界では必要なことだから。
「わかったわラウール。だけど、私も経験したことがないから……、出来たら一人だけにしてもらえたら……。」
「もちろんだよ。ありがとう……、無理を言ったけどこちらこそお願いします。僕が二人を無効化するから、サクラは右の人に集中して。」
「わかったわラウール。じゃあ行きましょ。」
僕達は、気配のする方向に向かい歩きだした。
そして、相手が気づく前に僕が魔法を使い、左二人を葬った。
風の刃を一発放っただけであった。
そしてサクラは、目の前で唖然としている人の目の前に姿を見せた。
「こんにちは……あなたは誰?」
目の前の男は視線をサクラに移した。
「お前が繁栄だな?ようやく見つけた。俺たちと一緒に来い!」
「は~、いきなり一緒に来いなんて下手なナンパ?一緒に行くわけないでしょそんな人と。」
「いいから来るんだ。お前もいい思いが出来るんだぞ!」
男はサクラに近寄りながら言葉を発していた。そして徐々に何かをわめきながら向かってくる。
そして、もう五歩程度でサクラの手が届く所まで来て、立ち止まった。
「できるだけ怪我をさせないように言われている。痛い目にあいたくなければおとなしくこっちに来い!」
「そんなところで叫ばなくても聞こえてるわよ。そして答えは……嫌……よ。」
その返事を聞いた男は懐からナイフを取り出しサクラに向かってきた。
「じゃあ少し痛い目を見るんだな!」
そう言い放ち、サクラに向かって走りだした。
脅しなのか、ナイフをサクラの足に向け投げつける。
サクラはそのナイフを躱し、剣を抜き男に向かって構えた。そして目の前で蹴りを放とうとしている男に向け縦に、足をめがけて振りぬいた。
「ぎゃー!!」
サクラが振りぬいた剣で足を切断された男は、叫び声を上げてバランスを崩し倒れこんだ。
「下手なフェイント。丸見えだけど。」
そう言って、倒れた男の首に剣を突き刺した。
・・・・・・
・・・・・・・
「怖かった……。人と争うなんて……。冒険者ギルドで、目の前に怖い顔をしている人がいても、まだ現実感がなかったみたい。こうやって初めて刃物を人から突き付けられて……、初めて怖さを本当に感じた気がする……。魔物とは違う感覚……。」
「うん、頑張ったよ。それが生きてるって感覚。僕は零歳から記憶があって、そして両親と徐々に冒険者としてステップアップしていったから良かったけど……。サクラは転移だから、ゲームのような感覚もあったと思うよ。」
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「うん。ゲームみたいだったと思う。けど、怖くて、やらないといけないと思って……。けど時間をかけるほど恐怖が来ると思って……。これが、この感覚が……。」
「だけどこの世界で生きていくには必要な事だ。僕も初めての時はもう……落ち込みすぎた。けど、僕の周りには、僕を心配してくれる人がいた。だからサクラには僕がついてるよ。君は君の敵を倒した。そして倒した敵をこのままにしていたら、もっと不幸になる人を増やす。」
・・・・・・・
「……もう少し時間は頂戴ね。多分大丈夫、何とかなる……。」
そう言って、サクラの初めての対人経験が終わった。
僕は安心した。殺した相手は敵だったと。
普段は使わないと言った解析を使い、魂に刻まれた言葉、暗殺者と言う言葉を確認していた。
「よし行こう、国境へ!」
そういってラウールは死体を魔法で穴に埋めて先に進んだ。
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テザン皇国への国境に到着した二人は、長い列の一番後ろに並んだ。
しばらく時間が過ぎ、ラウールとサクラが門番と話し始める。
「テザン皇国に行く目的は?」
ラウールが代表して答えた。
「僕たちは世界を見る旅をしています。テザン皇国でも、色々なところを見て周りたいと思っています。」
「では身分証明できるものはあるか?」
二人は冒険者プレートを門番に見せた。
「ほ~う。よし、身分は確認した。では通ってよし。」
そう言われた二人は門を通り抜けようとした。しかしその時門番が声をかけてきた。
「冒険者ならな、この国のダンジョンは稼げると思うぞ。共和国には魔の道近くにしかないが、この国には至る所にあるぞ。すべては教皇様のおかげ。」
教皇様?ちゃんと情報を調べる時間がなかったからな・・・。
「ありがとう!」
ラウールとサクラは無事にテザン皇国に入国した。
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テザン皇国に入国するとそこには神父がいた。
神父は手に『ようこそ光の神の守る国へ』そう掲げられている。
文字が読めない人の為に、絵も隣に置いてある。そこぞ?の呼び込み……。
「ここまで来たら安心だね。次の街までどう行くか聞いてみようか?」
「そうね、私もわからないし、ラウールもテザン皇国の情報はあまり持ってないんでしょ?」
「そうなんだよ。ゆっくり旅をしようと思ってたから、次の国の情報はわざわざ調べてないんだよね。自然に聞いていた情報は別だけど、この国の祀っている神様の名前も初めて聞いたよ。」
「光の神様。ここでテンプレなら『光の神などいない』だけどね。」
「それね。ま~誰にも言ってはいけないね。……そこで狙われる冒険者たち……。」
「そしてそれに打ち勝ち、本当の教皇を助け出し……感謝され、そこで神様が出て来る。」
・・・・・
想像はそこまでにしておいて、僕たちは少し情報を得ようと周りを見渡した。
しかし……周りの人は神父に挨拶に行くか、すぐに先を目指すかで、話を聞ける人がいない。
困った僕たちは門の方向をもう一度確認した。
そこには、フイエウ国に行く人を確認している門番の他に、怪しい者はいないか確認している門番さんがいた。
「あの人だ!」
僕はサクラに、門番情報の大切さを説明し、一緒に門番に向かい進んで行った。
「こんにちは!僕はラウールと言う冒険者です。テザン皇国は初めてなので、テザン皇国について教えてください!」
そう言って頭を下げた。
「頭を下げなくてもいいよ。僕も見てるだけで暇だったし、少しこの国について教えてあげよう。」
門番さんからのテザン皇国の説明が始まった。
【テザン皇国】
テザン皇国は教皇様が一番偉い(皇帝とかでなく、教祖様が一番だった)。
教皇様の血を引くものだけが後を継いでいる。
祀っている神は光の神。
貴族位で立場が決まっており、貴族位が高いほど忠誠心が強い家柄という事になる。
神の名の元、救いの手が差し伸べられ、貧しい者が生きやすくなっている。
ダンジョンが他の国より多く存在しており、街に一つはある。
街以外にもダンジョンがあり、冒険者も多く存在している。未発見のダンジョンが今でも発見され、国に繁栄ももたらし、光の神のおかげと言われている。
半面、門番さん的には、犠牲になる冒険者も多いため複雑な心境であると話してくれた。
「ありがとう門番さん。僕は門番さん達が大好きです。これからも頑張って!どこの国の門番さんもいい情報をありがとう!!」
そう言って、門から離れた。
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「どう? 門番さんの情報を聞いて、サクラはこの国でやりたいことはある?」
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サクラが考えている。
「……ラウール……。私はダンジョンに行ってみたい!二人だけど戦力も十分だと思うし、必要な物なんて持ち込み放題……。なんて良い環境。私にとっては初めての冒険で、こんなに望まれている状況。」
「いいよ、僕も初めてだし。ダンジョンに興味もあるし、一番近い街に行ってダンジョンに挑戦してみる? 出来たら僕たちの冒険者ランクも上げようよ!」
「そうね、私はまだFランク。ラウールはBランク。ちょっとは私もランクを上げたいし。ラウールもランクにあった依頼をこなしたら、そろそろランクアップするでしょ?」
「たぶんね?あまり詳しく教えてもらえるものでもないから正確にはわからないけど。それでもテンプレ通りだと、ダンジョンの中でこなせる依頼もあるだろうしね。」
「そうだよね!ダンジョンを攻略しながらランクアップ。ダンジョンの中には罠があり、帰還ポイントがあり、ボスがいて……。想像通りなら楽しそう!」
「うん、そのままの条件でなくても、僕も楽しみ。だけど油断したら駄目だよ。僕の両親はダンジョンの罠で、子供が出来なくなる呪いをかけられたから……。罠には要注意だよ……。」
「……そうね、聞いた話だと呪いがあるものね。気を付ける。」
二人は先に進んだ。
門には移動馬車があり、次の町まで進んで行く。乗り継ぎながら、国境近くのクライスの街を目指して。




