第五十七話 ラウールの転生
「僕も転生者だ……。」
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言ってしまった……。まだ誰にも言ったことのなかった秘密を……。
返事を聞くのが怖いから僕は、サクラの返事を待たずに一気に話した。
「僕も日本で生まれた。あの秋田県だ。
特に代わり映えのない子供時代を過ごし、大学進学を考えていた。しかし進路を考えていた時に、車の事故で両親が死んだ。何が起きたかわからなかったけど、一人になった。後で振り返ると進学もできたと思う。だけど僕は生きていくために、稼ぐために国家資格を取ろうと思った。どんな資格がいいか考えた時に、思い出した場面があった。事故後に両親が運ばれた病院で、何が何だか分からなく涙も出なかった時だった。僕のそばで誰よりも寄り添ってくれたのが看護師さんだった。呆然とした僕を、今思えば忙しい時に時間をかけてケアしてくれた、その姿に憧れた。だから看護師になろうと考えて行動した。
そのあとは無事に看護師となり、ずっと一人ではあったけど、平和な毎日を送っていた。そして段段と年を重ね、ベテランと呼ばれ始めてきた。その頃になると、両親が生きていたらなるであろう年齢の人を、大切にしたいと考えた。だから老人施設に勤務場所を変えた。転職後の事は割愛するけど、僕も死んでしまった。」
一息
「そして僕はこの世界に生まれ変わった。神様が、魔力がたまりすぎているこの世界の魔力を消費するため、僕にチートをつけてくれた。たぶんしばらくは同じことが起きないからと言うだけあって、破格なチートだと思う。戦闘能力では最強ではないけど、便利なスキルが沢山ある。」
そして、その後は産まれてからのことも話し出した。産まれてすぐに捨てられたことも……。
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その話を聞いたサクラも、しばらく無言だった。
ようやく涙は止まった頃には、僕の話を聞いて戸惑っているようだ。
それからしばらくお互い無言だったが、先にサクラが口を開いた。
「ラウールは初めから私が転生者……、転移者になるのかな? 気づいてたの?」
「あれだけテンプレって言ってたらね。まー僕も始めは心の中でテンプレテンプレ言ってたけどね。」
「……なんか、同郷の人に言われると恥ずかしいね……。だけどそのおかげで、ラウールに見つけてもらえたから良かったのかな?」
「結果的にはね、でも危険だったと思うよ。そして、もう少しの間は警戒しないといけない。」
「そうね、まだ国境も超えていないし、クロ?も完全に信用していいかわからないしね。」
「クロもだけど、もう一つの追手も警戒しておかなければね。話の通りだとかなり安全に思えるけど。実際の動きが全くわからないからね。」
「そうね……。それでも二人なら何とかなる!お互いチートもあるし。この世界の知識は少ないかもしれないけど、人生経験は豊富な二人だしね。」
「そうだね。僕もサクラも前世はうん十歳。僕なんて合わせたら、もうすごい年だしね……。」
「……もう年の話はやめよっか。お互い十四歳でいきましょ!」
「……そうしよう。」
「それでだけど、名前はどうする?お互い前世の名前は言ってないけど……、聞きたい?」
「いや、僕達はもうこの世界の住人なんだから、僕はラウール、君はサクラでいいじゃないか。わざわざ前世の事をこれ以上引っ張らなくても。生まれ変わったんだから、君はサクラの人生を楽しむことにしたら。僕はラウールとして楽しんでいるよ。」
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「そうね。私はサクラ。これからの人生は以前とは違うもの……。」
「そう、それでいいと思うよ。そしてサクラ、これは僕からのアドバイス?になるのかな。いくら前世の経験があっても、この世界では年齢に引っ張られるよ。僕なんて幼くなっているよ、気持ちも性格も。知識は持ったままだけどね。感情のコントロールが難しくなったよ。」
「そうなの? だけど、それっていいね!生まれ変わって気持ちも若くなって。これから楽しめそう!」
「うんと楽しんだらいいよ。僕みたいに感情のままに他の冒険者を威圧したり、魔法で殺そうとしないようにね?」
「うん、それはない……。」
最後の言葉はショックだったが、お互いの距離が近くなった気がする。僕もこの世界に来て初めて、前世の言葉や知識を気兼ねなく話せる相手を得ることが出来た。
そしてこれからは自分が出来ないことも任せることができると考えている。この二人での旅は楽しくなる予感がしている。
「サクラは、自分のスキルを知りたい?」
「ん~、一応神様に聞いたものがついてると思うから、そんなに思わないかな?」
「そう、じゃあ、僕のスキルを少しだけ教えておくからね。」
そう言って僕は、解析で相手のスキルや名前は、魂に刻み込まれているからわかること。ステータスなどの数字は、自分の事はわかるけど、自分以外は数値化できないこと。
アイテムボックスXと言う便利なスキルがあることを伝えた。解析は、人相手には無断で使わないことも付け加えて。
そして、盗賊退治の時に手に入れた。その後にクロに渡したが返された物。マジックボックスをサクラに渡した。容量はわからないけど、かなりの量を入れることが出来るから便利だと説明もした。
初めサクラは断っていたが、僕には不要な物だと言い含め、強引に手渡した。
ラウールは、これで裏切られたら僕がお人よしだったとあきらめると考えていたが、サクラは裏切ることのない仲間だとも思っていた。以前より人を信じる気持ちが出てきていると感じた出来事だった。




