第五十四話 クロと三度
「出発したようですね、繁栄をもたらすかもしれない者が……。」
黒いローブを着た人物が、こじんまりとしながらも品の良い部屋で、目の前の風格のある人物に話しかけている。
「そうだな。私はこの国の繁栄を願うが、個人の自由を縛りたくはないと考えている。だが、あいつらはどう思うか……。」
「ブレットンの知事は、次の首相を狙ってますからね。次の選挙までに手柄を上げたいみたいですよ。今回も首相を早く退陣させようと策も練っていましたものね。」
「本当にうっとおしい奴だ。お前たちが私や家族を守ってくれているから安心はしているが……。彼奴らは大丈夫だろうか?結局頼っては来なかったからな。」
「ラウール君は大丈夫でしょう。彼と対峙したときに感じた力……。彼は強い……。」
「そうか……。お前が言うほどなら本当の強者なのだな。ではサクラはどうだ?あの者の知恵についての情報はあるが……。もし襲われた場合に、ラウールの足を引っ張り、捕らえられてしまうことはないか?」
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「大丈夫でしょう。ちょっと気になっていたので、私自身で見る機会を作りました。そうしたら、魔法で地面に大きな穴をあけていましたよ。そして、剣でも魔物の討伐は楽にこなしていましたよ。」
「やはり歴史の通りの者か……? 知恵があり、戦闘能力もある。ぜひ味方になってほしかったな。」
「今は敵対していない事で満足しておくべきでしょう。旅をすると言っていますし、今はいずれ国にの為に観察に留めておくと良いでしょう。十四歳と言っていたようですから、これからもチャンスはあるでしょう。」
「そうだな。これから先、旅で得た知識も加え我が国の為に働いてくれたらいいな……。」
「そのためにも、あいつらの戦力を少しでもそいでおきましょうか? ラウール君たちが不覚を取るとは思えませんが、少しでも楽になるように。」
「そうだな。私が首相の任期を終えた後でも、この国にまた寄ってもらえるようにな。」
「じゃあ少し組織を動かしますね。僕はちょっと別れのあいさつでもしてきますよ。全てを影で対処しいても、ラウール君たちに何も気づいてもらえませんからね。」
「そうだな、ちょっとはフイエウ共和国に恩を感じてもらうか。」
ある一室で行われた会話であった。
そしてその部屋からは、黒いローブの人物はすっと消えて行った。
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ラウール達は時々街道沿いに出る動物を狩り、夜には野営し町に向かい進んでいた。
まだ魔物が出て来ることもなく安全に移動できている。夜営の時には2人で一緒には休めない為、交代で見張りをしていた。
そしてお互いが起きている番になった時に、何か常時発動の結界の魔法を作れないか考えていた。
今まではそこまで困っていなかったが、しばらくは二人旅。便利になるに越したことはないと。
何日か進んでも特に襲われることもなく順調な旅路であった。
時々馬車が通る程度で、盗賊も出てこず少し拍子抜けしていた。
また、ラウールは自らの事を道中話した。
転生の事は教えていないものの、この世界に生まれて来てからの事を自らも振り返っていた。
ラウール自身も語りながら、両親との生活を懐かしんでいた。
一方でサクラは聞く立場になることが多く、自分が得意なことや好きなことなどは話してくれるものの、今までの生活を話すのをためらっている様子であった。
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こうして旅を続け、目的の町が近づいてきた。
「もうすぐ町だね。町では一晩は宿に泊まろうか?」
「そうね、たまには床が柔らかいところで寝たいね。外で寝るのもだいぶ慣れてきたけどね。」
とサクラは額の汗を手で拭った。
「お風呂もあればいいけど、泊れる宿にはあるかな? あったらいいな~。」
と僕も服の臭いを嗅いだ。
「ちょっとっ! 私臭う?」
サクラはあせり、自分の服の臭いを嗅ぎながら僕に聞いて来た。
「大丈夫だよ! 御免、誤解させた。たまにはお湯につかりたいなって思って。」
2人が傍から見たらじゃれあっているとき、周囲の雰囲気が変わる。
「……っ! とうとう来たか……。そして最悪だ……黒ローブか?」
「強い人ね?」
「そう。サクラはここにいて……。ちょっと行って来る。」
「一緒に行くよ! これから一緒に旅をするのに、いつまでたってもラウールに任せっぱなしは出来ない!」
「危険だよ! 僕一人のほうが『それ以上言わない!!』」
「それ以上言わないで……。私たちは仲間、友達……。パーティーなんだから……。」
僕はハッとした。そうだ、一人だけで何でもするなら初めから一緒に行動しなければよかったんだ。苦楽を共にするから仲間なんだ。そして……、何かあった時に、絶対に守ると心に決めた。
「ごめん!そうだね、僕の間違いだった。僕が危ないときはフォローを頼むよ。そしてサクラが危ないときは僕が守るよ!」
「うん! 一緒に行こう!」
二人は向かって行く。あの威圧が発せられた方向へ。
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「やあ!」
目の前の黒ローブが軽く手を挙げた。
「やあって……。また威圧もくれたくせに……。」
「でもそれで気づいたでしょ♪」
軽い……そして笑った?
「まあね。それでご用件は?」
「別れのあいさつにね?」
僕はは構えた。あの時は黒ローブの動きを見えなかったから。
「大丈夫だよ! 本当に旅の無事を祈って挨拶と、ちょっと手助けもしたことを言っておこうと思って。」
ちょっとよくわからない……。
「えーと、サクラを捕まえようとしている人達の邪魔をしてあげました。だいぶ数は減ったと思うよ。そして、命令した人にも嫌がらせをしています。これで、他に気を逸らせていると思うよ。さらに大切なお知らせがあります! それは…………。僕はフイエウ首相側の人間でーーす。」
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「首相は君達を害する気持ちはないよ。出来たらこの国の繁栄を手伝って欲しい。けど、あの方は自由を大切にしている人だから……。敵対することはないと思うよ、あの方の大切なこの国に、害を及ぼさなければ。」
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「えーとクロさん?どういうこと?あなたが襲って来たことは謝罪されたけど、狙われてるのって?えっ?」
黒ローブが微笑んだ気がした。
「えーと、君達を襲ってるのはブレットンの知事だよ。気を付けてね~。ま~僕たちが邪魔をしてるから、大丈夫だと思うけど。組織って命令が行き届かなかったり、情報ミスがあるからね。襲われる可能性も少しはあるよ~。」
ここでサクラが話し出した。
「見逃してくれるの?」
「見逃すって言うより、僕たちは敵にはならないと教えておこうと思ってね。敵は知事だよ。」
「じゃあ、私はこのまま行っていいの?」
「いいよ。ただ僕が挨拶したかったのと、僕達がやっていることを少しは知ってもらいたかったんだ。今回は特に君達に恩を売りたいだけだし。」
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僕はようやく頭が働いてきた。
「ありがとう。恩に感じておくけよ。だけどこの場面は首相の手紙に書いていた通り、首相の事を頼りにしたってことでお相子にしておいて。」
また黒ローブは微笑んだ気配がした。
「いいねーーそれでいいよ。伝えておくよ。じゃあね! じゃあもう行くよ。そして次からはクロって呼んでいいよ、何か気に入ったよ♪」
そういって消えて行った。
僕達はキツネにつままれた気分だった。何が何だか?
しかし考えてだけもいられないので先に進んだ。
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町につき、宿に泊まり、風呂はないが夕食を食べたところでサクラが言い出した。
「これからラウールの部屋に行ってもいい? 話したいことがあるから・・・。」
そうサクラが告げた。




