第四十一話 ワイバーンとの戦い
今日はクロースと僕達の出発する日。僕はスタスデの街の門を通り抜け、待ち合わせの場所に向かう。
門番は今日もロビンさんだった。
ロビンさんは僕を見かけると話しかけてきた。
「今日も依頼か?頑張ってるな。ただ、気をつけろよ。冒険者ギルドまで情報が行っているかわからないが、門番情報で、ワイバーンがこの辺に出ているようだ」
……門番情報って……。
「ロビンさん……。門番情報っていうのは?」
胸を張ってロビンさん言う。
「門番は、いつもここで街に入る危険を防いでいる。そして、何かあった時は真っ先に身を犠牲にして盾になる。そんな門番には情報をかぎ分けるの能力がついてくる。上に情報を上げてももみ消されたり、冒険者ギルドに情報を提供しても信憑性がないと言われる。全ては噂を、話をまとめて判断しているものだから……。それでもあたるんだよ。それでも、信じてもらえないんだ。だけど伝えておく……。ワイバーンに注意しろ」
真剣なロビンさんを見ていると、信じないといけない気分になった。
「ありがとうロビンさん。ちなみにワイバーンにあったら、どう対処したらいいの?」
・・・・
「知らん!」
「はっ?」
「だから知らん。俺は守るだけで積極的に攻める役割ではない。そこは自分で考えてくれ」
一瞬尊敬したが半分は失望した気持ちのまま歩きだし、待ち合わせの場所に到着した。
既にそこにはみんなが到着しており、ロビンさんとの会話に時間が取られたと少し恨んだ。
「ラウール遅いぞ。さあ出発するぞ!」
そうクロースが合図し出発した。なぜそれだけあっさりと出発できたかと言うと、僕たちが盗賊を討伐したからだろう。もうこの辺に盗賊はいないからだ。そして魔物もこの辺りの強さくらいなら余裕で撃破できる。
今回のパーティーは、カシマスさんSランクと僕。クラン【希望の家】のバランスの良いパーティー。クロースの護衛クリス。このメンバーであれば、よほどのことがない限りは苦戦すらしないだろう。
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旅は順調で町から村と進んで行き、ゆっくりだが確実に国境へ近づいてきた。
しかし平和だな~と考えていると「敵襲!!」とカシマスさんが叫けんだ。
前の方から土煙を上げて迫ってくるものがいる。
何だ?
久しぶりに解析さんを起動・・・。
『フォレストホーン』と解析さんに出た。そして十匹・・・。
「カシマスさん……。僕に任せてください。そして、あれは全て僕に下さい。」
「どうしたんだい? ラウール君がそういうなんて……。」
「訳は聞かないでください……。僕がやらなければいけないんだ……。」
「そこまで言うなら任せますけど……、一応気を付けてください・・・」
『ね』と言う前にラウールは走り出していた。あの時の肉の味を思い出して……。
「に木に国苦肉肉……肉~!!」
一瞬でフォレストホーンの首が飛んだ。そして偽装のマジックバックに収納された。できるだけ新鮮な肉を手に入れるため。
これで熟成も燻製も……まずは新鮮な肉の手当てからと。
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あまりにもテンションが上がりすぎたラウールだったが、それからは平静に努めた。
「もう過ぐ国境ですね?ここまで思ったより早かったですけど、この先は僕とクリスの二人の護衛で良いのですか?」
クロースは頷く。
「前から言っている通り、僕は伯爵の三男だ。三男が死んで貴族の世界は何か変わると思うか?」
それを聞いたラウは答えることが出来なかった。
「そう、何も変わらない……。ただ殺されて終わり。もし冒険者でSランクにでも届くような強さがあれば違うだろう。学校を首席で卒業出来る知能が有るなら違うだろう……。俺は……、何もない」
クリスが近寄ろうとしたがクロースが手で制した。
「俺は共和国で行動しそれが元で殺されても仕方がない……。三男と言うほとんど平民な俺が一つでも父の役に立てるなら。」
そういったクロースは、迷いのない表情をしていた。
その後も時々会話をしながら進んでいたが、とうとう国境まで到着した。
しかし予想外の展開が待っていた。
『ワイバーンだ!! みんな逃げろー!!』
その叫び声が国境付近で木霊していた。
ロビンさんごめん! 門番情報はすごい! 今度からは門番情報を大切にしようと考えながら、ワイバーンを確認した。
僕がここまでの人生で得た情報によると、ワイバーンは集団で襲ってくる。そして前世でいうプテラノドンのような見た目で、緑色が一般的だ。他にも色が違ったり、大きさが違うワイバーンの上位種もいる。爪と口で攻撃してきて、時々尻尾を使って攻撃してくる。ただ、上位種でなければブレス攻撃がないので、Bランクに指定されているようだ。
目の前のワイバーンは一匹だな。全長は三メートルで、しっぽが百五十センチ程度。翼を広げた時の幅も三メートル位で、この世界でいう一般的なワイバーンだな。
・・・・
良かった。これくらいなら全力で行かなくても倒せそうだし、僕が攻撃しなくてもよさそうだ。なんと言っても【希望の家】のメンバーもまだいるのだから。
「カシマスさん、僕は魔法でこの辺に攻撃されたものを防ぐ役でいいですか?おそらく広範囲を守るのは僕が一番うまいから。」
カシマスは護衛メンバーに指示を出しながらラウールに向かって返事をした。
「ラウール君はそれでお願いします。私達で討伐は可能です。辺りへの被害を減らしたいので。」
そう言いながら、【希望の家】のメンバーを引き連れ駆け出して行った。
カシマスさんは自分以外のメンバーに経験を積ませるためか、積極的に攻撃を仕掛けていない。
大地に降り立ったワイバーンは突進し、爪や口で攻撃を仕掛けてきている。しかし、盾使いが巧みに大きな盾で防いでいる。その横からタイミングを見て魔法使いが水の球で攻撃している。
そしてその魔法を嫌がったワイバーンが攻撃の方向を変えようとすると、剣使いと槍使いが前線に出て翼に攻撃を加える。
連携し攻撃をしていると徐々にワイバーンは疲れてきたのか、動きが鈍くなってきた。
その隙を見逃さずワイバーンが尻尾で攻撃をしてきた時、盾使いが横から防ぎ、動きの止まった尻尾を剣使いが一閃すると尻尾は切断され、ワイバーンは鳴き声を上げた。
その隙に槍使いがワイバーンとの距離を詰め、首に鋭い突きを放った。
ぎょえ~!!
と言う鳴き声を上げワイバーンは絶命した。
・・・・
「初めての大物だったのに守るも何もなかった・・。【希望の家】・・。僕はいなくてもよかったのでは?」
そうラウールはカシマスさんに声をかけたが、カシマスさんはラウールの守りも認めてくれた。
「そんなことはないよ。ラウール君が守ってくれると信じたから、私たちはワイバーンに攻撃することだけを考える事が出来たんだから。」
「そうだぞラウール。お前、俺たちの周りに障壁を張っていてくれただろ? 圧倒する攻撃と、この障壁があったからみんな混乱しなかったんだぞ。」
戦闘が始まってすぐに僕はこの場にいる全員に魔法の障壁を展開していた。ただそれだけだったのだが、それで安心を与えていたようだ。
そんなやり取りをしていると国境の兵士が駆け寄ってきた。
「ありがとう旅人よ。君たちは冒険者か? とにかく助かったよ。あのまま暴れられていたら、国境を越えようと並んでいた国民にも被害があった。本当にありがとう。」
「国民を守るのは当然のことだ。俺はクロース・フエフート。この者たちは冒険者と俺の護衛だ。」
家名を聞いた兵士は片膝をついた。
「大変失礼いたしました。この度はありがとうございます。それで、国境へはどんなご用件で・・・。」
「共和国の事を学びに行く予定だ。そして、この二人は僕についてくる護衛と冒険者だ。」
そう言ってクリスとラウールを指さした。
「了解いたしました。それでは私がすぐに手続きができるように手配します。こちらにおいでください。」
そう言い国境兵が僕達の先導となった。
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雑談し歩きながら門へと近づいた。
そしてこちらへと声をかけられた時、とうとうカシマスさんとお別れするため立ち止まった。
「カシマスさん、期間は短かったけど濃い経験が出来ました。お世話になりっぱなしで何もお礼もできていませんが、あなたのおかげで僕は前に進むことが出来ました。御恩は一生忘れません。そして何かあった時には僕が今度は力になります。また逢う日までお元気で・・・。」
僕は寂しくなり、ちょっと泣きそうだった・・・。
「こちらこそラウール君と一緒にいたおかげで楽しかったよ。もし何か悩むことがあったら、またいつでも相談に乗るよ。気を付けてね。国が違えば苦労することもあるかもしれないから。君は冒険者なのだから、何かあったら冒険者ギルドを頼るんだよ。今度は初めの印象をよくね。」
そう笑って答えてくれた。
そうやって別れを告げ、僕はクロースとクリスと共に手続きを終え、フイエウ共和国へ進んだ。




